生き方
「この人の人生が気になる!」そんな旬なゲストと、LOCAL LETTERプロデューサー平林和樹が対談する企画『生き方 – 人生に刺激を与える対談 -』。
第2回目のゲストは日本最大級の訪日メディア「MATCHA」を運営する株式会社MATCHA代表取締役社長の青木優さん。現在「日本の価値ある文化が、時代とともに残り続ける世界に。」をビジョンに掲げて活躍されています。
記事後編ではご自身のやりたいことである「発信すること」にフォーカス。「メディアに参入した時の時代背景は?」「手応えはあった?」「いつまでメディアをやる?」といった問いを深掘ります。
青木さんの人生を通じて、手段にとらわれず、ビジョンを形にする方法を知りたいアナタに注ぐ、一匙の刺激。ぜひご覧ください。
平林:前編に青木さんのお話しの中で出ていた、フィリピンでつくった余白時間で内省し続けた結果、青木さんは改めてメディア運営への決意を新たにされたと思うのですが、青木さんが参入された当時のメディア情勢はどんな感じだったのでしょうか。僕らがLOCAL LETTERをはじめたのは5年前なんですけど、その時は、キュレーションブームが終わった直後くらい。青木さんはどんなタイミングでの参入だったのか、純粋に気になっています。
青木:僕らがMATCHAをはじめたときは、キュレーションメディアがちょうど盛り上がり始めた時期だったと思います。
平林:Webメディアって見立てを立てにくいというか、ぶっちゃけスタートからどれぐらいの人が読んでくれるのか分からないところがあるじゃないですか。店舗であれば、人通りや客単価である程度の売り込みを見込むことができますが、Webメディアはそうはいかない。だからこそ僕自身、メディアへは大きな挑戦だったんですが、青木さんはどうでしたか?
青木:正直、当時は「まずはつくってみよう」と勢いではじめたんです。日本にくる海外観光客は増えているのに、その人たちをターゲットにしたメディアはないし、だから、あればウケるだろうという感覚で。
言語も、英語・韓国語・繁体字・簡体字・中国語で展開していたんですが、気がついたら台湾からのアクセスがすごく伸びていて。人口だけで比べたら、台湾よりも中国の方が多いはずなのになぜだろうと思い調べたら、台湾は日本と同じでGoogleやFacebookを使う文化で、だから日本人と同じ発信の仕方をしてもちゃんと届くんだと知りましたね。
さらに言うと、台湾人は約2割の人が10回以上日本に来ているんです。リピーターの外国人観光客が求める情報って、自国の日本人が求める “ちょっとニッチな情報” と同じなんですよ。だから、僕らが記事として発信している情報がうまくハマっていて。なんの見込みも立てず、とにかくやっていく中で読者の反応を見て進めていたので、最初は全く読めない部分も多かったです。
平林:どこのタイミングで手応えを掴んだんですか?
青木:なんだかんだ2,3年かかりましたが、100万人の読者にみてもらうようになった時ですかね。あとは台湾人と英語担当のルーマニア人の社員が働きはじめたとき。他国の人がメンバーになると、国ごとの目線や発信方法がわかるようになるんです。例えば台湾人のメンバーが最初書いた記事が「コンビニのミルクティーの比較」だったんですけど、僕としては「これにニーズがあるの?」って思うわけですよ。
平林:確かにそうですね。
青木:でもちゃんと意識してみてみると、日本のコンビニのミルクティーって結構種類があるんですよ。僕自身もアルゼンチンのコンビニに行ったら、よくわかんない銘柄の飲み物ばっかりで、冒険してみたいけど、結局知ってるコカコーラライトを選ぶ体験をしたんですが(笑)。だから分からないところに対して「これがいいんだよ」を伝えると、新しい旅行体験になるんですよね。
日本人以外の視点を得ることができたと同時に、トラフィックも伸びていき、これはいけるなと感じました。
平林:メディアには運営側のスタンスがはっきり出ると思いますが、青木さんはMATCHAを運営する上で何を大事にされていますか?
青木:これは時代とともに変化している部分ですね。それこそメディアを立ち上げた当初は「熱意だ!」と伝えていました。今でも根幹は変わりませんが、そこから「外の目線」に転換したと思います。熱量があっても、外国人目線や受け入れの気持ちを考えないと伝わらない、そう思って運営していました。
そのあとは、「マーケットや数字」をみながら、ビジネスをしっかりしていくことに注力して走り続けてきたんですが、「今は何を大事にしているか」と問われると、正直、コロナ禍でそこまで意識できる部分がなかったかもしれません。本当にここ数年は、生き残ることに必死でした。
平林:間違いないですね。
青木:そうなんです。コロナ禍では、MATCHAで溜まったデータやナレッジを活かしながら、地域の発信支援をするところに、ビジネス上シフトをしました。なので、今まさにメディアを再構築し直してくタイミングなのかもしれません。
例えば人を軸にした情報をより増やしたりとか。「ジブリ代表の鈴木敏夫さんがおすすめする愛知のスポット」なんて情報があったら、ジブリファンも行きたくなるじゃないですか。
そうやって、人を介して場所の魅力を伝えたり、旅行者の質問に地域側の人が意志を持って答えた上で、「ぜひ来て」と伝えることができたり。MATCHAを主としながらも、MATCHAだけでは完結しない形、メディアからプラットフォームへ移行していきたいと思っています。
平林:すごく共感します。僕らも今、誰もがLOCAL LETTERに投稿できる企画「だれでも送れる、LOCAL LETTER」を始めていて。僕らも今までは全て自分たちで取材・執筆・編集・配信をしていたんです。取材のお問い合わせをいただくのに、自分たちの手が追いつかなくなった時にこのスタイルを閃きました。フォームに質問を用意しているので、それに答えてもらって、僕らが事実を変えずに編集して掲載する形で実験的にやっていますが、そのほうがリアルだし、伝え手の温度感も入るので手応えを感じています。
青木:いいですね。
平林:今は、個人でも発信できる時代だからこそ、僕らは日々メディアの在り方とも向き合っていて。青木さんはメディアの在り方についてどのように考えてますか?
青木:直接的な回答にはなっていないと思いながら、正直、メディア一つで完結するモデルが厳しくなってきてると感じています。メディア自体は1つのブランドとしてありながらも、それを活用して得たデータを違う価値に活用しながらビジネスを行っていくとか。
LOCAL LETTERさんと同じで、コミュニティ形成も重要なポイントだと思います。メディアだけで完結するのではなく、その中にいる人と同じ価値観を共有していく。同じコミュニティの人たちが相互に助け合ったり繋がり合ったり、コミュニティ自体に価値があると思うので、それを大事に育てるのもありなんじゃないかなと思います。
平林:ちょっと前までだと、メディアは広さやリーチだけが評価されていましたが、MATCHAさんの思想や哲学が好きで読んでいる方との密度みたいなものが行動を生んでいく可能性がありますよね。
青木:そこを価値としていきたいです。
平林:青木さんは、いつまでメディアでやるんですか。
青木:「日本文化を発信すること」が僕の人生テーマなので、発信していくこと自体は変わりませんが、あくまでもメディアは手段でしかないと思っています。今はWebメディアですが、僕は今Netflixで『舞妓さんちのまかないさん』をみてとても京都に行きたくなっています。これもメディアの一つの形で、いろんなメディアに価値がある。だから時代に合わせて、僕もMATCHAの形もうまく変わっていけたらいいなって思っています。
平林:青木さんは生涯ずっと発信してそうですね。おいくつになっても、いろんな場所や人に触れて、それを触媒というか伝播させていく人なんだろうなって。
青木:では「メディアはいつまでやりますか」という問いを、ぽぽさん(平林の愛称)にあえてお返しするとしたらどうですか?
平林:うーん。でも僕も一緒の答えになるかもしれないですね。今後どうなっていくかに関しては、僕もWebメディアという形じゃない可能性も含めて考えています。ただ、一生やっていくんだとは思っています。
青木:40歳ってどんなことをやっているんでしょうね。
平林:想像つかないですけど、でも僕が尊敬してる50代60代とかって、まだまだ現役なんですよね。変わり続けてるというか。だから僕自身も先は見えないけど、何かしら挑戦してそうだなって。
青木:ぽぽさんの挑戦の中で、「地域」っていうのは軸なんですね。
平林:軸ですね。ローカルっていう文脈はまだまだ、40代になってもテーマの1つかなと思います。
青木:いいですね。
平林:今回、青木さんとお話できて本当によかったです。ありがとうございました。また色々連携させてください。
青木:こちらこそです!ありがとうございました。
Editor's Note
テーマは違うけれどたくさんの共通点をもつ二人のメディア運営者らが語る、メディアや自身への問いかけ。最後の「メディアをいつまでやるのか」の問いは、当たり前を当たり前と思わず、日々問いかけていく姿勢をみせてもらった気がします。
素敵なお話をありがとうございました。
YURIKA YOSHIMURA
芳村 百里香