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LOCAL LETTER

子どもの “なぜ?” を奪わない。小中学生の主体的な学び場「NAZELAB」とは

APR. 10

拝啓、日本の教育現場に変化を起こしたいアナタへ

※本記事はLOCAL LETTERが開講する『ローカルライター養成講座』を通じて、講座受講生が執筆した記事となります。

東京から特急で約70分。秩父地域の東の玄関口である横瀬町に2022年「NAZELAB(ナゼラボ)」という施設が誕生した。そこは学校でも家でも塾でもない小中学生の第三の学びの場。

施設を運営しているのは、東京工業大学などで研究員や教員などとして活躍していた舘野繁彦さんと春香さんだ。「(子どもにとっては)正解を知ることより、考えることの方が大切」そう訴える舘野春香さんに、NAZELAB設立の背景を聞いた。

舘野春香(Haruka Tateno)さん / 1984年生まれ。埼玉県秩父郡横瀬町出身。東京工業大学地球惑星科学専攻。博士課程中退後、海洋研究開発機構研究員。その後、日本原子力研究開発機構研究員などを経て保育士。博士(理学)・保育士・第1種放射線取扱主任者・NPO法人「絵本で子育て」センター絵本講師。
舘野春香(Haruka Tateno)さん / 1984年生まれ。埼玉県秩父郡横瀬町出身。東京工業大学地球惑星科学専攻。博士課程中退後、海洋研究開発機構研究員。その後、日本原子力研究開発機構研究員などを経て保育士。博士(理学)・保育士・第1種放射線取扱主任者・NPO法人「絵本で子育て」センター絵本講師。

コロナ禍で急増した不登校。いま求められる「第三の居場所」

小・中学校の不登校生徒は2021年度に過去最多24万人を記録。特に小学生は10年前と比べると3.6倍に急増している。

そんな中、日本財団の「子ども第三の居場所」事業は、不登校だけでなく貧困家庭・虐待・発達障害・ひとり親・共働き孤立など様々な困難を抱える子どものための居場所となることを目的に、全国134ヶ所に拠点を設けている。その1つが横瀬町にあるNAZELABだ。

NAZELABは、学校に行かないことを選んだ子どもたちの力と可能性を引き出す場であり現在、秩父、東京、群馬から5人の小学生が通っている。

「コロナ禍で学校に行かなくても良いじゃんと気づいた子もいると思います。子どもたちが自分に合った学び方をできて、自分らしくいられる場所が必要です」舘野春香さんは不登校をそう表現する。

不登校と聞くと暗いイメージを思い浮かべる人も多いと思うが実際はそうではなく、彼らは「学校に行かない」という意思を示して、新たな自分の場を探す旅に出た子どもたちというわけ。

NAZELABで大切にしているのは、「子どもたちから考える機会を奪わない」こと。

だからこそNAZELABでは、1日の予定を子どもたちが決める日を設けている。これは、子どもたちが大人の指示を聞いて受け身で動くのではなく、自分の内側から湧き出る興味・関心を自ら探究してほしいという想いからだ。

「子どもたちは基本的に教えられることが嫌いなんですよ。けれど、大人は『うまくやらせたい』『失敗させたくない』という親心で口や手を出してしまいます。そうやって答えを与えていくと、子どもたちはどんどん考えなくなり『次は何をしたらいい?私はどうしたらいい?』と聞く子になってしまう。子どもから考える機会を奪わないよう、NAZELABでは教えることをしません。子どもたちの内から湧き出ることを学んで考えることの方が大切だと思っています」舘野さんはそう力を込める。

ガラス張りの建物には、日中太陽が差し込む。
ガラス張りの建物には、日中太陽が差し込む。

「教えない」という教育方針。その裏にある研究者としての経験

一方で舘野さん自身は意外にも、いわゆる“社会のレール”に乗った小中高生を過ごしてきた。

大学受験では答えのある問題を解く練習を繰り返していたが、物事の見方が変わったのは東京工業大学で研究活動を始めてから。「誰も答えを知らないことを研究して、世界で自分しかしらないことを発見するのがすごく楽しかった」という舘野さんは、地球惑星科学を専攻し研究に没頭。研究の成果がアメリカ・サイエンス誌に掲載されたこともある。

受験で勉強したことはすぐに忘れてしまうが、自分がやりたいと思って学んだことは自分の血肉になることを実感した舘野さんはその後、福島第一原発の事故で出た放射性廃棄物の処理方法の研究にも携わった。

出産を機に「次世代のためになるような仕事をしたい」と考えて行き着いたのが、子どもへの教育だった。

「散々大人に従えと言われてきたのに、(社会に出ると)いきなり『自分で考えて』って言われる。それは理不尽だと思うんです」いまの教育をそう表現する舘野さん。

自身が小学生だった頃と「教育方法が何も変わっていない」という印象を抱き、小学生教育に携わりたいと考えていた頃、日本財団が実施している「第三の居場所」の助成事業を見つけた。

補助金を得るためには町との三者協定を結ぶ必要があったため、そこから町の人を巻き込み、建物を建てる土地を探して、たった3週間で申請までこぎつけた。「勢いです」舘野さんは笑顔でそう話す。

そんなNAZELABでは子どもたちの自発性を養うために大切にしている日課が2つある。1つが自然との触れ合いだ。子どもたちは毎朝、公園に集合する。森で過ごす日は、ターザン、木登り、自然の素材を使った工作など、思い思いの時間を過ごす。

自然の中での遊びは“汎用性”が高く、昆虫、植物、工作など自分の興味あることを自分で見つけていく子どもたちは、「自発的に」考えて動けるようになるのだという。

NAZELABが大事にしているもう1つの日課は読書。NAZELABの施設に入るとすぐに見えてくるのが、横幅3メートルはあろうかという大きな階段。階段の周りには図鑑、工作、料理、歴史など様々なジャンルの本の表紙が並んでおり、子どもたちが表紙のビジュアルで気になったものをパッと手にとれるようにしている。

「本には、子どもたちが色々な世界を疑似体験できる力がある」と話す舘野さん。自然の中で自分が好きなことを見つけて、本で調べることで世界を広げるというわけだ。

また、NAZELABでは算数など公立学校で学ぶ科目は教えていないが、料理の分量計算など、必要に応じて自発的に学んでいく場面がたくさんあるという。

「社会のレールに乗って、受験勉強をして、いい大学を出て、一流企業に就職という以外の生き方を見つけてほしい。探究を楽しんでほしい」舘野さんはそう話す。

NAZELAB誕生の裏に「日本一チャレンジする町」横瀬町の存在が

横瀬町の中心部に位置するNAZELAB。周辺にはワーキングスペース付コミュニティ施設も。
横瀬町の中心部に位置するNAZELAB。周辺にはワーキングスペース付コミュニティ施設も。

NAZELABがある横瀬町は人口約8,000人の小さな町だが「日本一チャレンジする町」というキャッチコピーを掲げ、全国的に注目を浴びている。

横瀬町のフィールドや資産を企業に開放して共同でプロジェクトを行う取り組み「ヨコラボ」や、株式会社LIFULL(ライフル)が展開するワーキングスペース付きコミュニティ施設「LivingAnywhere Commons(LAC)横瀬」もある。

LACは「場所やライフライン、仕事などあらゆる制約に縛られることなく、好きな場所でやりたいことをしながら暮らす生き方を実践する」をコンセプトに掲げている施設。NAZELABがあるのは、LAC横瀬のすぐ隣で、こうした環境もNAZELABにとってプラスに作用しているという。

「LACを利用する方は割と自由人。学校に行っていなくても『学校に行きなさい』と言うわけでもなく、一緒に遊んでくれたり、1人の人間として対等に接してくれます」(舘野さん)

子どもも大人も色々な人に、この施設を使ってほしい

注目を浴びるNAZELABだが、舘野さんは「もっと多くの人に施設を活用してほしい」と考えている。

実際、一般の人がNAZELABの活動に携わることも可能で、例えば、都内の高校生はアフリカ・ルワンダの学校を訪問したときの経験を、NAZELABの子どもたちに共有している。

「放課後にNAZELABにきて、子どもたちと遊んでくれたり、子どもたちが知らないものに出会う機会を提供してくれたりするだけで、すごく価値がある」舘野さんはそう話す。

また、研究者時代の仲間に、恐竜や小惑星探査機「はさぶさ2」の話をしてもらうこともあったそう。そういったサイエンス系のイベントは、親子で観客として参加することも可能だ。他にも、今年の夏には長期休みを使ったキャンプの実施も検討している。

さまざまな形でNAZELABの活動に関わることによって、次の時代を作る子どもたちに人生の新たな1ページを提供し、自身の人生を豊かにする。NAZELABはそうした可能性を秘めている施設だ。関心がある人は、一歩を踏み出してみてはいかがだろうか。

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Editor's Note

編集後記

『うまくやらせたい』『失敗させたくない』という親心こそ、子どもたちの能力を摘む可能性があるという考えに納得しました。舘野さんの活動が広がり、学び場の選択肢が増えることで、より多くの子どもが“笑顔”になる。そんな世界の実現を願っています。

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