HOKKAIDO
北海道
「まちの活性化のために、関係人口を増やしたい」
「関係人口を増やしたいけど、何から手をつければいいのかわからない」
今、地域外の人材がまちの活性化を呼び込む担い手となるのではないかと、各地域で「関係人口」が注目されています。
「関係人口」とは、移住した定住人口や、観光に来た交流人口とは異なり、地域やそこに住む人々と多様に関わる人々のことをあらわす言葉です。
そんな「関係人口」にいち早く着目して、食と農をテーマにした「学生×地域」をキーワードにツアーを開催している企業が北海道にあります。活動の舞台は、十勝エリア。畑作や酪農が盛んなこの地域は、美味しい食材に恵まれ「日本の食料基地」とも呼ばれています。
今回は、この北海道十勝エリアで、首都圏の学生たちをターゲットに「食と農の探究ツアー」を実施した、株式会社NTT東日本北海道と株式会社とかち野菜急便より、本プロジェクトのキーパーソンのお二人にお話を伺いました。
今回お話を伺ったNTT東日本の渡邉亮さんは、新規事業を担当する部署に所属し、観光と教育の分野に関わっています。特に観光の領域では、北海道の十勝エリアに注力し、地域の新産業の発掘などの6次産業化に取り組み、会社を挙げて地域循環型社会を実現することを目標として掲げています。
とかち野菜急便の村井正浩さんは、同じく十勝エリアの帯広に拠点を置き、十勝の食材の生産とその食材の素晴らしさを、生産者の熱意とともに首都圏の飲食店に伝え、取引を行っています。
北海道とは縁もゆかりもなかった村井さんですが、2024年で北海道へ移住して4年目。2023年度には、渡邉さんらNTT東日本とタッグを組み、関係人口創出のため試行錯誤を繰り返します。そして、最終的には、首都圏の中高生をターゲットにした「食と農の探究学習ツアー」を開催するに至りました。
この「探究学習ツアー」が生まれた背景には、NTT東日本グループが掲げる「地域循環型社会」という理念があります。
「地域の課題解決・価値創造を通じて地域循環型社会をつくっていこう、という全社的な方針がありました」と渡邉さんは語ります。
観光と教育を取り入れながら「関係人口」を創出できないかと議論を重ねる中で、十勝の強みである「食と農」と、生徒が自主的に問いを立てる「探究教育」を組み合わせて、学生たちに地域の良さを理解してもらうツアーを実施する形にたどり着きました。
首都圏の学生たちが実際に地域を訪れ、地域の魅力を知り、課題に触れることによって、単なる一時的な取り組みにとどまらず、次の世代へとつながっていく長期的かつ持続的な課題解決につながるツアーになることを目指しています。
普段から地元の高校で、探究学習の先生として食と農の普及活動をしている村井さん。
地元の生徒と、首都圏の生徒とでワークショップや意見交換の場を設けることが、「お互いにとっていい経験になっている」と語ります。
「ただ収穫体験をしてさよならではなく、一緒にバーベキューやキャンプファイヤーをしたり、私たちがどういう想いでこの活動を行っているのかや、どうして十勝の食材は美味しいのかといったことを伝えたりと、学びを多くする形を意識して取り組んでいます」と村井さん。
ツアーに参加した生徒たちは、十勝の野菜はなぜ美味しいのかを学んだり、道の駅のチラシづくりを行ったりして、ツアーの最後には幕別町長にプレゼンテーションも行いました。
ツアー終盤になると、首都圏からやってきた生徒たちのモチベーションが高まっていく様子がみられるのはもちろん、はじめは自己紹介もままならなかった地元の生徒たちが、たとえ町長を目の前にしても立派に発表を行う姿に村井さんも感銘を受けたといいます。
また、地域の魅力を伝えるために「食と農」にフォーカスしたのは、「生産物を通じて、日本の食の素晴らしさを伝えたいから」だと村井さんは教えてくれました。
「”食”は人が生きていく上で欠かせないものなので、これからいろんな分野に進んでいく一人でも多くの子どもたちに、日本の食の素晴らしさを知ってもらいたい。
その子たちがそれぞれどんな道に進んだとしても、食と農の代表的な場所であるここ北海道十勝で経験したことを活かして、日本の食の発展を支えてくれるのではないかなという想いがあります」(村井さん)
「今回の十勝でのプロジェクトはモデル事業として、食と農、道の駅の活性化といった当地の魅力や課題を探究的な学びとして生徒に提供し、そこから様々な学びを持ち帰ってもらうことを通して、地域に貢献する共創型の関係人口に資するような探究型の教育旅行を作ることをテーマとしています」(渡邉さん)
渡邉さんに「食と農の探究学習ツアー」について尋ねると、探究ツアーを軸に展開する関係人口創出のビジョンについて話してくれました。
「関係人口とは“地域と人の繋がり”であり、この繋がりの輪が拡大されることを期待しています。繋がりの輪を拡げていくためには、情報の取得と発信がより簡易になっていくと良いのではと感じています。というのも、今回のツアーでは十勝に生きる人々の想いと子どもたちの探究的な学びがキーとなり、他の関係人口との差別化に繋がっています。
こうした繋がりを、一時的なものではなく持続的なものにしていけたら。
今後は、首都圏で営業されている飲食店のシェフの方々に、この取り組みを経験した生徒たちと一緒に共創していただけたらと思っています。
こういった取り組み自体が発見されて、その上に重なり、どんどん取り組み自体が進化していければいい。“取り組みと取り組み”の繋がりであったり、“取り組みと人”のつながりが加速していってくれれば嬉しいです」(渡邉さん)
食と農の探究学習ツアーを通して、渡邉さんと村井さんが共に感じた、地域のある”壁”がありました。それは、地元の人が地域の魅力に気付けていないということでした。
首都圏の学生たちが十勝に来て、現地の生徒と触れ合いながら現地の食と農を知り、野菜や特産品の良さをまとめ、チラシを作成して魅力を伝える。そうした活動をする中で、地元をよく知る現地の生徒たちの方が具体的な地域の魅力に気づけていない、言語化できていないということがあったと言います。
地元の生徒たちからは、「自分たちが当たり前だと思っていたところが、実は首都圏の生徒たちから見たら、すごくいいところとして見られていた。自分では気づけていない魅力だった」という声が聞かれました。
「首都圏の生徒にはこの地域でしか得られない学びがありつつ、地元の生徒には地域の価値の再発見がある。お互いにとって魅力のある教育旅行になったのでは」と渡邉さん。
今回の生徒たちのように、関係人口として携わる地域の外の人と中の人が交流を重ねることが、その地域の魅力の再発見に繋がっていき、さらにその先に、その地域に生きる人たちのシビックプライド(郷土愛)を生み出すことに繋がっていくのではないかと渡邉さんは考えています。
「日本の食と農は、今後大きな産業の柱にならなければならないと僕は信じています。そのためには、今回の取り組みのように、食と農に関わる人を一人でも増やしていく。こうした日々の積み重ねが、真の意味で、日本の食の素晴らしさを国内のみならず世界に発信していくことに繋がるんじゃないかな」と村井さんは語ります。
ツアーを通し、関係人口として地域に携わった首都圏の学生たちにはどんな意識の変化があったのでしょうか。
「食と農の探究学習ツアー」に参加した学生たちへのアンケートでは、「また訪れたい」「住みたい」と答えた割合が80%を占めたといいます。
また、この年代の学生たちは職業選択の際に迷いがあるケースが多い中、生産・流通・消費の一連の仕事をこのツアーを通してみて、キャリア教育や職業選択の観点からも予想以上の効果が生まれました。実際に想いを持って働いている人々の姿を間近で知ってもらったことで、働く上での選択肢に加わるなど、嬉しい変化があったようです。
渡邉さんは参加者たちのこうしたポジティブな反応は、大人と子どもの縦の軸だけでなく、子どもたちの同世代間の横の軸が密に繋がっていったことがもたらしたものだと考えています。
写真やSNSの使い方が上手い昨今の中高生。「こんなに綺麗だったんだよ」「こんなに良かったんだよ」と自発的に友達同士で日々考えたことや感じたことを共有していたのだそうです。
「まさに伝道師ですよね。地域に関係人口として旅行に来た子たちが、その地域の魅力を外に広げていく構図が見られたのはとても良かった」渡邉さんはそう語ります。
「我々の若い頃のように、ビジネスパーソンとして成功するためにどんなキャリアを積むかに憧れる時代から、今は、心も含めた豊かさを若い子達も必然的に求めているんですよね。食と農、生産者の想いといったダイレクトに伝わりやすい領域に対して今の学生たちが憧れや喜びを感じてくれているように思います」と村井さんは、世代間の価値観の違いについて考えさせられたといいます。
「コンテンツを考えるのは大人のほうがまだ早いかも知れないが、カタチにする技術はツールを使いこなす世代である子どもたちの方が、大人が考えるより早く美しくつくってくれる。生徒たちと関わることによって、様々な点で世代の違いを発見することができましたね」(村井さん)
北海道十勝の食と農という強みを活かし、「学生×地域」を軸に新たな関係人口創出のツアーモデルを企画、実践した村井さんと渡邉さん。最後に関係人口創出のためのコミュニティづくりの極意と、今後の活動のビジョンについてお聞きしました。
「今回は参加者が学生たち。今後の未来を背負って立つ生徒の学びの場だということが地域内外の協力者たちを巻き込む大きな原動力になったと思います」と渡邉さん。
また、「最終的には情熱ですね」と村井さんも加えてくれました。
渡邉さんも熱意を持って、「今回、実施された取り組みは十勝で必ず持続しつつ、一拠点だけでは私たちの描くヴィジョンを実現できないと思うので、他の地域でも、その地域の魅力を発掘する取り組みを行っていきたい。取り組みを徐々に広げていくことで、最終的に地域循環型社会を達成したい」と語ります。
ひと口に“関係人口”といっても形態は様々。「食と農の探究学習ツアー」に参加した生徒たちのように、関係人口の思わぬ発言や行動が、地元の人は気付けていない新しい魅力の発見に繋がるきっかけとなるかも知れません。
人が人を呼びこむ、関係人口創出プロジェクトに、アナタもアナタの地域で関わってみませんか?
本記事でご紹介した「食と農の探究学習ツアー」は、内閣府が実施する「令和6年度中間支援組織の提案型モデル事業」として実施しています。
内閣府による関係人口創出・拡大施策について、もっと知りたい方は、「かかわりラボ」(関係人口創出・拡大官民連携全国協議会)をぜひチェックしてみてください。
Information
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Editor's Note
十勝の強みである食と農を活かした「食と農の探究ツアー」。中高生時代に、食と農に関わることのできる自主的なツアーはきっと、この先も子どもたちの記憶にずっと残るのではないでしょうか。地域内外の子どもたちが、ともに参加者として関わる構造もまた、地域の魅力の気づきと発見に繋がる良い仕掛けだったのではないかと思います。今回参加した子どもたちが大人になって、様々な形で地域や食に携わり、やがて次の世代に繋いでいく存在となる日が来るかもしれません。地域の強みを活かしたツアーの開催が、大人、子どもを問わず学びの機会へと繋がり、さらには地域に関わる新たな関係人口の創出へと繋がっていくきっかけになっていくのではないでしょうか。
Sakura Endo
遠藤 桜