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LOCAL LETTER

移住施策「後発組」の愛媛県西条市が、移住者300%を達成。立役者・柏木潤弥が語る「秘策」「公務員の仕事」とは

APR. 06

拝啓、移住施策に取り組んでいるものの、なかなか地域のファンを増やせずに苦戦しているアナタへ

いま、移住で注目を受ける愛媛県西条市をアナタはご存知だろうか?

これまで特に移住施策に関して強いコンテンツを持っていなかった西条市だが、2018年に始めた「無料移住体験ツアー」が移住者に寄り添った施策として話題を集め、2018年度の移住者増加率は、驚異の300%。雑誌「田舎暮らしの本」(宝島社)が2019年に発表した住みたい田舎ランキング四国部門では、1位を獲得し、2020年には若者世代部門で全国1位に登りつめた。

そもそも日本全国各地で、様々な移住施策が行われている中、なぜ地域によって「差」が生まれるのだろうか。もちろん「環境」や「タイミング」という影響もあるとは思うが、果たしてそれだけなのだろうか。

移住に力を入れる地域の中では、「後発的な」取り組みにも関わらず、西条市がここまで移住者を増やしている理由は何か。

今回は、移住施策の立役者である西条市役所 移住推進課長 柏木潤弥氏を取材。取材の中からみえてきた西条市の秘策をまとめました。

柏木潤弥(Kashiwagi Junya)氏 西条市役所移住推進課長 / 愛媛県西条市(旧東予市)出身。大学時代を京都で過ごしたのち1992年、Uターンで(旧)東予市役所奉職。2004年平成の大合併により2市2町が合併し、西条市へ。財政部門、企画政策部門を経て、2018年移住推進担当へ。2019年移住推進課新設に伴い同課課長に。
柏木 潤弥(Kashiwagi Junya)氏 西条市役所移住推進課長 / 愛媛県西条市(旧東予市)出身。大学時代を京都で過ごしたのち1992年、Uターンで(旧)東予市役所奉職。2004年平成の大合併により2市2町が合併し、西条市へ。財政部門、企画政策部門を経て、2018年移住推進担当へ。2019年移住推進課新設に伴い同課課長に。

全て「無料」・「完全オーダーメイド」の移住体験ツアー

西条市が本格的に移住施策に乗り出したのは、2018年度。すでに全国各地の自治体が移住体験ツアー、都内の単独イベント、お試し住宅など様々な施策を打ち出し、周辺地域でも、移住施策が充実している地域はいくつもあった。

「西条市はネームバリューがある地域でもないので、何かインパクトのあることをやろうという話があがったんです。当時、現地集合・現地解散の無料移住体験ツアーはよくあったんですが、都心からの交通費も含めて全て無料で実施しますというツアーはなかったので、ならば1回挑戦してみようかと。しこの施策がダメなら、また違うやり方を模索すればいいから、まずはやってみようと始めました」(柏木氏)

西条市は、市内の約3,000ヶ所に「うちぬき」と呼ばれる石鎚山系の地下水の自噴井があり、水の都としても親しまれている。
西条市は、市内の約3,000ヶ所に「うちぬき」と呼ばれる石鎚山系の地下水の自噴井があり、水の都としても親しまれている。

無料移住体験ツアーを宣伝し、応募してくれた3~5歳の子どもがいる家族、50組の中から5,6組を選び、大型バスで西条市内を案内する流れで準備を始めた柏木氏らだったが早速、想定外が起こる。

「全国的に知名度の高い自治体であれば “3~5歳のお子さんがいるご家族” で集客ができるんですが、西条市はとにかく知名度がない自治体なので、それでは全く人が集まらなかったんです。そこで “3~5歳のお子さんがいるご家族” という制約は設けず、“まず一旦みなさん集まってください、無料移住体験ツアーの説明会をしますよ” という集め方をしました」(柏木氏)

もちろん集まったのは、3~5歳のお子さんがいるご家族もあれば、すでに小学生のお子さんがいるご家族や、新婚さんなど、年齢も生活環境もバラバラな人たち。それでも招待すると言った以上は、招待しなくてはと、応募してくれた4組に対して実施する無料体験移住ツアーのタイムスケジュールを練り始めたという柏木氏。

「無料移住体験ツアーのタイムスケジュールを考えれば考えるほど、参加者のニーズの違いをより感じるようになりました。例えば、すでに小学生のお子さんがいるご家族に対して、今さら保育園の案内をしても正直時間の無駄になってしまうでしょうし、新婚さんに小学校や中学校の案内をしても、これも意味がない。それぞれの立場によってどうしても無駄な時間が出てきてしまうんです」(柏木氏)

西条市内の小学校。西条市はICTなどの最先端教育も取り入れており、小規模校でもわかりやすく質の高い教育を受けられることから、教育環境の良さを決め手に移住を決める方も多い。
西条市内の小学校。西条市はICTなどの最先端教育も取り入れており、小規模校でもわかりやすく質の高い教育を受けられることから、教育環境の良さを決め手に移住を決める方も多い。

とはいえ、すでに2018年7月にバスを貸し切った無料移住体験ツアーを4組に対して実施することは決定事項。参加者にも案内を出してしまっている状況。このまま実施するしかない状況だったその時、とある事件が起こる。

「2018年7月に四国が豪雨に見舞われました。西条市にはほとんど被害は出ませんでしたが、警報はずっと出ている状況だったこともあり、予定していた無料移住体験ツアーの中止を決定したんです。ただ中止と同時に、すでに招待すると約束していた4組に関しては、それぞれ個別に再度日程調整をした上で、西条市に招待することも決めました」(柏木氏)

この1組1組を個別に招待するという判断が後の「完全オーダーメイド」移住体験ツアーに繋がっていく。

「豪雨の影響が落ち着いてから参加者に個別に連絡をとって、話を聞いてみると、やっぱり人によって見て回りたいと希望する場所が全然違ったんですよ。それなら、今回の4組だけでなく、これから無料移住体験ツアーで受け入れる方々に対しても、個別で招待できるようにしようと話が進んでいきました」(柏木氏)

2018年度は15組32人を招待し、わずか半年間で4組11人が移住をするという驚異的なペースで移住者を伸ばした西条市。「無料」だけでなく「完全オーダーメイド」という部分が、この数字に繋がっていると柏木氏は強く語る。

参加者に一番近しい「コミュニティ」との接点づくりを行う

「無料移住体験ツアーは、“無料” という部分がクローズアップされがちなのですが、私自身は希望者を個別に招待して、実際に西条市に来て、自分たちの暮らしに近しい暮らしを西条市でしている人たちに話を聞くことができる部分が最大の魅力だと思っています」(柏木氏)

参加者が地域の人と話をするときは、とある工夫もしていると話す柏木氏。

「参加者と地域の人が話をするときは、私たちは意図的に席を外すようにしています。当初は、参加者に私たちが話の誘導をしたと思われるのが嫌だと思い、席を外すようにしていたんですが、後から、実際に無料移住体験ツアーから移住してくれた方には、“市役所職員さんがいる時には、都合の悪い話を聞けないから、柏木さんがいない間に、都合の悪い話をたくさん聞きましたよ” なんて言われました(笑)」(柏木氏)

良いところも、少し不便なところも、実際に暮らしている人たちから生の声が聞こえる。そういう時間をあえてつくり、良いところばかりではない西条市を知ってもらった上で、判断してもらいたいと柏木氏はいう。

2015年に西条市へ移住し、夫婦でカフェ「くらしとごはんリクル」をはじめたご夫婦。
2015年に西条市へ移住し、夫婦でカフェ「くらしとごはんリクル」をはじめたご夫婦。

「ほかにも、参加者によって行きたい場所が違うように、交流したい人も皆さん違いますから、参加者のニーズに合わせて、ご協力いただく地域の方も変えています。例えば、お子さんがいるご家族であれば、同じ世代のお子さんを持たれている方や、学校のPTAを務めているお父さん、お母さん、現役の校長先生や教頭先生と話したいだろうと、実際に交流会を開催したこともあります」(柏木氏)

実際に、交流会を通じて地域のことを深く知った参加者の中には、半年以内に移住をしてくる人もいる。「西条市での暮らしを身近に感じてもらい、ここでの暮らしをイメージしやすかったのが良いのだと思います」と、柏木氏は笑顔で話す。

参加者が移住後に一番近しくなるであろうコミュニティとの接点づくりを、移住検討中に行っている柏木氏ですが、無料移住体験ツアーが始まった当初からこの接点づくりを行っていた訳ではなかったそう。

「最初はこういった接点づくりや交流会は全くやっていなくて、無料移住体験ツアーをやっていく中で、必要性に気づいて改善したんです。気づいたきっかけは、本当にラッキーで、無料移住体験ツアーの参加者を案内していた時に、たまたま地元の面白いお母さんたちにばったりお会いしたんです。その時に、お母さんたちがいろんな話を参加者にしてくれて、参加者の方がこの体験をすごく喜んでくれたことでした」(柏木氏)

この時の経験をヒントに、地域の人たちともっと関われる機会をつくろうと、どんどん変化させ、今の形へと落ち着いたという。

「私がどれだけ話しても突き刺さりませんからね(笑)。都内で実施している無料移住体験ツアーの説明会でも、私は必ず最初に “私は嘘は言いませんが、いいことしか言いません。本当に移住を考えている方は、実際に地域に足を運んで、地域の方や先輩移住者と直接話してみてください。そういう時間は絶対に私たちの方でつくりますから。ご自身で地域を体感した上で、判断してください” とお伝えします。地域へ訪れてもらってご自身の肌で体感してもらうことが大事なんですよ」(柏木氏)

本気で移住を考えている人には「本気で」向き合う

無料移住体験ツアーは当日を迎えるまでに、テレビ番組や雑誌などを通じた宣伝・告知、都内説明会の実施、参加希望者の選考、参加者との日程調整・ニーズ調査、当日のプラン作成、地域住民のアサインなど、数多くの工程があり、完全オーダーメイドはやはり多くの手間暇がかかることは言うまでもない。

「私自身は、本気で参加者のことを考えることを大切にしています。本気で移住を考えている方に対しては、こっちも本気で向き合う必要があると思うんです。私は、参加者の方が本気で行きたいと思っているところに対して、ただ単に案内するだけでなく、なぜそこに行きたいのかをしっかり理解して案内することを大切にしています」(柏木氏)

無料移住体験ツアーを担当する移住推進課は柏木さんを含め4名の部署(2020年3月現在)。2019年度は28組を6~12月(4,5月は宣伝・告知期間、1~3月はインフルエンザが流行するため実施をしない)までの半年間で招待する。1人あたり7組以上のお客様を対応し、役所では担当者全員が出払ってしまっている時も少なくはないという。

「無料移住体験ツアーは、招待するまでに1ヶ月以上お時間をいただくんですが、中にはそれを待ちきれないという方や、少し時間ができたという方が飛び込みでいらっしゃることもあります。西条市では、無料移住体験ツアー以外に無料アテンドサービスも行っていて(本来は希望日の2週間ほど前にお申し込みをお願いしているんですが)、当日でも時間が空いていればご案内するようにしています」(柏木氏)

実際に、最近も当日の早朝に役所にいらっしゃったご家族を案内したそう。どんなに忙しくても、本気で来てくれる人に対しては、本気で応えるという柏木氏の覚悟が伝わる。

西条市は温暖で自然に恵まれた環境だからこそ、四季折々の果物を1年通じてつくることが可能。写真のぶどうをはじめ、柿やイチゴ、キウイなど、様々な果物を育てており、参加者をアテンドすることもよくあるんだとか。
西条市は温暖で自然に恵まれた環境だからこそ、四季折々の果物を1年通じてつくることが可能。写真のぶどうをはじめ、柿やイチゴ、キウイなど、様々な果物を育てており、参加者をアテンドすることもよくあるんだとか。

「あとは、昨年度は地域のいろんな方を巻き込んで “寄ってたかって取りに行く作戦” をしていたんですが、今年度は “寄ってたかって取りに行く作戦” に “鉄は熱いうちに打て作戦” を取り入れています」(柏木氏)

無料移住体験ツアー中は、参加者と担当者が長い時間を共にするからこそ、今の生活の話はもちろん、移住後の生活イメージや移住に対する不安から、仕事や趣味の話まで様々な話をし、深い信頼関係が築かれる。この信頼関係を “鉄は熱いうちに打て作戦” では、大切にするというのだ。

「私たちは、移住フェアや説明会で都心を訪れるタイミングが年間で何度かあるんです。その出張の際に、無料移住体験ツアーに参加してくれて、本気で西条市への移住を考えてくれている方には、個別に連絡をとって会いに行くようにしています。 “今度、イベントで東京に行く機会があるので、イベントに来ませんか。そのあと一緒に少しご飯でも食べませんか。軽くコーヒーでも飲みませんか。と」(柏木氏)

2019年度新たな取り組みとして始めたこの “鉄は熱いうちに打て作戦” は、見事的中し、個別で会いに訪れた5組のうち、3組はすでに移住が確定しているという。

「ここが1番、本音がでるタイミングだと思うんです。例えば、家賃が高いところは難しいとか、物件は買えないとか、そういう本音の部分を言ってもらえると、私たちもどうにかそのネックをクリアできるように動き出せます。本気で寄り添い続けることが大事です」(柏木氏)

実際に地域に訪れた時には、前向きに移住を考えていても、自宅に戻ると少し冷静になり、移住への不安が押し寄せてくることは少なからずあるだろう。そんな時、自分が気さくに話せた人から会おうと連絡がくれば誰だって嬉しいに違いない。

どんなに良い反応をしてくれていても、移住に繋がらないこともあります。それは民間企業の営業とかと一緒で、100%は絶対にないという前提で仕事をしないといけませんし、勝負どころでは攻めにいくべきだと思っています」(柏木氏)

「前例がないからやらない」ではなく「とにかくやってみる」

今年度、無料移住体験ツアーに招待した28組のうち、すでに前年度同様に4組が移住し、ほかにプラス3組の移住までは確定がみえているという柏木氏。新しいことを始めるときは、“何が何でもとにかくやってみる” が大事だという。

「昔と違って、今はとにかくやってみることが大事だと思います。“やったことがないから無理” という気持ちは一旦置いておいて、とにかく喰らいついてみる西条市だって無料移住体験ツアーの実施も初めてでしたし、宣伝のためにテレビ番組を作ることだって、都心で単独イベントをやるのだって初めてでした。全く知名度のない西条市の説明会に人が集まってくれるのか、不安しかありませんでしたが、応募は100組を超えたんです。できるかできないかはやってみなくてはわからないからこそ、とにかくまずはやってみる、と思って挑戦してきました」(柏木氏)

新しいことをいち早く取り入れるベンチャー企業とは違い、前例を重視し、腰が重たそうなイメージのある自治体。では西条市は、どうしてここまで素早く新しいことにチャレンジできるのだろうか。

「西条市の市長や副市長が “まずはとにかくやってみよう” という考え方を持っているので、前例がないことでもチャレンジしやすい環境があります。でも正直、私自身には全く自信がなくて、市長に移住施策をやろうと言われた時も “はい” と応えましたが、市長の目を見て力強く応えることはできませんでした。

“とにかくやろう” とは思いましたが、やれるかどうかの自信は全くなかったので、今でも “やります” とは言いますが、“できます” と言ったことはないんですよ」(柏木氏)

これだけの実績を出しながらも「自信は全くない」という柏木氏は、取材の最後にこんな話もしてくれた。

人の人生を背負うのは恐ろしいことですし、怖いですが、本気で来てくれる人には本気で向き合わなくてはいけません」(柏木氏)

数々の施策を打っている西条市ですが、それ以上に常に参加者と同じ目線で、気持ちに寄り添いながら、本気で向き合い続ける柏木氏だからこそ、これだけの実績を出せるのかもしれない。

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Editor's Note

編集後記

相手の人生に向き合うことは、大きな責任が伴うからこそ、恐怖を抱きつつ、それでも本気の相手には自分も本気で向き合うという柏木さんの覚悟が伝わる取材でした。

移住を考えている方はぜひ一度、ツアーセミナーや無料アテンドサービスを通じて、柏木さんや西条市の本気に触れてみてはいかがでしょうか?

これからも愛媛県西条市の応援をよろしくお願いいたします!

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