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LOCAL LETTER

「面で見せる」高知の伝統と未来。「地域一体型オープンファクトリー」の魅力

NOV. 28

KOCHI

拝啓、ものづくりをカギに持続可能なまちづくりを実現したいアナタへ

地域に産業があるがその魅力が伝わらず、若者は外に出ていく。人口流出と後継者不足で事業が継続できず、まちの活性も失われる。現在、多くの地域が抱える課題ではないでしょうか? 

この解決策として、「地域一体型オープンファクトリー」が各地に広がっています。

「オープンファクトリー」とは、ものづくり企業が主体的に生産現場を公開することで積極的に自社の魅力を発信する取り組み。従来から各事業所が工場見学やワークショップという形で単独で実施してきました。

一方で「地域一体型オープンファクトリー」では、地域内の企業や事業者が協働して事業の施設を公開し、点ではなく面として地域の魅力を発信します。

地域一体型オープンファクトリーの成功事例の一つ、福井県の「RENEW」では、2023年度の3日間の開催で来場者は延べ3万人超。

人口減少が先行する四国でも、2023年開始の香川県の「CRASSO(クラッソ)」など各地で地域一体型オープンファクトリーが開催されています。経済産業省四国経済産業局はこの気運を後押しすべく、広域展開支援事業を展開しています。

2024年10月、同局主催の「地域一体型オープンファクトリーツアー in 高知」に参加しました。このツアーは9月に実施されたセミナーと連動し、地域一体型オープンファクトリーの開催に意欲のある参加者の地域を中心に行われました。

主催者の四国経済産業局の高橋さんは、今回のツアーに対する想いをこう語りました。

「各地域で、自分達や地域がどうなっていきたいかを模索し、地域一体型オープンファクトリーの枠の中で地域の魅力を発信していただく。民主導で何かしらイベントを作りたいという意識があれば、必要に合わせて行政も何かお手伝いをできればと考えています。その結果、地域が盛り上がれば良いと思います」

各訪問先でのリアルな現場の声と、事業所への訪問を重ねる「地域一体型オープンファクトリー」の魅力を高知県からお届けします。

高知県のほぼ中心を流れる仁淀川(によどがわ)。美しい水の色は「仁淀ブルー」と呼ばれる。

「高知の匠と自然」8つの魅力を巡る

今回のツアーでは、仁淀川流域の伝統的工芸品の土佐和紙製造2ヵ所と香美市の土佐打刃物製造1社、四万十町エリアで土佐打刃物1社を含む5か所、計8か所を訪問しました。

各訪問先では、今まで知ることがなかったものづくりの過程やユニークな施設を見学し、熱いお話を聞かせていただき、大変興味深い体験ができました。

(出所)ツアー配布資料および取材収集情報をもとに筆者作成/網掛け部分は四万十町エリア

伝統産業の展開に見るコントラスト 

オープンファクトリーで複数の現場を訪れることで、ものづくりにおける事業者ごとの共通点や違いが浮かび上がる体験ができました。例えば、伝統的工芸品の土佐和紙と土佐打刃物の双方の製造には、機械を導入し量産する動きが見られます。

訪問した穂岐山刃物(ほきやまはもの)鹿敷製紙(かしきせいし)の製造現場では、機械を導入しつつも、品質を保つため機械では難しい作業は人の手で行っている点、また製品を海外輸出している点で共通していました。

穂岐山刃物では、多層構造のダマスカス鋼を自社開発。京セラ株式会社や株式会社IHIなどの大手製造会社とコラボすることでさらに技術を高め、新商品(包丁)を開発しています。

自社ブランドでの海外展開は、2003年より開始。世界有数の見本市会社ケルン・メッセ主催のイベントへ出展するほか、2015年からは世界最大級の見本市アンビエンテ出展に移行。現在、製品は海外40か国に輸出されています。

穂岐山刃物が自社開発した量産用のロール鍛造用加熱炉。炉内で適切に加熱された鋼材は併設の専用鍛造機にて一瞬で鍛造される。

鹿敷製紙では、先々代が45年前にフランスの修復工房を見学し、修復用紙の将来のニーズを確認されたことから、機械式の薄い和紙を生産開始しました。品質保証のため、原料や製法などを記号番号で明示しつつ、問屋さんを通じて輸出しています。また、品質を守るため使用するのは国産原料のみ。

鹿敷製紙の機械抄きの薄く美しい和紙(鹿敷製紙ウェブサイトより)

鹿敷製紙のユニークな取り組みとしては、農家の高齢化により困難となる原料の確保を外国人ボランティアの手を借り、解決していることがあげられます。特に、リアルな体験を求める欧米系の外国人観光客に人気で、予約は半年後までいっぱいの状況とのことです。

また、代表の妹である濱田あゆみさんは俳優として活動し、土佐和紙が抱える問題をテーマにした作品の上演を10年続け、伝統産業が置かれた状況を広報しています。

一方、伝統的な技術を手作業で行う生産者には、その技術を使い、新たな製品づくりに挑戦、またその技術の継承に力を入れているという共通点があります。

土佐和紙 井上手漉き工房の後継者である井上みどりさんは美しい紙を漉くことの追求と合わせて、ショウガ工場などの廃棄物の繊維を使った紙漉きにも挑戦。手漉き技術の可能性を広げ、サステナブルな取り組みにも力を注いでいます。

「一人で和紙を作ることも大事ですが、紙漉き技術を使って、見落とされていた廃棄物に新たな価値を作ってあげることも大事です」(みどりさん)

みどりさんのショウガ工場の廃棄物を使った手漉き紙。高知工業高等専門学校とコラボ。坂田信夫商店が協力。ショウガ繊維を使った紙漉きの実験は4年続いている。

今後、工房には長男夫妻や研修生など若い世代が加わる予定。次男は大阪で和紙の体験スポットを開設する計画を進めるなど、技術の承継が進んでいます。

続いて訪れた土佐打刃物の黒鳥鍛造工場の店頭には、地域や時代のニーズに合わせて開発された商品が並びます。林業用の「えがま」、カツオを素早くさばくための「カツオ包丁」など、高知ならではの需要に応える刃物が取り揃えられています。

そのほか、アウトドア用に開発した「ブッチャーナイフ」は高知県地場産業奨励賞を受賞。他社とのコラボで開発した特殊左官材「鍛冶黒-KAJIKURO-」は、刃物の製造過程で発生する産業廃棄物の研ぎ粉を活用したサステナブルな素材です。

「包丁は業種や食材によって、林業用の刃物は樹の質や土の質などで刃物の形は変わります。用途や使う環境によって、刃物のどこを丈夫にする必要があるかが違うからです。

高知県は、四国山脈が隆起しているので結構険しい地形です。険しいうえに、石がごろごろでてきたり、竹藪だったりする土地を開墾してきた歴史の中で刃物が発展してきました。

土佐打ち刃物は険しい土地を開墾してきた先人達が作ってきた、使ってきた歴史ある道具なんです」と、土佐打刃物の黒鳥鍛造工場代表の梶原さんは語ります。

梶原さんの今後5年間の目標の1つは、包丁や農具、山林刃物などの製作や修理を担う野鍛冶が減って困っている人のため、「土佐打刃物職人を育成して、自社から人材を輩出すること」と、熱い胸の内を教えてくださいました。

四万十町の魅力を面で見る。移住体験につながるエコツーリズム

さらに、梶原さんは四万十町の地域一体型ファクトリーツアーの中心人物でもあります。

そんな梶原さんが教えてくださった、今後5年間のもう1つの目標は「地域一体型オープンファクトリーのための設備を作ること」です。

梶原さんは工場に併設された店舗でお客様にメンテナンスの方法も指導。

従来から、梶原さんは刃物のメンテナンスを通じて顧客と長期的な関係を築いてきました。

「一度来てくれたお客さんは、その後もずっと来てくれます。メンテナンスの依頼や、店を紹介したい人を連れてきてくれる。そうやって口コミで広がっていきます」(梶原さん)

そんな関係性を活かし、工場見学やギャラリーを通じて購入してもらう仕組みを構想していたという梶原さん。地域全体でオープンファクトリーを展開することを目指しています。

「地域みんなでオープンファクトリーができたらいいなと思っています」と、自社に留まらない広がりに期待を寄せています。

また、メンテナンスを通じ、世代を超えて良いものを手入れしながら大切に使う文化は、環境に優しく、サステナビリティに貢献します。

梶原さんはこの長きにわたる文化を大切にしたいと考えています。

四万十町の各訪問先でも、事業の背景には自然の豊かさが見え、地域に根差し、地域の環境を大切に守る人の魅力を感じました。四万十町の地域一体型ファクトリーツアーは「地域の豊かさ」を感じさせるエコツーリズムとして、大きな価値を提供しています。

四万十町、四万十川の景色(四万十町ウェブサイトより)。四万十町は人口約15,000人。四万十川の中流域にあり、東南部は土佐湾に面している。総面積642.28㎢、林野が約87.1%を占める。

四万十町の訪問先には、地域と結びついた2つの酒蔵がありました。

その1つが1893年創業の老舗酒造 無手無冠(むてむか)です。

この酒蔵で現在生産しているのは、9割が焼酎、1割がリキュールと酒。日本酒は地元農家と協力して、無農薬で栗焼酎の搾りかすを有機肥料に用いて栽培した米を使う醸造方法が特徴です。

栗焼酎の製造開始は1985年。当時、四万十栗産地の大正村では、廃棄された規格外の栗が猪や鹿などの餌となり、獣害の原因となっていました。杜氏(とうじ)の喜田(きだ)さんによれば、「村長から相談を受け、規格外の栗を使って焼酎を作ることになった」とのこと。

こうした説明を受けながら、歴史を感じさせる蔵の中で日本酒と栗焼酎の醸造工程も教えていただきました。先人から受け継いだ施設を使い、杜氏は最大限の努力で最高の味を作り出している様子を体感。

購入した栗焼酎「ダバダ火振」は、ほのかな栗の香りと飲みやすい口あたりで、人気の理由が実感できました。

無手無冠の歴史深い酒蔵

続いて2つ目の酒造は、地域に支えられ再生を果たした酒蔵 文本酒造(ふみもとしゅぞう)1903年創業し、今では窪川地区に残された最後の酒蔵です。一度は廃業の危機に陥りましたが、地区最後の酒蔵を守ろうという地域の方々の情熱により、2022年7月に新体制に引き継がれました。

その際、保健所から現在の衛生基準に適合するための設備改装を求められ、半年かけて整備を実施。杜氏の石川さんは、新しい設備を使った酒造りの方法を説明してくださいました。

「ここは、四万十川がすぐそばに流れていて、地下にもきれいな水が流れている地域です。その水で育ったお米が仁井田米。食べてもおいしいけど、『お酒にしてもおいしいね』と言ってもらえるお酒を造りたいと思っています」(石川さん)

併設の日本酒ペアリングBAR「お酒屋さん」で味わったお酒は、爽やかな風味が特徴的。地域の自然が生み出す味わいを感じました。

角打ちができる、カフェバースペース「お酒屋さん」。蔵元見学と合わせて、試飲が楽しめるのは魅力の1つ。

また、これからの農業の形を知ることができた訪問先は、JA高知県高西地区ニラ集出荷場

四万十地域はニラ生産日本一の高知県の中でも有数のニラ生産地。高齢化した農家の出荷作業を請け負うため、農協は、研究を重ねて機械化された大規模な集出荷場を建設。2023年8月に稼働開始しました。

場長の明神さんは、「農家さんはハウスの管理や収量を伸ばすところに力を注いでいただいて、JA高知県全体での出荷量を増やしていければと思っています」と語ります。

ニラ集出荷場

そして最後に、四万十町の魅力を知り移住を考える人に最適の訪問地、滞在型市民農園 クラインガルテン四万十にも足を運びました。2010年4月の開設以来、すでにここから25名が四万十町に移住した実績があります。

年100回位開催しているというイベントでは、住民が集まり、ごはんを食べたりお酒を飲んだり、楽しんでいると名物管理人の島岡さんは言います。

また、入居から1年半のご夫妻ともお話することができました。現在、四万十町と高知市との二拠点生活をされているとのこと。「見よう見まねで始めた」という農業ですが、今ではとれたての野菜を食べる豊かさを実感し、すっかりのめり込んでいるそうです。

「ここに決めたのは、管理人さんがすごく魅力的だったから。やっぱり人ですよね」と笑顔で語ってくださいました。

クラインガルテン四万十の入居者は3分の2が高知県外から来ている。写真はクラインガルテン内を歩く名物管理人の島岡さん。

面で見せる魅力+αの効果、「地域の人が輝ける場」づくり

今回のツアーに参加して、複数の訪問先の事業所の間に、「違いから生じるコントラスト」や、「共通性の重なり」を感じたとき、地域や産業のあり方に奥行が見え、地域や産業が立体的に理解できるようになることを実感しました。

また、事業所訪問の数を重ね、より多くの人の熱量を感じることで、地域に対する関心も高まり愛着が深まることは言うまでもありません。

ツアーの終盤、メンバーから、「濃い2日間だった」という言葉が漏れ、ツアー参加者全員が深く納得していました。

さらに、経済産業省 近畿経済産業局の調査によれば、オープンファクトリーは、社内(従業員)への働きかけの効果が高いことが報告されています。

参加者の振り返りでは、オープンファクトリーは「仕事を超えて熱い思いをもって取り組めるコミュニケーションツール」「人の意識を変えていくツール」「部門の共通言語を生み、内発的変化が生み出される」「人が輝ける場、人が主役になっていく手段」などの回答がありました。

地域の人を主役に輝かせ、内発的変化を生み出す。そして、面としての地域の魅力を伝えて関係人口や移住者を増やす。

アナタの地域でも「地域一体型オープンファクトリー」に挑戦してみませんか?

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Editor's Note

編集後記

ひとつひとつの訪問先で、本当に素晴らしい体験ができました。心を尽くしてご説明いただいた皆様には感謝の言葉もありません。今回の記事では伝えきれないストーリーが沢山残りましたが、そうした体験の密度の濃さが、地域一体型ファクトリーツアーの面から伝わる魅力につながるのだと思います。いつか、何かの形で、訪問先の皆様それぞれのストーリーを共有できたらと思います。
まずは再訪、また会う日まで。

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