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※こちらの記事は、パーソルイノベーション株式会社「lotsful」主催のオンラインイベント「副業人材と大田区が挑む!地域活性化プロジェクトの軌跡とこれから」をレポートにしています。
東京都23区の中で最大の面積を持ち、都内最多の商店街が存在する大田区。地域の顔とも言える商店街も、コロナ禍で打撃を受けました。
そうしたなかで大田区は、副業人材を活用し大田区商店街の組織力を強化する取り組みを行いました。
前編では、大田区における副業人材活用のきっかけや3年間の歩みをお届けしました。
後編では、副業人材を受け入れる時のポイントや実際に活用して得られた気づきなどについて迫ります。
浦上氏(モデレーター、以下敬称略):実際に副業の外部人材を受け入れてみて得た、気づきや発見などをお聞かせいただけますか。
吉原氏(以下敬称略):副業人材の活用については手探りな状態からはじまりました。1年目に一緒にやっていただいたなかで、副業の方には「この部分をこの期間内でお願いできますか」といった依頼の形が1番効率的だったなと思っています。
一方で、副業人材へ依頼をする前に、行政側で立案や制度設計をする段階で「こういうことがしたい」とかなり明確にしておく必要があると感じます。
限られた予算に対して実施期間をどの程度設けるか、副業の方は何人に依頼できるのか。その辺りの制度設計はお金との見合いの部分が大きいですが、課題を1つに設定し一緒に解決できる方にお願いするのが効果的だと振り返ってみて思います。
浦上:河野さんはいかがでしょうか。
河野氏(以下敬称略):気づきとしては、良い点と悪い点それぞれありました。
良い点については、副業の方の情報のキャッチアップが非常に早いこと。プライベート含めて計画変更も発生しますが柔軟にご対応いただいていることは、副業活用ならではの良さだと感じます。
悪い点については、副業者との窓口になる大田区商店街連合会(以下、連合会)側のメンバーはある程度副業者の活用ノウハウを持っていないと、業務の切り出しがなかなかうまくいかないとわかったことですね。
初年度は連合会がプロジェクトマネジメントをし、2年目は商店街メンバーに一部をお預けしたのですが、業務の切り出しがうまくいかなかったことが反省点としてあります。
3年目はある程度連合会も入りつつ、参加してるお店にも業務の切り出し方をレクチャーしながら、副業人材の活用方法に慣れていただいているところです。
吉原:行政の職員がマネジメントまで担うことは現実的に難しい部分があります。我々の場合はありがたいことに連合会さんがパートナー的立場でいてくれてお任せすることができますが、そういう方が置けるか置けないかは成功するか否かの分かれ道ぐらいに大事だなと思います。
最終的には商店街の中の人が課題を自覚し、外部人材に発注をするなど一連のことを商店街の中で内製化できることが目指してる理想の形ではあります。
商店街が内製化して副業人材の方に依頼をしていける土壌についてはまだまだこれからという段階で、今はその役目を連合会さんのような地域の団体さんに一旦お願いすることも必要だと思います。
浦上:参加者様より「副業人材の費用負担はどこがしていて、今後は店舗が負担していくのでしょうか?」と質問がきていますが、持続的な取り組みにするために考えておられることはありますか。
吉原:過去3年間は区の予算で、「大田区から区商連に委託」という形で年度ごとに実施いただいています。
いずれは商店街自らが外部へ発注できるような土壌をつくっていきたいです。
副業の方にお願いする際の費用負担についても商店街の予算で持っていくことができれば、本当に内製化した証かなと思います。ですが会員さんの減少など慢性的な課題もあり、なかなか商店街も予算的に厳しい面があります。
お金がないと副業人材を呼べないので、例えば区で補助金制度を創設をして補助をつけていくやり方も1つかなと思っています。持続的な仕組みをつくる時に、お金の出所についても考えていかないとですね。
浦上:ありがとうございます。
プロジェクト成功のポイントもお聞きしたいのですが、人材選定の段階で気をつけていたことは何かありますか?
河野:商店街の店舗が対象になるので、普段から中小企業の方々と接していて肌感覚を持っていることは重視している部分です。
吉原:大田区愛を語られる方も結構いらっしゃって、それが人選に響いたかはあえて申し上げないですが、そういったコメント自体が純粋に嬉しかったですね。
佐久間氏(司会、以下敬称略): 参加者様より「どのような人が大田区で活躍できますか?」と質問をいただいていますが、いかがでしょうか。
河野:個人的には、「このプロジェクトで自分も成長したい」などの向上心や熱量がある方とぜひ一緒にやりたいなと思っています。プロジェクトをただ推進するというより、一緒に成長できたら嬉しいですね。
連合会の職員も、副業の方のノウハウを吸収して自分で勉強しはじめるなど組織としても良い刺激を受けて、相互にスキルアップできていると感じています。
吉原:そうですね。今年は会員個店さんに対して副業の方に直接入っていただいていますが、割と早い段階で店主さんも触発されている感じがあり、会員店舗さんとも相乗効果があると感じています。
区としては、短納期でピンポイントの課題解決に絞った制度設計をしています。ですので、「とある会員店舗さんのこの商品の売上を10%アップさせたい」のような決して壮大なプロジェクトではなくとも、丁寧にフォローアップしてくださる方かということは大事だと思っています。
また、お勤め先での花々しさよりも、むしろ住んでいる地域への愛着だとか消費者目線で普段買い物するお店を思い浮かべてイメージできる方のほうが、大田区のプロジェクトにとっては相性がいいと思います。
浦上:副業人材を活用し広報モデルや新規事業をつくる取り組みに関しては、どのように振り返っていらっしゃいますか。
吉原:初年度の第1弾には、商店街を継続的に運営していくにあたって日々やらなければならない業務を全て棚卸しました。
商店街の方が「人手がない」と言う課題の裏側には、事務員の細かい仕事や会員とのやり取りなど、「消費者の目には見えない業務が実はたくさんある」と肌感覚では掴んでいました。
ただ実際に分析をしたことが無かったので、 副業者と連合会で棚卸表などのツールを駆使して、実際の負担感の現状分析や商店街の活性要因分析をしていただきました。
そのなかでタスク化されてない業務の1つに広報PRやマーケティング周りがありました。2022年の第2弾に商店街のPRの形として最低限のモデルや型をつくり、区内140ある商店街にご案内していけたら良いなという想いでやっていましたね。
河野:事務機能を60項目に分解し、かかる工数や管理リスクの洗い出し、デジタルかアナログかなどを棚卸しました。決算書やイベントの補助事業の実績報告などは連合会でご支援できるので、広報マーケティング部分を切り出して副業者にお願いする体制を組みました。
浦上:ありがとうございます。
第3弾のプロジェクトの狙いについて、どのようなことに今取り組まれていてどのようなゴールを設定されていらっしゃるかお伺いできますでしょうか。
吉原:ゴールを「SNSを使いながら売上アップや来客アップをしていくには」という具体的な内容に絞っているので、壁打ちに使う時間をかなり短縮できとても早くスタートを切れたなと思います。
今のところ非常に効率よく運営できており、アウトプットをしっかり出せそうだと確信しています。
河野:募集する際のプロジェクトの設計が具体的であればあるほど、親和性の高い人材が 応募してきてくれると、今年は特に実感しました。
実はミーティングの後に、ある会員店舗の方から「今回参加できてよかった!」と感激の電話をいただいて。今年の満足度は相当高いです。
マーケティング周りは、商店街のお店で体系的に学ぶ機会はなかなかないですし、セミナーなど実施しても一般論的に終わってしまうことが多いため、「お店に特化した相談ができてすごく嬉しい」との意見が多いですね。
吉原:副業の方がほぼマンツーマンで、お店に合わせてカスタマイズするような内容で深度を深くやってくださっているので、そこがお店の方からの感謝の電話に繋がったのかなと。
商店街の方は相談する相手がいないということも現状としてあり、広報PRに対しても手が回らなくなってしまう。大田区としても機会損失になってしまうので、その辺りの後押しができたらと思っています。
浦上:副業人材との取り組みで定期的にミーティングも設定されるので、やらざるを得ない環境をつくっているという点も、副次的な部分としてあるかもしれませんね。
本日はお話いただきありがとうございました。最後にお2人からメッセージをお願いします。
河野:個人的に、副業人材を活用されている自治体や企業との情報交換の機会があると嬉しいなと思いました。ぜひよろしくお願いします。
吉原:様々な方の手を借りながら、地域を盛り上げていくのが楽しくもありますし良い形だと思っています。副業の方の柔軟さと解決力の高さを今後もお借りして、自治体の課題解決に貢献いただけることにこれからも期待をしております。
lotsfulサイトに掲載されているセミナーレポートはこちら。
Editor's Note
あらゆる場面で人手不足が課題となっていますが、立場が何であっても、これまでの既存の型に縛られることなく柔軟対応していくことが大切なのだと、改めて感じさせていただきました。
SAKI SHIMOHIRA
下平 咲貴