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LOCAL LETTER

DJ兼僧侶。⼆⾜のわらじを履きながらの東京と福岡の⼆拠点⽣活の哲学

AUG. 14

FUKUOKA-TOKYO

拝啓、未来の自分を考えて不安になっているアナタへ

DJとして活動をはじめて22年目という友光雅⾂さんは、天台宗僧侶としても14年⽬を迎える異⾊の経歴の持ち主。

東京の⼀般家庭の出⾝でしたが、彼⼥の家業を継いで出家、結婚。2児の⽗となったのちに離婚し、今は「フリーランス僧侶」として、DJ業と二足のわらじを履いています。

DJ業と僧侶業。⼀⾒、全くかけ離れた世界のように思える2つの生業を続けている根底にある想いとは。

福岡と東京の⼆拠点⽣活に⾄った背景や、フリーランスな活動の根っこにある独⾃の哲学に迫ります。

友光 雅臣(Tomomitsu Gashin)さん DJ、天台宗僧侶、寺社フェス[向源]主催 / 1983年生まれ。アメリカのBurning Man、グアテマラのCosmic Convergenceといった海外の大型フェスでプレイ。クラブやフェスでのDJを主としつつ、エステの施術やレストランのコース料理に合わせたMIX制作や、Plug and play Japanなどのピッチ、ビジネスイベントを盛り上げるDJもおこなう。また天台宗僧侶としてのキャリアを組み合わせ、座禅指導をしながら曲をつなぐDJ×座禅など、繊細で優しい音楽を届けます。photo by Taishi Fukumura
友光 雅臣(Tomomitsu Gashin)さん DJ、天台宗僧侶、寺社フェス[向源]主催 / 1983年生まれ。アメリカのBurning Man、グアテマラのCosmic Convergenceといった海外の大型フェスでプレイ。クラブやフェスでのDJを主としつつ、エステの施術やレストランのコース料理に合わせたMIX制作や、Plug and play Japanなどのピッチ、ビジネスイベントを盛り上げるDJもおこなう。また天台宗僧侶としてのキャリアを組み合わせ、座禅指導をしながら曲をつなぐDJ×座禅など、繊細で優しい音楽を届けます。photo by Taishi Fukumura

DJ的とも言える「フリーランス僧侶」。新たな境地を切り拓くその活動

アメリカの砂漠で行われる、Burning Manという大型フェス会場での友光さん
アメリカの砂漠で行われる、Burning Manという大型フェス会場での友光さん

友光さんが僧侶になったきっかけは、高校時代から付き合っていた彼女の実家がお寺で、彼女のお母さんから「お坊さんにならない?DJも続けられるよ」と誘われたことだったのだとか。

当時、DJを趣味でやっていた友光さん。お寺なら深夜の仕事はないのでDJを続けられると聞き、お寺に入って僧侶になることを決意しました。だからこそ、僧侶になってもDJを続けることになんの違和感もなかったのだそう。

婿入りのような形で僧侶となった友光さんでしたが、通夜や葬式、法事といったお寺の僧侶業を十何年か勤めたのちに離婚。お寺を出ることになりました。

その後はフリーランスの僧侶として様々な活動を展開。

座禅指導にはじまり、漫画やゲームといったコンテンツに出てくる寺社の様子などの仏教系の監修をしているほか、友人のお寺によばれて法話をしたり、寺社フェス「向源」というフェスの主催をしたり、ニコニコ超会議のコンテンツ制作やプロデュースをしたりと、一般的な僧侶業の範疇を飛び出した活躍をみせています。

寺社フェスやニコニコ超会議などのイベントでのコンテンツ制作はDJ業のように思えますが、友光さんによればやはり僧侶業なのだそう。

「『臨済宗のアンドロイド観音による座禅指導』といったコンテンツを通常どおりやろうとすると、1時間かかってしまいます。でもそれをニコニコ超会議でやるなら、10分で終わるコンテンツにしたい。私は天台宗なんですが、臨済宗との違いやお経などを勉強して、座禅指導を10分でできるコンテンツに書き直しました。さらにそのコンテンツを臨済宗の方にチェックしていただいてOKをもらうところまでやりました」(友光さん)

ニコニコ超会議に来るお客さま像をお寺に説明しても、なかなか伝わらないのだと話す友光さん。

「えらいお坊さま方に『絶対に悪いようにはしないのでやらせてください』と頭を下げて、お客さまにちゃんとコンテンツが届くようにするのが私の僧侶としての仕事」(友光さん)

お寺と一般の人の間を取り持つ役割を果たす友光さんは、DJ的なフリーランス僧侶という新たな境地を切り拓いています。

チャラくもなくマニアックでもない、“普通” の音楽を愛するDJ業

photo by Natsumetic
photo by Natsumetic

一般にイメージされるDJ業といえば、クラブやイベントで音楽をかけることでしょう。しかし友光さんのDJ業は、その固定観念からも飛び出しています。

普通の人、いわゆる“クラバー”じゃない人が普通に聴いていてリラックスできて『ここはいい音楽が入っているな』と感じられる場所をつくるのが、僕のやっているDJ業なんです」(友光さん)

友光さんがかける音楽は、クラブミュージックやダンスミュージックにとどまらず、ピアノやジャズ、クラシック、古いJ-POPやフォークの曲など多岐にわたります。場所によっては1日中かけられることを想定したミックスをつくることも。

「日本には両極端なDJシーンしかないんです。めちゃくちゃアゲアゲなクラブのチャラいDJと、誰も知らないようなレコードを掘ったりするハードコアなマニアックDJ。僕はどちらでもない、いわゆる普通の音楽が好きなんです。ヨーロッパやアメリカにあるバーやダイナーといったシーンでかかっている、普通の音楽」(友光さん)

友光さんのかける音楽はメジャーであるがゆえに、東京のクラブシーンではあまり需要がなかったのだそう。そこで活躍の場として見出したのが、ビジネスの場所でもないけど、遊びの場所でもない場所

たとえば高級レストラン。「一皿出てくるごとに曲が変わり、料理と音楽のストーリーがマッチする」といったコンセプトで、コース料理に合わせた音楽をつくることもあるのだそう。

DJと僧侶。物事の根っこをみて人と向き合う、どちらも根底は同じ仕事

DJとしての役割と僧侶としての役割。傍からみると真逆ともいえる生業を両立する上で、友光さん自身がギャップを感じることはないのでしょうか。

DJも僧侶も、どちらも自己表現だとは全然思っていないんですよ。仏教の僧侶というのは、仏様の教えと一般の人との間に入って仲介するというか、編集、キュレーションして理解してもらいやすくする手助けをする役割なんです」(友光さん)

2500年前のお釈迦様や阿弥陀様、観音様の考えを、お経を通して自分なりに受け止め、現代の言葉で伝えるのが僧侶の仕事。

エルヴィス・プレスリーやマイルス・デイヴィス、三波春夫といった、古今東西のアーティストが生み出してきた3000年分の音楽の中から、場所やお客さま、時間に向き合い、自分なりに音楽を選び出して音量を調整して流すというのがDJの役割。

DJと僧侶、どちらもわりと近いことをやっています」(友光さん)

そんな友光さんの根底にあるのは、「根っこを見る」という、物事の根本に立ち返る思考でした。

「物事に接するとき、それが悩み相談でも流行でも何であれ、枝葉ではなく根幹というか、『根っこの部分を見るようにしなさい』と仏教で学びまして。その人が一番求めていることや乾いてること、その根っこは何だろうと考えるんですよね」(友光さん)

「大学生に喜んでもらいたいから、若い人の音楽を流したいんです」とクライアントから相談されたケースでは、Spotifyの20代のヒットチャートを安易に流すのを友光さんは反対したのだそう。なぜなら、ターゲットから「媚びてるな、ダサいな」と思われてしまいかねないから。

音楽を聴く若い人は本当は何を求めているのか。その根っこを見ずに、枝葉だけを見て音楽を考えて流しているのが伝わってしまうのだと友光さんはいいます。

「でも、原因を探って処方箋を出す、いわばテクニックでは、相手に合わせるだけで心がない状態になるので、この10年ぐらいは本当に思っていることを言うとか、本当にいいと思う音楽だけをかけるようにしています」(友光さん)

しっかり休んで “いいやつ” で在り続ける。それが二拠点生活のコツ

 

photo by cabcab
photo by cabcab

現在は福岡と東京の二拠点生活をされている友光さん。出身地の東京から離れ、福岡でも暮らすようになったのにはどういった経緯があったのでしょうか。

「コロナ禍で離婚を決め、非常に息が詰まる毎日を過ごしていた時に、福岡の人と知り合ったんです。『なんかモヤモヤしているんだ』と話したら『福岡に遊びに来たらいいじゃん』と言ってもらえて。

福岡には友達もいないし縁もなかったのですが、来てみたら海も近く、田舎も近く、でも都会だし、いい町じゃん!』と気に入っちゃいました。知り合った人から『住みたかったら、部屋も余ってるし住んでいいよ』と言ってもらえたんです。だから居候させてもらってます(笑)」(友光さん)

福岡を拠点とし、月に1〜2週間くらいを東京で過ごすという二拠点生活のリズムがついてきた友光さん。東京ではDJの仕事をしたりご自身の子どもたちや友だちに会いに行ったりとアクティブに活動しながら、福岡に帰ってくるとボーっと過ごしているのだそう。

「二拠点生活をやっているとやっぱり移動が大変だし、ホテルの手配も必要になってくる。なので拠点がひとつだった時と比べると、仕事量ややれることはガクッと減るなと。

自分を保つためにも、人から必要とされる人間でいるためにも、しっかり休んで “いいやつ” で在り続けるということを、非常に心がけています」(友光さん)

自分に余裕がなかったり怒りっぽくなったりしたら、座禅指導を受けたいと思う人もリラックスできる音楽を依頼したいと思う人も現れなくなると、友光さんは笑います。

未来を考えるからしんどくなる。“今” にフォーカスして生きるということ

 

photo by 吉田貴洋
photo by 吉田貴洋

二拠点生活やDJと僧侶業の今後の展望について、インタビューの締めくくりで質問した編集者に対し、友光さんは少しためらいつつ話してくれました。

「少し否定的になってしまうかもしれないですけど、今後について考えるから、みんなしんどくなるんだよねと思ってまして

3年後、5年後どうなるのか全然わからない時代ですよね。そんな今だから、個性的な活動をしているような人は、未来をちゃんとイメージできているだろうと思われていて、『そんな人たちが今後どうしていきたいと考えているか』という情報にニーズがあるんですけど、今後どうしていくべきかを考えるから苦しくなるのではないかと」(友光さん)

今後のことを考えているのなら、“今” のことはもっと考えているのかと思えば、決してそうではなさそうだ、と友光さんはいいます。

「『10年後のために』と思って生きたところで、10年後にはさらに10年後のためにと言い続けるだけなんですよね。

まずは今日1日。明日じゃなくてまず今日、良いことも悪いこともあったけれど自分らしく在れたなという1日を送る。それが10年後も続けられたら10年後も自分らしく在れる」(友光さん)

今日1日、エレベーターに偶然乗り合わせた人でもいいから大事にして、機嫌よく生きていくことを続けたら、10年後にどうなっているか。たくさんの人に囲まれているかもしれないし、みんなにお金を配って素寒貧になっているかもしれない。

それでもいいのだ、と友光さん。

自分がちゃんと “いいやつ” でいられれば、どんな10年後だろうと『いやあ、楽しいもんですよ』って言っていられると思っているんです」(友光さん)

LOCAL LETTERでは、「フリーランス」という生き方をはじめ、「副業」や「複業」という挑戦で新しい人生を手に入れた人たちを取材しています。ぜひ他の記事もご覧ください!

Editor's Note

編集後記

やはり媒介者の立場であるライターとして「原因を探究し、我を強く出さない」という友光さんの言葉に、背筋の伸びる想いで書かせていただきました。ともすると、明日、来週、来月、来年…と先を見て、今日がおろそかになりがちな私。今を大事に生きてみようと思います。

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