NIIGATA
新潟
※こちらの記事は、Aillオンラインサロン主催の勉強会「商店街イベントに10万人集客した道の駅駅長に聞く 道の駅と地域デザイン」をレポートにしています。
道の駅の駅長は、経営、観光、農業・産業振興、防災、子育て支援、移住促進など広い分野での知見が求められ、公共施設という側面から行政や政治、大学などとの関わりも深いお仕事。
そんな道の駅の駅長として現場を担当し、『全国「道の駅」女性駅長会』の会長でもあるゲストをお招きした今回のオンライン勉強会。
道の駅運営についてはもちろん、イベント運営や地域を巻き込む課題解決についてもお話いただきました。
石田氏(MC / 以下敬称略):Aillオンラインサロンで事務局を担当しています。本日のAillオンラインサロンの勉強会は、『全国「道の駅」女性駅長会』の会長である加藤はと子さんにお越しいただき「道の駅と地域デザイン」というテーマでお話をいただこうと思っています。
本日の講師を務めていただく加藤さん、まずは自己紹介をお願いします。
加藤氏(以下敬称略):新潟県で地方創生のマーケティングの会社を経営しています。私自身は道の駅の専門家として、全国でお仕事をさせていただいています。今は2つ目の現場を業務委託として預かり、道の駅の駅長をしています。
石田:加藤さんは、どのようなきっかけで道の駅に関わりはじめましたか?
加藤:2012年4月から新潟県三条市で、商店街活性化やまちづくりの施策の一環として「三条マルシェ」という青空市のようなものを立ち上げ、その実行委員をやっていたという経緯がありました。
当時は主婦でありながら、三条マルシェを理由に県外にお話に行かせてもらったり、経産省や総務省の表彰をいただいたり、10万人の町で10万人の集客をしたイベント運営に実行委員メンバーとして関わってきたことの積み重ねもあり、ご縁あって道の駅のお仕事にお声をかけていただいて今に至ります。
今は2つ目の道の駅の現場ですが、2022年3月までは三条市の道の駅に5年間いました。立ち上げ1年目から大きな赤字となってしまっていたところで、その立て直しのために市から声をかけていただいたのが6年半ほど前になります。
今関わっている道の駅は、新潟県燕市にある「道の駅 国上(くがみ)」という開設から20年ほどの道の駅です。2022年4月で運営会社が変わるタイミングでお声がけいただき、リニューアル準備を一緒に行いました。
2023年7月1日にリニューアルから丸1年を迎えましたが、リニューアル前と比べて売り上げが6倍ほどになり、来客数も元々20万人程だったのが3月の時点で55万人程に増えました。コンセプトも大きくリニューアルし、皆さんから注目され可愛がっていただけるような道の駅になっています。
担当業務としては幅が広く、運営の仕組みづくりに携わったり、運営会社と行政の意思疎通の間に入ったり、売り上げを上げるためのディレクションを行ったりしています。実際に現場のなかに入ってやらせてもらっているので、お中元ギフトの準備やゴールデンウィークには実際にレジに入るなどもやっています。
他にも、全国の地域にある施設のリニューアルの際に顧問のような形で入らせていただくなど、地域の施設のお困りごとを解決するための仕事を多くやらせてもらっています。
石田:加藤さんが会長をされている『全国「道の駅」女性駅長会』について詳しくお話を聞かせてください。
加藤:実は私がつくったコミュニティなんです。道の駅は、半公半民の割と特殊な業界だと思っていて。公共施設なので、市長や町長が変わると方針も大きく変わったり、現場でトッププレイヤーとして頑張ってきた人たち、経験や知見のある方がどんどん辞めてしまうという実態があったりします。そのためか現場になかなか知見が残っていかないという課題を感じていました。
それに、行政としてやりたいことと地元の人がやりたいことがそれぞれありますが、運営会社は当然営利的な部分を目指していかないとそもそも成り立たない。道の駅をオープンした瞬間、お客さんからのフィードバックももちろんあります。
道の駅はメディアにも取り上げられやすく駅長という立場もどこかキラキラと見えるところもあると思うのですが、行政と地元の人の間に立つ駅長さん自身が辛くしんどくなってしまうことも実際よくあるんです。
加藤:また、道の駅は全国に1200施設ほどもあるのにマニュアルが1つもありません。管轄している国交省の方針として、自由にすることによって多種多様な道の駅ができているという面もあるので一概にそれが悪いとは言えないのですが、最低限のマニュアルはつくった方が良いのではないかと感じています。
現場からの声を省庁に直接届けられる貴重な機会をつくるなど、全国の現場のコミュニティとして機能しているのが『全国「道の駅」女性駅長会』です。
道の駅に限らずですが、地域には様々な課題が山積していると感じます。最近特にご相談をもらうのが、廃校の活用方法など昭和の時代に建てられたものについてです。壊すこともできずに廃墟になってしまっているところも多く、1つでもなんとかできると良いなと思っています。
道の駅に関しては、半公半民の運営であるからこそあらゆる地域課題を解決できる仕組みだと感じています。
私たちの会のみんなもそのように信じて活動しており、幸せな道の駅を増やしていきたいという想いを持っています。その先に地域の幸せがあると信じています。
今携わっている燕市の道の駅をリニューアルして、お客さんたちには「この道の駅すごいね」という反応ではなく、「燕市すごいね」というふうに受け取ってもらうことが多いんです。そのおかげもあってか、地元の人も積極的に協力してくれるようになり、嬉しそうにしているので、ダイレクトに目の前の人の幸せにつながるお仕事ができて嬉しく思います。
石田:商店街のイベント「三条マルシェ」で10万人を集客したご経験があるとのことですが、その詳細について教えてください。
加藤:最初は私自身もマルシェの出店者として参加していました。当時はあまり人がいなくて正直パッとしなかったんです。運営の皆さんも一生懸命やっていたのですが、当時の実行委員のなかには集客のターゲットとなるような女性の方は1人もいなかったので、たしかに集客には難しい面があったのかもなと。当時の私のような主婦層がまさにターゲットでしたので「何かお役に立てるかも」と思い実行委員に入ったことがきっかけでした。
実行委員長になる時も、「私が何とかしてやる」と意気込みがあったわけではなく、「私のような主婦の意見が入らないで“まちづくり”と言えるのだろうか」と疑問に感じ、「当時30代の私が旗振り役になったら何かが変わるかな」と思い実行委員長をやることになりました。
マルシェで具体的に取り組んだことは、様々なハードルを下げたことです。イベントの運営側とお客さん側で分けず、実行委員になりたい人は誰でもなることができたり、出店についても出店料を安く設定したり。「お前の奥さんのもつ煮めっちゃうまいからマルシェに出店しなよ」というやり取りがあるくらい、誰でも出店できるようなスタイルにしました。
ボランティアのチームも毎回50人程メンバーが集まり、お母さんと小学生のコンビや、大学生、高校生なども参加してくれています。どんな人でも運営側にもなれるしお客さんにもなれるという状態にしたんです。
すると「いつマルシェに来ても知り合いに会う」というような状態になり、そのうち「あいつが出店してるから店の前でみんなで飲もう」みたいな感じで、同窓会のようなものがはじまったりもしました。
マルシェの目的が“売る・買う”だけでなく、マルシェによって交流が生まれたり、ボランティアに参加することで町の役に立っているという感覚を持てるようになったり、“意味付け”がプラスできるようになっていきました。
10万人来た時のイベントは、町に5つある商店街を全部つないで、出店も100店舗ほどと特大のマルシェを開催したんです。その時の経済効果としては16億ほどと結果が出たこともあり表彰もしていただきました。
毎年マルシェを継続してきた先の結果だったので嬉しかったです。行政主導のイベントとしては13年ほど続いていて、今も若い世代が頑張ってくれており、コロナ禍でも「ドライブスルーマルシェ」などいろいろな思考を凝らしてやってくれています。
石田:いいですね。まず地域のなかの人たちが元気になり楽しくなっていったらどんどんその場が広がっていった景色をイメージしました。とても理想的なように思いました。
前編記事では、本勉強会のゲストである加藤さんが、専業主婦から道の駅の専門家になるまでのお話やイベントで10万人の集客に至った背景などについてお届けしました。後編記事では、成功の裏側にある苦労やこれからのまちづくりについて考えていることなどに迫ります。
Editor's Note
ゲストの加藤さんのエネルギッシュさとポジティブさが伝わってくる1時間半のイベントでした。やったことがなくても「やってみたい」と挑戦する気持ちを強く持つこと。そして継続すること。まちづくりのヒントはもちろんのこと、マインド面でも気づきや学びのある時間でした。
SAKI SHIMOHIRA
下平 咲貴