今回は、企業の地方進出について、多様な立場の方々からお伝えいただきました。
【イベント概要】
ChatWork CEO、モノビット社長ら登壇「経営課題解決のための地方進出」:神戸市主催
日時:2017 年11 月8 日(水)18:30-21:00
会場:ポート株式会社セミナールーム
Keynote(プレゼンテーション)
Speaker:丸山侑佑氏(ポート株式会社取締役副社長COO)
大学卒業後、人事組織コンサルティング会社にてクライアントの組織改革を支援。年間約20社の組織コンサルティングを行った後、IT企業に参画し、25歳で東証一部上場企業の人事責任者へ。2013年、創業間もないソーシャルリクルーティング(現ポート株式会社)に参画し、取締役COO、2015年より副社長に就任。採用支援事業部、経営管理部を統括。4年で10倍以上の会社規模へ牽引。2016年、日南オフィス出展を契機に地方創生に使命を感じ地方創生支援室を立ち上げ、ハンズオンでチームを牽引する。
Panel(パネルディスカッション)
Speaker:山本敏行氏(ChatWork株式会社CEO)
1979年3月21日大阪府寝屋川市生まれ。中央大学商学部在学中の2000年、留学先のロサンゼルスにて中小企業のIT化を支援する株式会社EC studioを創業し、2004年法人化。2011年にクラウド型のビジネスチャットツール「チャットワーク」を開始。2012年に社名をChatWork株式会社に変更し、米国法人をシリコンバレーに設立。自身もシリコンバレー在住経験を持ち、現在は日本や海外の拠点を行き来しながら、日夜マーケティング活動に奔走している。
Speaker:本城嘉太郎氏(株式会社モノビット代表取締役社長)
1978年神戸生まれ。ゲーマーだった19歳の時、世界初の本格MMORPG「ウルティマオンライン」に出会って強い衝撃を受け、将来ネットワークゲームを作ることを決意。サーバエンジニア、大手コンシューマゲーム開発会社を経て、2005年にモノビットを創業。コンシューマゲームの受託開発を行いつつ、まだ日本でネットワークゲームを作る文化がなかった頃からネットワークゲームの開発に着手。その成果を元に、2013年からモノビットリアルタイム通信エンジンの販売を開始。また、CEDECでは2010年から5年連続で講演を行い、そのうち2つの講演がトップクラスの聴講者評価を得て、CEDEC AWARD選考委員を務める。2017年には日本初のゲームAI専門会社「モリカトロン株式会社」を設立、代表に就任。
Speaker:末若雅之氏(神戸市医療・新産業本部企業誘致部 企業誘致担当課長)
1970年山口県萩市生まれ。1989年から神戸市在住。1994年に神戸市役所に入庁し、その9か月後に阪神・淡路大震災が発生。2014年から現職の神戸市では500startupsと連携したアクセラレーションプログラム展開、市内IT企業や教育機関などによるコンソーシアム活動、IT業界も巻き込んだクロスメディアイベント「078」開催など、新たな動きが活発化している。そういった動きを背景に、2017年よりIT・コンテンツ産業の企業誘致を本格的にスタート。
Moderator:丸山侑佑氏(ポート株式会社取締役副社長COO)
みなさま、こんばんは。ポート株式会社副社長の丸山と申します。ポートは創業7年目のITのベンチャー企業です。昨年の4月から人口約5万人の宮崎県日南市にオフィスを開設いたしました。宮崎県日南市は17歳で進学をする若者たちは全員が街を出るという、典型的な地方都市です。私たちは商店街の一角にリノベーションをしてオフィスを構えたのですが、地域住民の方達と一緒にビアガーデンをやったり、コワーキングスペースのようなものを作ったりしています。今従業員は170名ほどいて、そのうち20人が宮崎県日南市の人ですね。
経緯としては会社の創業期、採用の目標数字を達成できないことが続いていたんです。ITの仕事は給料が高いですし、毎回獲りたい人材がとれなくて。一方、日南市にきてくれたら、安くなるよと。そこで人材獲得で事業成長をドライブかけていこうと、日南市でメディアのライターといういわゆる編集業務を募集しました。採用費用は17万くらいで2ヶ月で300人くらいの応募が来たんです。今1年半くらい経ちましたがのべ500人くらい来ています。東京では100万200万かけて募集をしても、集まる人は1ヶ月で100人いたらいい方なんです。応募が殺到した理由を紐解いてみると、「若者の好む仕事だったから」と定義をしています。
昔から地方進出といえば工場というのが一般的。一方で我々は実際の運用する編集チームの募集を出したんです。編集やマーケティングの仕事は日南市ではゼロなわけです。宮崎県内でも少ししかない。非常に珍しい仕事でした。応募者の気持ちになってみると、やりたい仕事が生まれ故郷にあるならそれを選ぼうとなるわけです。一方で、仕事なしで故郷に戻るかというとそうではない。「地方でもできる仕事」いう考え方を極端にせずに、「その街に珍しい仕事」を持っていく方がヒットするのではないかと思うようになりました。
なぜ地方進出が進んでいかないのかと思うと、コミュニケーションミスしかないと思うんです。もしみなさんが地方に出ようと思ってGoogleで検索してもそれほど欲しい情報は出てこないと思います。一方で行政の方々に「インターネット上でマーケティングしないと届きませんよ」と伝えても「出してますよ」と答えるわけです。ただその出している情報にたどり着くためには、神戸市なら「神戸市・地方進出」と調べないと出てこないわけです。でも世の中には1700もの自治体があるんです。この自治体の名前を入れるのが難しいですよね。抽象度高いもので検索するとあまり有益な情報が出てこないのが今の課題なんです。
工場を持つ企業さんは人件費が安いから地方に生産工場や、コールセンターを作ったりしますよね。ですが実際は、工場やコールセンター以外の融資が年間100くらい進んでいるんです。マーケティングや編集の仕事、いわゆるオフィスワークという定義ですね。あるいはエンジニアやデザイナーを含む技術者の採用も増えています。ただエンジニアやデザイナーは東京でも枯渇しているので、大量採用は難しいのが実態だと思います。
改めて地方進出の企業側のメリットを整理していきますと1つ目は人材採用の量、スピード、費用対効果だと思っています。人事の人件費の話は普段あまり聞かないですが、人事が何ヶ月も採用を続けることも大きなコストなんです。2つ目は業務連携による実証実験等の開催。3つ目は業務標準化による生産性の向上。これはなにかというと、やはり対面で仕事をした方がやりやすいのですが、一方で、遠く離れているからこそ標準化していこうとするんです。これまでは手の届くところで仕事をしていましたが、それが難しくなったのでどうやったら1日マネジメントしないでも回るのかということを突き詰める機会が生まれます。その結果オペレーションコストが下がり、ミスも減りました。4つ目は、地方創生が叫ばれている時代なので、ブランディング広報効果があると感じています。東京で募集していると宮崎県出身の方のご応募が多いんです。別に宮崎市じゃないんだけど、宮崎県に拠点を持っているからこそ応募してくれる人がいる。最後は、固定費の軽減による投資領域への注力です。地域進出によって固定費を下げることによって、投資領域にしっかりと注力していけるようになるのも大きいですね。
私としては、地方進出も経営課題を解決する一つのソリューションだと思っておりますし、人の採用やコストという話ではなく、会社のカルチャーを作っていく一つのきっかけづくりにもなると思っています。場合によっては「どこの拠点を作ってもいいよ」といういわゆる働き方の柔軟性にもなるかと思います。地方進出をどういう武器として使っていけるか、ぜひご検討していただければと思います。
みなさんこんばんは、チャットワークCEOの山本と申します。チャットワークは簡単に言うとラインのビジネス版みたいなもので、メール・電話・会議に代わるコミュニケーションツールです。経営ビジョンは「世界の働き方を変える」。7年前から言っていて、国の働き方改革など時代が追いついてきたのかなと。私はシリコンバレーに5年間チャレンジして、一度上場準備のために日本に帰ってきているのですが、その時に日本の可能性と課題が見えたんですね。それを機に神戸を通して、日本を変えるプロジェクトをしようと思いまして、これから神戸のオフィスを構えることも検討している状態で、今回このイベントに登壇することになりました。
株式会社モノビットの本城嘉太郎と申します。私は2005年に創業した社員数90名ぐらいのグループ会社です。は大手メーカーさんと一緒にゲームを作っています。今年の9月に私の出身地である神戸に本店を移転しました。実は関連会社をしておりまして、そのうち1社は地方拠点をテーマにし、高知市と(山口県の)周南市と、宮崎県日南市でやっています。そんなご縁で今日は来ました。どうぞ、宜しくお願い致します。
みなさんこんにちは。神戸市の企業誘致担当をしている末若雅之と申します。私の方からは神戸市の紹介をできればと思っています。神戸は神戸空港に近いので、西日本でもっとも東京に移動するのが近いオフィスエリアだと思っています。また、有効求人倍率が圧倒的に低いんですね。非常に雇用しやすい街です。
丸山
東京や大阪だけでやる選択肢もある中で、なぜ地方進出をするのか、皆さんは何がメリットなのでしょうか。
本城
僕は純粋に地元だからというところが大きいですね。27歳くらいで関西から東京に来て、苦しい時期や楽しい時期もあったりして年月が経った今、自分が育ってきた地元に貢献したい気持ちが増えてきました。
山本
ポテンシャルが高いんですよ。地方活性と言いますが、人口の奪い合いになるとなかなか苦しい状況だと思っていて。だからこそ僕は大きな打ち上げ花火を打つべきだと思うんです。大阪と神戸の阪神間は住宅街としては素晴らしい。でも仕事がないので、神戸が好きでも出て行かないといけないため、20代の流出が半端ないんです。私は逆に、ここに全国のイノベーターたちが集まってディスカッションして、盛り上げていく流れを作りたい。ここを通して日本を変える、実験都市を作りたいです。
丸山
なぜ地方進出なのか、行政の目からも教えていただけますか。
末若
神戸は昔から港町として発展し、変化し続けてきた街です。ただ残念ながら、サービス業やIT企業の変化は遅れていて、IT企業の誘致は今年からです。ただ神戸はIT産業のみなさんにとって、素晴らしい場所だと思っています。西日本の首都としての神戸を目指したいですし、絶対実現できるという自負もあります。一緒に神戸の街を作っていくパートナーを求めています。
丸山
地方に拠点を作って良かった点と、大変だった点を教えてください。綺麗なことだけ聞いていても課題やリスクはあると思うので、どちらかというと後者の方が聞きたいと思うのですが。
本城
良かった点は、ゲーム会社がきただけで、市や県の方がめちゃくちゃ喜んでくれたことですね。市長が「飯食いましょう」と誘ってくれたり、高知の県知事と記者会見をすることになったり、ヒーローの気分です。こんなに喜んでもらえるのは嬉しいですよね。
丸山
一方で課題感についてはどうですか。
本城
神戸であればまだ見込めるんですけど、高知や日南となると、中途の専門職プログラマーやデザイナーはほぼ絶望的なんです。新卒採用しかない。だから規模の拡大はゆっくりになるなと。あとはやっぱりお客様との直接取引、コミュニケーションが必要な職種は地方ではダメなので、東京になりますね。
山本
私はまずメリットは、まだ構想段階なのに日経新聞の取材を受けたり、どのメディアに声かけても取材が進むことですね。つまりPR効果が高いんですね。採用に関しては、大阪と神戸の人口ボリュームはあるんですけど、企業が少ないので、結果的にいい人材はとりやすい。Uターンで戻ってくる人も多い。また、神戸市民の神戸ラブは異常なんですよ。気持ち悪いくらい神戸好きなんですね。神戸をなんとかしたい!と言ってるんですけど何していいかわからないみたいな。そこを一点集中して集めたいなと思っていて。
課題としては、まだ進出していないので分からないですが、社内の理解を得るのが大変でしたね。取締役3人に「社長やめてください!」と言われましたもん。何回も諦めかけたんですけど、押し切りましたね。あとは地元の理解を得ること。江戸末期からいる地元の事務所の方でさえ、もっと長く住んでいる方もいるので「まだ若造だ」と言われるみたいで。1,2年じゃどうしても勝てないじゃないですか。なので地域の活動にどんどん参加して、理解を得にいかないとなと思っています。
丸山
地域との密着度って大事ですね。ポートが距離をどう縮めていったかというと、3つあります。まずは街の人たちに「私たちは飲み屋の街なんです。だから来た時は3件ハシゴして。そしたら絶対知り合い増えるから」って言われたんです。だから飲み屋に沢山行って実際に知り合いを増やしましたね。2つめは、幼稚園から大学くらいまでの職業体験を必ず受け入れているんです。そうすると子供達が「ポートさんのところ、楽しかった」と伝えてくれて好感度が上がっていくんです。最後は、街のお祭りごとの神輿を男性社員たちに担がせるんです。街の人たちの理解も豊かになっていきました。今となってはこの街はポートさんやIT企業がいるから若者たちが戻ってきたという文化になっているわけですね。
(END)
当日は、イベント終了後に懇親会が設けてあり、スピーカーの方々と直接お話することも可能でした。地方進出を考えている方にとって、実際に地方進出を行った企業、検討中の企業、そして神戸市の企業誘致担当者のリアルな声を聞き、相談まで出来る非常に充実したイベントだったと思います。地方進出に興味がある方は今回事例として出てきた土地名で、検索してみてくださいね。
なお、ChatWork株式会社では今回のイベント後、変化を起こしたいチェンジメーカーが集まる街を作り、日本をワクワクする国へ変化させるプロジェクト「谷上チェンジメーカーズビレッジ構想」を発表しました。
NANA TAKAYAMA
高山 奈々