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地域は異業種交流会だ。
突然ですが、アナタは地域をそんな風に思ったことはありませんか?
地域に訪れると、役場職員や事務の方をはじめ、漁師や木こり、さらには商売人やホテル経営者などなど、多様な人材と触れ合う機会が多くて、いろんな方に出会うたびに私は「地域は最大級の異業種交流会」だなと思うんです。
そして、地域に入れば入るほど、この様々なバックグラウンドを持つ人たちと協力して、まちにとって嬉しい成果を出したいと思う反面、正直「これだけ様々な業種、バックグラウンドを持つ人たちとどう協力したらいいのだろうか…」と不安を覚えることも多かったりするんですよね。。
ということで今回は、コミュニティ起点の「場づくり」をメインに、地域で活躍する株式会社ファイアープレイス代表の渡邉知氏を取材。渡邉氏からみえてきた「まちづくりにおける重要なスタンス」をお伝えしていきます。
「全ての人がビジョンを介して有機的に繋がり合う社会の実現」というビジョンのもと、2015年に株式会社ファイアープレイスを立ち上げた渡邉氏。
リクルート時代から、商店街や旅館、自営業、中央省庁、自治体など、さまざまな職域のメンバーとチームで仕事をすることが多かった渡邉氏は、社内なら当たり前のように通じる「言葉」や「価値観」が社外では通じなかった当時の経験から、「ビジョン」の重要性を体感していた。
「社外の人と一緒に仕事をやる場合、お互いのことを知らない状態で、プロジェクトを走らせていかなくてはなりません。社内メンバーであれば、お互いのことを知っていて、尚且つ決められた役割があるので、すぐ行動に移してもらうことができますが、社外ではそうはいきません」(渡邉氏)
「例えば、会社から “A商店街を活性化させる” プロジェクトの担当に任命されたとします。商店街のおっちゃんから “なんでアナタはA商店街の仕事をやりたいの?” って聞かれた時に、“上司(会社)から言われたから” という答えでは、誰も私と共働してくれませんよね」(渡邉氏)
同じ会社に属する人たちは、同じルール、言葉、価値観のなかで生きています。上下関係や役割が存在しているから、アクションも早い。その一方で、社外に出ると、上下関係のないフラットな関係性のなかで、チームを作って共働することはそう簡単にはいかない。
「社外の人からすれば、私がリクルートでどんな仕事をしているか、どんな成績か、なんて全く関係ないんですよね。どんな部署で、どんな職種で、何ができるという過去や現在の話よりも、“俺だってA商店街のために頑張りたいんだよ” っていう想いと、その想いを言葉にした “ビジョン(未来)” を伝えることがとても大切。人は “ビジョン(未来)” に共感してはじめて、共働してくれると思うんです」(渡邉氏)
多種多様な人材、価値観が行き交う地域で、ミッションを達成するためには、まずビジョン(未来)を明確にし、伝え、自らのビジョン(未来)に共感してくれる仲間をつくることが何よりも重要なのだ。
ファイアープレイスが創立4周年を迎えた時、渡邉氏は、これまでの3年を振り返り、「起業は想いと勢い。事業は数字と継続持続。」という言葉をブログで述べている。
渡邉氏が、ファイアープレイスの最初の事業としてオープンさせた「ロックヒルズガーデン」。経営が黒字化したのは3年目になってからだった。
「誰でも想いと勢いがあれば起業はできますが、それはあくまでも “会社設立” であり、“事業” ではないんです。今振り返ると、僕は事業というものを甘く見ていた。事業を作ったこともなければ、誰かにお給料を払ったこともなかったのに」(渡邉氏)
起業当時に思い描いていた「ビジョン」を実現するための事業スキルがなかったという渡邉氏。
「想い先行で起業したものの、どんどんお金がなくなっていく日々。貯金も底をつき、最後の方は残高を怖くて確認できなくなりました。自宅マンションは借金の担保に入れたため、このままだと住む場所もなくなってしまう、そんなところまで追い詰められました。でも、そうなって初めて、周囲に “助けてくれ!” と叫ぶことができた。Facebookに投稿し、直接お会いした方に “事業がつくれない、助けて欲しい” と伝えたら、力を貸してくれる人が現れたんです」(渡邉氏)
自分ができないことを認め、それを周囲に開示すると、思っても見なかった形で次々と事業を手伝ってくれる人が現れた。自分に何ができるのか、何ができないのかを明確にし、伝えることで、周りも「何をサポートすれば良いか見えるようになった」からだろうと渡邉氏は語る。
今年に入り、自社2店舗目となる飲食店「日本橋CONNECT」、旅するホテル、「トラベリングホテル」を相次いで立上げ、話題を集めているファイアープレイス。これからさらにワークスタイルやライフスタイルが多様化していく中で、人と人が時間と空間を共有するリアルな場の価値は何にも代え難い重要なものになると渡邉氏は考える。
「選択肢がなかった昔とは違い、今は、住みたい場所、訪れたい場所を自由に行き来することができ、仕事だってどこにいてもできる時代です。“どこで時間を過ごすのか” には、本当に多くの選択肢があります。けれども自分の身体は一つだけ。私は、これからの時代、“繋がり” と “コミュニティ” が圧倒的に重要だと考えています」(渡邉氏)
“誰と繋がれるのか” 、“その場所からどんな繋がりが生まれるか” が重要になると語る渡邉氏。
「 例えば、まちづくり関連の講演で良くお伝えすることですが、そもそも “このまちで時間を過ごしたい” と思っている人がいない限り、住人は減り続けるし、若者は外に出て行くし、観光客もやってこない。その場所で時間と空間を共有したいと思うかどうか。これは、まちづくりに限らず、会社という組織においても、飲食店においても、全てに共通して言えることだと思っています」(渡邉氏)
テクノロジーが進化に伴って、仕事のための仕事は淘汰され、人はより人間らしい部分に時間を使うと考えているからこそ、渡邉氏は、時間と空間を共有する価値が生み出せる場づくりにこだわるのだ。
「人は何に時間を使い、どんな空間にいたいと思うのか。その答えは、繋がりとコミュニティにあると思っていて、これこそが私の人生のテーマでもあります。だからこそ、私にとっては、自社店舗も、トラベリングホテルも、まちづくり関連のお仕事も、挑戦中のプロジェクトは全て、このテーマを検証するための “実証実験の場” なんです」(渡邉氏)
渡邉氏は、時間と空間を共有する人間回帰の「場づくり」と向き合う中で、ビジョンに共感した仲間と共に、フラットな関係性の中で、複数のプロジェクトを同時進行で進めている。まさにこのスタンスこそが、多様な業種、バックグラウンドが集まる地域社会の中で、多くの信頼を勝ち取り、成果を出し続けるための重要なポイントなのかもしれない。
Editor's Note
とにかく研究熱心で、実直な渡邉さん。インタビューの際にもまっすぐ私の目を見ながら、真剣に、対等に、赤裸々に、答えてくれる渡邉さんの姿勢そのものが周りの人を惹きつけるのだと、実感する取材時間でした。
NANA TAKAYAMA
高山 奈々