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LOCAL LETTER

大好きな地元「横浜市」にICTと熱意で恩返しを。出産を経て学んだ時間の使い方と調整力で住民サービス向上を後押しする『面倒くさがり公務員』の素顔とは。

SEP. 03

YOKOHAMA, KANAGAWA

前略、何事も面倒だと諦めてしまいがちなアナタへ

人口およそ375万人、全国最大の政令指定都市で18の区がある横浜市。職員数は4万人を超え、新しくできた市役所では約6千人の職員が業務を行っています。日本を代表する巨大な自治体であるがために、多種多様の対応をしながらも住民サービスの向上に努めなくてはなりません。

一方、新型コロナウイルスにより、全国の自治体では持続化給付金など住民のニーズに合わせつつ迅速な対応が各自治体に求められることになりました。

しかし、前例踏襲やICT対応の遅れなどから、住民目線とは程遠い煩雑な申請を求めざるを得ず、一件あたりの事務処理に多くの時間を割かなくてはならない状況がどの自治体でも見受けられたのです。結果として、住民や事業者の不満が爆発し、窓口対応や電話応対などの負担がかかってしまったという話も多く聞こえてきました。

特に給付金や助成金の申請は、申請書類や記入事項、必要書類が多岐にわたり、手続きが煩雑になる場合が多く、コロナ禍で大変な思いをしている住民や事業者にとって、直接窓口に出向かなければならない手間、そして感染リスクがある――。

「だから、オンライン申請ができないかと考えたんです」

そう話すのは横浜市経済局イノベーション都市推進部 新産業創造課(ICT専任職)の石塚清香さん。

石塚 清香さん 横浜市経済局ICT専任職、総務省地域情報化アドバイザー /平成3年横浜市入庁。教育用PC・インフラ整備担当、横浜市国民健康保険システムの運用管理を経験した後、2013年にオープンデータを活用したパーソナライズ型子育てポータル「育なび.net」を企画・構築し、全国的に子育てアプリが立ち上がるキッカケを作る。その他、官民協働による防災情報伝達システムの構築や経産省の情報共有基盤推進などにも参画。プライベートでは、Code for YOKOHAMAや横浜市職員自主勉強会「よこはまYYラボ」に参加。地方公務員が本当にすごい!と思う地方公務員アワード2017授賞。
石塚 清香さん 横浜市経済局ICT専任職、総務省地域情報化アドバイザー /平成3年横浜市入庁。教育用PC・インフラ整備担当、横浜市国民健康保険システムの運用管理を経験した後、2013年にオープンデータを活用したパーソナライズ型子育てポータル「育なび.net」を企画・構築し、全国的に子育てアプリが立ち上がるキッカケを作る。その他、官民協働による防災情報伝達システムの構築や経産省の情報共有基盤推進などにも参画。プライベートでは、Code for YOKOHAMAや横浜市職員自主勉強会「よこはまYYラボ」に参加。地方公務員が本当にすごい!と思う地方公務員アワード2017授賞。

固定概念に捉われず新しい方法を考える

「売上高などが減少して資金調達を必要としている事業者を支援するための制度、危機関連保証制度というものがあり、そのために必要な申請をオンライン化しました。きっかけは現場の声を聞いたこと。添付書類が多く、審査に時間がかかるため、申請に訪れた来庁者の待ち時間がどうしても長くなりますし、密になってしまうリスクがある。であれば、窓口に来なくても申請ができる仕組みを作れば解決できるのではないかと考えたのです」。

窓口申請が当たり前という固定概念に捉われずに、住民のために新しい方法を考える。この申請の場合、受付をして面談、内部審査をする間、申請者は待っていなければならず、審査完了後に認定書を渡すというフローでしたが「オンラインで申請していただいた内容を審査し、結果をメールで送り、その後来庁して本人確認をして認定書だけをお渡しするという流れになりました。これによって来庁者の滞在時間は30~180分かかっていたのが2分程度に短縮することができました」と石塚さんはオンライン化による恩恵をそう話します。

2060分かかっていた事務処理を10分に短縮

「それだけでなく、事務処理も20〜60分かかっていましたが、システムに自動計算などを行わせることで10分程度に短縮することができたので、住民サービス向上と感染リスク回避のみならず、内部業務改善にもなりました」

4月1日からシステム検討をして5月25日にはサービス開始。2か月弱でオンライン申請を実現できたのには、現場の声を聴き、アナログの課題を見出しデジタルで何が解決できるのか、いかに負担と作業工程を少なくするかを内部で真剣に議論した結果と言います。

原課と協力しながら改善と効率化を図る

行政や自治体でよくありがちなのは「属人化」してしまうこと。その人が異動してしまって成り立たなくなるのでなく、自発的に現状に疑問を持ち、自走するようにしなければならない。だからこそ「原課の担当者とともに、組織としてシステム構築を行うことはとても重要」と語気を強める石塚さん。「無駄なリソースがあるのではと当たりをつけて、改善して全体の負担を軽減させるために内部調整や運用方法を検討するお手伝いをしました。また、アナログで行わなければいけない業務をどのように効率化するかも考え、デジタルとアナログを両立させ、最善の策を考えることを私だけでなく原課の担当としっかり話をしてまとめていきました」。

中小企業庁をも動かした現場のパワー

それは、オンライン化による『申請書への押印』問題が生じた時に活きました。「先のフローを確認すると申請時の押印がボトルネックになると分かりました。そのため、原課の担当者が中小企業庁にかけあい、現場の声を伝えながらオンライン申請のために押印を不要にできないかと強く要望しました」。すると中小企業庁のガイドラインで様式から印が削除され押印は必ずしも必要としない見解がしめされ、それに準じて、市は押印不要とする判断ができたのです。「これには正直いってそんなことができるんだと私も驚かされましたし、同じ業務にあたる他都市の職員にも驚かれました。現場のパワーはやっぱりすごいなと思うと同時に、そういう全国的に波及する改善が生まれる現場に居合わせることができるのはなによりの喜びです。」

原課と共に構築し超スピードで完成させた危機関連保証認定申請のページ

また、アナログの申請時は入力項目が39あったものを、オンライン申請によって重複部分などの無駄な個所を削減したことで最終的に16項目まで減らすなど、入力する側の負担を少しでも軽減するための工夫も忘れません。徹底した「住民目線」と「作業効率化」、そして「横浜LOVE」が石塚さんとお話する中で核となるものだと感じました。

その根底にあるもの。それは『面倒なことはしたくない性格』にあると言います。

面倒臭がりだからこそ改善を図ることを繰り返してきた

実は超がつくほど面倒臭がりなんです。常に自分がどうしたら楽になれるのかを考えていて、楽になるために足かせとなっている業務や作業があったら、それをどのように効率的にさばくことができるのかを考えて、改善を図ることをずっと繰り返してきたんです。その結果、誰かが幸せになってくれたらいいなと思っていて。自分が楽になり、他人も楽になるって最高じゃないですか」。と謙遜する石塚さんですが、本当の面倒臭がりは「何もしない」のではないでしょうか。

何もしないと作業効率がいつまでたっても改善されないわけで、アクションを起こせば業務の改善を図れて、作業時間や手間が減るんです。つまり面倒を突き詰めると行動するほかないんです」と言う石塚さん。この思考に辿りついたきっかけは出産と子育てにありました。

出産を経て変わった時間へのアプローチ

「25歳で出産して、子育てをしてきましたが、とにかく時間との勝負だなと痛感しました。熱が出たと突然保育園から呼び出しがあったりすれば、早退しなければなりません。延長保育があっても18時30分には閉まってしまうので、何があっても仕事を切り上げなければならない。必然的に時間をマネジメントしなければならず、時間に対しての考え方が変わりました。終業までに、何の仕事をするのかというタスクを洗い出して、どうこなすのか、どうしたらその時間までに終わるのかを自然と計算するようになって、質の高い仕事を効率よくこなす力をつけることができたんです」。

そんな石塚さんは、これまでに市のホームページ上の子育て情報を集約し、郵便番号と子供の生年月日でパーソナライズされた情報提供を行うポータルサイトを立ち上げて、全国的に子育てアプリが立ち上がるきっかけを作ったり、古い写真をオープンデータとして共有し、区民の共有財産としてアーカイブするためのサイトを開設するなど自治体ICTの最先端を駆け抜けながらも住民目線とニーズに寄り添った取り組みを続けてきました。

官民協働での防災情報伝達システム「5Co Voice」の構築

一方、総務省地域情報化アドバイザーとしての活動、官民協働での防災情報伝達システム「5Co Voice」の構築などに関わりながら公務員の副業にもチャレンジ。プライベートではCode for YOKOHAMAや横浜市職員自主勉強会「よこはまYYラボ」に参加するなど精力的な活動を行う石塚さんですが、ほとんど定時帰りというのは、先述した仕事術があるからに他なりません。

公務員のフロントランナーとして活躍する石塚さんの目からみた新型コロナウイルスでの行政・自治体の課題はあるのか伺うと「リモートでのコミュニケーションが当たり前だという意識が浸透して身につかなければいけない」と言います。

プライベート活動している「Code for YOKOHAMA」

オンライン化に進むチャンスは今

「テレワークやリモートワークなど行政や自治体でもできるはずだし、やらなければいけないと思ってきましたが、新型コロナウイルスで必然的にオンライン化せざるを得ない環境になったと思うんです。それが当たり前だという意識が続かなければならなくて、緊急事態宣言が解除されたら、元に戻ってしまうところが多くて勿体ないなと。せっかくのチャンスなのでオンライン化が当たり前の世の中になってほしいと思うんです。横浜市では今では電子決裁が当たり前ですが、最初は現場から批判的な声が出たものです。まずはダメもとでやってみることが本当に大事。エラーはあって然るべき。近い将来、ワーケーションをしながら場所を選ばずに公務員がいろんな地域で活躍できる社会になってほしいですね」。

新設され生まれ変わった横浜市役所周辺。石塚さんが子どものころに見た光景からは劇的に変わっている。

公務員に必要なのは検索能力

石塚さんは続けて公務員に必要なのは「検索能力」だと言います。「常に興味のアンテナを立てていること、そして広く浅く知ることが大事。そしてそれぞれの答えを誰に聞けばよいのかを知っていることが重要なんです。つまり自分が答えを出さなくてもよい環境を自ら作る。それは結果的に最短距離で答えに導くことができるので効率的であると。自分で悩む時間があったら答えを知っている人に聞く方が圧倒的に時間的なコスパがいいですよね。いろんなことに挑戦してとにかくやってみて、迷った時には答えを聞く。つまり検索能力が大事で、『答えを探す力』を身につけることが必要ではないかと思います」。

何かをするときにいつも頭によぎるのは「横浜市の住民と地域の皆さんの顔」という石塚さん。「地域の人を置き去りにしたり忘れたりしてはいけない。何かをする時には私がこれをすることであの人が幸せになるかな?と常に頭に思い浮かべています。どうしたら住民の皆さんが楽になるのか、事業者が楽になるのか、職場のみんなが楽になるのか。そして結果として自分が楽になるというのが大事なのかもしれません」。

時代の最先端を行き公務員のトップランナーである石塚さん。最後に石塚さんの思い描く夢とは――。

2拠点で働きながら、旅行をしながら仕事をするワーケーションを地で行き、いろんな地域の人たちと仕事をして、それをまた横浜に還元したいなって思っています。その根底にある楽しみながら仕事をすることを忘れずに、ICTというフックを日本中に伝道していきたいと思います」。

そんな夢を見る石塚さんのFacebookを覗いてみると、大きくなったお子さんと仲睦まじく寄り添う投稿がありました。

草々

Editor's Note

編集後記

石塚さんと何度もお話していますが、いつも同じ感覚を持っているとびっくりします。特に「面倒くさがり」というのは私も同じで常にどうしたら楽になるのかを考えているくだりは、激しく同意。また出産を経て、時間の使い方を工夫するようになったというところも、育児休暇を取得した経験からタスクマネジメントを強く意識するようになった私の感覚と同じ。常に「どうしたら現状を改善して早く仕事を終えられるのか」を考えている石塚さん。現状に満足せずまちの未来を見つめる眼力に圧倒されます。当たり前のように凄いことをされている石塚さんのような公務員が全国に増えていけば、日本が元気になるという確信を今回の取材でいただいたような気がします。

横浜市にぜひお越しください!

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