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LOCAL LETTER

コンプレックスの塊だった頭脳派公務員が 第二の故郷で地方創生アイデアコンテストで日本一に。成功の裏に隠された地域への想いとは

APR. 28

FUKUOKA, ITOSHIMA

前略、自分は何もできない、結果を出せないと悩んでいるアナタへ

 

縁もゆかりもないけど何となく今のところに住んでいる――。

 

「まちに住んでいる人」と「まちの人」。似ているようですが、全く意味が異なります。まちに住んでいる人はただ住民票を置いているだけの人で、一方のまちの人は、まちにとって必要な人であり、まちのことに本気になる人。まちの人はシビックプライドが高く「自分がいなければ、うちのまちは疲弊してしまう」とまるでまちを恋人のように思える人と言えます。

しかし、まちに恋をしている人は果たしてどれほどいるでしょう。まちに恋する人を増やすために行われていることがシティプロモーション、地方創生や関係人口といったもの。では、それを仕掛ける側の行政、自治体、そして公務員。そのうち本気になっていると胸を張って言えるまちや公務員はどれほどいるのでしょうか。

 

まちのために本気になり、地域を変えた公務員が福岡県にいるという――。

 

博多駅から35分、福岡空港駅まで40分。人口約10万人、福岡都心部から抜群に近い立地にも関わらず、海や山の自然と食を楽しむことができる福岡県糸島市。福岡人気観光スポットランキングや福岡住みたいまちランキングで1位(福岡フォーカー調べ)に輝くなどし全国の雑誌やテレビでたびたび紹介され、全国から熱い視線を集めています。

糸島市は2010年に志摩町と二丈町、前原市の1市2町が合併して誕生した比較的「若い」まち。ところが毎年観光客が増え続け、年間で市施行時の約450万人から680万人以上の観光客が訪れるまちに成長しました。驚くべきことに、観光客だけではなく移住者も増加し、保育所の数が足りなくなってくるほど子育て世代の転入が増えているといいます。

「昔の糸島は田舎のイメージが強く、若い人たちは糸島出身に劣等感があり自信がなかったと聞きます。今はメディアに多く取り上げられていることもあり、糸島の認知度も上がり、糸島出身と胸を張って言えるようになり、ステータスになりつつあります」という糸島市職員の岡祐輔さん。糸島市を全国区に押し上げた立役者の一人です。

岡祐輔氏 福岡県糸島市企画部経営戦略課主査、MBA(経営修士) / 2003年に糸島郡二丈町(現糸島市)に入庁。民間の経営手法を公共経営に活かすため、仕事の傍ら、九州大学ビジネススクールに飛び込み、MBA取得。地方創生☆政策アイデアコンテスト2016地方創生担当大臣賞、帝国データバンク賞。地方公務員アワード2018を受賞。著書に「スーパー公務員直伝! 糸島発! 公務員のマーケティング力」「地域も自分もガチで変える! 逆転人生の糸島ブランド戦略」。
岡祐輔氏 福岡県糸島市企画部経営戦略課主査、MBA(経営修士) / 2003年に糸島郡二丈町(現糸島市)に入庁。民間の経営手法を公共経営に活かすため、仕事の傍ら、九州大学ビジネススクールに飛び込み、MBA取得。地方創生☆政策アイデアコンテスト2016地方創生担当大臣賞、帝国データバンク賞。地方公務員アワード2018を受賞。著書に「スーパー公務員直伝! 糸島発! 公務員のマーケティング力」「地域も自分もガチで変える! 逆転人生の糸島ブランド戦略」。

大学中退、そして就職氷河期で路頭に迷った暗黒時代

岡さんは2016年に内閣府主催のRESAS(地域経済分析システム)を活用し、地域課題を分析し、地域を元気にするような政策アイデアを募集する「地方創生☆政策アイデアコンテスト」で最優秀賞を受賞し日本一に輝きました。一方、地方公務員でありながら経営修士(MBA) の学位を持つ異色の人物。自治体ではあまり聞かない経営やマーケティングの考えを地域に落とし込み、数々の輝かしい実績と結果を生み出してきました。

 

どうせ民間から公務員に転職したんでしょ――。

 

そんな声が聞こえてきそうですが、岡さんは生粋の公務員。出身は佐賀県唐津市。「単位取得に追われて勉強の楽しさを感じなくなり引きこもりになり」九州歯科大学を退学。しかし当時の世は就職氷河期真っ只中。路頭に迷っていた時に救いの手を伸べたのが合併前の二丈町でした。「人に会うのも嫌で。地元の同級生が公務員になるという話を聞き、そういう人生もあるんだなと。色々あって人知れず二丈町役場に入庁しました」と言う岡さん。

最初に配属されたのは生活環境課で「毎日町民から苦情が届く部署」。それでも「ありがとう」と感謝をされたり喜びの声、励ましの声を直接いただくことで「自分は必要とされている」と感じたそうです。それは、歯科大を中退し、生きる気力もなかった岡さんに大きな気づきを与えてくれたと言います。

「この仕事は医者、歯科医師のような医療の仕事以外のことも、目の前のことを懸命にやっていれば産業、環境、教育、福祉など分野を問わずになんだってできる仕事なんだ」と気がついた岡さん。

自分の能力ひとつでまちが変わる

住民は住んでるまちの職員を選ぶことはできませんが、自分の能力ひとつで他の自治体とのサービスレベルが変わると思いました」そして自分の力を磨きたい、負けたくない、そして異動しても関係ない一生使える力を身につけようと思い経営学を学ぼうと九州大学のドアを叩き経済学府産業マネジメント専攻に入学。

当時はイギリスから行政評価、PFI(Private Finance Initiative:プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)など民間経営が持ち込まれていたときで「公共政策に経営学を持ち込み、ほかの公務員がやっていない『自分だけの強み』を手に入れる」と強い決意のもと、昼休みも返上して勉強に邁進。

「この手法は、役所のなかでどの部署に活かせるだろうか」と24時間糸島市にどう還元できるのかを考える日々が続き、そして2016年に大学を卒業し念願だった経営修士(MBA)を取得。その直後に配属されたシティーセールス課で培ったノウハウを存分に生かし、大きな衝撃を与えることになります。

 

地方創生☆政策アイデアコンテスト2016で日本一の最優秀賞受賞――。

 

「内閣府のREASASを活用するなどし統計データを分析したところ、小規模事業者の廃業が加速していることが分かりました。そして商品開発や宣伝能力がないという悩みが浮き彫りになった」ため、市としてモデル推進事業を立て、糸島市の魅力あふれる「食」にフォーカスした『糸島ブランド』を発案。地元の隠された一品、「糸島産ふともずく」に着目し、商品開発を地元の漁業協同組合と始めました。

ふともずくをブランド化。女子高生と企業、そして糸島市が一体に

「ふともずくは栄養が高く、健康に効果があるとされています。しかし生産が難しく収穫量が少ないので、付加価値をつけなければ」と考えた岡さん。「事業を安定して自走させるためには他の地域と差別化を図り、ブランド価値を高めることが課題解決策になる」と、マーケティングの授業を行っている隣の市である福岡市の博多女子高等学校や宣伝事業のプロを巻き込んだプロジェクトを開始することになりました。

しかし順風満帆とはいかず「高校生に任せてよいのかなどの声や市外の高校となぜ組むのかなどの意見があり、難しい局面は正直ありました」と言う岡さん。しかし、「外の声を取り入れることで、新しい動きを生み出すことができる」と周囲に理解してもらいプロジェクトを進めていきました。

紆余曲折を経て、岡さんのデータ分析と経営能力、そして地域が一つとなりその結果、それまで力を入れていなかった糸島産ふともずくの売り上げは1年で6倍に成長。データによる課題解決、そして地域を巻き込んでのブランディング。これらの実績が評価され地方創生☆政策アイデアコンテストで日本一に輝き、糸島市は一気に全国にその名をとどろかせることになったのです。

これを機に講演依頼や視察など岡さんの手腕が注目されるようになった岡さん。そんな岡さんのことを周囲はどのように感じているのでしょうか。

結果が職員の変化をもたらした

「糸島の誇りだと言ってくれる人やエールを送ってくれる人がたくさんいます」と言う岡さん。地域のみならず職場の中にも大きなうねりをもたらしました。

岡さんだったら何か変化が起こるかもしれない――。

全国広報コンクールに入選するなど評価の高い糸島市の広報紙。手掛けるのは同僚の田中さん。岡さんの想いは職員にしっかりと伝わっている。

「障がい福祉を担当してほしい、子ども課に来てほしいと言ってもらえる時があるんです。きっと私と一緒に何かをすれば変化を起こせるのかもしれないと思ってくれているのかなと。その期待に添えられるような存在になりたいです」と職場での反応と決意を語ります。

岡さんがやりがいを感じる瞬間を「変化を起こすためにゼロイチでチャレンジしているとき」と言います。

「ゼロイチはベンチャーが起業することに例えられていて「0」→「1」を生み出すことが大事。価値があるといわれます。これまでにない付加価値を生み出すことに等しいので、そのような意味では組織内でも「ゼロイチ」をやることは意義があります。起業だけでなく、組織内で行動を起こすときも同じで壁が高く、それを乗り切らないと組織も地域も、まちはよくなりません。失敗するかもしれませんが、何度でもチャレンジすることにやりがいを感じるんです」。

一方、注目されるようになり「鼻につく」「講演ばかりしている」「態度がでかい」などの僻みもあるそうですが、「どう思われても自分ができることを精一杯やればいい」と意を介しません。

「新規事業だけでなく、講演や執筆をすることも同じで、例えば三芳町。広報だった佐久間さんのおかげで三芳町は全国に名が知れわたり、意思を受け継ぐ後輩ができ、次は広報だけでなく、知名度を利用して特産品や観光につなげていく次のチャレンジを生み出していく、職場や地域の環境があれば、まちがどんどんよくなっていくはずです。だから、逆にやりがいをなくすのはそのチャレンジができない環境なのではないでしょうか」と語ります。

 

あきらめないこと、チャレンジすること――。

 

その想いを痛感したエピソードは新駅を誘致するミッションに隠されていました。

予算ゼロで8億円かかる新駅誘致のミッション成功

「市の予算ゼロで8億円を集めて、新駅を誘致するというミッションを達成することができたことが、今までの公務員人生、そして地域に関わってきて一番思い入れの強い出来事です。利害関係者から妨害されたことは数知れず。何度もくじけそうになりましたが、数々のご縁と糸島市を想う市民や企業の支援があり不可能とされた8億円が集まったのです。「あきらめないこと」が最も大事。あきらめたらゲームオーバー。未来の糸島市の発展に必要だという上位の目的がはっきりしているならば、あきらめずにやるべきだと学びました」。

2019年3月に開業した「糸島高校前駅」。開業までは険しい道のりがあった。

そして退職前の上司にかけられた最後の言葉が忘れられないと言います。

「同じように地域事業者を支援する法人を立ち上げる仕事で、反対派の事業者の圧力が高まり、地域で悪い噂を流されたり、議会での質問をされたり……。正直やめてしまおうかと僕は弱気になっていました。それを感じた上司は『絶対糸島にとって必要な事業だ。見返すぞ!相手がやりたいことがあるなら相手は相手の使命を果たせばいいんだ。市は最初の目的を、市としての使命を果たすぞ。退職してからも加勢するけん、頑張れ、あきらめるな!』と僕の背中をバン!と叩いて、最後の気力を込めてくれたのです。上司は部下を守り、大きな背中を見せてくれました。この後押しがあり、常に目的を明確にもち、絶対あきらめてはならないと改めて強く思えるようになりました」。

一方で、地域のために必要なことはチャレンジすることと、それを後押ししてくれる職場の理解。地域のために自治体、そして公務員ができることのヒントはあるのでしょうか。

「地域内外のつなぎ役になること、地域の人たちのやりたいことを形に変えるサポートをすること、多くの人の話を聞けることなど、公務員個人としてできることはあります。また自治体としては市民を、まちをどこに連れていくのか、大きなまちづくり構想(夢)を持つことができます。どんなに批判が多い仕事でも「市と一緒にやりたい」「市のバックアップがほしい」「市が動かないとできない」と期待の声をもらうことは意外と多い。そうしたことを担うのが公務員」と岡さんは言います。

博多女子高等学校の生徒たちとワークショップを行い、若者の視点でマーケティングを考えていく。

難しいことをやることで可能性が広がる

公務員として難しい点はないのでしょうか。「担当者一人の力でできることは限られている。しかも現場で直接声を聴く職員は、変える権限をおよそ持っていません。でも、自分がやれる精一杯をやることが重要。それが自分の守備範囲を広げ、スキルが深まり、あとでやれる可能性がグンと高くなるはず。だから難しいことから目を背けないことが公務員の殻を破る打開策ではないか」と言います。

チャレンジする公務員が増えれば地域が変わる

地域で奮闘しながらも、うまくいかずにくじけそうになっている公務員として伝えたい想い――。

「今、仕事が楽しいですか?硬直的な組織体制、我慢すれば首にならない、といった苦しいほうに思考が寄っている人が多いのではないでしょうか。かくいう私もその一人です。きれいごとでは片付きません」1人ひとりのチャレンジが集まれば・・・100人チャレンジする姿を想像するとすごいことです。仕事だけでなく、プライベートも含めて、いとしま職員100チャレとかやってみたいものです(笑)。よく最強の信頼を持つ名刺、首にならないから、チャレンジできる職業という言葉を聞きますが、職場や地域に対する悩みは、チャレンジする公務員が増えることで、雰囲気が変わり、地域の課題解決の糸口になるのではないかと思っています」と公務員の無限の可能性を語る岡さん。

「自分がチャレンジすれば、真剣になります、真剣になれば楽しくなります。ぜひチャレンジする人を応援するだけでなく、自分がチャレンジ公務員になって、周りも一緒にチャレンジする人だらけになってほしいと願っています」と公務員にエールを送りました。

 

糸島市が誕生して10年。その全てを見守ってきた岡さんが思い描く糸島市の未来――。

 

「市民が「希望を持てるまち」にしたいと思っています。移住、観光、子育て、教育、仕事、余暇、高齢者のいきがい、健康福祉などすべてで、糸島ならやりたいことが実現でき、楽しく支い合い、未来への希望を持てる。そんな意味を込めて、「糸島市=希望のまち」と表現しています。市民が家族でレストランなどで余暇を過ごす、仕事前にゆっくりカフェでモーニングを食べる、守られてきた農家や素敵な風景。糸島らしさを大切にし、笑顔があふれる雰囲気づくりを持続していければ「希望のまち」のままでいられるのではないでしょうか。そんな未来になるためにこれからも地域のために頑張り続けていきたいです」。

愛しの糸島に恩返しを

大きな疑問。一体なぜここまで地元でもない糸島に想いを込められるのでしょうか……。

糸島の人たちが私の人生を変えてくれた、救ってくれたという想いがあるからです。だから糸島に恩返しをしていきたい。地域の人たち、同僚、糸島出身の妻、糸島で生まれた2人の子どもたち。多くの出会いを糸島は私に与えてくれました。私は佐賀県唐津市出身ですが、子どもたちの故郷は糸島市。私自身も福井神楽という糸島の伝統芸能を受け継ぐことになり、一層糸島への想いが強くなり、完全に故郷以上に繋がりが広がり深くなっています」と答えた岡さん。まるで岡さんは糸島という恋人と付き合っているかのように感じます。糸島への愛はこの言葉に集約されていました。

 

いつしか糸島市のことを悪く言われると、腹が立つ自分に気がつきました――。

 

まちに恋した一人の公務員の想いで、まちが変わる。

 

草々

 

※PFI…公共施設等の建設、維持管理、運営等を民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用して行う新しい手法)

Editor's Note

編集後記

民間の経営手法を自治体に落とし込んだ手腕が注目され、地方創生やREASASなどを担当している公務員で岡さんのことを知らない人はいません。「結果を出したから凄い」「今まで自治体がやってこなかったことを実践するなんて凄い」と言われていますが、その本質は「やるかやらないか」であると思っています。
私は岡さんの「まちに対する想い」があるからこそ結果を出すことができたのだと、何度も感じました。全国的に注目されている公務員に共通することは「自分の自治体のことが心から好きである」ということ。
今、新型コロナウイルスで世界が、日本が、そして地域が危機的な状況に陥っています。地域のことを熟知しているのは、普段から地域と一体となっている自治体、そして公務員です。だからこそ、岡さんのように、まちに本気になる公務員が今まさに全国に必要とされているのではないでしょうか。
全国の公務員は今、必死に住民の命を守るために精一杯頑張っています。誰のために何のために業務をこなしているのか迷いが出ることもあるでしょう。そんなとき、岡さんの想いを思い出してみてください。

これからも福岡県糸島市の応援をよろしくお願いいたします!

これからも福岡県糸島市の応援をよろしくお願いいたします!

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