SUMMIT by WHERE
あらゆる立場の方々と手を組んで進めていく、地域のプロジェクト。そこでは、立場や世代によって、使う言語や意思決定の慣習が変わります。
しかしながら、そんな違いをスッと飛び越えて、多様な方々と連携し、数々のプロジェクトを成功に導いている人たちがいます。彼らは一体、どんな工夫をしているのでしょうか——。
そんな疑問をもつアナタのために開催した、地域経済を共に動かす起業家のためのサミット「SUMMIT by WHERE」。第1回目は、完全オンラインにて、日本各地30箇所以上の地域から、第一線で活躍する方々が集まりました。
中でも本記事では、「産学官の社会連携の課題と可能性」について、米田 惠美氏(米田公認会計士事務所 所長)、山下 翔一氏(株式会社ペライチ取締役会長)、石山 アンジュ氏(社会活動家)、秋田 大介氏(神戸市役所企画調整局つなぐラボ 特命課長)、川那 賀一氏(DMM.com 地方創生事業部)の豪華5名のトークをお届け。
社会連携における定義、課題、関わり方について、彼らが実践するコツとは。
川那氏(モデレーター:以下、敬称略):私は元地方自治体職員で、現在DMM.com地方創生事業部に所属しています。私自身もともと官と民のキャリアを行ったり来たりしていて、産学官連携の価値観を広めていきたいと思って活動しており、今日は皆さんの広域な知見を伺うのを本当に楽しみにしておりました。まず最初に、皆さんの簡単な自己紹介をお願いできますでしょうか。
米田氏(以下、敬称略):米田と言います。元々は公認会計士で、企業の監査をしていましたが、会計面だけのアプローチに限界を感じて、人材開発と組織開発の会社を共同設立で立ち上げました。その後は、在宅診療所の立ち上げや、Jリーグの理事として経営基盤の改革と同時にシャレン!プロジェクトの推進など、社会性のあるテーマに対して多様な人たちと協働する仕事を進めてきました。そのような経緯から本日は呼んでいただきました。よろしくお願いいたします。
秋田氏(以下、敬称略):今日は行政の立場で参加しています、秋田です。神戸市役所で「つなぐラボ」に所属しながら、普段は社会課題を解決できるチームビルディングを提供したり、副業ではアート活動や、NPOでの活動、一般社団法人で被災地の支援をしたりと、行政の立場に囚われず個人でも色々と動いています。
山下氏(以下、敬称略):僕は、6年半前に「ペライチ」という誰でも簡単にホームページを立ち上げられるサービスを作ったり、地方創生のプロジェクトを行ったり、民間出身ですが色々な国、地方の方々のところに顔を出しています。大きな話になりますが、子供の頃から“世界平和・地球平和を実現したい”と思っていて、それに通ずる数々のプロジェクトを立ち上げてきました。今日はよろしくお願いいたします。
石山氏(以下、敬称略):石山と申します。普段は、社会活動家という肩書きで、2つの社団法人を運営しています。1つはシェアリングエコノミー協会という、AirbnbやUberを含めたシェアエコノミー事業者が300社加入する業界団体。もう1つはPublic Meets Innovationという、ミレニアム世代の官僚と弁護士とインベーターが一緒になってイノベーションに特化した政策を議論する、シンクタンクです。産学官の社会連携は、ホットなトピックな一方で、私自身難しさを感じる部分なので、みなさんとぶっちゃけて話せたらいいなと思っています。
川那:皆さん、様々な業界に繋がりを持っていて、改めて面白い顔ぶれですね。まずは各々が考える「社会連携」の定義やポイントについてお伺いします。
米田:私は、社会連携とは「社会的な共通ゴールに向かって、お互いのリソースを持ち寄ってアクションを行うこと」だと捉えています。ただし、共通ゴールに向かう上で、様々な連携の形があります。お金が発生しない形であったとしても、告知を手伝うことも連携ですし、行政からの委託事業も連携。そのスキームは多様にあるな、と。
石山:そうですよね。私は、通常の民間と行政は、エンジンのかかる動機が違うと捉えていて。民間は利潤追求、行政は公共の利益。本来であれば、それぞれのセクターが繋がることは基本的にはないですが、既存の社会システムが崩れつつある今、お互いに手を差し伸べないと立ち行かなくなっています。だからこそ「お互いの動機よりも一歩上の概念を掲げて、リソースを持ち寄って、社会を良くしていくこと」が、連携の定義だと思いましたね。
川那:面白いですね。双方の動機が違う中で、同じ方向を向くのは大変ですけど、上位概念で話せるプレイヤーや、仕組みがあると変わっていきますよね!
秋田:僕も産学官連携は、必然になっていると思っています。今までのようにバラバラで動いていたら、社会課題を解決できないから。もはや連携は必須として、今後のフェーズでは「どううまく連携するのか、どうすれば仲間が力を発揮できるのか」を考えなくちゃいけない。僕自身としては、山下さんのようなパワフルな方が正面から突っ込んでいく時に、発生する後ろの処理を行政として担うことが重要だと捉えていますね。
山下:ありがとうございます。そんな僕が地域の連携で気をつけているのは、“地域の人たちが主役である”、ということですかね。彼らがどうしたいか、どんな未来にしたいか、どんな街にしたいか。それをもとに「みんなで目的を定めて、役割分担をしつつ一緒に切磋琢磨していくこと」が、自分の中での連携のイメージです。
川那:皆さん、ありがとうございます。それぞれの連携のイメージを擦り合わせたところで、次に、現状の社会連携にはどんな課題があるのか、それに対して各々どう取り組んできたのかを、聞いてみたいと思います。
米田:色々ありますよね。まず、官民、地域、社会の言語はかなり違う中で、それぞれがWinになる状態を作るビジネススキームの成立や、調整業務は難しい作業だと思っています。また、社会的プロジェクトを非財務価値のまま終わらせてしまうと民間側にはしんどいので、最終的に財務価値に繋がるところまで説明できる人材も必要。詰まるところ、社会連携を担う領域の、人材不足は課題ですね。
それも、リスクを請け負う意識の高い人材だけを集めるのではなく、誰もが気軽に参加できるように、大衆化していくことも大切です。だからこそ、入り口のハードルを下げる為に、私はJリーグの理事としてスポーツを活用した情報発信をしていました。
石山:私が難しさを感じているのは、意思決定者の年代や慣習によって、提案が通らないことです。私が提唱しているシェアの概念を、地域に普及・実装させるには、法律を変える必要があって、政治家の方々にアプローチをするのですが、そのほとんどが50代以降の世代なんです。まずシェアの概念自体を理解してもらうことが難しい状況です。
特に、政治家の方々にアプローチをする為には、例えば “パーティ券を買わなきゃいけない” といった事情があることを、若い世代は知りません。各プレイヤーが社会に良いことをしようとしても、そうした意思決定の構造や慣習を知らないゆえに進まないことが結構あって。まずは違いを理解することと、適切なアクションを持つことの両方が求められていると感じますね。
山下:なるほど。僕は、地域ならではの難しさがあると感じていますね。例えば、企業は入り口(採用)の段階で、ある程度価値観の近い人だけを集めやすいんです。一方地域では、住民を選べないし、首長オーナー社長のようになんでも決められるわけではない。議会・議員や地域の方々とのパワーバランスもある。そうした価値観や環境の多様性があるので、どんなビジョンを実現したくてもどんな小さな決断をしようとも必ずハレーションは起こるもんなんですよ。
だからハレーションは大前提として、対話していくことが地味だけど大切。よそもの出身であっても、本当に地域を思っているという姿勢や思いを丁寧に伝え、地域の人たちが能動的に参加したくなる仕組みを作ること、ですね。いかんせん言語が違うので、いろんなバランス感覚を持つ翻訳家の役割を担える人がいるかどうかで、連携の質やスピードは違っていきますよね。
米田:すごくよく分かります。地方で物事を進めるには、“キーパーソン” が重要で、「この人がいたから進んだ」という事例がほとんどですよね。トライセクター人材という、民間・公共・社会の経験を持っている人は強いです。最終的に人に依存しすぎると持続可能性の観点では良くないのですが、現状プロジェクトを成功させる上では「人」が一番の鍵だと思います。
秋田:そうですね。僕らも「つなぐラボ」で、民間の方と行政をつなぐ時に一番最初に気にするのは、窓口になる「人」のことです。その人によってプロジェクトの成功確率が変わります。組織に繋ぐのではなく、ちゃんと進められる「人」に繋ぐことが何より重要です。
そうした各セクターの通訳が出来る人は、いろんな業界、世界を知っている人なんです。僕自身、NPOで障害者の方やアーティストの方と喋ったりするなかで、彼らの言語がだんだん分かってきた実感があるので、常に自分の行動範囲を広げていくことが大切だと思いますね。
石山:いろんなセクターの方と話す時には、小学生でも分かるくらい易しい言葉に翻訳することを私は心がけていますよ。以前、北海道の過疎地域でライドシェアの実証実験が行われましたが、その際にもをしているのですが、ライドシェアの説明をする時に、誰でも想像しやすいストーリーに置き換えて話していました。
例えば、おばあちゃんは病院へ行きたいけど、かつてあったバスや電車は1日1本しか動いていないから、簡単には病院へ行けない。これからさらに人口が減っていくと、タクシーすら事業撤退して、バスや電車はどんどんなくなってしまう。それならば、ちょうどスーパーへ行くおじちゃんが病院へ送ってあげたら、かつてあった支え合い、助け合いになると思うので、そういうことをしたいんです!と、伝えてみる。すると、どんな立場の方でも「なるほど」と分かっていただけたりするんですよね。
川那:皆さん貴重な工夫を教えていただき、ありがとうございます!社会連携をする上で、皆さんは組織に属しながら、個人としての活動もされていますが、どのように各自バランスをとっていますか。
米田:組織に所属する以上は、その組織じゃなきゃできないこと、その組織がやる意味とか、“組織の利” は毎回考えていますね。社会的テーマだけで組織に利が落ちないことはやらないですし、逆にその組織でできないならば違う組織や、違うスキームを見つけたりして、外でやることを選んだりもします。
川那:確かに、組織によっては絶対にできないこともありますもんね。
山下:僕は「ペライチ」というITスタートアップにて上場前に(まだ現時点で上場していませんが)会長職に就き、個人として5個くらいプロジェクトを始めたときは、正直罪悪感がありましたね。投資家の方々に結構な出資を受けていたので。ですが、プロジェクトが10個を超えると、だんだん投資家の方々が応援してくださって、他のプロジェクトのことまで応援や気にかけてくださるようになって。だから個人としては、“本当に実現したいものだけブラさなければ、何やってもいいんじゃないかな” と思いますね。ただ、関わり方が深い浅いにせよ、ここの組織の一員であるという自覚はいつも背負っています。
石山:そうですよね。私自身は、個人や組織ではなくて、普遍なもので繋がることを意識していて。今31歳なのですが、社会人を10年やってると、周りは転職をして、どんどん所属する組織は変わっていくんです。そうなった時に、“あの組織の人” というよりは、“こういうこと実現したい人” と思ってもらえた方が、新しい形で連携しやすい。これからは組織の肩書きより、ビジョンが名刺に出てくる方が繋がりやすい時代かな、と思いますね。だから私自身、抽象的ではあるものの「社会活動家」という肩書きを名乗っています。
川那:先進的な取り組みで、面白いですね。
(後編はこちら)
Editor's Note
今回、「社会連携」というテーマに集ったのは、それぞれ業界、立場、経験の違う4名の方々。でも、不思議と互いの意見を尊重し合う一体感のある場で、まさに「連携」を意識して歩まれている、日頃の姿を垣間見る時間でした。
また、「社会連携」と表現すれば難しいものに感じますが、連携するのは人と人。想像力や相手への配慮といった、日頃の人間関係やチームにおいても活きる、大切なことを教わったように思います。
AYA MIZUTAMA
水玉 綾