SUMMIT by WHERE
コロナ禍により、同じ場所に“集う”ことが難しくなった一方で、オンラインコミュニケーションが急速に普及し、遠距離でも簡単に繋がれるようになってきました。
環境が激変する中で、地域に“集う”ことを媒介としてつくられてきた地域コミュニティはどのように変わっていくのでしょうか。
そんな疑問をもつアナタのために開催した、地域経済を共に動かす起業家のためのサミット「SUMMIT by WHERE」。第1回目は、完全オンラインにて、日本各地30箇所以上の地域から、第一線で活躍する方々が集まりました。
中でも本記事では、「オンラインとオフラインで地域コミュニティはどう変化するのか?」について、田端 将伸氏(埼玉県横瀬町役場まち経営課)、坂本 大祐氏(オフィスキャンプ代表、LOCO Associtation代表)、渡邉 知氏(株式会社ファイアープレイス代表取締役社長)、佐久間智之氏(PRDESIGN JAPAN株式会社代表取締役)、田村 悠揮氏(複業家)の豪華5名のトークをお届け。
後編では、「誰もがコミュニティに属する必要があるのか」という問いから、「コミュニティを作る」ことの再考へと議論が広がっていきます。
田村氏(モデレータ:以下、敬称略):実は今日は、田端さんから登壇者の皆さんに相談したいことがあるとお聞きしていたのですが、田端さんいかがでしょうか?
田端氏(以下、敬称略):分断や格差が起こる中、僕は町の職員なので、一番言われるのは “公平性” です。前半で佐久間さんが言ってくれたように、情報を全員に届けることはもちろん大事です。
一方で、コミュニティに関しては「別にいいんだけど」という町民も少なからずいます。そういう人も含めて全員にコミュニティを持たせる必要が本当にあるのか、という問いを持っています。「コミュニティに入りなよ」として入らせたことで、本来のコミュニティがうまく回らなかったりすることもありますし。
全員がコミュニティに入る必要はないと思っている中で、コミュニティの重要性というか、本来あるべき姿を教えてもらえたら嬉しいです。
田村:これはもう回答者は、坂本さんしかいないのではないでしょうか?(笑)
坂本:僕はコミュニティは基本的に壁を作ることだと思っています。分断ということではなく、仕切りのような壁のイメージですけど。そう考えた時、コミュニティに無理やり帰属させるのは横暴だと思うし、いい作用をしないと思うんですよ。そういう人までコミュニティが必要だから入れようというのは逆効果。
だからこそ、「コミュニティの幅を広げること」や「コミュニティを作らなくてもコミュニティができるような仕組みを整えること」が必要だと思っていて。
坂本:都市の方が多階層にわたるコミュニティがあって、いくつものコミュニティに縦断的に所属している人が多いと思っているんですよ。地方に行けば行くほど、レイヤーが少なくなって、選べるほどないっていう状況に陥っちゃう。
そういう状況の中で、我々がやっている「オフィスキャンプ東吉野」というコワーキングの場や、田端さんの「Area898」のような元々いた地縁の人が集まるだけではない場ができることによって、新たなコミュニティのレイヤーができると思っています。それは、入りたい人が入る出入り自由で緩やかな壁のあるコミュニティでないと逆効果。繋がりたい人は、その中でまた何らかの接点を介して繋がっていく。
坂本:そもそもコミュニティを作ることが限界にきている気もしているんですよね。コミュニティを作らなくてもできていく環境を作る方がいいのではないかと思っているぐらいなので、コーポレート(協働体)という話もしました。協力して仕事をするためには、お互いにかなり深いところでのコミュニケーションが必要。だから、仕事や掃除などのなんらかの務め、協働作業から繋がるコミュニティはイベント的にあっていいと思います。でも、「帰る場」的なコミュニティを無理やり作るのは無理がある気がします。
田端:うちの町でも、強制はよくない、集まりたい人が集まることが大事という中で、「川とサウナ」という、河原でサウナをやるだけのコミュニティが爆発的に広がっています。そうなると今度はそれを面白くないという地域の人たちが出始め、揚げ足を取りたがる人たちもいるのが、田舎あるあるで。
いろんなコミュニティがぼこぼこ出始めて、そこがまたくっついたり離れたりするのは各自自由でいいと思うけれども、コミュニティができることで批判が生まれるのはあまり良くない傾向かなと思ったりもするんです。
佐久間氏(以下、敬称略):派手にやっちゃうと目をつけられることはありますね。移住してきて無農薬で農業を始めた若い方が、隣の畑の農家さんから「お前が来たから野菜が虫に喰われた」と言われたという話を当人から実際に聞きました。出る杭は打たれる村社会はまだ残っています。地域の人に理解してもらうことは大切だけれど、まだまだ敷居が高いのかなと思います。
坂本:知らない人が自分の庭先でなんかやり始めたみたいな感覚なんでしょうね、地元の人は。そこはある程度配慮が必要なのかなと思いつつも、それを言い続けていると何もできないというジレンマも出てきますものね。
田端:多様化しているコミュニティがいくつも出てくるのをそれぞれが認めてあげられるような、そんな関係性が必要かもしれないですよね。
佐久間:緩やかに自然とコミュニティに入れるような環境だとやりやすいし、緩やかな感じっていうのがすごく必要な気がしますね。
坂本:今、僕が住んでいる村では、公民館の様子を複数のチャンネルで発信しているんですが、高校生からおばあちゃんまで年齢層が広いんですよね。ただ喋っているだけとか、お昼を食べているだけのチャンネルもあってすごく面白くて。
公民館が持っている、分断せずに包摂していく役割がオンラインと親和性が高かったのかなと思いました。
田村:僕も100ヶ所以上のいろいろな地域を回らせていただいてみて、地域コミュニティは難易度が高いと思うんですが、そのひとつの理由はコミュニティの成り立ちにあります。
元々、地域に人が集ったのは、多分、漁場や鉱山などの物理的資源があったからだと思います。時間が経って、元々集まった目的や魅力が薄れてくると、「そもそもなぜここにいるんだっけ?」みたいな気持ちが出てきます。趣味を介して集まったサークルなどであれば、例えば「テニスしたい人が集まった」でいいけれど、エリアのコミュニティは発生した時の理由が薄まった時、最初に核となったものに代わる、新しい目的、新しい理想を作っていく必要がある。それを元々ある文化風習の中に組み込んでいく難しさがあると感じています。
渡邊氏(以下、敬称略):渡邉家の父方の総本山は秋田県なんですけど、そこでは冬は朝早く起きて、みんなで一緒に融雪剤撒いて除雪するんですよね。地域ってそれぞれ独自のルールがあって、移住した人はそのルールを知らないじゃないですか。昔からいる人と新しくきた人の間で齟齬が生まれやすい。小さいときから、田舎の温かさと共に「狭さ」も感じていて、コミュニティという言葉が子ども心にあんま好きじゃなかったんですよね。
コミュニティって、結果として生まれるものだと思うんです。結果としてコミュニティになったものが、今の時代は目的と手段が逆になっていたり形骸化していたりして、「町内会とかマンション組合に入るのは面倒」「隣人と必要以上に付き合いたくない」って感じている人たちは多い。一方で、東日本大震災のような天災があったりすると、やっぱり日常の繋がりは大事と言い出す。繋がりとは何なのか、コミュニティとは何なのか、改めて考える機会は大事だと思います。
渡邊:僕は繋がりとは「共感と協働」だと思うんです。一緒に何か感じるものが重なるから、一緒に何かを助け合う、一緒に何か交換し合うっていう。だから共感さえあれば、オンラインとオフラインで複数のコミュニティに参加できるようになった今はいい時代だと思っています。
坂本さんがさっきおっしゃったように、コミュニティはつくるものではなく、助け合ったり応援し合ったり、共感し合っていたら、そこにいつか、オンラインオフライン関係なく自然に生まれるもの。オンライン接点のコミュニティは、僕自身このコロナでとても増えたので、そういう意味でいうと現状をポジティブに捉えてはいます。
坂本:コミュニティを作るより、多様な人の接点を作ることだけを意識した方がいい。それによってコミュニティが生まれてもいいし、生まれなくてもいいし、を繰り返していくことに意味があるような気がするんですよね。
田村:残り時間も迫ってきたので、最後に登壇者の皆さんに、「変化の中で出てきている今後の期待要素」を話してほしいと思っています。
まずは僕から。去年繋がった屋久島の人たちに声をかけていただいてオンラインツアーをやってみました。屋久島はみんな知っているけれど、行くのは大変ですよね。オンラインツアーで屋久島の魅力を知って現地の人と繋がることで、「人の繋がりもできたし、落ち着いたらリアルに行ってみよう」となる。そういう可能性が出てきています。
田端:僕は役場なので、どうしても100%を求めたくなるけれど、ゆるい関わりしろがある中では、60-70%でも強調できるところを支援するのが役場の仕事なのかなと思いました。僕自身は、オンラインオフライン両方含めて、地域といろんなものを繋げるコラボレーターっぽくいたいなと思います。
坂本:自粛期間中にオンライン移住相談会にチャレンジしたら、結構な人が見にきてくださったんです。子持ちのお母さんなど、普段、八重洲とかに行けなかったような人が来てくれました。オフラインではリーチできなかった人に届けられる可能性があるというのは凄く面白いと思っています。
オフラインはコアとしてあって揺るがないもの。新たな接点としてオンラインをどう使っていくのかがこれからのシティプロモーションの大きなテーマのひとつで、そのマナー作りにこれからの可能性を感じます。
佐久間:人の価値がすごく変わったと思います。食べることひとつをとっても、今までは場所に対してお金を出していたのが、誰が作ったのか、それを食べることで誰が助かるのかに変わりました。地域の価値を知ってもらうにも、地域の人が「うちの町、いいよ」と言うことが説得力を持つと思います。オンラインとオフラインを融合させ、地域のコミュニケーションデザインをより醸成させることで、いろいろな事例が生まれて日本が元気になるのではないかと思います。
渡邉:人は人に共感するというところはめちゃめちゃ大事にしています。行政職員、農家、市民みんなの総力戦で心の接点をどう作っていくかがとても大事。オンラインオフライン両方を使って、共感と協働の総量を増やしていくことが地域力になっていきます。このイベントも含めて、繋がりをどんどん広げていくきっかけになればいいなと思います。
田村:元々あったオフラインに加えてオンラインという選択肢が増えたことで、コミュニケーションデザインの可能性は増えています。それをどうアレンジしていくかがコミュニティによって変わってくるところでもあるし、ポジティブに難しいところでもありますね。
聞いていただいたみなさんも、一緒に考えてちょっとでもアイデアが浮かんでいたら嬉しいです。ありがとうございました。
セッションの後半は、コミュニティは必要と信じつつ、全員が入らねばならないものなのかという本質的な問いかけで始まりました。この問いに対して、コミュニティに強制的に入れるのは逆効果であり、入りたくなるコミュニティが自然と生まれ、緩やかに入れる仕組みを作ることが大切。そのためには、多様な人々の共通接点をオンラインオフライン両方で増やしていくことが効果的なのではないかといった意見が出されました。また、多様なコミュニティが互いに認め合える関係性を構築する必要性も語られました。
コロナ禍でオンラインコミュニケーションが一気に普及することにより、オンラインで生まれた接点がオフラインでの繋がりにも発展していきますし、その逆もあります。そういった新たな可能性に全員が希望を感じていました。
草々
Editor's Note
自分の暮らす東京の下町でも、人付き合いを厭う独り暮らしの高齢の方が少なからずおられます。気持ちを尊重しつつも、災害時のことも考え、誰かと繋がっていてほしいと願ってしまうのは身勝手なのだろうかとずっと考えていました。
「街角カフェ」「街角食堂」といった気が向いた時に参加すればよいイベントを試みてきましたが、コロナ禍において、飲食を共にするイベントは期限なしで中止している状況です。
先が見えず、立ち止まってしまっていましたが、みなさんの試みやお考えをうかがい、自分も一歩踏み出してみようと思いました。ありがとうございました。
FUSAKO HIRABAYASHI
ひらばやし ふさこ