SUMMIT by WHERE
本セッションはヤフー株式会社(DS.INSIGHT)のスポンサードにてお送りしています。
ここ数年、自治体における行政情報のオープンデータ化やビッグデータ活用の必要性が叫ばれています。その反面、情報漏洩に関する事件や事故も多く報道されており、個人情報保護や情報セキュリティへの関心の高まりも相まって、データ活用に慎重な自治体も少なくありません。
一方、民間企業においては、デジタルトランスフォーメーションへの対応が加速。特に、個人のスマートフォンの普及率6割を超え、スマートフォンによるインターネット利用の機会が拡大していることから、ビッグデータを元にしたビジネスの展開も図られているところです。
ビックデータを把握することは、人口減少をはじめ多くの社会課題を抱えている自治体にとって、公共交通や都市計画、防災などのさまざまな面で、より効率的な行政運営を図っていく上で非常に有効な手段となりうるものです。
それでは、実際に自治体におけるビッグデータ活用にあたっての「壁」とは何なのでしょうか。そして、それを乗り越えるにはどうしたらいいのでしょうか。
そんな疑問に答えるために開催した、地域経済を共に動かす起業家のためのサミット「SUMMIT by WHERE」。第1回目は、完全オンラインにて、日本各地30箇所以上の地域から、第一線で活躍する方々が集まりました。
中でも本記事では、「自治体データ活用の今とこれから -課題とチャレンジ- 」について、松浦 修一氏(西宮市政策局政策推進課 施設・まちづくり担当課長)、大屋 誠氏(ヤフー株式会社)、平林 和樹氏(株式会社WHERE 代表取締役)の豪華3名のトークをお届け。
西宮市での先進的な取組みを通じて、自治体におけるビッグデータ活用への道筋を探ります。
平林(モデレーター):私自身、このセッションを非常に楽しみにしていました。自治体によるデータの活用は、今後ますます重要性を増していくと思います。
本日は、「自治体データ活用の今とこれから -課題とチャレンジ- 」というテーマで、ヤフー株式会社(以下、ヤフー)の大屋さんと、西宮市役所の松浦さんと一緒に、「実際にどのように自治体でデータが活用されていて、活用に至るまでにどのようなプロセスがあったのか」を深く掘り下げていきたいと思います。まずはおふたりから自己紹介をお願いします。
松浦氏(以下、敬称略):西宮市役所の政策局政策推進課で施設・まちづくり担当課長をしております松浦と申します。
西宮市とヤフーは、2020年8月20日にデータを利活用した市政課題解決に関する連携協定を締結していて、今スライドに映しているのは、協定の締結式で西宮市の石井市長とヤフーの佐々木CDO(チーフデータオフィサー)がZoom越しに握手をしている様子です。
松浦:協定締結の背景としては、同年 4 月 7 日に新型コロナウイルス感染症に対する緊急事態宣言が出され、西宮市も「接触8割削減」を目指すとしたことと、ヤフーさんが保有するビックデータを活用できるサービス『DS.INSIGHT』を自治体向けに1年間無償で提供するという報道があったことです。
無償提供の対象自治体は、都道府県と政令指定都市に限定されていましたが、この報道を目にした石井市長から「中核市である西宮市も使えるようにならないか、ヤフーさんと交渉してほしい」という指示があり、私が担当を任されました。
大屋氏(以下、敬称略):ヤフーの大屋と申します。松浦さんからもお話がありましたが、ヤフーでは、今年の4月から新型コロナウイルス対策として、47都道府県と20の政令指定都市を対象に、私たちが保有するデータの無償提供を始めました。西宮市は政令指定都市ではありませんが、兵庫県全体が非常に積極的だったこともあり、兵庫県に付与しているIDの一部を西宮市に振り分けるという形で対応させていただいています。
ヤフーが提供しているサービスには、全体で5,000万人以上のユーザーがいるので、膨大なビッグデータを保有しています。これまでは、このビックデータを、自社のお客様のために活用していましたが、これからの取組むべき課題解決には、ヤフーでは解決できない問題も多いと考え、ほかの民間企業や自治体と一緒に、データを活用しながら課題解決に取組もうと、新しく『データソリューション事業』を立ち上げました。
平林:新型コロナウイルス対策以前は、西宮市のデータ活用の状況はどのようなものでしたか?
松浦:都市開発の分野では、人や車の交通量が中心で、カウンターを使ってアナログでの計測が長年行われてきました。データ活用と呼べるものはこれくらいで、他の部分ではまったく活用していなかったですし、リアルタイムのデータを把握する必要性もありませんでした。
平林:課題意識はあったのでしょうか?
松浦:私自身は興味があって、NTTドコモの空間情報統計について調べたり、導入にどれだけ費用がかかるのかをヒアリングしたりしたことはありました。これからのまちづくりには必要になるだろうと思う一方で、非常にコストがかかるという認識でした。一度で数百万という価格帯では、試してみたくても手が出せない状況というのが正直なところです。
今回のヤフーさんとの連携では、本当に柔軟に対応していただき、ただ「データを売ります」ではなく、「こういうことがしたい」という私たちの希望を聞きながら進めていただけたのが嬉しかったです。
平林:結果だけの提供ではなかったということですね。
松浦:今回の取組みは、「接触8割減」を目指すというのがポイントです。そこに何人いるか、どれだけ減っているかという「人」のデータが必要でした。GPSデータをただ数字で算出してくれるだけではなく、見方や使い方も含めて、相談に乗っていただきました。私たちにはまったくノウハウがないので、データサイエンティストとしての役割を果たしていただけたのはありがたかったです。
あとは、それ以前の問題として、「価格が安い(無償)からやってみよう」と思えた部分もありましたね。
平林:大屋さんは、松浦さんからの相談を受けて、データの使い方のポイントとしてどのようなものがあると思われましたか?
大屋:データの使い方には、2つのポイントがあります。1つ目は、データを使う目的です。今回のSUMMIT by WHEREの最初のセッションで、自治体の市長さん同士が「目的」と「手段」という話をされていました。実は、ビッグデータやAIは、手段の目的化につながりやすい傾向があるんですが、大事なのは、背景にある課題。今回でいえば「西宮市さんが何を調べて発信したいのか」という目的をしっかり理解することです。
ヤフーのビックデータは、サービスを使用しているユーザーから許諾を受けた上で、取得しています。データは使う側にとっても、ユーザー側にとっても、安全に使うことが非常に大事ですし、お互いにとって良い形にしなくてはなりません。そのためには、まずデータ活用の目的をはっきりさせておく必要があります。
もう一つはデータのクレンジングです。ヤフーでは、長きにわたりビッグデータを使ったいろいろな取組みを行ってきました。広告、オークション、ショッピング、メディアなどをより使いやすくするために、いろんな分析を行ってきたノウハウが基盤にあります。
いきなり莫大なデータを扱うのは難しいので、ある程度のノウハウを有しているヤフーが、外部にデータを提供できる仕組みをつくっています。保有するデータを活用するということに関しては、ここ10年くらいで環境が整ってきており、これをうまく使えていると思います。
平林:外部がデータ活用するための仕組みを、西宮市でもうまく活かせているということでしょうか?
大屋:そうですね。西宮市の場合は、「繁華街」といわれているエリアがいくつかあったので、まずは松浦さんに、繁華街の最寄駅の周辺エリアを定義することから進めました。私たちには、地域の肌感覚がわからないので、職員の方と打合せを重ねながら、データの見せ方を決めるようにしています。
平林:今回の西宮市の取り組みでは、実際にどんなことをして、どんな手ごたえを感じていますか?
松浦:西宮市には乗降客が多い主要駅が5つあります。次のスライドは、5 つの主要駅と周辺の大きなショッピングセンターを含めた範囲で、休日の人出を示しています。2020年2月2日から4月19日までの間に、このエリアの人出がおよそ 6 割減になったことがわかり、さらにゴールデンウイーク中にあと2割減らすという目標を、市長が市民向けに説明した時にも、このスライドを使用しました。
松浦:市民に、現状の人出の減り具合や目標数にあと少しで到達することを伝えられた のは、「具体的な数字」があったからこそです。「なんとなく」ではなく、「数字で示せた」ことは大きな成果だと思っています。
結局、6割までしか減らず、横ばいになってしまったのですが、各駅周辺の人出のグラフを改めて算出して、各駅でどれだけ人出が減っているかを市民やマスコミ向けに説明しました。
関西で住みたい駅ナンバーワン1を連続で獲得している西宮北口駅と、遠方から来る人が多い阪神甲子園駅に関しては、お店も、球場も、ショッピングセンターも開いていないことから、人出がすごく減りました。
一方、それ以外の3つの駅、阪神西宮駅、JR西宮駅、夙川駅は、住宅地だったり、市役所があったり、ビジネス街だったりで、あまり人出が減らないという傾向がつかめました。総じて、だいたい5割から6割減くらいで底を打ったということが、ここからわかったのです。
ヤフーのビッグデータを使ったからこそ、現状はこうで、このくらいが底なんだとか、駅や周りの町の成り立ちによっても減り方が違うことをリアルに把握することができました。リアルな把握ができたからこそ、「次の一手をどうするか」を考えられたことも一つの成果だと思います。
平林:実際に、市民やマスコミに具体的な数字で伝えたことで、市民の理解を得やすかったというお話でしたが、マスコミの反応はどうだったのでしょうか。
松浦:外部にも積極的に数字を発信していたので、興味を持ってくれるマスコミも多かったですね。「データが欲しい」という要望など、たくさんの協力的なお問合せをいただきました。
平林:数字があると、かなり現実の見え方が変わりますよね。口頭で言われただけでは、「接触8割削減」が現実味のある目標なのかどうかが分かりません。西宮市の場合は、6割減で底を打ったのが分かり、次のアプローチを考えられたというのは、素晴らしいデータの活かし方だと感じました。
その上で、西宮市がデータ活用の分野に取組めたのは、新型コロナウイルスがあったからこそなのでしょうか。
松浦:個人的にデータ活用の分野は、新型コロナウイルスがなければ、アプローチさえしなかった分野だと思っています。緊急事態の中で、「行政として市民に何かを伝えたい」「伝えなくてはならない」という切迫感と、日々刻々と変化する状況の中で、データに基づいた政策判断をする必要があったからこそ、挑戦できたことだと感じています。
平常時にいくら「データが役に立つ」と言われても、どんな風に活用できるのかイメージができませんし、良い結果が出るのかもわからないからこそ、導入ハードルが高いのです。
ですが今回データ活用をしたからこそ、平常時にも活用できることを実感しましたし、データを使う側にも能力が求められることがわかりました。
平林:松浦さんに視聴者から “「接触 8 割減」をするために呼びかけ以外に行ったことはありますか?”という質問が出ていますが、いかがでしょうか。
松浦:防災の担当ではないので具体的には分かりませんが、「接触8割減」は、市民一人ひとりが行動を変えていかないと達成できない数字です。今回データ活用を行った目的は、具体的な施策を立案・実施ももちろんですが、市民の皆さんに、「外出は控えた方がいい」「もう少し自分で何か工夫できないか」と考えるきっかけを与えることでした。
平林:市民としても、情報がないとどう行動したらいいか判断できませんから、駅周辺の人出を可視化したことで、市民一人ひとりの行動変容を生み出したということですね。
(後編記事はこちら)
Editor's Note
自治体におけるデータ活用は、自治体ごとにかなりの格差があるようです。多くの自治体はセキュリティやプライバシー保護の観点から、データ利用に慎重な自治体が多いように思えます。
しかし、反面、自治体におけるデータ活用の余地がそれだけ大きいということでもあります。
VUCAと呼ばれる時代には、自治体だけ、民間企業だけではなく、それぞれのリソースを活かして一緒に取り組むことで、社会課題を解決し、新たな社会を共創していくことができるはずです。そんな取組みが早く実現できることを、まちづくりに関わる者として大いに期待しています。
TAKASHI KAZAMA
風間 崇志