SUMMIT by WHERE
自治体改革が必要だと言われるようになってから久しい。
縦割りになりやすい役所の中で、官民学共同で改革を行うには様々なリソースが必要だ。
そこで今回は、地域経済を共に動かす起業家のためのサミット「SUMMIT by WHERE」を開催。第1回目は、完全オンラインにて、日本各地30箇所以上の地域から、第一線で活躍する官民学の方々が集まりました。
中でも本記事では、「自治体改革の実現に向けて、今、職員と組織に求められること」について、小紫 雅史氏(奈良県生駒市 市長)、東 修平氏(大阪府四條畷市 市長)、上村 一郎氏(香川県東かがわ市 市長)、加藤 年紀氏(株式会社ホルグ 代表取締役 奈良県生駒市役所 職員)の豪華4名のトークをお届け。
それぞれの地域で行っている取組みや、自治体改革のあり方について考えが語られました。
加藤氏(モデレーター:以下、敬称略):今回のセッションは「自治体改革の実現に向けて、今、職員と組織に求められること」ですが、民間企業から見て、自治体の内部はあまり見えないなと私自身、思ってます。そこでまずは、登壇者の皆さんが「 “自治体改革が必要だ” と考えていらっしゃるか否か」をお聞きしても良いでしょうか。
小紫氏(以下、敬称略):逆に「改革が必要じゃない」という首長さんは、どのぐらいいるのかと思いますね。地方創生や新型コロナウイルス、少子高齢化、女性の活躍など、今ほど自治体が常に変化しながら対応していかなければならない時代はないのではないかと思っています。
私は国家公務員もしてましたが、今は市町村の職員こそ、地域に対応して変わっていかなければならない時代だと思っています。
よく上司に対して「去年の予算と同じ内容だから大丈夫です」と言う職員がいましたが、最近の生駒市役所ではこんな話はなくなりました。これだけ社会状況が動いてる中では、基本的には全ての物事を改革の対象にするべきです。
東氏(以下、敬称略):改革を行う過程で生じがちなこととして、変わることを楽しんでしまい、改革の目的が何なのかというの見失ってしまうというケースがあります。私はこれが1番よくないと思っています。別に改革は目的ではなくて、手段の1つでしかない。自治体が何かを変えるとき、ゴールはあくまで「住民の生活がより豊かになる」「より今よりも暮らしやすくなる」というところに設定すべきです。
東:ゴールを考えた結果、「改革をせずに、より福祉的なサービスを充実させた方がよかった」という結論になることもあります。常に「この改革は、市民の生活にとって、どんなが影響があるのか」という視点を忘れないようにしないと、改革に自惚れた改革になってしまいます。
上村氏(以下、敬称略):「改革って何だろう」と考えたときに、現状の体制(例えば市役所とか)を維持しつつも、その中でどれだけ現状が打破できるかだと思ってます。
香川県東かがわ市は、全域過疎指定受けてるようなところですから、いかに少子高齢化、人口減少、ICT、今だったら新型コロナウイルス感染症の流行などの状況の中で、地域が適切に対応できるかが重要になってくると思います。
上村:まさしく東市長がおっしゃられたように、改革は必ず市民の方に向いてないと駄目だと感じていますし、自治体改革ができないところは、淘汰されていかざるを得ないんじゃないかなとも思っていますね。
加藤:「改革」といっても、リソースに制約がある中で、優先順位をつける事も大切だと思います。小紫市長は、「これを変えるべきだな」「これは変えないほうがいいな」というポイントはありますか。
小紫:基本的には、変えていかなきゃいけないことばかりだと思います。自治体は住民のために仕事をしてるので、「住民のプラスになっているのか」を明確にするために、ビジョンに基づく経営をしっかりと定めておくことで、職員もどういう改革をやっていかなきゃいけないのかが分かりますし、優先順位もある程度明確にすることができます。後は、市民の皆様にビジョンを示し、市民のための改革だというメッセージを発信することも非常に必要だと思います。
私は今「自治体3.0のまちづくり」や「市民に汗をかいもらうまちづくり」と言ってますが、これは現時点では正しい方向性だと確信してます。しかし、これももしかしたら5年後や10年後には変えていかなきゃいけないことかもしれません。
加藤:東市長、上村市長のおふたりは「組織の変えるべきではないポイント」について、どうお考えですか。
東:自治体職員が「自分たちがこのまちを守り抜くんだ」という強い意識を持つことは、変えてはいけないポイントだと思います。
私たちの市役所の例でお話しすると、私が着任する前は、一般職で民間企業出身の職員の割合は1%だけでしたが、2020年8月1日時点では14%程度にまで増加しています。民間企業出身者が14%となると、市役所内が以前とは全然違う空気になっていくんです。この空気が変わっていく際に、公務員として代々受け継がれてきてる「公」としてのあり方が、効率性のみの追求によって、悪い方に変化してはいけません。官民連携をどれだけ推進しても、私たちは「公」を担っているのだという強い意識は変化させてはならないと考えています。
上村:「公」という言葉も出ましたが、少なくとも東かがわ市役所に勤めてる公務員の皆さんは、東かがわ市という「公」のために働いてるわけで、東かがわ市は結局、東かがわ市民だと思うんです。だから、僕ら自治体職員は、住民の皆さんのために、思考し行動していかなきゃならない。「住民のための改革」という部分は、変えてはいけないポイントだと思います。
例えば、今の時点でニーズがあるけれど、長い目で見ると検討しなければならないものもあります。未来を見据えつつ、「なぜ今これをやるのか」を1番に考えることが大切ですね。
加藤:これからの時代、自治体やその職員のあり方も大きく変わっていくと思います。東市長は、「組織をこういう状態に持っていきたいな」という理想像はお持ちですか。
東:はい。私たちは、「日本一前向きな市役所」というコンセプトを掲げています。前向きになれない主な理由に、常に上位決裁者の顔を思い浮かべて、答えに窮することが挙げられます。しっかりと職員として権限があり、自分の権限内でやるべきだと思ったら答えを出せるという状況が、前向きになる1つの要素だと思っているので、そんな組織にしていきたいと思っています。
最近嬉しいことに、色々な計画のなかで、職員が「日本一前向きな〇〇」と書いてくれていて、庁内で共有され始めていることを感じています。
加藤:ありがとうございます。続いて小紫市長よろしいでしょうか?
小紫:日々の業務で嬉しいと感じるのは、今まさに来年度の予算をそろそろ考えはじめる時期なのですが、以前と比べて圧倒的に各部各課から出てくる新規提案が増えたことです。以前は、「去年と同じだから大丈夫です」というような前例踏襲だったのですが、今は職員にそのような姿勢は見られません。
新規の予算案の中には、机上で考えたものだけじゃなく、地域に飛び出さないと出てこないであろう提案も出てきて、地域に飛び出したり、新しいことに挑戦したりする動きは、非常に嬉しいなと思っています。
反対に、私が若干反省してるところとしては、自分の立ち位置が比較的「こういうふうに変えていこうよ」というリーダーシップを取りすぎたかなというところです。変わらない職員がいたとしたら、私が変わろうと言って1番対極に立ってしまうと、「市長にいろいろ言われてる」という理由で働く職員が出てきてしまう。理想は、市長がブレーキをかけるくらいの立ち位置でいられる組織なんじゃないかなと思っています。
加藤:どうしても自治体の予算自体が縮小していく流れの中で、地方議会と行政の間で本当に腹を割って話してる事例はすごく少ない気がします。新しいことを実施するには、既存のものを終わらせる必要もあると思いますが、上村市長は終わらせるための判断や基準として、何を大事にされていますか?
上村:これは本当に難しい話で、多分全国の市区町村全てでそうだと思いますが、例えば人口減少、少子高齢化と向かい合ったときに、やめる議論は本当に避けて通れないところで、ずっと前に始まった制度、つくられた建物、公共施設をどう閉じていくのかは、とても議論になります。
「これから先どうなるんだ?」と言われて「やってみるしかありません」ではなかなか皆さん納得はしてくれません。現状を説明して、利用者数の落ち込みや関係制度の変更などを1つ1つ説明していかなければ、何もやめることはできません。
僕たち自身がびびって、自治体職員に「住民の皆さん説明しといて」と言うのは無茶な話です。
東:おっしゃる通り何かをやめることは難しいので、私の場合は最初に全てを決めました。実は、最初の1、2年目は実施の判子を押しながら、3年目になってやめるという判断をするのは非常に難しくて、上村市長おっしゃるように、「前までいいって言ってたじゃないか」となってしまう。だからこそ、私は着任して最初に全ての事務事業に関して職員にヒアリングをした上で、即時終わらせるものと何年以内に終わらせるものを決めていきました。
やめる基準があったというよりも、職員と話をして、職員が本当はやめたいと思ってるけどやめづらいと感じている事業については、やめる決断をする。職員が効果を実感している事業はやめない。
現場のことは現場が1番知っているわけですから、職員に聞くことが重要です。その上で、新規事業はサンセット方式を全てで採用しているので、各種数値目標やKPIを達成できなければ、自動的に事業が終了する仕組みを構築し、撤退ラインをあらかじめ決めています。
上村:東市長、今おっしゃられた「撤退ライン」は、どこまで皆さんと共有するんですか?
東:簡単に言いますと、財政課が「撤退ライン」に納得をしないと予算がつかない仕組みになっているので、財政課のみが全てを把握しています。
ただ、部長マニフェスト*1 には、主要な政策は全て登場していて、ここには新規事業のKPIも公開しています。年初と年度後のレビューも、「達成できた・できなかった」などと記載し、情報公開をしていますね。
*1 部長マニフェスト
市長の市政運営方針に沿って仕事を進めている部や組織の責任者である部長などが、1年間を通して、どんなことに取り組むのかを明らかにしたもの。
草々
Editor's Note
自治体改革は首長だけが掲げても実現することはできない。自治体と地域住民が協働することはもちろんのこと、自治体職員の意識改革を行う仕組みづくりも必要だ。
自治体改革は新たに何かを始めることばかりに注目されがちだが、同時に何かをやめることも決断しなければならない。今回のセッションでは、「公」の観点に立ち、市民に向けた改革を行うために重要な考え方が語られたように思う。
「改革」が「市民のための改革」であるために、大切にしておきたいエッセンスを知ることができたセッションでした。
LOCAL LETTER
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