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LOCAL LETTER

巻き込む力と手離す力で、新しい政策を実装していく。「地域を変えるCOO。ナンバー2からみるまちづくり経営の視座と役割」(前編)

MAY. 17

JAPAN

前略、市長・副市長の目線から、自治体内部の動きを覗きたいアナタへ

地域を元気にしていくための重要なプレーヤーである自治体。民間企業とは異なる組織構造とダイナミズムを持ち、「外からはわかりにくい」、「協力関係を築きづらい」という声も聞こえます。

しかしながら、そんな自治体に外部から飛び込み、新しい文化を育て、目覚ましい成果を上げている人たちがいます。彼らは一体、どんな工夫をしているのでしょうか——。

そんな疑問をもつアナタのために開催した、あらゆる業界・地域を超えた地域経済活性化カンファレンス「SHARE by WHERE」。第2回目も、完全オンラインにて、日本各地30箇所以上の地域から、第一線で活躍する方々が70名以上集まりました。

中でも本記事では、地域を変えるCOO。ナンバー2からみるまちづくり経営の視座と役割」と題して、毛塚幹人氏(茨城県つくば市 副市長*1)と、東修平氏(大阪府四條畷市 市長)のトークをお届け。 

市長を支えるナンバー2として、数々の新しい政策を実現させてこられたコツとは——

自分の役割を “COO” と定めたところが出発点

東氏(モデレーター:以下、敬称略):本セッションは、毛塚副市長が自治体の中でどんなことをしてきているのか、良い面、うまくいったエピソードと、そうじゃない部分の両面を探っていきながら、話を展開していく時間にしたいと思います。

早速ですが、まず「これは副市長としてCOOとして、つくば市役所の中で大きく動かせたな、うまく前に進められたな」という取り組みエピソードから教えていただいていいですか。

画面右> 東修平氏(Shuhei Azuma)大阪府四条畷市市長 / 外務省、野村総研インドを経て、2017年1月から大阪府四條畷市長に就任。その後、公約であった副市長の全国公募を実行し、0歳児を持つ女性副市長とともに、公民連携による施策を多数展開。11年ぶりの人口増加を達成。日本一前向きな市役所をめざし、(一社)at Will Work主催の WORK STORY AWARD で2019年、審査員特別賞を受賞。
画面右> 東修平氏(Shuhei Azuma)大阪府四條畷市市長 / 外務省、野村総研インドを経て、2017年1月から大阪府四條畷市長に就任。その後、公約であった副市長の全国公募を実行し、0歳児を持つ女性副市長とともに、公民連携による施策を多数展開。11年ぶりの人口増加を達成。日本一前向きな市役所をめざし、(一社)at Will Work主催の WORK STORY AWARD で2019年、審査員特別賞を受賞。

毛塚氏(以下、敬称略):その前段階で、そもそも「副市長として何をやるか」から結構悩みましたね。副市長は、自治体によって役割がバラバラで、「こういうことをやる仕事」というものはないんですよね。

色々なタイプの副市長がいる中で、市役所や連携先に対して、「自分はこういう風に仕事をしていく」と示すために、“COO”という言葉を使い始めました。自分の役割をCOOと定めたところが副市長の仕事の出発点だったかなと思います。

 画面左> 毛塚幹人氏(Mikito Kezuka)茨城県つくば市副市長 *1 / 2013年財務省入省、国際局国際機構課、主税局総務課等を経て2017年に退職し、同年4月より現職。テクノロジーの社会実装、官民連携、財政、産業振興、保健福祉等の政策企画や執行を担当。Forbes JAPAN誌「世界を変える30歳未満の30人」、世界経済フォーラム「グローバルシェイパー」選出。1991年2月生。栃木県出身。
画面左> 毛塚幹人氏(Mikito Kezuka)茨城県つくば市副市長 *1 / 2013年財務省入省、国際局国際機構課、主税局総務課等を経て2017年に退職し、同年4月より現職。テクノロジーの社会実装、官民連携、財政、産業振興、保健福祉等の政策企画や執行を担当。Forbes JAPAN誌「世界を変える30歳未満の30人」、世界経済フォーラム「グローバルシェイパー」選出。1991年2月生。栃木県出身。

毛塚:COOとしてうまく進められた点というご質問については、市長公約を実現するためのロードマップを作って、それを元にその後4年間の進捗管理をやっていったことが、特徴的でCOOらしい事例かなと思います。つくば市長の公約は82項目ぐらいあり、しかも結構難しいものも含まれていたんです。それについて、着任からだいたい100日間ぐらいでロードマップを完成させました。

東:なるほど。確かに市民に対してお約束したことをあれだけ可視化して示している市長は、全国でも珍しいですよね。私も見習う点が多いといつも思っています。

参照元「市長公約事業のロードマップ」2016-2020最終版(出典:つくば市公式Webサイト「冊子_市長公約事業のロードマップ2016-2020最終版」)
参照元「市長公約事業のロードマップ」2016-2020最終版(出典:つくば市公式Webサイト「冊子_市長公約事業のロードマップ2016-2020最終版」)

組織を組み変えられるのが副市長の良さであり、求められるところ

東:公約の実現計画を可視化していくときに、市長には「この速度で進めたい、市民にこの速度で示していきたい」という想いがあって、当然副市長には伝えられます。その一方で、職員側からは、「その速度では到底無理だぞ」という声が上がってくると思います。

毛利副市長が作られたロードマップでもそういった声はあったと思いますけど、調整が難しくはありませんでしたか?

毛塚:斬新な政策が多かったので、「そもそもどこの部署がやるんだ、担当できる部署がないぞ」みたいなものが結構ありましたね。着任直後から、そういう議論をしている会議に入って交通整理をしたり、職員も僕もわからないものは一緒に調べていくところから始めました。

うちの市が力を入れているスタートアップの政策も、どの文脈でやるか決まらず、どこの部署が担当するか押し付け合っているところに入っていきました。

東:自治体の「新しい政策どこがやるか問題」 は、物事が前に進まない理由のナンバーワンだと思いますね。スタートアップ政策は、つくば市の代名詞のようになってきていますが、結局、どの文脈に落ち着いたんですか?

毛塚:最初は、産業振興の部署で創業支援をやっていた職員と、一緒に勉強するところから始めて徐々に形にしていきました。2年後に支援を本格化していく段階になった時に、科学系の部門に集約して「テクノロジーを使って新しい事業を興す」という括りでまとめ、最終的な整理がついています。

東:多くの市で部長と副市長の階級差は一つだと思います。その一つの差の中での最大の違いは、部長はその部の所掌だけなので、その中でどう最適化するのかを考える。それに対して、副市長は人事・機構を所掌に収められるので、組織を組み替えることができます。そこが副市長の良さであり、逆に言えば求められているところなのかなと思います。

毛塚:おっしゃる通りですね。霞が関で仕事をしていると、組織を変えることはあまり考慮に入らないんですよね。変えられると思っていないので。自治体の面白いところは、そこですよね。人事・機構から変えていけるし、予算の配分などもそれなりに裁量があって変えていける。

ただ、それを両方ともやろうとするとすごく批判が出るし、職員もとても辛かったりします。そこにちゃんと向かい合い切れるかとか、自分の中でも振り子のように悩みながらやっているところがあります

新しい政策の実装は、立ち上げ期のエネルギー投下とその後の仕組み化がポイント

東:もう少し深掘ると、スタートアップ政策が2年で経済部から科学系の部門に切り替わった一番のポイントはどこでしょうか?

毛塚:スタートアップに成長フェーズがあるのと同様に、政策にも成長フェーズがありますよね。最初の立ち上げ期は、僕とその担当チームで一気に仕上げます。それ以降もずっとその関わり方をしていると組織として回らないので、フェーズごとにリソース配分をどんどん推移させていかないといけない。今はできる限り組織としてスタートアップ政策をやって、もっとスケールさせていきたいフェーズなので、任せられる組織を作ることを重視しましたね。

東:まずは副市長で預かって、進めるところは進めていきながら、バトンを渡す先の組み立てを並行してやるイメージですかね。

毛塚:まさにそうですね。立ち上げ期に集中的にエネルギーを投下して、その後できるだけ仕組み化します。仕組み化の弊害として官僚化してしまうというか、骨抜きになってしまう恐れがあるので、そこはちゃんとチェックしながら。あとは人材による配置などを意識しながら、ですね。

東:副市長はその政策だけをやっているわけじゃないので、手離れさせていく作業が必要ですよね。ここが担当と副市長の差のまた一つです。ずっと関わり続けてはいられないので、フェードアウトする技術みたいなのがあるのかなと。そこについて、何か教えていただけたらなと思います。

毛塚:難しいですよね。フェードアウトして、立ち消えになってしまったら元も子もないし、形式的にやってはいるけれど骨抜きになってしまってもいけませんしね。新しい事業をやりながら、後々どう仕組み化して、どういう人に任せるのがいいかを最初の立ち上げ期から考えながらやっていますね。

仕組み化して任せた後も完全に手離すのではなく、ある程度の熱意を残したまま動かしていっています。そこのバランスがポイントかなと思っていますね。仕組み化をすることで継続性を担保するということかと思うんですね。

「起こっている」「進んでいる」を見せていくことの大切さ

東:スタートアップ政策を進める上で、庁内でも議会に対しても、「スタートアップってなんだ?」というところがあったと思います。今は4年経って理解が進んだのか、今も進行中なのか、その辺りを教えてもらえますか。

毛塚:そもそもスタートアップって、従来の創業やベンチャーどう違うのかわかりにくいじゃないですか。だから、ちゃんと見せていくことが大事だと思いました。

それで、まず無料でできる “目に見える場所” として、毎週木曜日の夜にスタートアップ関係者が集まってカジュアルな意見交換をする「Tsukuba Thursday Gathering」というイベントから始めたんですよね。そこに、普段だったら行政のこうしたイベントに出てこないような学生さんたちや金融関係や研究関係の方など幅広い方々に、来てもらいました。

スタートアッププロモーションページ(出典:つくば市公式Webサイト)
スタートアッププロモーションページ(出典:つくば市公式Webサイト)

東:まず見える化をすることは、副市長に求められる要素の一つですよね。まだあまり成果が出ていない段階でも、携わっているみんながモチベーションを上げていかないといけないし、議会に対しても前に進んでいることをご理解いただかないといけない。

そのためには、「ものごとは起こっていて、前に進んでいるんだ」ということを目に見える形で出さないといけない。キーワードとしてはスモールスタートをとりあえずやると。そうしないとやっぱり理解はしてくれないなっていうことを思いますね。

毛塚:あとは、スタートアップの計画を作っていくときにも、議会の市民経済委員長にメンバーに入ってもらって、一緒に作っていくようにしました。議会だけではなく、金融機関の代表や大学の方など、多様な関係者を入れて一緒にゼロから勉強していきました

東:事業が加速されて進むようになってきたときに、突如現れた壁で止まらないようにするために、最初から起こりうる壁を取り除いておく作業だと思うんですけど、そこはどういう風にマネジメントされているんですか。

毛塚:いろんな関係者と調整していくのはすごく大変なので、悩ましいですよね。できる限り最初から入れていく形で、座組を考えていきますね。外の人に入ってもらう時にも会議でのアジェンダの出し方を工夫することで、オーガナイズ度合いをコントロールしています

*1 茨城県つくば市 副市長は、本カンファレンス登壇時の所属になります

Information

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「偏愛ローカリズム」をコンセプトに、日本全国から “偏愛ビト” が集い、好きを深め、他者と繋がり、表現する勇気と挑戦のきっかけを得る場です。


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Editor's Note

編集後記

文字数の関係で割愛しましたが、政策推進の拠り所となる計画の立て方、「見える化」に関係した広報などのお話もあり、密度高く聞きごたえのあるセッションでした。

東さんの名モデレーターぶり、秀逸な比喩や語り口を記事でも伝えたいと思いましたが、限界がありました。読者の皆さんに、ぜひ次回は SHARE by WHERE に参加して、ご自分の耳で聞いていただきたいと思います。

これからもSHARE by WHEREの応援をよろしくお願いします!

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