JAPAN
日本全国
地域の文化や資源と密接に紐づいた事業を行う、地場産業。
産業の東京圏一極集中が進み、地域が元気を無くしつつある中で、地場産業の「地域と生きる」という「自分らしい生き方」に共感が集まり、今、多くの若者を巻き込みながら成長を遂げています。
改めて地場企業への関心が高まる中、地域の魅力に気付き、「地域で働きたい!」「地域を盛り上げていきたい!」「でもどうしたらいいかわからない!」そんな想いの方も多いのではないでしょうか。
そんなアナタのために開催した「SHARE by WHERE」は、完全オンラインで行われたあらゆる業界・地域を超えた地域経済活性化カンファレンス。今回は、全国各地から参加された総勢70名以上の登壇者でセッションが行われました。
中でも本記事では、「地場企業の強さに迫る!まちと共存共栄する経営哲学と事業創出」をテーマに、富山 浩樹氏(サツドラホールディングス株式会社 代表取締役社長兼CEO)、福嶋 誠氏(有限会社きたもっく 代表)、能作 克治氏(株式会社能作 代表取締役社長)、高木 新平氏(株式会社ニューピース 代表取締役CEO)の豪華4名のトークをお届け。
人を巻き込みながら地域と共に成長し続ける、地場企業の経営哲学と事業創出に迫ります。
高木氏(モデレーター:以下、敬称略):株式会社ニューピース代表の高木です。このセッションでは、地域に根ざしながら、企業の在り方を開拓されているお三方にお話を伺います。早速ですが、皆さんの経営哲学について教えてください。
富山氏(以下、敬称略):サツドラホールディングス代表の富山です。ドラックストアの経営と株式会社リージョナルマーケティングという、地域マーケティングの会社をやっています。
私どもはホールディングス化をしているので、自社だけでもたくさんの事業がありますし、自社以外のさまざまな地域の企業さんと、日々コラボレーションを行っています。その上で経営哲学を考えたときに、“Good Business Good People” ではないですけど、人同士の繋がりが最も重要だと感じています。
富山:人と繋がっていく中で、どれだけスキームが良くても、お互いのビジョンをしっかり共有できていなければ事業は上手くいかないと思っていて、あえて経営哲学が何かと聞かれると、人同士の繋がりとビジョンの共有といった点を大切にしていることだと思います。
高木:きたもっくさんは、地域や地場があることを経営のスタンスとされていると思いますが、福嶋さんにとって地域という切り口が重要だと思われたのは、どういうきっかけだったのでしょうか。
福嶋氏(以下、敬称略):有限会社きたもっくの福嶋です。私自身の思いとして、“何か人の役に立ちたい” という気持ちが若い頃からありました。それが経営という形になったのは、北軽井沢にUターンしてからですね。自然豊かな北軽井沢の地に身をおくことで、地域との関わりを事業という形を通して組み立てる姿が、明確に見えてきた過程があります。
福嶋:やはり何を行うにしても一人の力ではできないですし、事業という形をとらないと効果的なことはできない。私たちの場合は、浅間山の麓という特に自然力の強い場所でしたので、生きる場所、つまり自然と人の関わり方が重要なテーマになりましたね。
能作氏(以下、敬称略):富山県高岡市で、伝統産業の鋳物の仕事をしながら、産業観光も取り組んでいる株式会社能作です。私どもは俗にいう地場産業。地域から発生した産業ということは、地域と成長しなくてはいけない。ですから、「地域と共に生きる」という点をとても大事にしています。
高木:能作さんは、地域に根付く産業だからこそ、新しい事業創出には軋轢が多かったと思うのですが、能作さんが今までに行った大きなチャレンジと、そこにどんなハードルがあって乗り越えられたのかをお伺いしたいです。
能作:まさしく今、観光事業や酒造メーカー、ウェディングなどの業界の方々とコラボしたり、複合的な展開にチャレンジしているところですが、地域と共に成長していくことを考えた時に、「お客様に地域を巡ってもらう」ということが大事だと思っています。能作は産業観光を行っていますが、“能作に来てもらってそのまま帰る” というのでは、本当の意味での産業観光と言わないと思うんですよ。ですので、うちには富山県全域のいいものを紹介する「TOYAMA DOORS」という観光案内スペースをつくっていて、富山の魅力を知ってもらい富山を巡ってもらう、きっかけづくりをしています。
能作:皆さんもそうだと思いますが、新しいことをやると必ず指摘してくる方々がいらっしゃいます。ですが地域と一緒に活動をしたり、良さを紹介したりすることで、「能作は本気で地域のことを考えている会社だ」と認めてもらえる。結果、地域のために一緒に活動する仲間が出来たんだと思います。
高木:今いるプレイヤーと組んだり、還元できるような形をモデル化するっていうのが鍵になっているということですね。
能作:そうですね、“独り占めをしない”っていうことが大事だと思います。
高木:きたもっくさんも地域に根差して活動されている企業ですが、事業創出について考えられていることを聞かせてください。
福嶋:きたもっくの一つの転機が「ルオム」という言葉に出会い、会社の理念として掲げたことだと思っています。ルオムはフィンランド語で「自然に従う生き方」という意味なんですが、2010年頃、北軽井沢の地に根ざした言葉が欲しいと思いまして、お金持ちのリゾートスタイルといったイメージの言葉ではない、“生きていく+働いていく” が包摂できるような理念が必要だと思ったんです。
福嶋:これが何故転機かというと、ルオムという言葉を会社組織の主軸に置いたときに、「生き方を問う、自然との関わり方を問う」という形で、その考えに共感してくれた可能性あふれる若い人たちが、きたもっくにたくさん集まってきたんです。社会が混迷している中で、どう生きていくのかを連動した会社づくりがポイントになったのだと思います。
富山:私どもが苦労した点は、地域のプラットフォーマーとしてリージョナルマーケティングという会社を立ち上げたことです。今まではBtoCの会社(ドラックストア)だったのが、BtoBの事業を行っていくことで、社内も困惑しましたし、社外に理解してもらうのも時間がかかりました。
先ほど能作さんがおっしゃった「独り占めしない」という点は我々にも通じるところで、すごく重要だなと思います。地域の中でいうと、限られたエリアの中でやっているので、動いているプレイヤーも決まってくる。その中でプレイヤー同士がぶつかっても、お互い生産性もメリットもない。
富山:例えば、今一番力を入れているのは、ICT教育でプログラミングの事業です。その当時、北海道はプログラミングに対する意識が低く、教育格差が生まれる心配がありました。
地域において重要なことであるのに取り組んでいる事業者さんがいなかった。だから地域の中で“誰もやってないけど必要” という領域を事業化する。もし、先にやっている事業さんがいてもやりたい事業であれば、 “コラボレーションしましょう”っていう形をとっています。東京圏での競争とはまた違った、共に創っていくっていう「共創」のほうが、地域では重要なことではないかなと思います。
草々
Editor's Note
セッションの中で度々語られた、「人を巻き込むこと」「一緒に成長していくこと」「共に生きていくこと」。地域のことを本当に思って経営されている方々だからこその想いのつまった言葉に、感銘を受けました。
人口減少や跡継ぎ問題など様々な問題が地域を襲う中、“争い” ではなく、“巻き込み共に成長する” という行動が、今後地域を盛り上げていく鍵になるのだなと思いました。
YURIKA YOSHIMURA
芳村 百里香