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LOCAL LETTER

多様性を共有し、まちの「らしさ」考える。PRにおいて必要不可欠な “編集の力” と、“地域デザイン” の関係性

AUG. 18

PROMOTION

前略、自分の愛するまちの魅力を、もっと地域内外に知って欲しいと試行錯誤するアナタへ

自分が暮らしている大好きなまちの魅力を、地域の一員として地域内外に向けてもっともっと伝えたい。けど、なかなか想いが伝わっているのか分からず、モヤモヤ感に捕らわれている方も多いのではないでしょうか。

今回は「編集の力で地域イメージを変える。地域デザインの先にあるものとは。」をテーマに、大垣 弥生氏(奈良県生駒市役所 広報広聴課長)、松下 麻理氏(一般財団法人 神戸観光局 神戸フィルムオフィス代表)、藤川 明美氏(兵庫県尼崎市役所 広報課課長)、北見 幸一氏(東京都市大学 都市生活学部/大学院環境情報学研究科 准教授)の豪華4名が行ったトークをお届け。

地域の最前線で活躍する人たちや、まちづくりに関わる大学教授が、まちの “らしさ” とは何かについて語りました。

まずはまちと関わりを深め、魅力的な場所や活動を増やす

北見氏(モデレーター:以下、敬称略):今日お集まりいただいた登壇者の皆さんは、広報を中心に活動されておりますが、モデレータである私自身が、このセッションで専門の皆さんからお話を伺えるということで、非常に良い機会をいただいたと思っています。

写真右下>北見 幸一(Koichi Kitami)氏 東京都市大学 都市生活学部 大学院環境情報学研究科 准教授 / 博士(経営学)。北海道大学准教授、(株)電通PR 部長を経て現職。未来都市研究機構都市マネジメント研究ユニット長。社会情報大学院大学客員教授。日本広報学会常任理事。専門はマーケティング、ブランド戦略、広報戦略。地方創生シティプロモーションモデルを研究。著書に『広報・PR論』(共著・有斐閣)など多数。
写真右下> 北見 幸一(Koichi Kitami)氏 東京都市大学 都市生活学部 大学院環境情報学研究科 准教授 / 博士(経営学)。北海道大学准教授、(株)電通PR 部長を経て現職。未来都市研究機構都市マネジメント研究ユニット長。社会情報大学院大学客員教授。日本広報学会常任理事。専門はマーケティング、ブランド戦略、広報戦略。地方創生シティプロモーションモデルを研究。著書に『広報・PR論』(共著・有斐閣)など多数。

北見:それではまず最初に、登壇者の皆様の取り組みについて活動などを伺いたいと思います。大垣さんから順番にお願いできますでしょうか?

大垣氏(以下、敬称略):生駒市で広報を担当している大垣です。生駒市は住宅都市ということもあり、施策としてプロモーションに取り組み出した当初は、地域外に情報を発信して来訪者を増やすことや、まちづくりをサポートしてくださる人を増やす必要性を感じている職員は少なかったように思います。

写真右上から3番目>大垣 弥生(Yayoi Ogaki)氏 奈良県生駒市広報広聴課 課長 / 広報と都市ブランドを担当。住宅都市である生駒をどのような切り口で編集し、ブランディングしていくかを模索している。市民をはじめとするステークホルダーと一緒に地域の中のエネルギーを高めながら、将来都市像である「自分らしく輝けるまち・生駒」の実現に向けて「住む」だけでない暮らしの価値を高める取り組みを進めている。
写真右上から3番目> 大垣 弥生(Yayoi Ogaki)氏 奈良県生駒市広報広聴課 課長 / 広報と都市ブランドを担当。住宅都市である生駒をどのような切り口で編集し、ブランディングしていくかを模索している。市民をはじめとするステークホルダーと一緒に地域の中のエネルギーを高めながら、将来都市像である「自分らしく輝けるまち・生駒」の実現に向けて「住む」だけでない暮らしの価値を高める取り組みを進めている。

大垣:最初は従来通り、アクセスの良さ、定評のある子育てと教育施策、豊かな自然環境の3つをPR素材にして、転入促進を目標にしていました。ですが、大阪の人に大阪に近いことを訴求したり、他の自治体と大きな差のない行政施策を発信したりしても、それだけでは人の気持ちを動かせないし、何よりまちづくりを進めることができないことに気づいたんです。

まちの人たちが、まちを知り、まちと関わりを深める中で、生駒ならではの場所や活動を増やしていこうとプロモーションの方向性を改め、まずは生駒の人が多様な視点で地域を発信できる手段として、市民PRチーム『いこまち宣伝部』を立ち上げました。その他にも多くの事業を実施していますが、軸になっているのはやりたいことを応援し合える人間関係をつくることだと思っています。

寛容性や多様性を共有し、まちの「らしさ」を伝える

藤川氏(以下、敬称略):尼崎市役所職員の藤川です。私も尼崎を好きな人を増やすということで取り組んでいますが、尼崎も観光のまちではなく、日常生活都市という位置付けになるんですね。

写真右上から2番目>藤川 明美(Akemi Fujikawa)氏 兵庫県尼崎市役所 広報課課長 / 広報とシティプロモーションを担当。平成24年(2012年)から尼崎市がシティプロモーションを開始して以降、藤川氏は平成27年(2015年)から参画。魅力があふれる尼崎をどれだけ好きな人を増やしていくかを大きなテーマとして取り組む中、外向けのPRよりも地域内の魅力のブラッシュアップに力を注いでいる。
写真右上から2番目> 藤川 明美(Akemi Fujikawa)氏 兵庫県尼崎市役所 広報課課長 / 広報とシティプロモーションを担当。平成24年(2012年)から尼崎市がシティプロモーションを開始して以降、藤川氏は平成27年(2015年)から参画。魅力があふれる尼崎をどれだけ好きな人を増やしていくかを大きなテーマとして取り組む中、外向けのPRよりも地域内の魅力のブラッシュアップに力を注いでいる。

藤川:でも実は尼崎には魅力がいっぱいあって、例えば、阪神工業地帯の中心地で産業が活性化しており、地域から出稼ぎ労働者を受け入れてきたまちなので、人に対しての優しさがあるように、まち全体に寛容性や多様性があるんです。

尼崎の魅力を共有するためには、まず尼崎に足を運んでもらうことが必要だと思っています。シティプロモーションの部署を立ち上げたときに、『あまらぶ探検隊』という尼崎を知ってもらうツアーを行って市外から尼崎に来てもらうきっかけを創り出していました。

他にもプロモーションのために『尼ノ國(あまのくに) 』というサイトを立ち上げて、尼崎の人を紹介しています。尼崎で活動することや、そこで暮らすことはどんなことなのかをストーリーを通して読み取っていただけるだけでなく、人を通じて「尼崎らしさ」が伝わるような取り組みを行っています。

北見:なるほど、『尼ノ國』は人を通じてということですが、先ほど大垣さんの紹介されていた『いこまち宣伝部』とも共通しているのは、地域の「ヒト」を出されていることだと思います。続きまして松下さん、お願いできますか?

震災を起点に生まれたことを伝え、まちは人のなかにある姿を大切にする

松下氏(以下、敬称略):私は神戸市役所の広報課に5年間という任期付きの職員として在籍していましたが、市役所の広報って、市民が困った時しか頼らない形になっていて、市民と行政の想いがマッチングしないことが多く、市民の心を同じベクトルに向けていく難しさを痛感していました。

写真右上から1番目>松下 麻理(Mari Matsusita)氏 一般財団法人神戸観光局 神戸フィルムオフィス代表 / 2010年から2015年まで神戸市役所広報課で広報専門分野に携わる。その後、外郭団体の神戸観光局でシティプロモーションとフィルムコミッションを担当し、誘致・支援に携わる。人口の多い神戸は多彩で地域愛も強く、様々な地域課題がある中で周辺区域の地域を思う気持ちをつなげる取り組みに力を注ぐ中、2015年にシビックプライドの旗印となる『BE KOBE』を立ち上げる。
写真右上から1番目> 松下 麻理(Mari Matsusita)氏 一般財団法人神戸観光局 神戸フィルムオフィス代表 / 2010年から2015年まで神戸市役所広報課で広報専門分野に携わる。その後、外郭団体の神戸観光局でシティプロモーションとフィルムコミッションを担当し、誘致・支援に携わる。人口の多い神戸は多彩で地域愛も強く、様々な地域課題がある中で周辺区域の地域を思う気持ちをつなげる取り組みに力を注ぐ中、2015年にシビックプライドの旗印となる『BE KOBE』を立ち上げる。

松下:私の市役所の任期の最後に当たる年が、阪神淡路大震災から20年という節目で。悲しい震災ではありましたが、実は、そこを起点として生まれたことがたくさんあったので、これらを伝えていけば「神戸の人たちってすごいよね」って当事者(神戸市の人たち自身)も自信が持てるんじゃないかと思ったんです。

特に大事にしたのは、紹介方法で。当時の震災を知る人たちに偏ってフォーカスすると、辛いことや大変だった内容ばかりになるので、震災を知らない若い人たちは実感が沸かなくなります。だからこそ、若い人たちでも理解できるように、あえて「神戸の人たちはこのように活動しなければいけないよね」と、紹介するようにしました。

そんな言葉を包括するような旗印のようなマークを創ろうというということで、「神戸は人のなかにある」というスローガンを掲げ、『BE KOBE』を立ち上げました。

多様性のある、まちの魅力を一つにまとめられないのも、そのまちの “らしさ” 

北見:ありがとうございます。さて、今日のセッションテーマにもある「編集」について登壇者の皆さんにお話を伺ってみたいと思いますが、まずは大垣さんいかがでしょうか?

大垣:地域の「編集」とは「ある基準に基づく地域情報をピックアップして、まちの未来をつくること」だと思います。例えば、尼崎も生駒も「人」を前面に出していることは同じですが、どなたのどんな暮らし方を紹介するかの基準は違うような気がします。

松下さんの話を聞いて思ったのは、生駒や尼崎は、まち “らしさ” をどのように創り、都市イメージを変えていくかを考えているけれど、神戸は、神戸で暮らす人の気持ちをどう一つにするかを考えていらっしゃったのではないでしょうか。『BE KOBE』で一つになった気持ちを、どのようにまちのイメージと結びつけていかれたのかを知りたいです。

松下:神戸の場合は、私たちが「こういうのが神戸の魅力だよね」と言っても、神戸の人は「いや、そうではない」と言うんですよね。

神戸の人たちには、それぞれ自分の好きな神戸があるので、「海」や「山」、「文化」と何かを限定して神戸の魅力ですと発信できないこともあって、あなたの好きな神戸であってくださいという、ふわっとした表現を広めています。

藤川:私が思うのは、編集って狭い範囲と大きな範囲があるということで。私の仕事で言うと、尼崎らしさを色んな媒体を活用して市民の皆さんにお伝えし、まちの状況を変えていけるのが「編集」だと思っています。

“尼崎らしさ” をどう伝えていくのかが大きなテーマですね。その中でこれまでいろいろと試行錯誤してきました。特に最初の頃は “尼崎らしさ” を一つにまとめないといけないと考えていましたが、まちの魅力の一つに「多様性」があると分かってからは、一つにまとめられないのも尼崎らしさなのかなと思います。

行政は、まちの人それぞれが思う魅力を取りまとめるのが大きな役割

北見:なるほど。 “地域らしさ” をどう出していくというのは、大きなポイントだと思うんですが、例えば企業だと、まずブランドという世界観を創った上で発信をしていきますよね。

しかしお話を伺っていると、行政の場合は、自分たちで世界観を決めるのではなく、世界観の要素となるものをまとめ上げていくことなのかなと思うのですが、この辺り大垣さんはどう思われますか?

大垣:そうですね。行政に “地域らしさ” を定義づけることはできないと思います。地域に想いを寄せている方々の気持ちや活動が集まったものがまちなので、行政の役割はそれを一つにまとめていくことだと思うんです。松下さんはどうでしょうか?

松下:私は、神戸の人が当たり前にやっていることが、実は地域外では知られていないことが多いので、そのような事実を積み上げて発信していく必要があると思っています。それが結果として、 “神戸らしさ” が伝わることにつながっていくと思うんですよね。

藤川:私は、まちの魅力って一言では言い表せないと思っています。実際に住んでいる人たちは、その魅力になかなか気づかないし、人それぞれまちの魅力の捉え方は違うので、松下さんの言うように、町の魅力を積み上げてまとめて編集して、地域内外に情報発信していくことが大事だと思っています。

地域それぞれにある面白さや寛容さを大事にすることが、まちの “らしさ” につながる

北見:魅力がありすぎると伝えるときに、どう相手に伝わるかがコントロールしづらく、難しいとも思います。地域ごとにいろんな考え方があると思いますし、そこが “らしさ” に繋がっていくのではないかとも感じているのですが、伝え方で気をつけていることはありますか?

大垣:私、尼崎の『尼ノ國 』を見ながら、タワマンができるなど開発が進む駅前をプロモーションしていないことこそが、尼崎の一つの戦略だと思っていて。(笑)

どうすれば “地域らしさ” を伝えられるかを考えたいと思う一方で、 すべての活動を発信できるわけはないので、その辺りに私自身ジレンマを感じています。なのでお二人がどのように市として発信するものを選んでおられるかは、私も知りたいです。

藤川:私は、“尼崎らしさ” にこだわってサイトを作っています。例えば、他の地域のプロモーションサイトも拝見していて、職員同士でよく「こんな発信ができたらいいよね」と話すこともありますが、最終的には「他の地域と同じことをやっていては市民の皆さんに共感いただけないので違うよね」と落ち着きます。

尼崎を一言で言ってもいろんな側面があって多様なまちなので、どの部分を切り出すかという時には、他のまちにはない面白さや寛容さ、そして変わったことでもやりたいことにこだわり活動をしている人が尼崎を支えていることを大事にして発信しています。

北見:多様性・ディープという言葉がこれまでもたくさん出てきましたが、尼崎には、いろんなことに挑戦できて、変わった活動でも「おもしろい」と評価してくれる土壌がある。(実際に住んでみないと分からない部分もあると思いますが、)尼崎はそんな土地柄であることを伝えているのでしょうか?

藤川:そうですね。実は市外から来て活動されている人たちも結構たくさんいまして。私も「みんなのサマーセミナー *2 」という学びのイベントを行っているんですが、市外からの参加も大歓迎で、実際に実行委員の3分の1ぐらいは市外の方なんです。

このように「市外の方でもいいじゃないか」と誰も否定しない。そんなことができるのが “尼崎らしさ” ではないかと思います。

*2 みんなのサマーセミナー
尼崎市で毎年8月に開催されている学校ごっこのイベント。愛知サマーセミナーをお手本にしている(Wikipediaより)

草々

Editor's Note

編集後記

地域の良さって、思っている部分が人それぞれ違っていて決めつけることはできないんですよね。行政はその取りまとめをする役割ではありますが、苦労されている地域も多くあると思います。

あのまちの魅力は一つに捕らわれるのではなく、人それぞれが思うまちの良さを大切にすることであり、それをみんなが認め合って共有することなのだと思います。

自分も地域を伝える側として、地域目線で見たまちの魅力をどうまとめて伝える大切さを改めて知ったセッションでした。

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