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「個人、地域の枠を超えて、地域経済を動かすシーンをともに創る。」という思いを掲げ、あらゆる業界、地域を超えた地域経済活性化カンファレンス「SHERE by WHERE」。いつの時代も地域のヒト・モノ・コトをよりよくするために奮闘する人たちの存在は欠かせません。
第2回目の「SHARE by WHERE」も、完全オンラインにて、日本各地30箇所以上の地域から、第一線で活躍する方々が70名以上集まりました。
中でも本記事では、「行政における外部人材の登用」について、小紫 雅史氏(奈良県生駒市 市長)、加藤 年紀氏(株式会社ホルグ代表取締役/生駒市役所職員)、多名部 重則氏(神戸市 広報戦略部長兼広報官)、蒲原 大輔氏(サイボウズ株式会社)のトークをお届けします。
行政組織に専門性を持った外部人材を積極的に採用し、プロパー人材もプロフェッショナル人材(外部人材)も互いのスキルを活かし合い、次につながる成果を生み出すためには、どのような環境整備や人事戦略が必要なのでしょうか。
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蒲原:参加者の方からの質問が届いています。“受け入れる行政の受け皿・体制づくりが大事だと思いますが、どんなことを意識されていますか?” 。
加藤:僕は孤独にさせない配慮が大事だなと思っていて。僕が生駒市に入った時、ちょうど同じタイミングで、内部で活躍し周りからの信頼も厚い方が人事課に配属されたんですよね。係長たちは元々人事に詳しい方も多いので、内部を熟知している人と外部の視点を持ち合わせている人や、年齢層など含めてすごくバランスがいいんです。内部でもポジティブに現状を変えようとしている人がいる反面、人事は守りの要素も強いので、しっかりと守りを固める人もいる。その上で、僕みたいに好き勝手言える人がいるという、受け入れ先の配慮がされています。
加藤:あとは、設計を実務レベルで任せることは意外と大事かなと思っています。今、僕には人事制度担当官という役職がついているんですけど、これは平社員なんですよね。この役職で何ができるかというと、実務ができることなんだと思うんですね。役所の方たちは、(外部人材を)うまく組織に馴染ませようとしてくれるので、外部から入ったときに実務を握りにいくことも大事だし、役所も勇気を持って実務を任せていくことが大事かなと思いますね。
小紫:実務を握るってなかなか面白いですね。
加藤:実務を握っている人は役所の中でも強いかなと。課長よりも係長の方が実務は詳しかったりするので、課長よりも実務を握っている(状況がある)のが民間とは違う大きな特徴だと思っています。その上でも、外部人材は実務を握りにいくことを意識をしたほうがいいと思いますね。
もう一つあるのは、成果を効率よく短時間で出すためには、週5日で働く人材を採らないほうがいいかなと思い始めています。週5日働くとなると、完全に上下関係の色が強くなる気がしていて、週1、2日くらいで好き勝手やらせてもらえる状況の方が、元々期待されていた成果を出しやすい傾向にあると感じています。管理職であれば話は別ですが、長期的な観点でスペシャリストを入れるのであれば、週3くらいに抑えることで、結果的にルーチンをまわす必要がなくなり、本当に期待していることをやってくれるんじゃないかなって思います。
小紫:イノベーションとかクリエイティビティを求めて採用している人にはなるべくそのような業務に専念できる環境を整えたいと思っていますが、常勤職員になり、役職も上がっていくと、管理職になって議会対応が必要になるなど、実務から完全に無縁のポストを用意するのが難しいという状況もあります。この辺りをどう考えるかは、大きな課題だと思いますね。
小紫:私は、通訳者となるような職員をプロパー職員と外部人材(プロフェッショナル人材)の間に配置するように意識しています。外部人材を孤独にせず、活躍しやすい環境を整えてあげる職員です。
外部人材の採用目的で重要なことの一つとして、外部人材から刺激を受けてプロパー職員が成長することがあると思います。プロパー職員でもリーダーシップやイノベーションをしっかり発揮できる職員も少なくありません。外部人材から刺激を受けてどんどん伸びていくような人材を通訳者として配置していけたらと思いますね。
蒲原:受け入れた人材が活躍できる体制づくりがあると思いますが、神戸市で土台づくりをする際に意識されたことはありますでしょうか。
多名部:非常勤で実務を握れるのは、外部人材では極めて上手くいっているケースだと思います。非常勤はアドバイザー的な立場にいるので、一番プロパー職員と対立しやすい立場にあるんですよね。
私の採用した7人は、全員フルタイムの任期付き常勤職員なんです。全員、副業すらダメで前職の仕事も辞めていただいて、とにかく全部やってもらっています。係長とか課長と同じく、議会の答弁案を作成するのはプロパー職員の重要な仕事です。結構難しいんですよね。ですが、答弁案の作成も外部人材にやってもらいました。
多名部:フルタイムで入ったときは、お客様扱いせずに完全にいち職員の代替として機能してもらうことが大事なんじゃないかなと思っています。そこまでやれれば、下に担当者をつけられるんですよね。しっかりやってくれる外部人材の係長がいるから、本当の実務が支えていきますよという形ができたのは面白いなと思います。
一方、ほとんどの方が、任期を満了する頃には完全に市役所の職員になってしまいます。でもそのまま市職員になってほしいとは思っていません。だから、面接のときには「基本的には神戸市役所でのキャリアを元に、次のキャリアに進む人しか採用しません」とお伝えしてします。
蒲原:皆さんのお話をお聞きしていると、外部人材とプロパー職員の融和というか、両者が良い効果を及ぼし合う関係性づくりがポイントになってくると思うんですが、生駒市では2021年4月から7名外部人材が入ってくると思います。小紫市長の目線から見て感じているところはありますか。
小紫:外部人材の受け入れに成功するかどうかは、プロパー職員にどれだけ受け入れる力があるかだと思っています。
外部人材は専門性の高い人を採用しているので、プロパー職員は専門性だけで勝負するのではなく、パブリックマインドであるとか、地元の面白い場所、ヒト、モノとか、行政の実務やルールとか、今までやってきたことがプロパー職員にはあるわけですから、そこは誇りを持ちながら、専門性や新しいことは学び、反対に外部人材に教えていくこともあるよねと。対等なパートナーとしてお互い尊重しながら付き合いをしていければいいと思います。今はまだ「黒船がきた」と構えている人もいるので、ここはこれからの課題かもしれません。
蒲原:ここで、副業に関するご質問もいただいています。“副業している職員に見られる変化や風土に対する影響はありますか?”
小紫:お金をもらうことの意味を改めて考えたり、副業で得た知識や経験を本業で活かしてくれたり、職員の自治体3.0への理解が進み、仕事やまちづくりに対してポジティブな意見が出されたりという効果はありますね。そもそも副業というよりは、地域に飛び出すことが大切なので、公務員だからお金をもらえないという変な常識を壊して、地域に飛び出しやすい環境を創りたいと思って取り組んでいます。
加藤:多名部さんにお聞きしたいんですが、これまでの話の中で、外部人材の受け入れ体制が重要なポイントとして挙がりましたが、僕自身は重要なポイントが他に2つあると思っていて、①誰を募集するのかと、②どうやって集客をするのか。難しい部分だとも思うんですが、役割の決め方、どんな人を採用できると思っていたのか、どうやって神戸市の取り組みを広めていったのかお聞きしてもいいですか。
多名部:まず「①誰を募集するのか」にお答えすると、新規ポストに外部人材を入れたほうがいいだろうと考えたのは私です。募集する新規ポストをつくるプロセスとしては、まず自分の上司に説明し、次に局長や副市長へ説明し、そのあと人事部局に話をして進めてきましたね。
「②どうやって集客するのか」については、ビズリーチ、エン・ジャパン、Wantedlyなど転職人材が登録するようなサイトに、できるだけ目立つ告知ページを掲載する形で露出していきましたね。手段を選ばず、市長のインタビューを載せたほうがいいなと思えば、取材をしてインタビュー記事を掲載するとか、吉永さんという外部人材登用の成功事例があったので、ご本人の体験談を掲載するなどしました。「このポストの募集の場合はこの方法で掲載する」といった感じで、試行錯誤しながらも(情報を)出しながら形を決めていきましたね。
多名部:今、神戸市の公式ホームページを市民が探そうと思っている情報が簡単に出てくるサイトに変えたいと思って、新しく外部人材でデータ分析や検索に詳しい外部人材・ホームページ監理官を募集しています。私自身は、新しいもの・大きく舵をきる事業に対して外部人材に来てもらうのがいいのではないかなと思いますね。
既存の仕事を外部人材にやってもらおうとすると、組織内でも「なぜあえて外部人材を入れるのか?」という反発があるので、職員に納得してもらう・外部人材にも能力を発揮してもらうためにも、何か変化のあるところにアサインするのがいいと思いますね。
応募する方にとっては常勤で勤める場合、自分の人生をかけてくるので、それに応えられるお仕事を用意しておくことが重要だと思いますね。
蒲原:多名部さんのお話を伺って、ポスト毎にPDCAを回すことや、メディアを出し分ける工夫でノウハウを貯めていることは、参加者の方にとっても参考になったと思います。
セッション時間も残りわずかになったので、最後に、役所のカルチャーを変えたいとか、人事をどうにかしたいと思っている視聴者の方に向けて、御三方からそれぞれ一言ずつメッセージをいただければと思います。
小紫:まずは、中途採用を増やしていくことが大事だと思います。自治体業務や地方創生、まちづくりに携わりたい方はたくさんいますので、採用の仕方を多様化させれば、いい人が採用できます。それが次の人材につながり、組織やまちの変革につながっていくんです。
あと、採用は、面白いポスターを制作できるから人が来るというようなことだけではなくて、今まで純粋にどういうまちづくりをしていたのか、施策を創ってきたのかという「平時の頑張り」のようなものが、採用時にも効いてくると思います。ふだん頑張っていない自治体が、単に外部人材採用と言ってもしんどいかなと。
小紫:例えば、今日のSHARE by WHEREへの登壇も採用のプロモーションという意味もあるんです。生駒市の人事政策を常にブラッシュアップし、それを発信する機会をいただく努力をしてきたからこそ、それを見た方が「生駒市は面白いな」と感じ、他の方にも話してくださり、採用にもつながっていく。そういうことの積み重ねです。あとは、民間志望とか公務員志望といった言葉・二項対立的な考え方は早く失くしたいですね。多様なキャリアが当たり前になり、新採偏重の採用も変えていければと思います。
加藤:今日、このセッションを聴いてらっしゃる方の中に、行政内で外部人材を登用したいと思っている方がいるとするなら、本当に「やったもん勝ち」だとお伝えしたいです。行政がやるからできることもあるので、僕はやらないと損だと思っています。
一方で、何が成功と失敗を分けるのかというと、そこには要因が3つあると思っていて、その3つが、①募集の役割を深堀りできているか、②集客方法ができているか、③受け入れ体制を意識してつくれているか。この3つがしっかりとできていれば、ほとんど成功できるのではないかと感じています。
多名部:民間と行政の壁が失くなりつつあると思っています。両方に籍を置きながら、似たような業務をやっておられる方も増えてくると思います。この変化を受けて、役所側も変わっていかなくてはと思いつつ、受け入れ体制の構築にもがいているのが多くの行政の現状なのではないでしょうか。お役所仕事だから、と思うのではなく、民間での経験があっても役所の仕事は経験がない方も多いので、そういう意味で行政の仕事をまずは見ていただいた上で、お互いにどんなことができるのかフラットに話し合えたらいいかなと思います。
蒲原:ありがとうございます。先進的かつ刺激的なセッションでまだまだ聞いていただい方が多いと思うんですけれども、このセッションを終わらせていただきたいと思います。みなさまご参加いただきありがとうございました。
草々
Editor's Note
外部人材を登用するにあたって、フルタイム勤務とするか、一定時間のコミットでよしとするかといった話がありましたが、登壇者皆さんの話には必ずプロパー職員と外部人材のそれぞれのキャリアアップが考慮されていることが伝わってきました。人が活きる組織はきっとどのようなことも楽しめ、物事を加速させることができると思いました。ともに働いてみたくなる、ワクワクした気持ちで終わったセッションでした。
ASUKA KUSANO
草野 明日香