JAPAN
日本全国
心身ともに良好な状態を意味する「ウェルビーイング」という言葉を、頻繁に目にするようになりました。
企業にとってのウェルビーイングは、主に健康経営の文脈で語られています。では、地域とそこで暮らす人にとってのウェルビーイングとは、どういう状態なのでしょうか?ウェルビーイングであるためには、何が必要なのでしょうか?
そこで今回は、「人口減少時代の幸福論!地域と人のウェルビーイング」と題して、島田由香氏(ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 取締役 人事総務本部長)、東修平氏(大阪府四條畷市 市長)、石山アンジュ氏(社会活動家 / 一般社団法人Public Meets Innovation)、柴田涼平氏(合同会社Staylink 共同代表)の4名のトークをお届け。
企業、パブリック、トライセクター、それぞれの視点から考えるウェルビーイングとは?
柴田氏(以下、敬称略):モデレーターを担当します、合同会社Staylinkの柴田涼平です。最初に手短に自己紹介させていただきます。2014年に大学を卒業して、友人と共に会社を興し、今7期目となりました。年齢は28歳、拠点は北海道札幌市です。宿泊観光業を営みながら、地域移住促進などの文脈を通して会社で動いております。あらゆる境界を溶かしながら分断断絶を攻略し、緩やかにし、いろんなものが繋がっていく世界観を表現したいと思い、会社を経営しております。どうぞよろしくお願いいたします。
東氏(以下、敬称略):私は大阪府の四條畷市で市長をしている東と申します。28歳から市長をやっておりまして、現在2期目です。今日、私が与えられた役割はパブリックの意味でのウェルビーイングについて語ることだと思います。私なりの視点からのお話ができたらなと思っております。
島田氏(以下、敬称略):東さんがパブリックのご視点とされているのに対して、私の方は企業や人事という立場があります。それに加えて、一人の人間として、今日のテーマである、地域と人のウェルビーイングにすごく関心があります。人口減少は、悪いことのように捉えられていますが、起こることがわかっているのですから、どんな風に進んでいくか、前向きに話せたらと思います。
石山氏(以下、敬称略):私はシェアリングエコノミーの普及促進ということで、300社以上が加盟している業界団体、シェアリングエコノミー協会を運営しています。
もう一つ、ミレニアル世代の国家公務員と弁護士と起業家が一緒になってイノベーションに特化した政策を作るというシンクタンクPublic Meets Innovationという団体の代表をさせてもらっています。
個人としては、2年前から、渋谷のど真ん中と、大分の超過疎地域の農村集落に古民家を借りて二拠点生活をしています。また、拡張家族というコンセプトで、血の繋がらない家族が100人いて、0歳から60代まで一緒に子育てや介護、仕事をする家族形態で、新しい生き方を実践しています。東さんがパブリックそして島田さんが企業というところでいうと、そこを行き来しているトライセクターで仕事をしているというような感じです。
柴田:最初に、コロナが起こる前、そしてコロナと共にという時代になった中で、ウェルビーイングという言葉を通して物事を考えると、皆様の暮らしや仕事の仕方に変化があったのかを聞いてみたいと思います。
東:私個人は、極めて定常的に仕事をしていますので、コロナになったから何かが変わったということはありません。
ただ、市民の心理状態や暮らし方は大いに変わってきていますし、時間が経つにつれて被害を受ける層も変わってきています。行政は年度で政策を動かしていく以上、その変化の速度についていきづらい側面があるからこそ、住民の皆さんのそれぞれのウェルビーイングについてアンテナを張り巡らせて、行政としてどうやってしっかり対応いくかを考えて実践する。そういう点では変化があります。
柴田:実際、迅速に対応できないもどかしさもある中で、どういう動きをされているかをもう少しだけ聞いてもいいですか。
東:例えば、市長への意見箱といった広聴の仕組みがアンテナとなって、そこから社会不安がわかります。市役所の窓口の職員が得ている情報もあります。但し、それは速報的な情報ですし、聞いたことに対応しているだけでは不十分ですから、「今不安で幸せを感じられていない部分はここのようだ」ということを踏まえた上で、来年度のことを考えているようなイメージです。経験の豊富な職員が思っていることを聞き、4年間の市長経験から私が掴めるようになったことも活かしつつ検討していますね。
柴田:タイムリーな意見も聞きつつ、同時に半年後の未来も見て、いろんな施策を進めているという感じですね。
島田:私自身のウェルビーイングは、コロナのビフォーとウィズですごく変わりました。なんで変わったかというと、在宅ベースになったからですね。
今日、皆さんにも知っておいていただいたらいいかなと思うのが、ウェルビーイングは中長期的なある一定期間、だいたい調子がいいか悪いかなので、主観的でいいんですよ。誰かとの比較とか、何かとの比較ではなくて、自分で自分のことを調子がいいと思えるかどうかなんです。
その視点でお話しすると、私の発見は、自然と触れ合うことがどれほど自分にとって大切かがわかりました。地域との交流、地域で活動することが、私には本当に重要だと明確にわかったことが良かったなと思います。
石山:1枚だけスライドをシェアさせてください。ウェルビーイングを考えるときに、豊かさの物差しを何と置くのかが非常に重要だと思っています。私は豊かさの価値感がこの図の左から右へシフトしていくべきだと、コロナ前からずっと言っているんですけれども、まさにこのコロナになって、右の重要性がすごく出てきていると考えています。
石山:たくさんの物を持っていたり、大きなものに所属していたりすることよりも、誰かとシェアできたり、複数の選択肢を持っていることが、豊かさの象徴になっていくんじゃないか。また、競争や成長ではなく、誰かのために・みんなのためにということが、豊かさに繋がっている。そういった価値観にシフトしているんじゃないかと考えています。
柴田:とてもわかりやすいスライドですね。アンジュさん自身の心の変化や、周りの変化に対する感想も聞いてみたいのですか、いかがでしょうか?
石山:そうですね、リスクと共存せざるを得ない世の中で、どうやったらサステイナブルに生きていけるのかを私個人もすごく考えました。大分の暮らしの中では、自分がもし明日病気になって働けなくなっても誰かが支えてくれる安心感や、野菜も水も電気も自給自足で企業の供給に頼らなくていい、かつここにいれば政治や経済が止まったとしても持続可能に生きていけるだろうという安心感を覚えます。こういったコモンズ的なコミュニティの重要性を感じますね。
次のディスカッションに繋がるといいなと思うところで言えば、幸せじゃない状態って、不安か、何かを疑っている状態だと私は思っているんです。未来や今が不安なのは、何かに依存しているから。そういったものを自分の中からなくしていくことで、Happyな状態になれるじゃないかなと思います。
島田:今のお話しを聞いていて、不安や心配をなくしていく方向のアプローチと、幸せを増やし、喜びをもっと感じていく方向のアプロ―チ、両方できるがいいのかなと思いました。
柴田:そうですね、両方のアプローチの視点がすごく大事だなと思いました。東さん、いかがでしょうかね。
東:豊かさが移り変わってきているというのはそうだと思うんですけど、変化という風に捉えるのが適切なんでしょうか。
東:例えば、この円の中が私たちがこれまで豊かさと捉えていたものだとしたら、私は、これ(円)が移動したんじゃなくて、大きくなったと思っています。旧来の、例えばお金が大事であるとか、大きなものに帰属したいという思いが、今でも豊かさであってもいいんだと私は思います。変化というと中身が変わったと捉えられるかもしれませんが、「それも豊かさだし、そうじゃないのも豊かさ」というように許容範囲が広がったと考えるのが、より包摂的な考え方なのかなぁと思います。
柴田:東さんは市長になられて5年目だと思います。民間から市長という道を選んで、どんな変化をご自身でもたらされてきたか、ウェルビーイングと繋がることがあればぜひ教えていただきたいのですが。
東:社会人の最初の頃は外務省に勤務していたので、マインドセットはもともとパブリックなんです。ですから、社会人になってから精神性はあんまり変わっていないと思います。
ウェルビーイングについてですが、市民それぞれが、それぞれの豊かさを享受しようと思うと、体制そのものは安定していないと駄目なんです。さっきの話に繋げると、“長”として存在する以上、私自体に波があると、体制に不安定を呼び起こすことに繋がってきてしまいます。この職においては、ウェルな状態があって、ウェルじゃない状態のときがあるんじゃなくて、ビーイングであり続けるのが理想です。何か嬉しいことがあっても、大災害があっても、定常的に仕事ができることが理想なので、そうあれることを心がけています。
柴田:ビーイングであり続けることは素晴らしいなと思います。ただ、市長としての意思決定の場面で、主観的な要素というか、東さんなりの考えで意思決定しなければならない部分もあるのかも聞いてみたいです。
東:もちろんそれはありますよね。ただ大事にしないといけないのは、私はあくまで主権者である市民に負託されているだけであって、何かを自由に決定できる権利が与えられているわけではないということです。住民がどう思っているのか、住民として嬉しくはないけど納得はできる落としどころがどこかを、絶えず見極めていくことが市長としての意思決定の基準になると思っています。
島田:私は東さんの話を聞いて、その状態が東さんにとってのウェルビーイングなんだと思うんですよね。ウェルビーイングは主観的なものだから、それでいいんだと思います。
ここでもう一つお伝えしたいのが、ウェルビーイングの切り口の一個で、SPIREという考え方です。Sはスピリチュアル、Pがフィジカル、Iがインテレクチュアル、Rがリレーショナル、Eがエモーショナルです。この5つの要素が入り混じって全体的な自分の良い状態を作っているという考え方です。大事なのは、5つの中のどれが一番自分に影響するかを知っていることなんですよ。
涼平さんに質問したいんですけど、涼平さんにとっては、この中のどれが重要そうですか?
柴田:素敵な質問ですね。僕自身としてはリレーショナルが一番大事なのかなと思います。お互いが支えあっていることを認識できる、近くに頼れる人がいることが、すごく恵まれた幸せな状態だと個人的に思っています。
皆さんにも聞いてみたいですね。アンジュさんからお願いできますか。
石山:私は、関係性(リレーショナル)と感情(エモーショナル)かな。関係性は、「豊かさ」の価値観の変化のチャートで「繋がりが資産」と書いた通りです。感情について言うと、人は多くのものを忘れるし、出来事だって忘れちゃうんですけど、そのときに強く感じた感情というのはなかなか忘れない。その感情の積み重ねこそが人生だと思っているので、感情ってとっても大事なものだと思いますね。
東:私はS(スピリチュアル)ですね。東洋の人間は、天に規範があります。西郷隆盛が言う「敬天愛人」の天ですあるいは、川の流れや山といった存在や現象。こうした包摂的な全体としてのあり方だけが、自分のウェルビーイングに関係するんだろうなと。
島田:私はS(スピリチュアル)とR(リレーショナル)かなと思っていて、Sはさっき申し上げた自然ですね。大自然の豊かさみたいなものを感じるときにすごいエネルギーをもらうんですよね。Rは皆さんもおっしゃられたけど、やっぱり人生って出会いしかないなと思って。人との出逢いだけではなくて、本やアイデアとの出会いもあるし、そこから生まれてくる0が1どころか、もっともっと広がっていく感覚に実はスピリチュアルを感じるんですよね。なので、このSとRが私にはすごく大事ですね。
草々
Editor's Note
前回の SHARE by WHERE で島田さんの大ファンになってしまい、今回のセッションも担当させていただきました。COOのセッションで名モデレーターぶりを発揮しておられた東さんが、今度はスピーカーに。石山さん、柴田さんとどんな話が展開されるのか、楽しみにしていたところ、予想以上に白熱しています。
島田さんが紹介してくださった SPIRE では、自分は S と I かなぁ、と思っている間に議論は後半に。益々熱い後編をお楽しみください。
FUSAKO HIRABAYASHI
ひらばやし ふさこ