NAGANO
長野
「高校生の頃からずっと、保健師になりたかったんです」
そう語るのは、2年前に信州大学ローカル・イノベーター養成コースを卒業し、現在は長野県塩尻市役所で保健師として働く田口真生さん。地域で暮らす人々と向き合いながら、いつも自分らしい関わり方を選んできました。
生まれ育ったまちで学び、夢を叶えた田口さん。
「どの地域で働くか」は、元々はあまり意識していなかったといいます。
やりたいことを学べる環境があり、学びを通じた出会いがあり、
つながりを持った「このまち」で生きていく。
それは田口さんにとって、とても自然な選択でした。
地域に若者が少ないーー
育った若者が、巣立っていってしまうーー
もし、アナタがそんな悩みを抱えているのなら、
“若者が夢を叶えられるまち”を、若者と共に育てていきませんか。
身体が弱かった幼少期、田口さんの身近にいる大人といえば、「お医者さん」や「看護師さん」でした。いつも側で助けてくれる存在に、大きな憧れを抱くようになったとのこと。いつか自分も「治す側」になりたいというのが、子供の頃に描いていた夢でした。
将来について具体的に考え始めたのは、高校での進路選択のとき。先生に進路相談をした際に、「本当にやりたいことって、何だ?」と問いかけられます。
「私が本当にやりたいことって、治療だっけ・・・?」
目指していたのは「治す側」。
けれど、田口さんが願うのは、皆が健康で、自分らしくイキイキと輝ける状態でした。
先生の一言にハッとして、もう一度目標を見つめ直しました。
「治療の前に、病気にならないようにすればいいじゃん。必要なのは予防じゃん!」
そんな閃きを得た田口さんは、先生に勧められた「保健師」について調べ始めます。
「先生から『保健師はどう?』って言われた時は、保健師って何?という状態でした。そこから、実際に現場を見学させてもらったり、保健師がなぜ必要なのかを調べたりしました。
その中で、地域の人の病気を未然に防ぎ、治療に行かなくてすむように、健康でいられるように支える仕事だと知って。『これだ!』ってビビッときて、保健師を目指すようになりました」
そうして田口さんが入学したのは、信州大学 医学部 保健学科。看護学を専攻し、保健師を目指しました。入学当初は、病気や解剖に関する授業ばかり。
「やりたいことって、本当にこれだったっけ」と、モヤモヤした時期もあったそうです。
「もっと地域に出て、実際に経験を積みたい」
そう考えた田口さんが選んだのは、「ローカル・イノベーター養成コース」でした。
ローカル・イノベーター養成コースは、信州大学の独自プログラム。意欲のある学生に対して、所属する学部での専門分野を超えた学習機会を提供しています。地域の課題解決やイベント運営など、様々な学部の学生たちでチームを組み、地域に入ってフィールドワークを行う実践型の学びの場です。(詳細はこちら)
「今思えば、大学1年生が地域課題の背景を探って、改善策を提案するなんて、なんて無茶ぶりだろうって思います(笑)。最初は、一人で考えることがすごく難しかったですね。とりあえず自分で考えなきゃとは思うんですが、何がわからないのかもわからなくて。わからないから助けてって言うのが、すごく苦しかったです」
地域も関わる実践の課題は、とてもタイトなスケジュール。切羽詰まった田口さんは、自分で解決できない心苦しさを感じながらも、周囲に助けを求めることにしました。
「もう、考えている時間がない。何がわからないかもわからないから、一緒に考えてくれる?って、チームメンバーに相談しました。先生や上級生もサポーターで入ってくれて、一緒に考えながら進めることができました。
まずは地域のプロジェクトに携わる当事者の一人として、主体的に動いてみようという気持ちにさせる意図が、先生達にはあったんじゃないかなって今は思います」
助けを求めることが出来たときの気持ちを問うと、「スッキリしました!」と晴れやかな表情で答えてくれた田口さん。
「あの頃、自分の考えを人に伝える力を、すごく学べたという実感があります。現在は保健師として、どういった場合にどのような方法で伝えるのがベストか考えて、形にすることができています。学生時代にたくさんの実践経験を積めたからこそ、鍛えられたと感じています」
最初こそ難しさを感じていた、ローカル・イノベーター養成コース。しかし、そこで育んだ「伝える力」は、田口さんのかけがえのない強みとなりました。
大学を卒業後、田口さんが就職先に選んだのは、学生時代から何度も足を運んだ塩尻市役所でした。そのきっかけとなったのは、ローカル・イノベーター養成コースで出会った、地域との深い関わりです。
「私が授業で一番最初に携わったのが、塩尻市北部交流センター『えんてらす』でした。何度も施設に通って地域の方のお話を聞きながら調査を重ねていくうちに、自然と卒業後も塩尻市で働きたいと考えるようになりました」
田口さんが学生時代に作成した『えんてらす』のボードは、今も飾られているそうです。その内容は実際に事業として継続されており、今では当時関わっていた職員の方と、一緒に仕事をする機会もあるといいます。
「『実はこのボード私が作ったんです』ってお話をしたら、今どんな風に進んでいるのか、教えてくださったりして。
授業で関わった場所がそのまま就職先になったことで、ただ市役所に入るだけでは得られなかった関係性が築けていると感じます」
学びのなかで育んだ関係性は、就職後も田口さんを支え続けています。では実際に、保健師としてどのように地域と向き合っているのでしょうか。
田口さんが1年目に担当することになった地区は、高齢化が目立つ地域。独居の高齢者も少なくありません。公務員の仕事としての制約も大きい中で、どうすれば自分の思いを実現できるのか、考えるようになったと語ります。
「つながりの場を増やせる1年にしたいと思って、地域の方が参加できる講座をたくさん行いました。講師は、地区の人にお願いしました。そうすれば、講師の人にとっても地区やサークルのPRになり、つながりが広がります。
さらに他の地区と合同で行えば、地区を超えたつながりもできる。こうした企画は、ひとりではなくて、同期や課の同僚など、周囲を巻き込んで広めていきました。私自身がお願いすることもありますが、周りからも『やろうよ!』と声をかけてもらっています。結構みなさん、ノリがいいんです」
日々のつながりができているからこそ、支え合える関係性ができている様子が伺えました。周囲を巻き込んで成し遂げる力は、学生時代の経験が大きな土台になっているといいます。
「関心を持ってもらうためには、ただ『こうしよう』じゃなくて、『これって何のためにやってるんだっけ?』と立ち返ることが大切だと、学生時代に学びました。
ゴールに向かっていると、どうしても流れでやってしまうことがあるんですけど、1回少し戻って、目的を意識して、もう一度筋道を立てていく。そこが集団へのアプローチへの鍵だと考えています。
そのように自分が考えた目的を周りの人に共有しながら一緒に進めることは、授業でも何度も経験していたので、今の仕事にも活きていると感じます」
それでは、集団に対するアプローチと並行して、個々の人に対してはどのような関わりをしているのでしょうか。保健師としての日々についても、お話を伺いました。
「健康って大切だけど、日常の優先順位としては、どうしても低いんです」
少し困ったような笑顔で、田口さんは日々の保健師の仕事について語ります。
「健康を意識して生活している人が少ない中で、健康へもっと関心を持ってもらうためには、なぜ必要なのかを伝えることがとても重要です。相手とコミュニケーションをとりながら、相談するようにしています」
保健師として働き始めて2年、小さな夢が叶った出来事を教えてくれました。 1年目に指導を担当した地域の方が、翌年も訪れ、こんなやりとりをしたそうです。
「『あなたのおかげで頑張ろうと思って、いろいろ取り組んでみたのよ』って言ってくださって。 健康になりたいという強い意志はなかったかもしれないけれど、わたしに褒められたくて、頑張ってくださったような様子でした。そして、またここに来てくれたんだなと思うとうれしかったです。その方の生活が健康に向いたんだなと、やっていることが少しだけ実を結んだように感じました」
一体どのようにして健康を意識してもらっているのかを伺ったところ、面白い答えが返ってきました。
「本当は、もっと健康の話をしなきゃいけないんですけど、ずーっとアイスの話をしていることもあります(笑)。ハーゲンダッツって、コンビニで買うと一回り大きいんですって。あ、ハーゲンダッツじゃなくて、パルムだったかな」
話題は取るに足らないアイスの話。けれどそのエピソードを語る田口さんの、「本当にうれしくてたまらない」といった様子につられて、周囲にも笑い声の連鎖が広がっていきました。
「まずは、コンビニで買うのはやめましょうか?って相談をしました。でもパルムは美味しいので、スーパーで売ってる6個入りのを1個だけ食べましょうって。
一方通行にならないように、その人にとって何が大切で、どこなら変えられるのか。そして、その人にとっての幸せがどこにあるのか。お相手を少しでも理解できるように、コミュニケーションをとっています。
周りからは、『何の話してるんだ?』って思われているかもしれないんですけどね(笑)」
相手に対しても、自分に対しても、「どうなりたい?」と日々問いかける田口さん。 何から始めたらいいのか悩んだときは、まずはスモールステップで取り組むようにしているそうです。
改めて田口さんに、学生時代に学べてよかったことについて伺いました。
「『健康』って、それだけで何かするのは難しい分野だと思います。ローカル・イノベーター養成コースで、様々な学部の受講生たちと一緒に学んだことで、色んな分野と共同していくことの重要性に気付きました。
いきなり地域に出て、自分で考えて主体的に動いていくことは、やっぱり学生には無理があったと思います。だけど学生なので、ちゃんとサポートをしてくれる人がいる。『とりあえずやってみよう』と行動できる機会はとても貴重でした。
学びを収穫してから、社会人として地域に飛び込んでいけたことは、とても大きかったと思います。集団に対するアプローチと、個々に対するアプローチを自分で考えて実行できるところは、『保健師らしくない強みだよね』って上司からも言ってもらえます」
地域で学んだ若者が、そのまちで働き、誰かの力になっていく。
田口さんの姿は、“育てた学び”が、まちで生きる力になることを教えてくれます。
若者の挑戦と学びが、まちの未来を育てていく——
その循環をつくる教育こそが、地域の未来を形づくる鍵になるのではないでしょうか。
本記事はインタビューライター養成講座受講生が執筆いたしました。
Information
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Editor's Note
田口さんが楽しそうだから、こっちも楽しくなってしまう。褒められたくてがんばってしまう地域の方々の気持ちが、なんだかわかるような気がします。 相手の想いを大切にするやさしい関わり方が、周りもイキイキとさせる力なんだと感じました。「本当にやりたいこと」について、改めて自分自身に問い直してみませんか。
MIO
mio