副業
※こちらのレポートは2023年2月にパーソルキャリア株式会社が提供する、副業・フリーランス人材 マッチングプラットフォーム「HiPro Direct」が主催した「副業フェス2023」のトークセッションをまとめています。
本業のほかに自分の強みを活かすための「副業」という概念が世の中に浸透し、多様な働き方を選択する人が増えています。
同時に「副業人材と一緒に仕事をしたい」という企業も増えており、その流れはスタートアップにとどまらず大企業の中でも起こっています。
今回のトークセッションでは、大手企業に所属し、副業人材と共にプロジェクト推進をする2名が登壇。「大企業における、副業人材活用のリアル」をテーマに求められる人材や、大手企業に副業で関わる実態など、企業側の視点から副業人材についてのトークを繰り広げました。
大企業への転職ではなく、副業としてチームで働く。そんな新たな選択肢、企業視点でのリアルとはーー。
大里真一朗氏(モデレーター/以下、敬称略):まずは、企業側から見た副業人材についてお伺いします。実際に大企業がどのように副業人材を活用しているのかを聞いてみたいです。
尾田識史氏(以下、敬称略):私自身は、研究者とコンサルティングの2足のわらじで活動してきた経験を活かし、現在は社会課題を解決する自社サービス創出事業の推進をしており、そこでエンジニアや研究者などを束ねるプロジェクトリーダーを担っています。
プロジェクトごとにメンバーを集めるのですが、その際に専門スキルを持つ人が社内にはなかなかいない。そんな社内人材に足りないレアなスキルを求めて、副業人材を活用しています。
尾田:たとえば海外市場を目指すときに、社内でデータを集めることはできますが、海外のリアルな情報を補完するのは難しい。そこで、海外在住の経験者を副業人材として迎え入れるというイメージです。
大里:尾田さんのプロジェクトでは、すでに副業人材を多く活用している印象ですが、副業人材の活用はいつから始めたんですか?
尾田:約2年前ですね。最初は副業人材を受け入れることに不安を感じていました。しかし、私たち(社内)が知っている分野と、副業人材(社外)が知っている分野が違うので、違う視点からの意見がとても新鮮に感じ、副業人材を積極的に取り入れるようになりました。
尾田:実際に副業人材を活用してみると、もともと期待していた違う視点を取り入れるだけでなく、みなさん年齢や世代がバラバラなので、さまざまな視点から内部では出にくい意見もいただけたのがよかったと思います。最初にお会いした方とは今でも契約が続いていますね。
大里:1人の方が副業人材の活用のきっかけだったんですね。
尾田:そのプロジェクトの成功が社内でも話題になって、社内全体で一気に副業人材に活躍してもらおうという空気が広がりました。
飛松健太郎氏(以下、敬称略):私は現在、虎ノ門ヒルズにある大企業の新規事業立ち上げ拠点「ARCH」の責任者を務めています。「ARCH」は、日本で初めて大企業の新規事業に特化した施設。既存事業が多い大企業の中でも「新規事業」に特化し、企業同士でアイデアを出し合い共同で事業を推進するというものです。
飛松:現在は119社、169プロジェクトが動いています。それぞれの企業に足りないピースをいかにコミュニティの中でつなぎ合わせるか、企業ごとの課題や技術の強みを考えるフェーズで、副業人材の活用がキーになってきます。
大里:尾田さんからは「自社の新規事業推進における副業人材の活用」を、飛松さんからは「誘致企業がどのように副業人材を活用しているのか」を、それぞれの視点でお話しいただけそうですね。
大里:事業やプロジェクトの中で副業人材を活用する方法があると思うので、それぞれお伺いします。
尾田さんは、事前に質問させていただいた「ズバリ!副業人材活用の意義とは!」という質問に対して、「新しい挑戦へのハードルがぐっと下がる!」とご回答いただいていますが、詳しく教えていただけますか?
尾田:以前、上司から新たな事業推進の打診がきたときに、社内にできる人がいなくてプロジェクトに反対したことがあるんです。けど上司からは「ぜひやりたい」と押し返されたので「どうしようか」と困っていました。
そんなときに「フリーランスの方に聞いてみよう」と思ったのが、副業人材と関わるようになったきっかけです。正直、最初は不安でしたが、大きな成果が生まれたことで、社内でも副業人材を迎え入れることに前向きになりました。
本人(副業人材)にとっては簡単なスキルであっても、社内ではできる人がいなかったので、レアで貴重な存在だったんです。
大里:尾田さんの相談がきっかけだったのですね。個人の視点からすると、いきなり大企業のプロジェクトに入るのは難易度が高く勇気が必要かと思いますが、受け入れ側として気をつけていることはありますか?
尾田:まず「作業をたくさん依頼することはやめよう」と意識しています。本業をしている方なので、量よりも社内にはないスキルで私たちが絶対にできない部分をやっていただくことに絞ってお願いしていますね。
尾田:「たくさん作業をしてほしい」ではなく、「我々にはないスキルや視点を提供いただきたい」ということです。なので、相手にはないスキルをお持ちの副業人材の方には、どんどん主張していただきたいですね。
大里:一部だけの関わりであっても、チームとして一緒に作っていくというイメージですね。
尾田:そうですね。私たちの提案書には、副業の方の顔写真ものせて「こういうメンバーでやっています」とお伝えします。副業の方も一緒に巻き込んで覚悟してやっていますね。
大里:飛松さんは、「ズバリ!副業人材活用の意義とは!」という質問に対して「新たな『視点』『視座』『視野』が手に入る」とお答えいただいていますが、具体的にはどういうことでしょうか?
飛松:大企業の新規事業部署は、「自社の強み」と「世の中のトレンド」と「社会課題」のかけ合わせが大切です。新たな事業を立ち上げる時には、まず「自社の強み」を知るところからはじまりますが、意外と自分自身の強みはわかりにくいですよね。僕らの拠点「ARCH」に関わる企業さんは約120社いますが、その中の7~8割は「何をするか」という領域設定も決まっていないことが多い。
飛松:そんなときに、足りないピースや不明な部分を副業人材にヒアリングしたりすることで、助けてもらっています。さらに、最近は初期段階の「自社の強みは何か?」を考える部分から副業人材が入る場合もありますね。外部の方が入ると新しい気づきがあるので、自社社員だけじゃなく副業人材も一緒に、という空気があります。
大里:自分の強みって意外と言えないですよね。7~8割の企業はどんな事業をするか決まっていないと言われましたが、飛松さんは大企業の方にどういうエッセンスを入れて、走り出す支援を行っているんですか?
飛松:大企業側は、いかに自社のカルチャーや事業を副業人材にアウトプット(棚卸)ができるかどうかが大切になります。逆に副業人材は、そのインプットを丁寧に行わないと認識に誤解が生じてしまいます。
ときに外部からの提案に、社内では「なんで?」と違和感を覚える場合があると思いますが、それはいい気づきを得ているという証拠です。違和感が出たときは「いい気づきをもらえている」と、反論する前にグッと考えてみる。副業人材を向かい入れる側の気持ちやマインドセットも大切だと思いますね。
大里:違和感を覚えるということは、明確なフィードバックをもらえているときでもありますよね。大企業は、スタートアップよりもいっそう自前主義がありそうですが、今の飛松さんの話しを受けて尾田さんは考えるところがありますか?
尾田:大企業の人であれば、「自分の得意なことではないけど、やっている」という業務を抱える人も多いはずです。副業人材を迎え入れることによって、社内ではそれぞれができることに集中できます。できることをすることが、お互いのためにもいいんじゃないかと思いますね。
大里:臆せずに遠慮せずに歩み寄って、対等に進めていくことは大切ですね。
大里:大企業の立場として、副業人材と一緒に働く懸念はありますか?
尾田:これまでの経験上、社内で「余裕がないから」と成果物の残り半分を副業人材に依頼する、というのはしません。なぜなら、すでに半分は社内で議論を重ねていることであり、アウトプットの一貫性も重要です。だからこそ、残り半分をお願いしても望んだ結果にはならなかった過去があります。
その経験から、質や量ではなく、私たちが持っていない視点やスキルでのアウトプットが大切だと気づきました。外部の方に依頼するときは、どこの部分が自社として難しいのかを話し合って、絞り込んだ上でお願いしていますね。
大里:お互いにどういう業務を任せていくのかという、最初の設定が難しいですね。
尾田:副業人材の方にはすでに経験やスキルがあるので、私たち社内では到底わからない部分を話し合いながら、要件を決めるのがいいですね。
尾田:違う視点を社内に提案するということなので、副業を探す際には、本業の業界とは離れた業界の方が価値は出しやすいかもしれません。転職では難しいかもしれませんが、副業では「スキルや経験、社内にはない考え」が大切になってくるので。
大里:自分にとっての当たり前が、実は企業にとっては新鮮だったりするってことですね。飛松さんは、副業の方との関わり方の懸念として「チームビルディング」と答えていらっしゃいますね。
飛松:副業人材を活用するには、タスクをきれいに分担して依頼するのが効率のいい方法だと思うのですが、新規事業の場合は何もないところからのスタートです。ミッションやビジョンの再考からスタートするので、役割分担をきれいにして進めると世界観が固まりすぎてしまい、違う視点での意見が出にくくなってしまいます。
飛松:新規事業のフェーズにおいて、外部の人は業務だけではなく、チームで一緒に社会課題や挑戦をする、所属元は関係ないという気持ちでやるのが大切かと思いますね。
大里:プロジェクトをはじめる際には、とくに世界観を共有することが大切だと思いますが、副業人材を選ぶ時のポイントや基準、企業側から見ている視点はありますか?
飛松:企業によると思いますが、能力を見るのはもちろん、0から1を作る事業であれば、コミュニケーションも大事だと私は思います。副業であっても、「一緒に働きたいか?」という部分を見ています。
大里:業務委託や副業であっても結局転職と変わらなくて、「一緒に働きたいか」や「価値観が合うかどうか」という共有の軸がありそうですね。
飛松:コミュニケーションや価値観も大切だと思っているので、誰かの紹介がよいかもしれません。「HiPro Direct(企業と副業・フリーランス人材をつなぐマッチングプラットフォームサービス)」のようなエージェントを使うと面談も実施できるので、面談を通じて能力だけでなく、一緒に働きたいかどうかを考えたいです。
大里:今後、副業人材とどんなチャレンジをしていきたいですか?
尾田:レアなスキルをもった人材を集めてチームを強化したいです。相手をリスペクトできるかどうかの関係性を築いて、社内にはない考えや視点、レアなスキルをもった方を集めてチームを作ることを今後もやっていきたいですね。
大里:様々な考えやスキルを持つチームでは、新しいビジネスチャンスが生まれるかもしれませんよね。
尾田:同じ属性の人と議論を重ねても同じ結論しか出ないので。新しい化学反応を起こすために、いろんな人と議論を交わしたいです。
飛松:私は「意思決定デザインを変革させる」ことにチャレンジしたいです。現在、一般的な会社では、現場から上層部へ承認を上げるフローが通常です。ですが新規事業ともなると、上層部よりも現場の方が事業や現状を分かっています。
日本の大手企業の新規事業における意思決定デザインを変革させたい。そのなかで、上層部に提案する際に、専門性にある人とともに提案することがカギになるのではと思います。
大里:ありがとうございます。最後に、今日参加しているみなさまに向けて一言お願いします。
飛松:まさにいま、私たちは経済変動の中にいます。そういった時代を変えていく中で、どんなテーマで残りの人生をかけていくのか?にそれぞれが取り組んでいくためにも、「副業」という軸はいいんじゃないかなと思います。副業の方の知見も借りながら、面白い未来を作っていきたいと思いますね。
尾田:いまは人材が豊富な一方で、不足しているスキルがあり困っているという大企業がたくさんあります。副業したいと思ったらまずはNECを頭の片隅にいれていただければ(笑)。企業側としては様々な方と関わり、社内にはないスキルや考えをどんどん持ってきてほしいと思っています。
Editor's Note
特筆したスキルや能力が必要であるイメージがあった大企業のプロジェクトでの副業。もちろんスキルも必要ですが、それ以上に「企業側にはない視点やスキルを持っている」「プロジェクトの中でチームで働く」ことを企業側が大切にしているという気づきをいただきました。違う視点からの提案をする中で、いかに企業側へかかわっていけるかが大切だと感じました。
MISAKI TAKAHASHI
髙橋 美咲