レポート
近頃では農業の未来を語るときに、6次産業化の話が必ずと言っていいほどセットで入る。一方で、6次産業というワードばかりが一人歩きしているようにも見えることもしばしば。売り上げを出さなくては、何か生み出さなくてはと、地に足がつかぬまま生産者がプランに追われているケースも多いのではいないだろうか。
「地域経済をともに創る」を合言葉に、全国の産学官の実践者たちが一堂に会する地域経済サミット「SHARE by WHERE」。今回は北海道上士幌町を舞台に、初のリアルとオンラインでのハイブリッド開催を実現。
中でも本記事は「クリエイティブに進化する6次産業の現在地」について、全国各地を舞台に第一線で活躍するプレーヤーの真実味溢れるトークをお届け。それぞれが実践の中で体験してきた「生み出すこと」のリアルが、熱く語られる。
齋藤(モデレーター):6次産業って1次産業・2次産業・3次産業の「産業の掛け算」と言われていますよね。掛け算って1つでもゼロが入っていたらつまらないですが、例えば横瀬町さんの「川とサウナ」は大ヒットの掛け算だと思っています。
田端:川とサウナは、ジビエ料理や蟹など他のテーマとセットで売っています。価格を高めに設定する代わりに満足度を最大限に高めるのでファンが多いのかもしれません。
それとは逆の話ですが、横瀬町ではプラムが採れて必ず売れるのに、年々収穫量が減っているので「今まで1kg1,500円で売っていたものを2,000円で売りましょう」と提案したケースがあります。
周囲からは「売れるわけない」と言われましたが、試しに都内で1kg2,000円で出したら即日完売だったんですよね。でもその結果を農家さんに伝えても「東京だから売れたんだよ」って反応で、結局今でも値上げはしていません。
齋藤:高く売るってすごい大事なポイントですよね。6次産業って誰でもつくれるけど、その後にどう売るかが重要なんです。
中川:日本酒は現状飽和状態で、味で日本一になるとか、本気でブランディングを極めない限り売れません。そこで僕らは地の利を生かして中国に輸出して利益を出す、逆に日本にブランディングが返るような戦略を取っています。
そのため海外向けのデザインやSNS対策等のブランディングを中国の人にお願いした結果、中国ではかなり売れてきました。
齋藤:「儲かる6次産業」もさることながら「売る」ことそのものが本当に難しいです。いろんな売り方を試しながら、売れるポジションを探ることが大事ですね。
齋藤:僕は6次産業の現在地というとアルベルゴ・ディフーゾのようなイタリア型の地域づくりが思い浮かびます。商品を買ってもらうだけでなく現地に来てもらうことが最後の掛け算じゃないでしょうか。
中川:うちは蔵元に人を呼ぶイベントをしています。酒蔵でやったビアガーデンは盛況でした。コミュニティを我々がつくって雇用を生み、地域にお金が落ちるようにして地域支援をしたいですね。
田端:横瀬町ではどぶろくをつくっていますが、うちの町でしか購入できないんです。そこでどぶろく用の田植え体験・稲刈り体験・試飲会のイベント3点セットを20名限定・19,800円で出したら即完売しました。
田植え体験の時に「せっかく来たから」と、その20人がたくさんお酒を買ってくれまして、相乗効果が期待できます。
齋藤:生産物のイベントでも、地方で完全招待制にするとすぐに席が埋まります。たぶん6次産業化の最後に行き着くところは人であり、コミュニティとか社会なんじゃないかと思うんです。
井本:例えば最近、和歌山県のOrangeというアウトドアショップが2019年に売り出したアウトドアスパイス「ほりにし」が話題で、アウトドアブームに乗って10万本以上が売れています。
ネーミングもよく日本人の味覚にも合う。万能調味料だから1本で済む。そんな情報がSNSを中心に発信され、企業コラボしてさらに売れる。そういうところに掛け算のヒントがありますよね。
齋藤:商品をつくってもそれだけじゃ全然売れなくて、売り続けなればいけないというのはありますね。東京でイベントをして広めてもらい、丁寧にファンをつくり、繋がりを続けるのも1つの戦略です。
田端:齋藤さんのこゆ財団にならい、横瀬町も地域商社を立ち上げました。株式会社ENgaWA(エンガワ)といいます。日本のお金の「円」が「輪」になり、地域経済を循環させるという意味を込めて名前をつけました。チャレンジキッチンENgaWA(エンガワ)という店もだし販売と、農家さんと連携して食材を加工し商品開発をしています。
井本:『ビジネスパーソンの新・兼業農家論』にも書きましたが、6次産業化で大事なことは「大規模にやらない」ってことなんですよ。
小規模でいいから自分たちらしいものをつくって、営業をかけて直販する。競合他社がいても、自分たちのオリジナルにどんな思いを込めたかを積み上げていけばいいんです。
山添:どんな形で「地域循環型経済」の圏域をつくっていくのでしょうか。
井本:僕自身は限界集落再生をやっていて、農業と観光をベースに事業をつくっています。基本ベースは「農村を農村のまま、懐かしい未来にする」こと。
風景としては懐かしいけど、そこでつくられるものはきちんとブランド化されていて、全国をマーケットにしてもしっかり売れるもの。そういう状況を生み出そうとしています。
井本:地域の本質的な価値は「人」だと思うんです。地域に眠る価値を見極めて、引き出すには人が必要。面白い人がどんどん生まれていくような状況をつくり、その人がまた新たな人を呼んでくる構造を生み出したい。でもその構造をつくるには理念が必要で、結局どれだけ地域にブランドデザインをつくる人間が理念を埋め込めるかが勝負です。
この理念を持っている地域は本当に少なくて、「この地域はこう仕掛けていく、なぜなら何百年経っても変わらない理念があるから」というものがもっと出来上がってくるべきなんじゃないかと思っています。
こゆ財団が成功しているのは、理念があるからですよね。
山添:こゆ財団の理念をどう作り、どう実践したのか、プロセスを知りたいです。
齋藤:アメリカで働いた後に帰国したら東日本大震災が起き、自分が海外で学んだビジネスのスキルや経験を町づくりに生かそうと、10年くらいNPOで活動をしてこゆ財団の代表に就任しました。
日本の地域の1番の課題は「チャレンジの総量が足りないこと」です。そこで「宮崎県新富町は世界一チャレンジしやすい町」というビジョンに決めました。
最初は資本金300万円で、中古のPCと机と椅子で始めたんです。そこから1粒1,000円ライチを開発して、ふるさと納税の金額を10倍刻みで上げていきました。トップである僕が背中を見せるしかないですよね。
齋藤:クリエイティブなものを生み出すにも経験値を積み上げないといけない。チャレンジの総量が増えれば必ず質に転換します。
現在6年目になり、売り上げが安定してくる中でチャレンジをする人が増えなくなったと感じています。今の課題は中だるみ。組織を入れ替えてチャレンジの総量を増やしたいところですね。
(会場からの質問)参加者:クリエイティブは若い人中心に巻き起こっていると感じていますが、農家さんは高齢者が多いですよね。年配の方がクリエイティブに農業をしている事例があったらお願いします。
山添:与謝野町で栽培しているホップを使ってビールをつくる予定ですが、この下支えをしているのが農家の方たちです。
その行為自体がクリエイティブと言えるかはわからないけど、その先にクリエイティブな何かを生み出すための礎を農家さんにつくっていただいていると思っています。
井本:僕は自分の考えにこだわりを持つことがクリエイティブの基本だと思っています。なぜこの色か、なぜこの形か、なぜこのキャッチコピーか、その理由1つ1つに自分たちのこだわりを持つ、曖昧なものをなくすことが大切。
では年配の方にクリエイティビティが全然ないのか?というと、そんなことはなくて。僕は「若い人たちと響き合う」ことがキーワードだと思うんです。それぞれの世代で面白いと思うポイントをぶつけ合って、響き合って形づくるのがこれからのクリエイティブの姿なのではないでしょうか。
齋藤:クリエイティブになるには舞台を用意するのも重要ですね。僕の知っている農家さんはクリエイティブな人が多いんですけど「楽しくてしょうがない」と言ってて。そういう意味で、人間年齢とか職業とかあまり考えずに、自分が輝ける舞台があると、めちゃくちゃクリエイティブになれるんじゃないかなと思いました。
(会場より質問)参加者:皆さんの活動の中に、地域で生まれ育った子どもたちがどう入っていくのかが気になっています。私自身の課題として、自分の町が向かっていく方向に、地域の子どもたちがキャッチアップしていないことをすごく感じているんです。
齋藤:最後にふさわしい、いい質問をいただきました。1番のお客さんは10年後20年後の子どもたちですよね。6次産業、クリエイティブを語る場ですが、10年後20年後の子どもたちに伝えたいこと、繋いでいきたい未来、残したいメッセージがあればお一人ずつお願いします。
井本:ただ一言「大人が、好きなことをやれ」ってことです。しんどい顔をして「お前たちはやるな」って言っても、そんな大人に誰が憧れるんだって話で。「俺は面白いから生きてるんだ」という大人たちがもっともっと増えるべきだと思っています。
田端:人口7,800人の町ですが、毎年高校を卒業すると横瀬町を出る人は多いです。でも「出て行かないで」というのはやめようと思っています。みんな東京に出ていいよ、東京の荒波に揉まれて疲れたら帰って来い、その時に俺たちが楽しくやってて「あの大人、バカみたいに楽しんでいたけど面白そうだな」って思ってもらえるように頑張ります。
中川:日本酒の伝統や文化を子どもたちへ繋いでいきたいですね。
山添:「君には不可能だ」と言われたことに真剣に取り組んで、地域の魅力を知ることがグローバルに繋がることを実感してほしいと伝えたいです。
齋藤:人と人とが集まって創発していくと、ロボットとかAIではできない発想が生まれますね。今日は有意義な質問もいただいて素晴らしい場になりました。皆様ありがとうございました!
Editor's Note
「6次産業」「クリエイティブ」という言葉だけが先行して走りがちですが、その根幹は地域に根ざす「人」にかかっているということ。
6次産業の商品化ばかりに気を取られず、理念を持って町おこしを支える人を育てる。商品をPRすることで人もついてくる。地域の理念に賛同してくれるファンを増やすことが地域発展の第一歩であると感じました。
KAYOKO KAWASE
河瀬 佳代子