サウナ
サウナに興味がない人でも、一度は耳にしたことがあるだろう「ととのう」という言葉。
2021年には流行語大賞にノミネートされた「ととのう」ですが、その魅力は温浴法だけに留まらず、「サ活(サウナ活動)」や「サ旅(サウナを巡る旅)」、「サ飯(サウナ終わりに食べるご飯)」といった、次なるアクションを引出し続けています。
しかしながら、「一度はととのってみたいけど、乾燥したサウナに、苦行の水風呂…。自分には絶対に無理!」と思っている方も多いはず。
まさしく筆者もその一人。そんな中、「サウナ嫌いの方こそ来て欲しい!」と豪語する、人気のプライベートアウトドアサウナをご紹介!
4人のお子さんを育てながらも、「サウナ×地域」への愛が爆発し、わずか数ヶ月でプライベートアウトドアサウナをつくってしまった『TATEYAMA SAUNA』代表・碓井綾さんに、地域の個性を活かした魅力づくりのヒント、地域×サウナの可能性について伺いました。
中部山岳国立公園をはじめ、四季折々の美しい景色が楽しめる富山県立山町。今回訪れた『TATEYAMA SAUNA』は、大自然に恵まれた立山町の中でも、「別荘地」と呼ばれる風情漂う吉峰野開地域に建てられました。
元々はご夫婦で貸し切りの別荘 “どんぐり” を運営していた碓井さんでしたが、2021年12月に同敷地内へサウナを設立。 “富山県初のフィンランド式アウトドアサウナ” と、 “この場所でしか味わえない唯一無二の景色” が話題となり、オープン前から予約が殺到した注目のサウナです。
「元々サウナが好きだった」と話す代表の碓井さんは、4人のお子さんを育てるお母さん。しかし、サウナに入りたい気持ちがありながらも、お子さんが生まれて以降はなかなかサウナに入ることができませんでした。
「温泉施設にあるサウナは、子ども禁止のところが多いんですよね。小さい子どもを連れていると、一人で入ることもできないので、長年サウナを我慢していました。最近は子どもたちも大きくなってきたので、サウナに入ることができる喜びを噛みしめています」と碓井さんは笑う。
長年、日本式サウナを楽しんでいた碓井さんですが、2年前に長野県を訪れた際に体験した、フィンランド式のアウトドアサウナ “The Sauna” がきっかけとなり、アウトドアサウナ愛が爆発。The Saunaの自然たっぷりのロケーションに魅了され、ドはまりしたのだとか。
「大自然の中での “ととのう” 感覚は圧巻でした!でもサウナを楽しむコンテンツとしては、 『立山の景色も負けてない!』 と思ったんです。
元々貸別荘のチェックアウトからチェックインまでの時間がもったいないので、アイデアを探していたところだったので、そのご縁からThe SaunaさんにTATEYAMA SAUNAをプロデュースしてもらいました」(碓井さん)
アウトドアサウナへの想いと自身の子育て経験から、小さな子どもがいても気兼ねなくサウナを利用してもらえるように、と “貸し切りサウナ” にこだわり運営している碓井さん。
「元々貸別荘を運営していたこともあって、サウナも貸し切りでという想いでした。小さなお子さんがいる場合、せっかく旅行に行っても親御さんは心から羽を延ばし切れないことが多い。
でも貸し切りであれば、気兼ねなく家族だんらんを満喫してもらえますし、友達同士の利用でも男女関係なく楽しんでもらえる。そんな、どんな方でも心から楽しめる施設を目指しています」(碓井さん)
老若男女問わず人々を魅了し続ける『TATEYAMA SAUNA』の最大の売りは、“絶景すぎる景色” と “圧倒的な解放感” 。Twitter開設1日目で650人を越える方々からフォローされ、オープン前から毎日続く問い合わせに「少しプレッシャーもあった」と嬉しそうに話す碓井さんですが、『TATEYAMA SAUNA』の構想期間についてお尋ねすると、意外にも「とても短かった」そう。
「2021年の夏ぐらいに思いついて、実際にオープンしたのが12月。『せっかくだったら、富山で “一番早く” この情熱を発信しなくては!』という想いで、何もかも急いで準備をしました。大工さんにも『2ヶ月でつくれませんか?』って無理を言いましたね…」と笑う碓井さん。
Twitterを拝見すると、記載されていたオープン予定は11月。たくさんの期待を背負いながらも、オープンを1ヶ月遅らせるという決断の裏には、サウナを通じて体感した、地域の人々への感謝の気持ちが隠されていました。
「いろんな人たちを巻き込んでの完成だったので、このまま何の感謝も表さずにオープンするのが、自分の気持ちに立ち返ったとき、どうしても無理だと思ったんです。オープンを伸ばしてでも、お世話になった人たちにサウナを楽しんでもらう時間にしたいと。
正直、私自身ずっと子育てだけをしてきたので、人と関わることも苦手でした。でも、サウナを通じて、人と繋がる感覚というか、助け合う気持ちがわかるようになったんです。本当に感謝の気持ちでいっぱいですね」(碓井さん)
サウナ愛で突き進む碓井さんですが、HPやTwitterを拝見すると、随所に伝わってくるのは、立山に対する強い愛情。 “まるごと立山” をテーマにつくりあげられたサウナは、ロゴにさり気なく立山連峰を隠してみたり、サウナのベンチを立山連峰に見立て、高低差を表してみたりといった、立山に対する遊び心がたくさん!
「絶対に普通のサウナじゃ嫌だと思って、“立山らしいサウナって何だろう” と考えたときに、『サウナを立山連峰として捉えたらおもしろい!』と思ったんです。立山は登山や観光地としても有名で、県外から人を呼び込むうえでも強い。
他にも、サウナに入ることを “登る” と表現しているんですが、『立山に登る?山じゃないTATEYAMAに登るってどういうこと!?』って面白がってくれて、サウナに興味がなかった人も、足を運んでくれるきっかけになったら最高だなって」(碓井さん)
立山にサウナをつくって終わるのではなく、サウナを通じて立山の魅力を発信したいんです。碓井綾さん TATEYAMA SAUNA
そう語る碓井さん。その想いに至ったきかっけを深ぼってみました。
「運営メンバーが5人いるんですが、その中の一人が青森在住。私と一緒にThe Saunaでアウトドアサウナに目覚めた熱い方で、その方が『立山はめっちゃいいところだから、全国から来てくれるお客さんに、立山を一望できるこの場所で、立山の良さを発信していこう』って言ってくれて。それにメンバー全員が共感しました。
私自身は富山の中でも海側の出身で、結婚を機に立山に引っ越してきて、日々立山の魅力にハマっていったんです。自然が多いので景色もいいし、空気もいい!水は立山の地下水なので水質も最高!立山でしか体験できないことが想像以上にたくさんある!サウナに来てもらって、立山の良さそのものを体感してもらいたいと思っています」(碓井さん)
HPを見ていて心掴まれたのがこの写真。水風呂・外気浴スペースから見渡せるこの景色は、まさに “自然の中に溶け込む” という表現がぴったり!しかし、自然と寄り添い共存する場所だからこそのトラブルもあるといいます。
「富山は北陸地方なんで、冬は雪がすごい。朝起きたら雪で薪小屋が壊れているという事件がありました。一番頑張って薪小屋をつくってくれていたメンバーの立ち尽くしている後ろ姿を思わずTwitterに投稿してしまうくらいには、洗礼を受けましたね(笑)」(碓井さん)
メンバーと時間をかけて作り上げた薪小屋が一夜にして崩壊。これは心のダメージも大きいと推察するところですが、碓井さんは自然を前にすると、不思議と “全然問題ない” という気持ちになるのだそう。
オープンして10日…
アウトドアサウナの洗礼…
薪小屋崩壊…
立ち尽くすスタッフ…
これが北陸のアウトドアサウナ…
これが自然…
全部まるごと楽しみます🙌 pic.twitter.com/zNHXTFJWwN
— TATEYAMA SAUNA/立山サウナ (@TateyamaSauna) January 18, 2022
「先日も通路が雪で埋もれちゃって、みんなで4時間雪かきをしました。汗だくになって、みんなで笑いあって『こんなに汗かいたらサウナいらずだね』って(笑)大変なこともありますけど、サウナを通じて思うのは、 “サウナは自然と共存している” ということなんです。
木を使って火をおこして、立山の水を使って水風呂を準備してっていう、そんな自然ありきの場所で仕事をしていると、自分たちも自然の一部という感覚になってきて、『自然の中だもん、そういうこともあるある!』という気持ちになるんですよね。なんか立山にいるとそういう気持ちになりません?(笑)」(碓井さん)
自然と共存している『TATEYAMA SAUNA』だからこそ、大事にしているのがサスティナブルへの取組み。
「地域で余っている木材や廃材をストーブ用に再利用させてもらっています。サウナでは温度をあげるために、たくさんの木材が必要。でも地域には、不要になった木材をお金を払ってでも回収してもらいたい方もいる。それってすごくもったいないと思うんです。
自然から出たものを無駄にせず、人を喜ばせるために使うことができると考えると、私たちも嬉しいですし、それを不要だと思っていた方にとっても嬉しいことじゃないかなって思ってお願いさせてもらいました」(碓井さん)
たくさんの人たちの想いを抱え、走り続ける『TATEYAMA SAUNA』。最後に今後の展望についてお伺いしました。
「今は完全貸し切り制なんですけど、ゆくゆくは貸し切りも残しながら、一人でも利用しやすいパブリック向けのサウナを2号館、3号館と増やしていきたいですね。
『サウナ苦手』という方も多いと思いますが、この景色と解放感があれば、『絶対嫌いになることはないな』って!一人でも多くの人に、『サウナって最高』って思ってもらえるきっかけの場になりたいです」(碓井さん)
取材を通じて次々と出てきた、地域の個性を活かしたサウナの構想。
“リフレッシュの選択肢の一つ” として捉えていたサウナでしたが、「サウナ」に「地域」を掛け算することで、地域づくりとしての可能性を見出すことができるんだと考えさせられました。
全国各地のサウナを巡る “聖地巡礼” も注目される今、「地域の魅力を知り尽くしたい」、「地域の魅力を発信したい」と考える皆様。「地域×アウトドアサウナ」の発想はいかがでしょうか?
〒930-1362 富山県中新川郡立山町吉峰野開21−6 (Googleマップ)
https://www.tateyamasauna.com/
Editor's Note
冬のTATEYAMA SAUNAはまるでフィンランドのような景色(1.2月が雪景色のベストシーズンのようです)!火照った体を癒す外気浴に、立山の雪解け水をつかった冷えた水風呂にダイブ。眼前に広がる真っ白な雪景色!これ以上何を望むことがあるのでしょう!!
地域の個性を面白いほど活かしきることができる、魅力いっぱいのアウトドアサウナ。サウナ嫌いだった私でしたが、今年のやってみたいことリストに「サウナ聖地巡礼」と付け足しました!
YURIKA YOSHIMURA
芳村 百里香