前略、100年先のふるさとを思ふメディアです。

LOCAL LETTER

地域生活圏とテリトーリオ:エリアで連携する視点の必要性【宮内俊樹のテリトーリオ散歩⑤】

JUL. 23

ITALIA

拝啓、地方には『何もない』と嘆くアナタへ

※本記事は宮内 俊樹氏(クロスボーダーLLC代表)によるコラムです。

前回は食とワインのお話をしました。イタリアのアグリツーリズムやエノガストロミアが、生産の現場である農と、体験の場である観光がいかに幸福な関係を結んでいるかをお話ししました。今回は視点を少しマクロに移し、都市や地域の構造について考えてみたいと思います。

テーマは、日本の国土交通省が今まさに推進しようとしている地域生活圏構想と、イタリアが歴史的に育んできた多心型の都市構造との重ね合わせです。

一見、堅苦しい行政用語に見える地域生活圏ですが、これをイタリアのテリトーリオの視点で読み解くと、これからの日本の地域が生き残るための、極めて実践的でワクワクするような処方箋が見えてきます。

宮内 俊樹 クロスボーダーLLC代表/フィラメント・シニアコンサルタント
1967年生まれ。早稲田大学法学部卒。雑誌編集者を経て、2006年ヤフー株式会社に入社。2012年より社会貢献サービスの全体統括、大阪開発室本部長を歴任。天気、路線、防災のサービスを統括し、Yahoo!天気アプリを2年で7倍のユーザー数に成長させる。2020年ディップ株式会社にジョインし、執行役員、ディップ総合研究所所長を歴任。現在トラストバンクで地域創生に携わるほか、クロスボーダーLLC代表として、フィラメント・シニアメンター、スパイスファクトリーなど、地域創生、防災、行政、社会貢献等の複数プロジェクトに携わる。

東京一極集中という異常と、その限界

まず、日本の現状を直視することから始めましょう。日本の近代化、特に高度経済成長期以降の国土形成は、徹底的な効率性の追求でした。ヒト・モノ・カネ・情報を東京という一点に集中させ、そこから全国に分配する。このシステムは、確かに日本を世界第2位(1968年 当時)の経済大国へと押し上げる原動力となりました。

しかし、その代償として私たちは極端な東京一極集中を生み出してしまいました。国土交通省のデータ(令和元年「各国の主要都市への集中の現状」)を見ると、その特異性は明らかです。各国のGDPにおいて、主要都市圏が占める割合を見ると、東京圏(1都3県)は約33.1%に達します。これはパリ(30.5%)やロンドン(23.0%)、ニューヨーク(10.3%)と比較しても高い水準です。さらに、企業の集中度を見るとより鮮明になります。株式時価総額上位企業の立地や、資本金10億円以上の大企業の半数以上が東京に集中しています。

出典: 「各国の主要都市への集中の現状」令和元年12月6日 国土交通省国土政策局資料

私自身、これまで東京一極集中を大きな課題として捉え、さまざまな地域の仕事に携わってきました。振り返れば、自分が子供だった時代から東京の人口は増え続けています。しかし、過密化が進んで圧倒的にウェルビーイングが下がっているにもかかわらず、それでもなお人が集まり続けているのが現状です。

一方で私は、仕事の関係で京都に3年半住み、さらには二拠点で暮らした経験があります。その時に身をもって気づかされたのは、地域での暮らしは東京に比べて圧倒的にストレスが少ないということです。地方都市は、物価も安く、地域でとれたての美味しい食べ物が日常的に味わえる。人も過剰すぎることはなく、自然も豊かで、大地の芸術祭や瀬戸内国際芸術祭のように、豊かな自然のロケーションを生かした素晴らしい内容の芸術祭が数多く開催されています。これほどの魅力と豊かな生き方があるのだから、みんなもっと地域に行った方が幸せになれるんじゃないのかな、と本気で思っています。

効率を突き詰めれば、東京に集まるのが正解かもしれません。しかし、人口減少社会に突入した今、この一本足打法のリスクが露呈し始めています。東京に生まれ、東京を愛しているからこそ、心底そう思えます。災害リスクはもちろんのこと、東京の少子化による孤立の進行、さらに地方の疲弊による多様性の喪失は、国全体のイノベーションの枯渇にもつながりかねません。

イタリアの多心型構造と第3のイタリア

一方、イタリアの都市構造は対照的です。イタリアには、東京のような一極集中の巨大都市は存在しません。首都ローマや経済都市ミラノでさえ、人口は数百万規模(都市圏含む)であり、東京圏(1都3県)の3600万人超とは比較になりません。

その代わり、イタリア(特に中部・北東部)には、人口数万人から数十万人規模の中小都市が、まるで星座のようにネットワーク状に点在しています。フィレンツェ、ボローニャ、ヴェネチア、ヴェローナ……。それぞれの都市が独自の歴史、文化、産業を持ち、自立した経済圏を維持しながら、互いに連携しています。これを多心型の都市構造と呼びます。

特に注目すべきは、1970年代以降に脚光を浴びた、第3のイタリア(Terza Italia)と呼ばれる地域です。重工業中心の北西部(第1のイタリア)、開発が遅れた南部(第2のイタリア)に対し、トスカーナ州やヴェネト州、エミリア・ロマーニャ州などの中部・北東部では、特定製品(家具、繊維、陶磁器、食品加工機械など)に特化した中小企業が集積し、世界市場で高い競争力を発揮してきました。

彼らは一社ですべてを完結させるのではなく、地域内の企業同士で工程を分業し、柔軟に連携することで、大企業並みの生産性と、変化への対応力(レジリエンス)を実現しています。都市も同様です。一つの巨大都市がすべてを飲み込むのではなく、個性ある中小都市がテリトーリオという面で緩やかにつながり、全体として豊かな生活圏を形成しているのです。

『イタリア流テリトーリオの底力-デザイン・ファッションから農業・食文化まで』 木村純子・陣内秀信 編著(法政大学イノベーション・マネジメント研究センター叢書 30/白桃書房)

この辺りは、今年の3月に出版された『イタリア流テリトーリオの底力』に詳しいです。テリトーリオが単に田園の再評価だけではなく、工業社会にも通じる考え方であり、地域のアイデンティティの再発見そのものである点は重要なポイントなので、ぜひ読んでみてください。

日本版テリトーリオとしての地域生活圏

このイタリアの多心型構造と重なるのが、日本の国土交通省が新たに打ち出している「地域生活圏」という概念です。

人口減少が進む日本の地方部では、単独の市町村だけでは、病院や学校、公共交通、商業施設といった生活サービス(ベーシックインフラ)を維持することが困難になりつつあります。買い物難民や医療空白地帯の問題は、もはや過疎地だけの話ではありません。

そこで、行政の枠組み(市町村境)にこだわらず、近隣の自治体が連携し、あるいはデジタル技術を活用して、一定の規模を持った生活圏として機能を維持・確保しようというのがこの構想の骨子です。中心となる都市と周辺の町村がネットワークを結び、医療はA市、商業はB町、観光はC村といったように機能を補完し合う。

出典: 国土交通省「地域生活圏とは」資料

これはまさに、イタリアのテリトーリオの発想そのものです。行政区分という線で区切るのではなく、人の営みや文化、経済のつながりという面で地域を捉え直し、再編集する試みと言えます。

一方で、イタリアは城郭都市のため比較的人が一箇所に集中し人口も少なめなのに対して、日本は人口がイタリアの倍近くあり、かつスプロール現象によって人口がまばらに分散しています。つまり、既存のインフラを維持するのによりお金がかかります。これは日本の課題としてとらえておくべきでしょう。

官民連携で挑む香川県三豊市の事例

この地域生活圏的なアプローチを、行政主導ではなく、民間の活力と連携して実践している先進事例として、香川県三豊市の取り組みを紹介したいと思います。

三豊市は人口約6万人の都市ですが、かつては通過されるだけの町でした。しかし、ここ数年で劇的な変化を遂げています。きっかけは父母ヶ浜(ちちぶがはま)という絶景スポットがSNSで話題になり、年間50万人以上が訪れるようになったことですが、本質的な変化はもっと深いところにあります。

三豊市では、地域の企業が中心となり、行政と連携しながら、生活に必要なインフラを自分たちの手で作り直す動きが加速しています。

例えば、 URASHIMA VILLAGEという宿泊施設は、地元企業数社が共同出資して設立されました。外部の大資本がホテルを建てるのではなく、地元の企業がリスクを取り、地元の建材や食材を使い、利益を地域に還流させる。イタリアの産業地域が中小企業のネットワークによって強い競争力を維持してきたように、地域では多様なローカル・プレーヤーが群れをなし、互いに連携することで、地域全体を面として盛り上げています。

数々のプロジェクトを生み出してきた瀬戸内ワークス(HPより)

『mobi(モビ)』という乗り合い交通サービス。地方の公共交通が衰退する中、地元のタクシー会社などと連携し、アプリで呼べばすぐに来るエリア定額乗り放題の移動サービスを導入しました。これにより、高齢者の通院や学生の通学、そして観光客の周遊という移動の自由を確保しています。

また、瀬戸内暮らしの大学という取り組みでは、高等教育機関のない地域に、住民や関係人口が学び合う場を創出しています。これらは、行政が税金ですべてを賄う公助の限界を見据え、民間ビジネスと地域コミュニティが支える共助の仕組みでベーシックインフラを維持しようとする挑戦です。

点を面にする接続の作法

日本の地域創生において、点の成功事例はこれまでもありました。一人のカリスマや、一つのヒット商品による成功です。しかし、それが面や線にならず、一過性のブームで終わってしまうことも少なくありませんでした。

イタリアのテリトーリオや、日本各地の先駆的な事例が教えてくれるのは、接続の重要性です。

  • 行政区分を超えて、生活圏を接続する。
  • 歴史を掘り起こし、現在へと接続する。
  • 単体の企業ではなく、企業間のネットワークを接続する。
  • 地域の課題というマイナスと、ビジネスの種というプラスを接続する。

例えば、以前紹介したトスカーナのオルチャ渓谷は、5つの自治体が行政の区分を越えて連携し、共通のアイデンティティを発見し、守るべき文化的風景を保存してきた結果として世界遺産に登録されました。バラバラに存在していた資源やプレイヤーを、テリトーリオという広域な視点で、あるいは地域生活圏という新しいフレームワークで接続し直すことで、そこには必ず新しい化学反応が起きます。

国交省の地域生活圏構想は、単なる行政の効率化ツールではありません。それは、私たちが自分たちの足元にある地域をどう編集し、どう経営していくかという、クリエイティブな挑戦とも言えます。

次回は、この新しい地域経営の担い手であるローカル・ゼブラ企業について、その定義や具体的なビジネスモデル、 そして彼らが果たす地域の編集者としての役割について、さらに深く掘り下げていきたいと思います。

 

 

(参考文献・引用)

  • 国土交通省「各国の主要都市への集中の現状」令和元年.
  • 中小企業庁「地域課題解決事業推進に向けた基本指針」資料より(三豊市事例).
  • 国土交通省 「『地域生活圏』とは
  • 遠山恭司「国際競争下におけるイタリアの産業地域の変容」日本政策金融公庫論集 第14号, 2012.

※クレジット無の写真はいずれも筆者撮影

 

シェアして宮内 俊樹さんを応援!

シェアして宮内 俊樹さんを応援!

シェアして宮内 俊樹さんを応援!