HYOGO
兵庫
※本レポートは陶泊事務局主催のオンラインイベント「【陶泊クロストーク】丹波焼の工房で探る『多様な美意識が生まれ、育まれる里の本質とは?』」を記事にしています。
今や場所に縛られず、インターネット上での買い物を楽しめる。
大量生産によって同じような商品が安く手に入れられる時代となりました。
つくり手と買い手の関係性は、便利さの裏に隠されてしまうことが増えています。無機質な購買関係に味気なさを感じている方も多いのではないでしょうか。
どんな想いでつくられたものか気になる。
日々の暮らしで使うものには、特にこだわりたい。
共感する職人さんや地域の商品を手に取りたい。
そんなアナタに寄り添う、新しい体験プロジェクトが誕生します。
新プロジェクトである「陶泊」に携わる、俊彦窯5代目の清水剛氏、トランクデザイン株式会社代表取締役の堀内康広氏、ミテモ株式会社代表取締役の澤田哲也氏、3名によるクロストークをお届けします。
澤田氏(以下、敬称略):現在「陶泊*」というプロジェクトを、丹波焼の陶芸家さんと進めています。
*…陶芸体験から一歩踏み込み、陶工の自宅などに宿泊して生活を共にする滞在型旅行。丹波焼の里・兵庫県丹波篠山市立杭地区にて2024年春から本格始動する。
堀内氏(以下、敬称略):僕と澤田さんは仕事柄、工芸の産地に行くことが多いんです。漆器や陶芸などのいろんなつくり手の人たちに会いに行き、話をする中で職人さんと仲良くなることも多い。壊れたら修理してもらえるような距離の近さが僕にとって幸せです。
こうした体験をもっとシェアしたく、「最高に幸せな状態」って何だろうと考えました。職人さんと一緒に食卓を囲み「この人はどんな器でご飯を食べてるんだろう」とか、「なぜこの人はこういう作品をつくっているのか」など、日常から彼らのセンスが見られるといいなと。そこから職人さんの家に泊まる企画にたどり着きました。
「農泊」は農家さんの家に泊まって、農業のお手伝いや体験をするものですが、陶芸の営みに触れながら一緒に時間を過ごす「陶泊(とうはく)」もやったら面白いんじゃないかと考えたんです。
これまで日本遺産で認定されている6産地「日本六古窯」を巡りましたが、中でも丹波はつくり手の美意識が高いと感じました。「この場所で一緒にお酒を飲んだり、ご飯を食べたりしながら作家さんと近くなると、つくり手さんの暮らしに入っていけるのでは」と思い、丹波でスタートしたという経緯です。
堀内:それをやるにも、知らない人を泊めるというのはハードルが高いですし、職人さんとかなり仲良くならないと困ります。すぐに実行には至れず、1年半くらいの「温め期間」がありました。でも、「ただ良いものをつくっているだけじゃない」丹波の作家さんの奥行きや生活、美意識がどこから来ているのかはずっと気になっていました。
澤田:あと丹波には、問屋がない産地という特徴がありますよね。そのため、お客さんのことをおもてなしされる窯元さんが多いです。今いる茶室のように、ゲストラウンジみたいなものを構えてらっしゃる窯元さんがあるなど、お客さんと時間をともに過ごし、そこでモノの良さを感じてもらおうとする姿勢が見受けられます。
清水氏(以下、敬称略):「問屋がないおかげで、お客さんを大事にしている」というのは皆さんに言われてから、そうなんかもなと思いました。自分達にとっては普通なので、意識してお客さんを相手にしてるわけでは当然ないですが、 自然とやっていることを紐解いていくと気づくことがあります。
堀内:外の人との交わりで気づきが得られたとのことですが、陶泊による外部の方との交流によって、創作へのインスピレーションやアイディアが湧き上がる可能性はありますか?
清水: 大いにあります。まさしくお2人と話していて、ハッと思わされることもたくさんあります。僕が、自分自身だけで考えて生み出しているものは多分少ないですよ。いろんな交わりによる影響から生まれてくるものがほとんどです。
そう考えたら、僕自身はそんなに大した者じゃないんです。他から得られるものを、うまいこと噛み砕いて、表に出してるようなものだと思っています。今後も外からのいろんな影響が欲しいなと思います。
清水:大学に出て、油絵を描いていた同級生に言われたことが印象的です。「あなたは地元で陶芸をやれる。自分のルーツと一緒に仕事ができるってめっちゃ幸せやね」と。驚きました。
その人からすると、油絵は自分がやりたいからやっているが、ルーツどうこうということではない。自分のルーツに全てが通ずるところで仕事ができるというのは貴重で、幸せなんだと気付かされました。
このように、無意識なことを他の人から意識付けされることが多いです。今日のテーマである「美意識」も人によってつくられている、美「意識」なので、まさしく他者との関係性でつくられているんだろうなと思います。特にここは、850年にもなる長い歴史のある産地なので、強く思うんですね。
澤田:ルーツとともに働くことについてお聞きしたいのですが、親子で俊彦窯をやっていらっしゃる清水さんは、お父様との関係をどのように捉えていらっしゃいますか?
清水:焼き物を始めたのは大学です。それまでは家の仕事なんか一切知らないし、見向きもしてない。陶芸をする父の背中越しに「ただいま」って帰っては来ますけど、特段見るわけでもありませんでした。
でも大学に入り、紆余曲折あって陶芸を専攻しました。そうして、陶芸を2年、3年とやっていくうちに、親父の仕事を僕がやっても、絶対勝つことはないと思ったんです。親父と同じ仕事をしても「俊彦窯の息子さんがやってはりますね」で終わってしまうと。
そこから自分なりの、自分ができる陶芸をやろうという気持ちになりました。父とはいがみ合ってるように見えるかもしれませんが逆です。父へはすごくリスペクトがあります。僕が表面的に親父のものを継いでも、父と同じような作品をつくることは絶対に無理だと思っています。
堀内:ちなみに、自分の家の器がかっこいいことに気づいたのはどれぐらいのときですか?
清水:大学3年生ぐらいです。丹波に帰ってきてからはますます凄さを感じていきました。
堀内:子供の頃から日常的に美しい食器を使っていたというのは、俊彦窯の全国のファンからするとすごく羨ましいですね。俊彦窯の器で毎日の食卓が揃っているのは、本当に贅沢です。
清水:そうですよね。日常的なことなので、特段意識をしていませんでした。でも僕がつくり手になってからは、父が何でもないようにしている仕事をすごいなと思うようになりました。
本人も「ここをこうしてやろう」と思ってつくっている部分は少ないはずですが、例えばこんなお皿とかでも、ちょっとした返しの部分をつかみやすくしてあったりね。これをナチュラルにつくることは僕には無理なんですよ。
徐々に、父とのやりとりを通して「丹波焼と自分」について考えるようになりました。自分につくることのできる焼き物ではなくて、「丹波焼とは何か」みたいなこと。これはずっと命題です。これからも一生続くと思います。
ここで焼き物が生まれているのは、「土があるから」では絶対的にないんです。いろんなことが相まって、焼き物の産地になっているということを僕は大事にしたいなと思っています。
清水:いろんな人に丹波に来てもらって、そしていろんな人と喋ってほしいです。感じることがたくさんあるはずなので、多くの人に来てほしいとずっと思っています。
澤田:また、こういうお話を聞かせていただいた上で使う器がめっちゃいいんですよ。思わず買っちゃいます。「そういうことを考えながら、これをつくってはるんやな」と感じるようなことを聞いてから買って帰ったときに、家族にうんちくを語ったりして。それもまた豊かだなと感じます。
ただの「売る・買う」という関係性だけだと、こうした味わいって難しい。ここに滞在して、お茶を飲みながら今みたいな話を聞かせていただくと、器に対する見え方や、それを取り入れる暮らしの価値観みたいなところが変わってくるんじゃないかなと。
つくってらっしゃる皆さんにも、こういう人が使ってくれているんだなと思っていただけるきっかけにも繋がるといいなと。こうした思いで陶泊というものをやっております。
ちなみに清水さんは「陶泊やるぞ」って話を聞いたとき、どう思いました?
清水:僕はさっきも言ったようにいろんな人が丹波に来てほしい。ここの産地は日本一だと思ってるんです。でも一般的な日本一じゃないのは、知名度が原因だと思っています。だから、ちょっとでも知名度が上がってほしい。
来てもらったら絶対面白いはずなので、まずは一度訪れてほしいです。インターネットでなんぼでも買える時代ですけど、実際に来て、聞いて、本物を見てから買ってもらうという、時代に逆行するようなものの受け渡し方が残ってほしいんです。
こうした陶泊っていう、他がやらんようなことを「ここだったらできるかもしれない」と掘り下げてくれるのは嬉しい。絶対やってほしいと思います。
知名度的に「丹波」と言えばやはり「黒豆」だと思います。黒豆に勝とうとは思っていないのですが、「丹波と言えば丹波焼」が2番目に出てくるようになってほしいですね。陶芸の世界で言うと、備前や信楽に勝とうとも思いません。せめて六古窯内の知名度3位に上がってほしいな、と(笑)。
堀内:視聴者さんから質問がきています。「陶泊は職人さんのビジネスを成り立たせるための新たな収益源としての取り組みなのでしょうか?それとも、よりコアな丹波の産地をつくっていくことを目的にしているのでしょうか?」
澤田:結論から言うと、陶工の皆さんの新しいビジネスにできるといいなと思ってやっています。
受け入れ先だけでなく、若手の窯元さんを中心とする里の方々にも「さとびとガイド」というツアーガイドとしてご協力いただいており、参加者さんを窯元さんにお繋ぎしたり、ニーズに合わせて里を案内したりしてもらっています。
こういった方々も、陶泊に関わることで正当な収入が得られる。かつ、それをやることで、いろんな窯元さんの取り組みを学べるきっかけにしていく。そういう事業にしようと今取り組んでいます。
陶泊をきっかけに器が売れることも目指すところですが、陶泊単体としても皆さんの事業になることを期待してやっていますね。
澤田:では最後に、皆さんに聞いている質問を清水さんにお尋ねさせてください。美意識が生まれ、育まれる本質とは何だと思われますか?
清水:850年かけてつくられた美意識をまとめることはできないですが、人が美意識をつくっています。もう一つあるのはここを取り巻く環境です。
澤田:これはモノを見るだけでは多分伝わってこない。それこそ、営みに触れてもらったり、風景を共に見ていただくことで、共有できるところだと思います。
丹波に足を運ばれる機会があったら、「どうしてこの丹波焼の里はこんなにも多様な美意識が育まれているんだろう」ということを問いとして持ちながらお話を聞いていただけると、いろんな気づきがあると思っております。
澤田:ありがとうございました。皆さんぜひ丹波焼の里でお会いしましょう。
この大量消費の現代に、思い切って生産地へと足を運ぶ経験は暮らしの豊かさを見つめ直す良い機会になるはず。
しかし、遠方にいつつも地域や生産者と繋がれるのも、今の時代だからこそです。オンラインで工房を巡りながら、丹波の里の様子や陶器の魅力を窯元さんから直接伺えるイベントが、2023年12月17日に開催されます。
現地の雰囲気を味わいつつ、生産者と交わる体験をお試ししてみるのはいかがでしょうか?
◯名称:器から考える新しい豊かさのカタチ|伝統とローカルを体感するオンライン丹波焼窯元めぐり
◯日時:2023年12月17日(日)15:30〜17:30
◯定員:現地参加 20名、オンライン 30名
※オンラインで参加の場合には別途ZoomのURLをお送りいたします。
◯参加費:無料
◯主催:+NARU NIHONBASHI
◯共催:丹波焼陶泊事務局(丹波立杭陶磁器協同組合、トランクデザイン株式会社、ミテモ株式会社、Satoyakuba、一般社団法人ウイズささやま、合同会社gyoninben)
+NARU NIHONBASHIは「好奇心で動き出すオープンスペース」。
一人一人の好奇心と、そこから生まれるスモールアクションを応援しています。「やってみたいこと」や「ずっとやってみたかったけどできていないこと」をカタチにしていくことで、関わる人たちや地域にエネルギーを巡らせていく場所です。
陶芸体験などから一歩踏み込み、陶工の自宅などに宿泊して生活を共にすることで、職人の手仕事や里の空気、文化なども味わう滞在型旅行です。宿泊の前後では、若手陶工たちがツアーガイドとして窯元巡りなど地域内をご案内します。陶工との交流を通じて、地域の日常に触れることができるのも「陶泊」の醍醐味のひとつです。
陶泊の詳細は以下のリンクボタンよりご確認ください。「陶工の営みに触れる旅」がアナタを待っています。
陶泊WEBサイト:https://tamba-tohaku.com/
Editor's Note
「買い物は投票」と言うこともありますが、何を選び、何にお金を払うかの選択は最も身近な社会への意思表明かもしれません。自分の日常を彩るモノを選びつつ、地域応援にも繋がる「陶泊」はとても魅力的に感じます。
Komugi Usuyama
臼山 小麦