【イベント概要】
TOKYO HARVEST 2017 〜東京から、ラブレターを。〜
日程:2017 年11 月11 日(土)、12 日(日)開催
場所:六本木ヒルズアリーナ
主催:東京ハーヴェスト実行委員会、(オイシックスドット大地株式会社、カフェ・カンパニー株式会社、一般社団法人東の食の会)
「いただきまーーす!」そう言って私は今日もご飯を食べている。当たり前の様に食べ物を買って、当たり前の様にご飯を食べて、当たり前の様に生きている。
お母さんの大好物は、いつも安くてお手軽なスーパーマーケットのお惣菜。
お父さんの大好物は、早くて美味いファストフード店のハンバーガー。
お兄ちゃんの大好物は、いつでも空いてるコンビニエンスストアの唐揚げ。
昔と比べて食べ物は簡単に手に入るようになり、とても近い存在になったのに、どこか遠くに感じてしまう。この感覚はどこから来るのだろう。美味しいはずなのに美味しくなかったり、楽しいはずなのに楽しくなかったり、ヘンテコな話かもしれないけれど、それはきっと、何か大切なモノを忘れてしまっているから。
私はその “忘れ物” がなんなのか、どこに置いてきてしまったのか、手がかりを見つけるべく、2017年11月11,12日に六本木ヒルズアリーナで開催された「東京ハーヴェスト」へと向かった。
東京ハーヴェストは、2013年から始まり、今年で5回目の開催を迎えたイベント。なんでも、オイシックスドット大地株式会社、カフェ・カンパニー株式会社、一般社団法人東の食の会という3つの「食」に携わる企業が「生産者に感謝の気持ちを伝えたい」という想いからイベントを立ち上げ、去年は2日間で4万人もの来場者を集めたそうだ。六本木で行われる年に一度の収穫祭だけあって、今年の会場も見渡す限りの野菜と笑顔に彩られていた。
六本木という東京の中心で、都会の喧騒の中からいきなり「収穫祭にようこそ!」と言われてもやっぱりちょっと違和感がある。アリスだってウサギの穴があってのワンダーランドだし、のび太くんだって机の引き出しがあってのドラえもんだ。そんなことを考えていると、目の前に見たこともない程、ユニークで美味しそうな “入り口” が現れた。
イベントの入り口「吊るし野菜のインスタレーション」を担当したのは、株式会社CRAZY KITCHEN。今年は、干し物をモチーフに、自然の恵みを余すことなく利用する日本の伝統的な食文化を表現しているそう。これだけの食べ物が吊るされている光景を見ることは、後にも先にもないだろうと思うほどの迫力。壮大でありながら美しく、食べ物であるからこそ、変化していくさまを想像する楽しみもある。おとぎ話にも勝るほどの立派な “入り口” に私は吸い込まれるように入っていった。
入り口を抜けると、なにやら可愛らしいオレンジ色に包まれたマルシェが目に入り、思わず足が止まる。
皆さんは、岩手県の「フルーツほおずき」という果物をご存知だろうか?原産地は南米で、分類はなんとナス科。「フルーツほおずき」は、南米では古くから病気の薬として用いられるほど、ビタミンが豊富で、豊潤な香りと独特の甘酸っぱさが堪らなく美味しい。マンゴーやパッションフルーツに例えられることも多いそうだが、口の中で弾けたと思ったら、すぐに溶けて消えてしまうこのフルーツは、正直何にも例えられない。しかもこの「フルーツほおずき」は、露地栽培で育てられており、ガクに雨があたると黒ずんだり、カビが生えてしまうそうで、「生果」として出荷できるのは全体の2割程度と、とても貴重。「まとめ買いしてパクパクと食べたい」という気持ちと「多くの人に食べて欲しい」という想いに葛藤していると、何やら中央のステージが賑わっている音が聞こえる。
メインステージに向かう途中、”幸せの大きなテーブル”に目を奪われた。テーブルに飾られていたのは、真っ白な暖簾(のれん)とカラフルな野菜のスタンプ。なんでも、昔の日本では、帰り際に暖簾で手を拭く習慣があったらしく、「暖簾が汚れているほど美味しい店だ」と言われていたんだそう。テーブルに置かれたカラフルな野菜のスタンプで真っ白な暖簾を彩れば、それが生産者への「感謝」の印になる。そんな想いが、この暖簾と野菜のスタンプには込められていた。
当イベントは「参加型」で、「子供も楽しめる」ということが大きなポイントだとは聞いていたが、こんな粋な仕掛けとスタンプを押しながら微笑む子ども達の姿を見せられては、どうにもこうにもトキメキが止まらない。
当イベントは、豊かな日本の食を育む各地域の風土・文化・歴史を、楽しみながら再発見し、東京から日本全国、そして世界へと「おいしい日本」を発信する食の祭典を目指している。
そのため、毎年「ART」「SPORTS」「MUSIC」などのテーマが設けられ、今年のメインステージでは、「MUSIC」というテーマで、よさこいやソーラン節、ライブやパレードが行われたり、「SPORTS」というテーマで “みのりんぴっく” という、農業をモチーフにした競技を楽しめるプチ運動会などが開催されたりと、会場を盛り上げた。
メインステージの中でも、私が特に注目したコンテンツは、「巻き寿司」を通して、外国人に向けて和食の魅力を発信していくことを目指した「和食を世界に!Easy Sushi Roll Cooking」。この企画について主催者の方に伺うと、そこには「2020年」という言葉と、主催者の「夢」があった。今年の終わりも近づき、2020年まで残り2年弱。周知の通り、東京オリンピックが刻一刻と迫ってきているのである。2020年は一つの節目、終わりであり始まりの年。東京ハーヴェストは、日本を代表する収穫祭になることを目指している。ドイツにはオクトーバーフェスト、スペインにはトマト祭り、イタリアにはオレンジ祭りがある。しかし、日本にはそのような祭りがまだない。東京ハーヴェストが目指すのは、日本であり世界。だからこそ、今回外国人向けのコンテンツを行うことはとても大きな意味があると感じた。
収穫祭というだけあって、昼食選びにも熱が入ってしまう。ハーヴェスト横丁というスペースには、普段お目にかかれないようなランチがずらりと並ぶ。
宮崎のブランド牛である「こゆビーフ」と、十日町市魚沼産コシヒカリ・福井市産コシヒカリの夢のようなコラボが実現した焼肉丼は、2日間限定販売ということもあってか、大人気商品で、私は惜しくも食べることができなかった。しかし、ハーヴェスト横丁はそれだけでは終わらせない。福島の野菜とジャージー牛乳、三陸の牡蠣というそれぞれの長所を混ぜ合わせたミルクチャウダーにいたっては、口に入れた瞬間、思わず顔の筋肉が緩んでしまうから、言葉以外でもたくさんの感謝を伝えられる。お祭りといえば思い浮かべる、焼きそばやお好み焼きも、ハーヴェスト横丁は、食材のこだわりがまるで違う。極め付けは野菜の丸焼き。これは嘘がつけない、野菜の味がダイレクトに伝わる一品。思わず購入してみたが、やはり私の選択に間違いはなかった。
胃袋も満たされ、日も暮れはじめたところで、会場は陽気な音楽と歌声に包まれる。歌うたいの服装の影響か、六本木にいながら、まるで豪華客船に乗りながら海を航海しているような感覚におちいる。そしてふと気づくと、いつの間にか、この場所を気に入っている自分がいた。あまりにも居心地のいい空気に身を委ねて、今日という日を振り返る。
いろんな農家さんと出会い、いろんな食べ物に触れ、いろんな想いにタッチした。たとえば、「椎茸(しいたけ)の島」として100年以上前から原木栽培にこだわってきた、長崎県対馬(つしま)市の農家さん。彼らが味見で渡してくれた “しいたけカレー” の味は忘れられない。椎茸の出汁がカレーの中に染み込んで、口の中に入れた瞬間、フワッと香る。「これが “森のアワビ” と言われる対馬伝統の椎茸か」と、0コンマ何秒の出来事が、永遠と私を魅了する。
もう一つの思い出は、ネットサーファーの青年が、本物のサーファーになっていく成長物語の地域PR動画で話題となったあの場所の農家さん。宮崎県日向市から「へべす」という果物を持ってきてくれた、黒木園芸の黒木さんだ。「へべす」と聞いても、なんだかわからなかったが「へべすってなんじゃろか?まぁ、つかってみてん。てっげうめっちゃが!」というキャッチコピーを見てしまったら、「これはなんですか?」と言わざるを得なかった。「へべす」は、カボスやスダチによく似ているが、皮が薄く、種も少ないことから、薄い皮の内側には、果汁がたっぷりと含まれてるんだとか。「へべす」を口に入れると、なんともまろやかで柔らかい酸味と、爽やかな香りが、たちまち五感に優しく溶け込んでくる。
黒木さんに今回のイベントについて伺うと、「もっともっと交流したい!」という声が開口一番に飛んできた。そして、「やはり “へべす” の存在を知らない人が多いからこそ、こうして、“へべす” を知ってもらえる場所が大切であると同時に、実際に食べてもらって、目の前で美味しいと言ってくれるのが面白い!」と笑って話してくれた。「嬉しい!」ではなく、「面白い!」という表現が、なんだかありのままのように思えた。「“へべす” って酸っぱいじゃないですか!なのに、みんな “美味しい!” って言うんです(笑)お世辞なのかな?って(笑)」少し照れ笑いを浮かべる黒木さんの顔が、このイベントのコンセプトがラブレターである意味を教えてくれた。
朝に伺った “フルーツほおずき” の早野さんにも、今回のイベントの感想を伺うと、「 “フルーツほおずき” を見て、すぐに手を伸ばすお客さんもいれば、ほおずきと聞いて『いやいや』という人もいる。そのテリトリーが分かるっていうのは、我々にとっても勉強になります。お客さんから感謝をいただける場というだけでなく、それこそ外国の方から老若男女と、幅広い年代の方に来ていただける場は、とってもありがたい。」と話してくれた。
農家さんへのラブレターは、「ありがとう」という言葉だけではない。商品を買うことだけが全てじゃない。「この場所に来る」ということ自体が、農家さんにとってはかけがえのないラブレター。早野さんは、笑顔で「美味しいという表現が普通じゃないんですよ!ちょーーうめぇ!みたいな(笑)普通の美味しいという感想に驚きが掛け算されたみたいな感じで、もともと “フルーツほおずき” って味のイメージがない人が多いからこそ、想像以上だったという部分での “美味しい!” っていうのが目の前で分かるのは嬉しいです。」と楽しそうに話してくれた。
あたりはすっかりと暗くなり、冬の冷たい風が吹いているのに、なぜか心はほっこりと暖かい気持ちになる。もうすぐお開きの時間。この日のために用意されたお神輿を担いでパレードが会場を練り歩く。
年を重ねるごとに出店する店舗やイベントは変化していくが、ただ一つ、東京ハーヴェストが2013年度から変わらず持ち続けているのが「東京から、ラブレターを。」というコンセプト。当イベントを開催しているオイシックスドット大地株式会社、カフェ・カンパニー株式会社、一般社団法人東の食の会は、3社とも「食」を扱う会社であり、生産者の “想い” も消費者の “笑顔” も一番近くで受け取る存在であった。だからこそ、食べることが当たり前となっている現代で、消費者の笑顔がそのまま生産者に届く場所を、消費者が生産者の想いをそのまま受け取れる場所を作ることには意味があるのだ。
イベントが終わって、改めて当イベントのコンセプトに目を向ける。
「東京から、ラブレターを。」それはきっと片想いのラブレターではない。「ありがとう」を送ると、「ありがとう」が返ってくる。4万人規模のこのイベントには、8万通のラブレターで溢れかえっていた。
探していた “忘れ物” は案外近くに落ちていた気がする。当たり前の様に食べ物を買って、当たり前の様にご飯を食べて、当たり前の様に生きる。そんな当たり前に、一つ深呼吸をしてラブレターの封を切ったなら、見える世界はきっと…。
「ごちそうさまでした」そう言って私は今日も笑顔になった。
Photo by 小澤 彩聖