レポート
テレワークの推進と共にワーケーションがぐっと身近になり、「中長期滞在」を切り口にした観光戦略に期待が込められています。しかし、ワーケーションが当たり前の世の中をつくるためには、本質に向き合う必要も。
そんなワーケーションへの熱い思いを交わすのは、その土地だからこそできる体験価値を発掘し届ける起業家と、行く先々で地域メンバーと共に事業づくりを行う起業家、5名です。
北海道上士幌町を舞台に開催した地域経済サミット「SHARE by WHERE」の中で「踊らされないワーケーションの在り方と観光戦略」をテーマに行われたトークセッション。
起業家が注目するワーケーションの実例や、描く未来とはーー。
堀口:ワーケーションの持つ可能性のようなポジティブな話や、課題のようなネガティブな部分にどう向き合うかなどをお届けしたいと思っています。早速ですが、皆さんが関わっているワーケーションの詳細を聞かせてください。
島田:ワーケーションのいい部分とよくない部分ということですが、私はよくない部分は1つもないと思っています。例えば、私の背景になっている梅。これは梅収穫のワーケーションを企画した時のものです。
和歌山県みなべ町は世界農業遺産の地で、梅農家が1,200あるんですが、収穫時の6月になると人手が足りなくなるという地域の課題を聞いたので、ワーケーションを掛け合わせました。
堀口:梅収穫ワーケーションに参加された方は、意義を感じて費用は自己負担、スケジュールを調整して来た人ばかりとお聞きしましたが?
島田:はい。本来であれば、農家さんから作業のアルバイト代がもらえるけれど、それもありません。ワーケーションってワークとバケーションからなる言葉で、バケーションは遊びやリラックスと捉えられていますが、そんなものは超えていて。バケーションの「vacate」は「空にする」という意味。場所や見るもの聞くもの感じるものを変えることによって、自分のことを空にして見つめ直す機会なんです。
梅収穫ワーケーションで体験したような一次産業のお仕事は、身体を使いながら単純作業を繰り返します。それが脳をリフレッシュさせる。そんな本質的なワーケーションを、ちゃんと伝えていきたいですね。
堀口:このセッションの結論出ちゃいましたね(笑)。参加した方々が最終的に得たものに、共通点はあったんですか?
島田:ポジティブな感情が参加する前より増えて、ネガティブな感情が減ったんじゃないでしょうか。そして、梅干し1つに対しての愛!これが本当に増えたので、梅に対しての見方や考え方、姿勢がすごく変わりました。そしてこの体験自体を広めていただいています。
堀口:地元の農家さんも嬉しいし、参加者にも思いもよらない発見がたくさんあったということですね。
島田:今回一番良かったことは、お金をかけずに労働力を得られたということではなく、「農業人生の中で最も楽しくて嬉しかった」という農家さんの言葉なんです。思った以上のポジティブな効果がありました。
白石:主に役員やフリーランスのような時間やお金に余裕のある人は、ワーケーションという言葉ができる前から、こうした働き方をしていました。先ほど島田さんが遊びやリラックスを目的とすることは本質的ではないとおっしゃっていたのですが、そういう働き方によって生産性が上がるという効果もあると考えています。
どんどん広めていくべきものですが、有給を使わないと日本の働き方では難しいことも事実ですよね。ここが克服できればいいなと思います。
堀口:ワーケーションは社員にとってもウェルビーイングだとわかっているので、もっと企業でも進めていってほしいけれど、実際は進められない背景にはどんな課題がありますか?
白石:論点として上がるのは、企業が主語になった時のコスパです。旅費をかけて社員を送り込んだことで会社が得られるものを設定しきれていない、測り方が定義できていないのが、ワーケーションする側・受け入れる側どちらにとっても課題です。受け入れ先も一緒に考えていかねばならないけれど、そこまでは至れていないのが現状ですね。
吉弘:ワーケーションを選びやすい仕組みに対しての個人的な案ではありますが、行った分だけ税額控除される「ワーケーション税制」を作ったらどうかなと思っています。今回のセッションを聞いていて、今後も進めていきたいと改めて思いましたね。
堀口:林さんは自ら楽しんでワーケーションを設計されている印象ですが、具体的にどんなことをやられているのですか?
林:私は早朝ゴルフに行ったり、夕方には釣りに出かけたり、毎日がワーケーションのような生活をしています。この生活スタイルをするために、最初は職場環境を整えることから始めました。
林:サウナを好きになって、サウナの聖地フィンランド・ルカのサウナツアーに参加したら、十勝の景色がルカにそっくりであることに気がついて。そこで、十勝のサウナもフィンランド式にすることを提案し、説得しました。
これまで十勝の観光客は60〜80歳が多く、冬に弱いという課題を持ってたんですが、サウナに力を入れるようになって、結果的にそれを目的にワーケーションや移住をする20〜40代の世代が圧倒的に増えました。狙ったわけではないけれど、結果的に増えているという事例ですね。
堀口:地域のことを分かって、愛しているコーディネーターの存在は絶対に必要ですね。
吉弘:地域を入れて設計しているところはポジティブな視点で、次から次へとアイディアがつながっていくところが多いような気がしています。
逆に、世の中には地域側への視点が抜けているところもあります。施設ばかりがどんどん増えていっていて。「箱物行政」なんていう言葉もありましたが、そうはならないようにしないといけないなと改めて感じ、私自身、色々なところに伝えているところです。
ワーケーションを推進するにあたり、本当に目を向けるべきところはまず、地元の住民や企業。必要だと思ってもらって初めて先に進めます。これが抜けていることが、ミスリードにつながっているのかなという反省がありますね。
堀口:島田さんは、ワーケーションにはあまり課題はないとおっしゃっていましたが、こうするともっと進んでいくんじゃないかと客観的に思われていることはありますか?
島田:私は、ワーケーションにルールっていらないと思っています。これって真髄はウェルビーイングなんです。林さんのように、仕事の途中に当たり前のように抜け出して釣りに行くようなリーダーがいる職場が、これからの違いをつくるんですよ。
「仕事と遊びの切り分けはどこか」と追求する人は遅れていると思っています。仕事なんて発想の結果だから、遊びと仕事には区別がありません。そういう人たちの方が発想力や行動力がある。
そのうえで大事なのは、最低限の合意形成はしっかりと図ること。例えば、ズルはしないとか人を騙さないとか。サボったって結果を出せばよくて、いちいちマネージするのをやめてほしい!これが私が一番思う課題です。
白石:ワーケーションができる働き方が良いことはわかっているんだから、トップダウンで「やろう!」と進めることが今回の共通項だと思っています。資金の問題などもはねのけるくらいの強い推進力が必要ですね。
堀口:ワーケーションも人生設計の1つ。ワーケーションによって考え方を見つめ直すことが、大事なんだなという気がしますね。
堀口:最後に、ワーケーションの描く未来や想定される壁について、登壇者の皆様から一言ずつお願いします。
島田:仕事中心に物事が決まるんじゃなく、自分の人生をどうデザインするのか、人生に一番大事な軸を置いて考えたらいいことなんじゃなかなと思っています。それが描く未来です。
林:私は毎日がワーケーションですが、ドーパミンとアドレナリンがドバーッと出ることを見出すことが重要だなと思っています。
白石:我々もワーケーションというソリューションを提供する側として、制度としてワーケーションを使いたいという会社さんが、実現できるようなものを目指していきたいです。
吉弘:踊らされないワーケーションとは、自分がどうしたいかだと思います。自分で踊りたいと思えば踊る、踊らないのであれば踊らない。選択は自分ができることです。国が会社がというよりも、「自分がどうしたいか」というワーケーションを広めていきたいですね。
堀口:ありがとうございます!登壇してくださった皆さんのSNS等は次なるアクションにつながるヒントばかりなので、ぜひ見てみてください。
Editor's Note
このセッションの前にワーケーションについて調べてみました。ワーケーションとは、漠然と働く場所をリゾート地などに移して仕事をすることだと考えていた私。日本経済団体連合会の企業向けワーケーション導入ガイドを見ると「テレワークを活用し、普段の職場から離れ、リゾート地等の地域で、普段の仕事を継続しつつ、その地域ならではの活動を行うこと」とあり、目からウロコ!さらに登壇者のセッションを聞いて、ワーケーションの概念がガラリと変わりました。
すべては自分次第。まずは「自分がどうしたいか」を考えることから始めたいと思います。世界農業遺産のみなべ町や十勝のサウナ、沖縄のリゾートホテルと、行きたい場所ばかりです。
CHIHIRO TAKAHASHI
高橋 千尋