KYOTO
京都
「与謝野町に関心を寄せていただける方々と共に何かを作り上げていきたい。まず、この思いをお伝えしたいですね」
そう話すのは、京都府与謝郡与謝野町(よさのちょう)の山添藤真(やまぞえとうま)町長。
与謝野町では新たな取り組みとして「ふるさと起業家支援プロジェクト」の枠組みを活用し、農業、織物業、観光業に取り組む、町外からの事業者(起業家)を募集しています。(募集期間:2024年12月10日(火)〜2025年3月10日(月))
今回の記事では、町内で事業を営む方々のリアルな声、そして町長の、与謝野町の産業の可能性と制度の活用にかける思いをお届けします。
与謝野町では、古くから稲作を中心とする農業が営まれてきたほか、丹後ちりめんの生産地として日本の和装文化を支えた織物業が発展してきました。さらに、天橋立のある京都府宮津市、城崎温泉のある兵庫県豊岡市と接する観光客の経由地となっています。
今回、与謝野町で応募を開始したふるさと起業家支援プロジェクトは、クラウドファンディング型のふるさと納税を活用し、寄付を募って事業者に対して創業資金を補助する制度です。
町内外から寄付を募る仕組みにより、地域内のみならず、外部とのつながりを持ちながら起業に挑戦することができます。
与謝野町の基幹産業である農業、織物業、そして観光業。この3つの産業を基本とした町内の資源を活用した事業の提案の受け付けが、2024年12月10日より開始されました。(詳細はこちら)
「与謝野町は、古くから中小企業者の方々の活躍によって発展をしてきた地域です。そのため、非常に自律心が高く、それぞれの人生を切り開いていこう、という意識が非常に強い人が多くいます。
この制度を通じて、そういう住民の皆さんや地域で活動されておられる企業の方々と、与謝野町に関心を持っていただいた方々とで新しい取り組みが生まれるとすごく嬉しいですね」(山添町長)
様々な取り組みを進めてきた与謝野町の次なる挑戦は、地域を巻き込み応援される、そんな次世代を担う起業家とともに始まろうとしています。
このプロジェクトの核となるキーワードは「共創」。
「本プロジェクトは、単に移住して、ひとりでに事業をしてもらうことを目的にしているわけではありません。町内の事業者さんと一緒になって、切磋琢磨してほしい。いいところは互いに学んで、情報共有しながら、最終的には地域経済全体が良くなっていく。そうした形を理想としています。地域事業者との連携を楽しむ意欲のある方にぜひ来てほしいですね」(与謝野町役場産業情報課 事業担当者)
与謝野町が目指すのは、ゼロから新しい産業を誘致することではありません。
地域産業と新たな事業とのかけ合わせで「与謝野町ならではの価値を作っていきたい」、そんな思いでこの制度の活用に乗り出したと言います。
山添町長をはじめ、与謝野町の事業担当者、町内の事業者の皆さんが起業家のアナタを心待ちにしています。
まずは、募集する3つの産業、織物業、農業、観光業の現状と可能性について町長からお話いただきました。
「与謝野町の織物事業者は、日本の美を作ってきたと思っています」と語る山添町長。与謝野町は、丹後ちりめんの一大産地として、長年にわたり着物文化を支え、織物産業を発展させてきました。
「織物産業は非常に分業化されているので、織るということだけではなくて、例えば機械の整備、道具作りなど、様々なノウハウが産地全体に定着しているという状況になっています」(山添町長)
近年では、伝統的な丹後ちりめんに加え、世界にも認められる新たな織物の製造にも着手してきました。
まだまだ進化する織物の産地では、様々なかかわり方で事業を生み出すことが期待されます。
「与謝野町の織物産業の現状を考えると、まずは現在の事業所の方々の努力を支えていくことが非常に重要になってきますし、織物の事業所の皆さん方というのは人材を求めておられます。現在の事業者の方々との関わり合いであったり、協働というものを重視していただくこことで、より多くの可能性を引き出せると思います」(山添町長)
「続いて、農業においては、与謝野町の農地のうち約95パーセントが稲作で、与謝野町の農業の根幹は稲作です。一方で、残りの5パーセントの農地では、お野菜や果物、ホップなどの作物が栽培されています」(山添町長)
ホップは2015年から作付けが始まり、町内にブルワリーも開業。農業分野では新たな作物や加工事業を軸に、新規事業の可能性が広がっています。
「現状、良質な作物がとれる状況ではあるものの、それを加工して、全国、全世界の販路網に乗せていく力はまだ弱いんです。与謝野町で栽培される農作物をベースとした6次産業への取り組みが生まれたらと考えています。
与謝野町の農業の可能性を引き出していくために、加工やレストランなどの部分も強化する。そうして、与謝野町の風土に根差しつつ、インバウンドの方々にも響く体験や経験を提供できる場所が増えればと思います」(山添町長)
稲作やホップを活用した6次産業への取り組みなど、農業分野は与謝野町の豊かな風土を活かしながら、多様な切り口でビジネスを生み出せる土壌があります。
「与謝野町は観光地ではないですが、テキスタイルへの関心を持つ方々であったり、住民の皆さんの日常生活に根差す文化を体験してみたいという方々が日々訪れています。
今後、より力を入れていく要素としては、やはり産業や文化に立脚したツーリズム。具体的に言うと、テキスタイルやホップに焦点を当てた観光のあり方っていうものをもっと押し出していく必要があると思っています。
そもそも、観光の目的は、その地域の魅力、光のようなものを求めるということだと思うんです。
最終的にその魅力を作り上げているのは人ですから、人に会いに行くことが観光の根源だと思うんですよね。地域の魅力となる方々が1年間を通じて楽しく生活をしている。そんな姿がもっと増えてくるといいなと思ってます」(山添町長)
「地域で起業したり事業展開していくことの1つの魅力は、お互いの個性を響き合わせて、何かを生み出していくこと。この楽しさが地域で活動する理由になると思うんです。
もしこの制度を活用して与謝野町に関わっていただける方がいらっしゃれば、私たちもこうした思いのもと共に取り組んでいきたいと思っています」(山添町長)
続いて、「織物は世界に認められる、勝負できる可能性を秘めている」
そう語るのは、創作工房糸あそびの代表、山本徹さん。
1935年創業の織物工房の3代目として、地元与謝野町の伝統を守りつつ、国内外で新たな価値を生み出しています。山本さんに、現場から見る与謝野町の織物業の現状をお話いただきました。
かつて丹後ちりめんの反物を作っていたこの工房は、2代目で洋服生地に特化した製造へと転換。そして、3代目の山本さんは、安さを追求する企業会社との付き合いから一線を引き、東京や海外の顧客と直接取引をしています。
世界とつながりもあり、今後も大きな可能性のある織物業界。しかし、担い手の面では課題を抱えていると言います。
「今は着物の織り手は足りていますが、高齢化が進み、75歳以上の人が織っている状態です。下手したら5年くらい経つと大半の人が引退していくんじゃないかなと。そうなった時に、後を継いで織る人材がどれくらい丹後に残るのか。ここが今1番危惧しているところですね」(山本さん)
「また、1つの産地だけで産業を守っていくのはなかなか難しいので、いろんな産地と情報交換しながらやれることを考える必要があります。産地が孤立した状態では、この産業を次世代に引き継ぐことはできません。地域を越え、手を組んで織物業を守っていかないといけないと感じています」(山本さん)
そう語る山本さんは、国内外に繋がりを広げ、多様な連携を見せています。実際に、糸あそびで使われている「リボン織機」は北陸の産地から引き継いだもの。こうした、丹後地方の枠組みを越えた事業展開、そして産業を守る姿は、次世代の希望の灯となっています。
「ここで生まれた人だけでなく、丹後で織物をやりたいと思う人に来てもらえるのが理想です」と、門戸広く、新たな担い手の参入を待っています。
豊かな伝統と可能性に満ちた織物業に今求められているのは、つくることや伝えることを一緒に楽しめる人材です。
「デザイナーを招致して商品化をするような打ち上げ花火のような取り組みではなくて、一緒に楽しんでいろんなことをやっていける人に来てもらえたらいいですよね。
また、田舎の人はPRが苦手なので、与謝野町の風景であったり、作業風景であったり、身の回りの魅力を周囲に発信することも一緒にやっていけたらいいかなと僕は思ってます」(山本さん)
続いて、宿泊施設「かや山の家」を営み、与謝野町の移住定住アンバサダーとしても活動されている青木博さんに、「観光地」ではない与謝野町の観光業の可能性を伺いました。
「与謝野町ってどこ?と思う方が多いと思います。主な名所もなく、経由地になることが多いんです。でも、それが逆に住みやすく、事業がしやすい理由でもあるんです」と青木さんは話します。
「空き家がかなり増えているので、比較的安価に入手できます。その空き家を、ゲストハウスやアトリエ、飲食店に活用するパワーのある方にとっては、すごく魅力的な環境だと思いますね」(青木さん)
「今は、京都の多くの場所でオーバーツーリズムが課題となっています。一方で与謝野町は、特に名所もなく、商売がしにくい場所です。しかし、だからこそ暮らしやすかったり、そこでしか出せないサービスが作れたりすると思います。
注目されてない場所だからこそ、自分の個性を活かして輝きやすいのかもしれません」(青木さん)
そう話す青木さん自身、宿泊業とともに飲食業、ジビエの精肉業と独自の事業を展開しています。
観光スポットが少なく、旅行の経由地となってしまうことや、地元の人に外食文化があまりないこと。こうした「ハードル」がある中だからこそ、他にはない体験を提供する余地が多く残されています。
また、移住定住アンバサダーでもある青木さん。事業を開始する際に、移住先や事業拠点を探す方は、どんどん「かや山の家」を利用しながら探してほしいと言います。
「与謝野町は合併して生まれた町なので、各地区にキーパーソンがいらっしゃるんです。その辺りの方々と繋がるとスムーズにまちに入っていけるのかなと思います。
家を探すとなると、なかなか日帰りで探せるものではないので、かや山の家を拠点にいろんな地区に家探しに行かれる方が多いんですよね。そうやって、まずはここでにちょっと住むように暮らしてもらえればと思います」(青木さん)
与謝野町は、起業家を一人にしないあたたかさと、事業を全国や世界へ広げていくパワーのある町です。
地域産業とのかけ算をするときも、孤独になる心配はありません。工夫を重ねながら既存の産業を進化させ続けてきた事業家の先輩方が、皆さんの新しい挑戦を受け止めます。
伝統を大切にしながら工夫を重ねてきた与謝野町で、地域の魅力づくりや課題解決に挑戦してみませんか?
<目的>
与謝野町では、地域経済の活性化、地域内経済循環を推進することを目的に、「ふるさと起業家支援事業」によって、町内事業者と一緒になって地域産業の活性化、課題解決(=共創)に取り組んでいただける企業、事業者を募集しています。
<制度>
ふるさと起業家支援事業とは、ふるさと納税を活用して地域の起業家を応援する仕組みです。
地域資源(現在、営まれている地域産業、観光資源、空き工場や空き物件など)を活用し、町内企業と共に地域産業の課題解決を進める企業・事業者の町内進出に対して、与謝野町がクラウドファンディング型ふるさと納税を募集集まった寄附金から事業者の起業支援として補助金を交付し、操業支援します。
<対象>
農業・織物業・観光業(いずれも関連産業を含む)
<募集期間>
2024年12月10日(火)〜2025年3月10日(月)
<応募方法>
事業計画書の申請(フォーマットあり。詳しくはこちら)
後日、オンライン説明会も開催されます!
Information
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Editor's Note
山添町長をはじめ事業者のみなさんの視点が、ただの地域課題の解決にとどまらず、その先へどう広げていくかに向いていることにハッと気づいたとき、改めて与謝野町の皆さんの懐の深さ、そして野心にワクワクしました。どんな取り組みが生まれるのかとても楽しみです。
AYAMI NAKAZAWA
中澤 文実