マルシェ
都心から1時間30分。城下町の面影を残す茨城県結城市にて、2022年夏より行われているのが、古民家・空き店舗活用プログラムYUILABO実践校です。
「古民家・空き店舗を活用して『好き』をカタチにしたい。」そんな強い志を持った5組のチャレンジャーが、YUILABO実践校の最終プログラムとして、12月4日(日)に1日限定の結いマルシェを開催しました。
舞台は、歴史ある市街地の中に存在する2つの古民家。旧呉服店をリノベーションしたコワーキング&カフェ「yuinowa」と、近々ゲストハウスとして生まれ変わる予定の一軒のお家の庭先。
「ジャンルも経験も別々だけど、自分が “好きなこと” への熱き想いだけは同じ!」という熱きチャレンジャーたちがお届けするのは、「コーヒー」「味噌」「ベルギー料理」「草木染め」「サウナ」という個性豊かなコンテンツ。
それらと結城市が掛け合わさったとき、どんな化学反応が起こるのか!
8月からスタートした学びの集大成として行われた、結いマルシェのイベントレポートを参加者一人一人にフォーカスした形でお届けします。
まずはじめにご紹介するのは、自らを「バリスタ保健師」と称する産業保健師8年目のshinoさん。コーヒーを入れる「バリスタ」と心と身体の健康をサポートする「保健師」という2つの顔をもっています。
大好きなコーヒーを淹れながらお客様のお話を聞く活動を行っています。
shinoさんは、お気に入りのコーヒー屋さんのお豆を数種類用意し、香りをかいで好きなお豆をお客様に選んでもらってから、一杯ずつ心をこめて淹れていきます。
「『1杯ずつ自分のために淹れてくれる』って、嬉しいと思うんです。コーヒーを淹れる過程も含めてお客様に楽しんでもらいたいので、『淹れる過程から一緒に会話を楽しむ』という形に自然と行きつきました。何よりもその時間が私自身、1番好きなんですよ」(shinoさん)
「コーヒーでこだわっていることは、真鍮製のコーヒーサーバーをつかっていること。コーヒーが落ちた時の響きがとても綺麗で、川のせせらぎのような音に聞こえませんか?お客様からも『淹れている時の音が素敵』と好評で、味だけでなく、コーヒーを淹れる音も楽しんでもらえたらと思っています」(shinoさん)
耳を澄ますと、まるで鍾乳洞にいるような涼やかな音が聞こえてくるshinoさんのバリスタの時間。味だけでなく、目や耳や鼻といった五感で結城市を楽しめるshinoさんらしい素敵な空間を提供してくださっていました。
続いてご紹介するのは、手作り味噌の活動をしている作田千津子さん。
作田さんは、結城市のお味噌屋さん『秋葉糀味噌醸造』の糀と大豆農家知久田さんの里のほほえみ大豆を使用した、結城の材料で作る味噌づくり体験会を行いました。
「もともとパンから始まって発酵や麹に興味を持ち、今は麹も自分で作ります。子どもの頃、味噌を作りに祖母の家に行ったことを覚えているのですが、今もどの家庭にもある味噌を家族で作ることができたら、家族の共通の話題にもなっていいなと思います」と話す作田さん。
圧力鍋で煮て、耳たぶくらいの柔らかさにすりつぶした大豆と糀、そして伊豆海水から取ったミネラルがたっぷりな塩を使い、味噌玉を作ります。
「味噌は簡単に作れるし、地域ごとの違いも知ると面白い。興味の幅を広げてもらうためにも、各地の味噌をご用意して皆さんに案内しています。発酵食でもあり、調味料でもある味噌の良さをもっと広めたいですね」(作田さん)
この日は味噌づくりだけでなく、結城産の野菜や干瓢の入ったオール結城の味噌汁を味わってもらったり、味噌を使ったおやつの試食も行った作田さん。味噌が出来上がる頃、手前味噌自慢会をしたいと構想中とも話します。参加者からも大盛況でした。
2022年3月からシェアキッチンやマルシェで料理の提供を始めた木村裕子さんは、元は旅行会社の添乗員。添乗員として50ヶ国を渡る中で、世界の軽食の虜になった木村さんでしたが、いざ帰国して食べたいと思っても近くにそういう料理を出してくれるお店がなく、「それなら自分で作ってしまおう」と料理の提供を始めたのだと話します。
「最初は月に1回程度の出店だったんですけど、今はありがたいことにお声をかけていただくことが増えて、月に3〜4回出店しています」(裕子さん)
「ないものは自分でつくってしまおう」の行動力が素敵すぎる裕子さんですが、メニュー表の文字やイラストも木村さんのお手製なのだとか。
「私の料理がきっかけで、いろんな国の食文化に興味をもってもらえたら嬉しいなって。なのでその国の食だけではなく簡単な言葉、挨拶なども一緒に伝える活動をしています」(裕子さん)
「結城市がベルギーのメッヘレン市と姉妹都市関係を結んでいることを知ったので、結いマルシェでは結城のお野菜を使ってベルギー料理を作ろうと思いつきました。あと結城にはビールの醸造所があって、ベルギーもビールで有名なので、それも共通点ですよね。
今回のメインは鶏肉を使ったワーテルゾーイ(=ベルギーのシチュー)にしてみました。フライドポテトに使っているのも結城のジャガイモで、タイムとパセリで味と香りを引き出しています」(裕子さん)
土日の出店にはご主人も手伝いに参戦するという、素敵な木村ご夫妻。ご主人は将来ゲストハウスを開くのが夢で、開業したら裕子さんもカフェを作りたいとのこと。お2人の夢がどんどん実現していくのが楽しみです。
続いてご紹介するのは、地元の植物から草木染め体験をできるワークショップを行う柳井麻友美さん。本業のかたわら草木染めを始めて1年ぐらいになるという柳井さんですが、今までに染めたことがある材料は、約20種類くらいになるのだとか。
「今回、結城の名産品である結城紬にちなんで桑の実を使って染めていますが、本来桑の実は染まりにくい材料なんです」と話す柳井さん。一見真っ赤な色にも見える、桑の実を抽出したボウルですが、いざ染めてみるとふんわりとした、紫がかった桃色が出てきました。
「よく染まるのは、茜(あかね)や蘇芳(すおう)、いわゆる古代からある染料などはよく染まります。桑や、薔薇のように花びら系で染めていくものは、実はあまりよく染まらないんです」(柳井さん)
花びらから抽出が難しい場合は、酢のようなものを使って色を出すこともあるのだとか。
「例えば、桜などは木の枝から色を出してみます。どんな色に染まるのかは日々試行錯誤ですが、その時々に出てくる色を想像するのがとても楽しい。同じ植物でも、産地によって染まる色の濃さが違うのもまた面白いところです。今後も草木染めのイベントを続けていきたいです」(柳井さん)
城下町を感じる結城の古民家の軒先で、のんびりと染めたものを乾かす。そんな時間がなぜだかとても贅沢に感じました。
同じく、結城紬にちなんで桑の葉を活用するのは、オリジナルのロウリュウパック制作とサウナ体験を開催している高塚桂太さん。
「ロウリュウとはフィンランド語で『サウナストーンに水をかけて発生する水蒸気』のことです。お湯の中に香りを含んだロウリュウパックを入れ、香り成分を十分抽出した後にストーンにかけると、ジュワーっと水蒸気が発生してテント内は香りに包まれます」(高塚さん)
元々栃木県塩谷郡塩谷町でテントサウナのレンタル事業をされている高塚さん。今回のマルシェでは、ロウリュウパック作りをプログラムに入れました。
「結城では桑の葉茶が有名なので、それをラインナップの主軸にしながら、他にジャスミン茶、ごま茶、ほうじ茶、玄米茶、桑茶を用意して、好みの香りをプラスしてもらっています。ブレンドの具合で、全く違う香りになるので楽しいですよ」(高塚さん)
サウナ業界では「お茶ロウリュウ」が流行っており、そこからヒントを得たのが今回の桑の葉サウナ。
「2023年2月に、僕の地元の塩谷町で大きなサウナフェスを開催予定です。湖のほとりのキャンプ場を借りて、そこにサウナを10基出して並べて、飲食とか音楽とかも合わせながらフェスをします。プールも用意しますし、キャンプファイヤーもあります。
他にも古民家を契約していて、今、リノベーション中。民泊を始める予定です」と話してくださった高塚さん。サウナ以外の事業にも、夢が広がっているようです。
個性あふれる5人の挑戦を形にした結いマルシェ。「好き」と「まち」が掛け算された素敵な魅力がありました。
Editor's Note
結城を舞台に、5組それぞれの夢を形にした結いマルシェ、いかがでしたでしょうか。どのチャレンジャーもこの先の展開が楽しみになりますね。この先のお話も続けて訊いてみたくなるような、ワクワクするコンテンツを見せていただきました。
KAYOKO KAWASE
河瀬 佳代子