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※本記事は『ゼブラ企業カルチャー入門』刊行記念トークイベントの内容をレポートにしております。
ゼブラ企業とは、長期的視野を持って「社会性」と「経済性」を両立させようとしている企業のこと。利益を追求し、短期間での急成長を目指す「ユニコーン企業」に対して生まれた概念です。従来の資本主義の行き詰まりが指摘されるなか、未来を拓く考え方として注目されています。
前編では、ゼブラ企業とは何かに始まり、異なる立場からゼブラ企業の発展に取り組む登壇者の取り組みを深堀りしました。
後編となる本記事では、「ゼブラ企業」という考え方を通して、資本主義経済の中で社会にインパクトを与える企業が持続していくために重要な考え方のヒントを探ります。
阿座上陽平氏(モデレーター、以下敬称略):ゼブラ企業はユニコーン企業と対比されるのでスタートアップの領域だと考える方が多いんですが、私たちは3段階、親ゼブラ、兄ゼブラ、子ゼブラというフェーズがあると考えています。
親ゼブラは自分たちで子供を産んだり育てたりできるような規模やリソースがある。兄ゼブラは地域や業界のリーダー的存在で、自分たちが子供を作る・育てるわけではないけれど、背中で見せるような会社。子ゼブラはこれら成長していく、もしくは、地域の伝統工芸を対象としている会社や家族経営の会社です。ゼブラ企業を取り巻く環境として、ゼブラ企業を支える金融や行政、そして私のようなポジションがあります。
阿座上:そんなゼブラ企業を取り巻く状況のなかで、それぞれがそれぞれに期待するものを聞いていきたいと思っています。小林さやかさん、様々なゼブラ企業とコラボレーションする中で期待するものはありますか。
小林さやか氏(以下敬称略):現在、人口減少のトレンドは変わらず、むしろ加速しています。大企業にとって、人口減少下でのビジネスは、あまり経験がないことです。そのため、過去の成功体験に引っ張られてなかなか発想の転換ができないんですね。日銭は稼げているし困っていないので、転換するきっかけもなく新しい発想は出てこない。
一方で、社会構造が変化している中で、自社内のみでソリューションを産まなくてもいいとも考えられます。大企業が既に持っている知名度やリソース、日本郵政でいえば郵便局や物流網、それを掛け合わせる支援をするだけで、大きなインパクトを出せるのではないかと考えています。
小林(さ):その意味では、やっぱり実際にやっていく、形を見せていくことが重要です。知恵をいただきながら、形にしていって、それが他で模倣されていく。そういう循環を生み出していけるようなきっかけを与えていただきたいと思います。そこにすごく期待していますし、それを広げるという意味で、行政の方の支援をいただきたいです。好事例としてご紹介していただくとか(笑)
阿座上:実際に一歩踏み出す中で、「儲かるの?」とか、「インパクトって何?」ということを聞かれたのではないかと思いますが、どのように説明していたんですか。
小林(さ):そうですね、社内には役員がたくさんいます。1人ひとり価値観は違いますので、過去の成功体験がある中で「わざわざやる意味があるのか」という趣旨の意見もありました。企業にとって見えやすい価値というところで「人材育成には必ず役立ちます」と説明し、理解していただきました。
ただ、実際に取り組んで、協業の現場を見てもらって初めて、「君がやりたかったのは、こういうことだったのか」と言っていただけました。事例をいくつも生み出しながら実際に見てもらって広げていアプローチが結局手っ取り早いのかなと思います。
阿座上:味愛さんは、郵政さんをはじめ大企業や行政と組む中で感じることはありますか。
小林味愛氏(以下敬称略):郵政さんは本当に面白いんですよ。私達は福島県で活動しているので、社会全体へのインパクトもあれば、地域に特化したインパクトもあるんですが、郵政さんと組むことでインパクトがどんどん広げられるところにやりがいとおもしろさを感じています。
特に私達は桃など果樹の農地なので、環境の負荷を抑えることがかなり難しいんです。BtoCが増えている時代背景の中で、環境負荷を軽減してどう消費者に届けるか。サプライチェーン全体で環境負荷を軽減するにはどうすればいいのか、そういったところを一緒に考えられますし、この取り組みがうまくいけば、福島だけではなく郵政さんを通して全国に広げることができる。そういった社会的なインパクトの大きさに協業の可能性を感じています。
小林(味):また、行政(国)についていえば、やはり考え方を示してもらったり、整理してもらったりすることは地域側にとって良い影響があります。整理していただくことで、周囲に理解してもらえるようになるんです。自治体や金融機関の方なども文書が出ることで「なるほど」と思ってくれる。
阿座上:ゼブラ企業として、成長途中の段階だと思いますが、売り上げを求めることと、協業、社会的インパクトを出すこととのバランスは難しいと思います。皆さんどうされているのでしょうか。
小林(味):大切なのは誰もが嫌な思いをしないことかなと思います。結局今までのビジネスは安く仕入れて高く売る、資本主義の中で毎年利益を増やしていく仕組みである以上、どこかの段階で誰かが搾取されざるを得ない状況になりがちでしたけれど、そういうことはやりたくないですね。事業を続けていられるというのは、誰もが嫌な思いをしない選択を1つ1つ重ねていくことで結果としては伸びているということだと思います。
阿座上:味愛さんの会社には出資もさせていただいてるんですが、プロダクトがすごく上手なんです。これまで僕たちがかかわってきたゼブラ企業は、プロダクトや仕組みそのものをつくる力がすごく強くて、さらにその背景にロジックがあって、納得感のあるストーリーを持っているんです。その点は、僕たちが応援したいゼブラ企業の特徴の一つだなと思っています。
伊奈さんからみて、これから新しいモデルをつくるなかで、どのような協業を考えてらっしゃいますか。
伊奈友子氏(以下敬称略):私達ができることは、考え方を整理して、わかりやすく伝えていく、共通の概念をつくっていくことだと思っています。皆さん、思い描くものが違うので、一緒に話ができないということはあります。だからこそ、考え方をしっかりと整理して、私達が言わなくても自分たちで引用して言えるようになっていくだけでも、効果があるのではないかと思います。
伊奈:自治体ですら一者でできることはだんだん少なくなってきているなかで、協業はやらざるを得ないことだと思っています。
そのとき、どんな形で繋いでいくのかがポイントになります。地域においては、地域のことをわかっている、地域のことをよくしたいと思っている人がつなぎ役になるのがいいですし、もっと言うとそれが横展開していけるといいと感じています。
阿座上:会場から「成功したゼブラ企業の事例を知りたい」という要望をいただきましたが、それを挙げるのはすごく難しいと思います。なぜかというとゼブラ企業にはおそらく成功がないからです。ゼブラ企業は守るものがあって、それを持続することがテーマになっています。
尊敬している、群言堂という会社を紹介したいと思いますが、島根県大田市大森町石見銀山にありまして、そこは江戸時代から続く街並みを守り、世界文化遺産にも数年前に登録されている、多くの人が訪れるまちです。
阿座上:世界遺産登録時にはオーバーツーリズムによってまちが棄損されてしまったり、儲けを求めて外資が入り込んだりする。それによってコミュニティの姿が変わるなか、今度はコロナ禍には人が来なくなる。そうなったときに新しいまちの在り方を地域内の様々なステークホルダーと一緒につくっていっているのが、群言堂さんなんです。
群言堂さんは、アパレルと飲食、宿泊の会社で、石見銀山が保ってきた江戸時代から続く暮らし方を、アパレルに転換し、全国に展開することで数十億の売上を出してます。そのまちの文化から自分たちが営みを続けさせてもらってるので、還元するためにも、まちのみんなで新しい自治を作ることにチャレンジしています。
きちんと売り上げをあげながら、自分たちだけが総取りするのではなくて、自分たちを作ってきたまちにも還元しよう、そんな会社なんです。自分たちが儲かることではなく、地域が儲かる、みんながよくなることを念頭に置いて経営する。そういったことを考えているのが、成功というか、かっこいいゼブラ企業だなと思いますね。
阿座上:最後に、新しい資本主義とこれからの未来について、お一人ずつメッセージをいただければと思います。
伊奈:新しい資本主義という言葉とゼブラ企業は、実はすごく親和性が高いのではないかと思います。日本的な中小企業の形と親和性が高いですし、ゼブラ企業を育てることを考えると、実はこれから100年続く企業を育てていくことに近いのではないでしょうか。
地域にしっかりと根を張って、地域経済を支え続ける中小企業を育てていくことは新しい資本主義に繋がるのではないかと感じます。今まで経済化できなかったことが経済化できるようになってきたこともありますし、社会課題はなくならないので、それこそ100年続く企業を創っていくことがすごく重要です。なので、私は新しい資本主義とゼブラ企業はぴったり合っていると思います。
小林(さ):新しい資本主義という言葉それ自体の解釈がいろいろあると思います。私なりの理解としては、これまでの1社のみが成長すれば良い、という規模の経済を追求する社会から、多様なパートナーシップを組むことで、範囲で経済を回していく社会に転換期を迎えたのではないか、ということです。今一度企業としてこれまでの在り方を見直して、事業に関わるステークホルダーがみんなハッピーになる方向性に知恵を使っていくことに力を注いでいくべきだと考えています。
ローカル共創イニシアティブの取り組みをご紹介しましたが、そういった取り組みを他の企業の方々にも少しの要素でもいいので、真似をしていただき、仲間になっていただきたいと思います。
小林(味):私の解釈では、新しい資本主義は誰もが嫌な思いをしない経済社会だと思っています。例えばSDGsの実現や搾取をしない考え方とか。表面上の言葉だけ言うのは簡単ですが、実際に言動一致で実施することはめちゃくちゃ難しいんですね。今見えていないものはなんなのか。自然資本や将来世代など代弁者がいないステークホルダーまで念頭において私たち企業が1つ1つの選択を考えられているか。
きっと、そうじゃないことが多いんと思うんです。ゼブラ企業はそういった1つ1つの選択をもう一度とらえなおす、本当に優しい経済とはどういうものなのかを考え直す企業でもあると思います。発展途上のゼブラ企業という概念を、共感してくださる皆さんとともに広げていけたらと思います。
Editor's Note
「理想だけでは稼げない」つい言ってしまう言葉ですが、それをぐっとこらえて、稼ぐためにはどうしたらいいんだろう、ある意味そういった貪欲さを持って考え続けることが、最終的に地域の持続可能性を高めることにつながるかもしれない、そんな希望を感じました。
AYAMI NAKAZAWA
中澤 文実