NAGANO, SHIOJIRI, FUJIMI
長野県塩尻市, 富士見町
テレワークが推進されたことで、都市中心型の暮らしを見直し、自身とゆかりのある場所、またゆかりがなくとも好きな地域に、もっと関わっていきたい、と思うようになった人は少なくないはず。でも、首都圏にいながら地域との関わりを持つには、どうしたらいいのだろう。
総務省が実施している関係人口創出・拡大事業は、移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域や地域の人々と多様に関わる「関係人口」を増やしていく取り組み。人口減少や高齢化により、地域づくりの担い手が不足している地方圏。でも、あるところでは若者を中心とした「関係人口」が地域に入り始め、地域外の人材がまちづくりを担い、変化を生み出している。
そんななか、長野県の塩尻市と富士見町の関係人口を創出する試み、「あずさ沿線のテレワーク施設をハブとした関係人口創出プロジェクト」が2020年8月にスタート。JR東日本長野支社が都心に拠点を置く副業人材と一緒に、東京と塩尻市を結ぶ「特急あずさ」を利用したワーケーションを、首都圏在住者に向けて促進する施策だ。
JR東日本がこのプロジェクトに込めた想いとは。そして、副業人材を含む多様な人材を交えたチームを組んだ背景とは。
本記事では、プロジェクトメンバーである西宮 竜也氏(JR東日本長野支社 総務部企画室 地方創生担当 )、寺田 菜々美氏(JR東日本長野支社 総務部企画室 地方創生担当 )、雨宮 陽一氏(富士見町 総務課 企画統計係)、吉田 めぐみ氏(株式会社ツクルバ co-baコミュニティマネージャー)、小口 潤氏(株式会社ROOTs 取締役COO)に話を聞いた。
──本プロジェクトは、地域内のメンバーはもちろん、副業人材として地域外からもメンバーを集めているんですよね。多様な人材でチームを組んだ背景を教えてください。
西宮氏(以下、敬称略):塩尻市は総務省の関係人口創出・拡大事業に採択され、「MEGURUプロジェクト」を実施しています。これは地域が抱える多様かつ複雑化した課題を、地域の当事者だけでなく、地域外の人材(プロフェッショナル人材)のノウハウやスキルを、オンラインを利用しながら活かし、解決を図るというプロジェクトで。プロフェッショナル人材が、副業という形で自身の能力を発揮しつつ地域課題解決事業に携わることで、関係人口となり、地域活性化の循環を生む仕組みになっています。
寺田氏(以下、敬称略):私たちがまず最初にやったことは、「あずさ沿線の関係人口を増やしたい」という私たち(JR東日本)が掲げたテーマに共感し、課題をよりクリアにするための壁打ちを社外の目線から手伝ってくれる仲間づくりでした。長野県塩尻市が行うオンラインコミュニティ「塩尻CxO Lab(※)」にアプローチをして、今日の取材にも参加してくれている富士見町役場の雨宮さんとほか2名がまずチームに参加してくれたことは本当に大きかったですね。そこからは、チームでひたすら「どんな関係人口を増やしたいのか?」「具体的なKPIとは?」と課題の壁打ちを重ね、私たちが抱える課題をより鮮明にした上で、本プロジェクトの仕様書を作成しました。
寺田:やっとの思いで仕様書を作成した次は、再び仕様書の内容を実行フェーズに移してくれる仲間集めで。メンバー全員、納得して完成した仕様書でしたが、「応募がこなかったらどうしよう」という不安もありました。ところが、実際募集をしてみたら予想をはるかに上回る応募があって。応募者全員と面談をした上で、地域やあずさに対する思いを熱く語ってくれた小口さんと吉田さんの2名に、新たにチームに加わってもらいました。
(※)関係人口拡大オンラインコミュニティ。プロフェッショナル人材を副業で地域に迎え入れることで、地域プロジェクトが生まれ、育まれている。
──今回、JR東日本長野支社がプロジェクトのオーナーとなって、課題解決を実施するに至ったのにはどのような理由があるのでしょうか。
西宮: 地方圏の人口は減少しており、それと同時に鉄道利用者も減っています。地域の活力が失われると、地方路線の利用者の減少、さらに路線の廃止にも繋がる可能性があります。そんな寂しい結果を招かないためにも、あずさの停車駅である塩尻市と富士見町の地方創生にJR東日本が関わり、関係人口を増やすおもしろい企画ができれば、鉄道利用者の増加に繋がり生き残れる。そう思っています。
新宿から特急あずさに乗れば、富士見町は約2時間15分、塩尻市には約2時間半で到着します。車内にはWi-Fiが完備されていますし、それぞれの駅の近くには「森のオフィス」や「スナバ」といったコワーキングスペースもあります。近年のワーケーション需要もあり、あずさ沿線にあるテレワーク施設の利用を促進することで、鉄道利用者および地域の関係人口を創出できるのでは、と考えました。
──具体的にどのようなアクションを起こしていくのでしょうか。
雨宮氏(以下、敬称略):3月13日、17日にはオンラインツアーを実施予定です。私は以前、都心のIT企業で働いていて、現在は富士見町役場に勤務しています。ここ数年で感じるのは、塩尻市と富士見町にあるテレワーク施設に、ITや広告業界で活躍する人たちが集まりだしているということ。さらに彼らの多くは、お金の豊かさよりも日々を丁寧に生きるとか、持続可能な社会を作るといった、社会実現や自己実現に価値を見出しています。また、富士見町は、コロナ禍のなか新しいお店の開店ラッシュが起きているとニュースになったりもしました。
長野にはチャレンジングなフィールドがあり、おもしろいプレーヤーが続々と集まっていることを周知したい。と同時に、地域と関わりしろを持ちたいと思っている人たちが、塩尻市と富士見町に拠点を置く人と繋がれる場をオンラインツアーで設けたいと思っています。
──関係人口を創出するためには、長期的な活動が必要不可欠になりそうですね。JR東日本長野支社として、今後あずさ沿線をどのように展開していくのでしょうか。
寺田:雨宮さんが前述したように、今後塩尻市や富士見町にはより多くの人が集まり、各地域に担い手によって、地域をもっと楽しめるコンテンツが増えていくと思っています。個人的な夢としては、JRが持つ「駅」という場を活用して、電車を降りて、駅にいけば、その地域の面白いプロジェクトや向かうべき場所が自然と分かり、つながれるようにしていきたいと思っています。せっかく各地域でいいプロジェクトが産まれていても、それが分かる場所が日々の生活の導線上にないと、知っている人は繋がれるけれど、知らない人は一生繋がれない。そのつなぐ場になるのが、これからの駅の役割なんじゃないかと思っています。そこで、JR東日本と地域の事業者がもっと密接に関わり、地域で頑張る人の情報を駅で「見える化」していくことで、関係人口創出に繋げていきたいですね。
──吉田さん、小口さんが、副業としてこのプロジェクトに関わろうと思ったきっかけはなんでしょうか。
吉田氏(以下、敬称略):東京のコワーキングスペースでコミュニティマネジャーを5年ほどやっています。これまでは、コミュニティの内部を作っていくことがメインでしたが、ここ数年はコミュニティ同士を掛け合わせたときの変化に関心を持つようになったんです。私が知っている都市部のコミュニティと、地域のコミュニティが関わり合うことで双方にいい変化が生まれるのでは、と思い参加しました。
小口氏(以下、敬称略):富士見町出身の私は、大学入学を機に上京し、広告代理店に就職。そこで地方創生の会社をスピンアウトで作り、経営しています。高校卒業までは魅力を感じていなかった地元ですが、いざ東京に出て、友だちを連れて帰ってくると、「この町いいね」ってみんな口を揃えて言うんです。それまで当たり前だと思っていた山の景色や、水の綺麗さが、改めてすごいことだと気づかせてくれたこれが原体験です。そんな経緯で、今の仕事では全国の行政や地方企業の支援を行っていて、そのノウハウを地元に生かしたいと応募しました。
──そんなおふたりが、関係人口を創るうえで意識していることはなんでしょうか。
吉田:私は、長野県に縁はなく塩尻市や富士見町のことも知りませんでした。このプロジェクトを実行する段階で、徐々に街のことを知り、まさに私自身が地域の関係人口になっていったと思っています。関係人口を創るには、観光目的ではなく、積極的に地域に関わっていきたいと思わせる仕掛けづくりが重要だと思っていて、私は自分自身のような人がターゲットだと思っています。
私のようにローカルに興味を持っていて、関わりしろを持ちたい人はたくさんいると思います。でも、どうしたらその街と接点を持てるか、イメージが持てず、思って終わっちゃうことが多い。
だからこそ私自身が体験した、地域外から来て、そこに根付いていった人たちのリアルな声や暮らしに触れることで、関わった人たちがそこ(地域)にいるイメージをより具体的に沸かせられるようになればいいな、と思って企画をつくっています。
小口:「関係人口を創る」と一口に言っても、まずは地域や地域の人たちとの出会いがなければ始まらない。近頃、富士見町では「富士見森のオフィス」や、駅近辺にある移住者による新しいお店が注目を集めています。そしてもちろん、すばらしい自然も身近にある。そこに拠点を置く人たちの暮らしぶりを見聞きする場を作り、興味を持っている人がアクセスの利便性を知って、何度も訪れたくなるようなきっかけを生み出したいですね。
さらに今回は、JR東日本と塩尻市・富士見町に惚れ込む副業人材がタッグを組んで、3月13、17日の2日間でオンラインツアーを実施することが決定!
吉田さん、小口さんが中心となって企画するツアーでは、塩尻市・富士見町に移住した人、事業を始めた人の実体験を聞き、地域との関わりを深められる仕掛けを用意しているとのこと。
地域で仕事をしたい、二拠点生活もしくは移住を検討している、ローカルに関心がある人と繋がりたい、などさまざまな形で地域と「関係」していきたい人は必見の内容になっているので、まずは今回取材をした彼らに気軽に会いにいく感覚で、オンラインツアーに参加してみてはいかがでしょうか?
◉日時:2021年3月13日(土)13:00-15:00
◉場所:オンライン配信(zoom)
◉ 参加費:無料
◉スケジュール
13:00-13:05 … オープニング
13:05-13:30 … 富士見町の紹介
13:30-13:40 … 森のオフィスの紹介
13:40-14:25 … 商店街探訪あるき&移住者店主インタビュー
14:25-14:55 … 商店街盛り上げアイデア会議
14:55-15:00 … クロージング
◉関連情報
・富士見森のオフィス
長野県諏訪郡富士見町にオープンした、個室型オフィス 、コワーキングスペース、会議室、食堂を備えた複合施設。「里山に住む人々と都会に住む人々をつなぎ、新しい仕事や働き方、暮らし方を創り出せる場を目指します。」というコンセプトで、都心でも働くクリエイティブ人材は地元の生産者さんなど、多様なメンバーが過ごすこの場所で、新しいプロジェクトもどんどん生まれています。
・ゲストハウスカライ / オーナー 賀来寿彦さん
地域の方々に支えられながら27年間富士見のホテルで勤務、支配人を経験。お世話になった地域の方々に恩返しをするため、2020年12月JR富士見駅前に昭和初期の料亭のたたずまいを生かした簡易宿所「ゲストハウス賀来(からい)」をオープン。素泊まりのほか、仕事の打ち合わせにも使えるコワーキングスペースも開業。
◉日時:2021年3月17日(水)19:30-21:00(任意参加で交流会 -21:30)
◉場所:オンライン配信(zoom)
◉ 参加費:無料
◉塩尻の先輩移住者
・たつみかずき さん
2011年から2018年までに再生した6軒の空き家で1万人の流動を生み出す。地域の遊休資産の再生と活用/シェアハウス運営/写真と映像/買付旅と販売 など年収150万程度のミニマムローカルビジネスを生み出しまくる、たつみです。
・近藤沙紀(こんどうさき)さん
持続可能な街づくりへの一歩として “木曽平沢”という旧中山道沿いの町で空き家活用プロジェクトに挑戦中。都市部と地方を繋ぐ、地域側案内人を目指す。
・田中 暁(たなか あきら)さん
3年前の次男誕生と共に長野県塩尻市に家族で移住。20代は地元京都にて広告代理店に勤務。営業企画・アートディレクション・PR戦略等々、幅広く業務を経験。30歳で独立。現在、農家のProduce & Designをキーワードに、課題解決はもとより様々な農に関わるプロジェクトを多様な複業人材を採用し実施している。
Editor's Note
オンラインを駆使して進行している本プロジェクト。同じチーム内でまだリアルに会っていないメンバーがいることに驚いたとともに、和気藹々と、そして情熱的に地域の未来を話している姿に「こりゃ地域もおもしろくなっていくはずだわ」と、刺激を受けました。取材中、「都市部でチャレンジしにくいことも、地域では可能性が広がる」という言葉が印象的でした。お店を開きたいとか、自分のスキルや経験をもっと活かしたいとか、いまくすぶっている人がいるなら、ぜひ地域に目を向けてほしい。わたしも今年から山梨県にUターンしましたが、想像以上に地域は開かれているし、人も店も密集地帯じゃないからこそ本当に価値あるものが生み出されていくと、この取材を通して思いました。
特急あずさに乗って、車内で仕事をして疲れたら窓外の山や川を眺め、駅を降りたらテレワーク施設でおもしろい人たちに出会い、帰りはまたあずさに乗ってお酒を飲みながら帰路へつく。想像しただけでもワクワクするこのプロジェクト、ぜひ注目してほしいです。
SAWAKO MOTEGI
SAWAKO MOTEGI