YATSUGATAKE AREA
八ヶ岳エリア
取材前、「登山好きが高じて八ヶ岳に引っ越してきた、しかも趣味レベルではない」という前情報を聞いて、私は勝手に色黒の大男をイメージしてしまった(苦笑)。しかし、その予想に反し、目の前に現れたのは、爽やかな見た目のやさしそうな好青年。会話を進めていけばいくほど、やさしい語り口の中に、仕事もプライベートも確固たる信念をもち、ブレない姿勢であることがよくわかる。自身のライフスタイルや価値観をクールに見つめて、2拠点生活を楽しみながら、夢に向かっている新宮さんにお話を伺いました。
インタビューに先立って、新宮さんはある映像を見せてくれた。クライミングの映像だ。切り立った崖を登る姿をさまざまな角度から追いかけ、ほんのわずかなミスでも転落してしまいそうな緊張感と、見たこともないようなダイナミック、且つ美しい風景が相まって、スマホの画面をのぞいているだけなのに高揚感が沸き立ってくる。
「小学生のころにテレビ番組で岩登りを見て、自分もやってみたいと憧れたのが最初です。そうしたら中学の山岳部で岩登りをやっているのを知って入部しました。クライミングの方に傾倒し、いわゆる日本百名山に数えられるような有名な山にはまったく登っていないんですよ。山梨県の北杜市や長野県の南佐久郡にも首都圏から気軽に行ける有名な岩山がありますし、毎週末、特に夏には八ヶ岳エリアに通っていました」
映像で見せていただいたのは、北杜市の瑞牆山(みずがきやま)。国内外のクライマーがこぞって訪れる、自分の手足で登るフリークライミングでは関東近郊随一と言われる岩山らしい。新宮さんも、力こぶが盛り上がる二の腕よりも手のひらに向かう前腕屈筋群が発達しているのは、やはりクライミング経験の賜物というわけだ。そんな新宮さんが決断をする。
「いつも東京から車を運転してこちらに来ていたんですけど、渋滞にハマったりするわけですよ。ひと足先に北杜市に移住していた友人たちも生活ができているようだったので、そんなに苦労して通って来るくらいなら僕も引っ越してしまおうと思っていたときに『おためしナガノ』を見つけたんです。それを利用して富士見町で暮らしてみて、いいなあと思ったのが移住のきっかけです。移住したと言っても以前もひんぱんに来ていたわけですから、さほど気持ちの変化があるわけではありません」
『おためしナガノ』は、IT関連事業の個人・法人を対象とし、長野県内のオフィス利用料や引っ越し代、交通費などを補助してくれる長野県の制度。新宮さんは、初年度『おためしナガノ』を利用、そして、2年目には「移住&テレワーク支援制度」を賢く活用して、金銭的負担はほとんどないまま生活を移行させた。
「移住&テレワーク支援制度」とは、富士見町独自の制度で、町外からの移住者が対象。「富士見 森のオフィス」のコワーキングスペースを日常的な仕事場として利用できる人に対して、月額83,000円(1ヶ月の家賃、光熱費相当)を補助する制度だ。
「八ヶ岳での暮らしですか? 涼しいし、湿度が少ないですよね。木陰に入るとちゃんと涼しい風が吹く。冬はもちろん寒いけれど、寒いのは好きだから大丈夫です。
僕は東京の駐車場と同じくらいの家賃のアパートに住んでいるんです。3万円です。あまり部屋にこだわりがないから。普通のワンルームですが東京のそれより広いですし、お風呂とトイレが別々なのはうれしいです。
困ったこと? 特にありませんが、お酒を飲む量が減ったくらいですか(笑)。車を運転しないといけないので。本当にいいところばかりを享受しています」
Webエンジニアを生業としている新宮さんにとっては、コワーキングスペース「富士見 森のオフィス」があることもメリットの一つ。
「森のオフィスは都内のコワーキングスペースにはない魅力があります。天井が高くて、自然光も入るし、ハードがとてもいいんです。なおかつスタッフさんが周りの利用者を巻き込んでくれる。そういう部分がいいなあと思っています。コワーキングスペースを利用している人と一緒に山登りに行ったりジムに行ったりなんて、東京ではまずありえないじゃないですか。東京のコワーキングスペースは空間を共有しているだけで、そこにいる人たちとはあいさつくらいするかもしれないですけどほとんど話さないですからね。
森のオフィスの利用者の皆さんとは、同じ会社の違う部署みたいな距離感なのがいいです。直接仕事の成果がほかの人との関係に影響しないし、頑張っていればうれしいなと思える。八ヶ岳で出会った友人たちは、基本的には森のオフィス経由でつながった人たちばかりです。隣町でクラフトビールを製造している友人とはコロナ期間中にオンラインでボードゲームをやって過ごしました。彼がつくっているビールを常に横に置きながら(笑)」
キッチンや食堂も備え、自然に囲まれた環境で自分のペースで仕事を進める。さらに、地域内外問わず、ほどよい距離間で人と交流することができる「富士見 森のオフィス」は、自然に囲まれたゆとりある暮らしに加え、人間関係を含めたさまざまな出会いという豊かさをプラスしてくれているのかもしれない。
「東京にいても八ヶ岳の麓にいても仕事は20時までに終わらせます。一息ついた後、2時間くらい自分が運営するアプリサービスに手を入れたり、勉強をしたりというルーティンは変わらないですね。たった2時間ではありますが、1年、2年経てばだいぶ違うことができるようになっていると思うので。先程お見せしたBlackDoorFilmsの映像も実はそんなふうに始まったんです」
ずいぶん、引っ張った感じになってしまったが、新宮さんの夢は、北杜市に住む友人たちと登山・クライミングに特化した映像制作チーム「BlackDoorFilms」としての活動を広げ、さらに、仕事として成立させること。中学生のときに見た岩登りのテレビ番組は、クライミングの面白さと同時に、映像の楽しさも教えてくれていた。つまり、新宮さんは自分の大好きなクライミングを昇華させて、新たな“仕事”も生み出そうとしているのだ。チームでは、映像ディレタクターとしての役割を担っているという。
「アメリカのクライミングの映画『フリーソロ』が2018年にアカデミー賞で長編ドキュメンタリー映画賞を獲ったんですよね。アメリカではクライミングの映像を撮るというのは盛んですけど、日本国内ではそれほどでもないんです。ですが、“登山界のアカデミー賞”と呼ばれる優秀な登山家に贈られるピオレドール賞に、実はクライミングで日本人が毎年のように受賞していて。富士見町出身のアルパインクライマー・平出和也さんもそのひとり。それほど、日本はいいクライマーを輩出しているんです。けれど、映像化はほとんどされていない。とてももったいないと思います。
だったらそれを映像化して、世界中の人に見てもらいたい、という夢が僕らにはあるんです。撮る技術も編集技術も、ディレクションを担当している僕の能力もまだまだ足りていませんけど、一人でも多く、世界中の人に見てもらえるような映像を作りたいと思っています」
「僕自身がいちばん好きで、20年もの時間を過ごしてきたクライミングに特化した、映像撮影にこだわりたいんです。クライミングは、忠実に撮るだけで面白い要素がいっぱいある。たとえば海外遠征に行くペアは、半分くらいの確率で、挫折して帰ってきてしまうんです。登山なら山が(険しく)難しかったという理由もありますが、クライミングの場合、パートナーとの喧嘩が多くの理由なんです。
クライミングは、パートナーの判断次第で、自分の命にかかわることがよくあります。落石が多い場合、危なくて進めないと判断しても、パートナーは、まだまだ行けると判断することもしばしば。僕もそうした状況で初めてナーバスになるという経験をしました。パートナーを信用できなければ先には進めません。ちなみに僕は安全をかなり重視するタイプ(笑)。そういう様子を忠実に映像化するだけで、非日常だし、うそ偽りがない世界が生まれるんです」
東京の会社員で、Webエンジニアとして働く新宮さんは、フルリモートでできる仕事もあれば、クライアントのオフィスに出社するパターンもある。
「今はまだ映像では収入がほとんどありません。できればエンジニアとして得たお金の余剰を新しい機材や映像制作に回せるのが理想です。映像で頑張るためにはどうしてもより稼げる東京の仕事の方を増やしたいわけです。また映像の仕事が軌道に乗ってきて、東京で映像の仕事を得やすくなれば、東京に戻るかもしれません。すぐに山に行けるメリットより、すぐにクライアントに会えるメリットの方が大きくなれば東京に拠点を移す可能性も考えています。
でも八ヶ岳の家の家賃が3万円なら、東京での駐車場代だと思ってずっと残しておいてもいいかな(笑)」
新宮さんへのインタビュー取材は、こちらが高揚感すら覚える時間でもあった。未来のクライミングの映像制作の第一人者になってほしいと期待せずにはいられない。
そして今回、新宮さんと森のオフィスがタッグを組んで、10月24日(土)25日(日)に新宮さんと一緒に自然に直接触れながら、「どの山がクライミングにはいい?」「八ヶ岳って本当に良いとこ?」「テレワークで困った事は?」などなど、新宮さんご本人とゆっくり話が出来る1泊2泊の体験ツアーの開催を決定!
是非この機会に八ヶ岳エリアの過ごし方を楽しんでみてはいかがでしょうか?
今回は八ヶ岳での「二拠点生活」特集として、森のオフィスを拠点に二拠点生活を実践する3人に密着し、それぞれの二拠点生活のリアルを深掘っていく記事を連載でお届け。
10月末には実際に八ヶ岳エリアや森のオフィスを訪れ、密着した3人の先輩移住者と一緒にデュアルライフを体験する1泊2日の体験ツアーを開催します。
【第一回】掲載日9/23:新宮圭(Webエンジニア/会社員&経営者)
週半分は東京の会社に出勤し、もう半分は長野でリモートワークを行う傍ら、週末は近くの山で大好きなクライミングに打ち込む新宮さん。 最近は趣味が高じて、クライミングの映像制作チームも立ち上げました。“好き”をとことん追求しながら仕事と趣味を両立する、新宮さんのこれまでの試行錯誤の軌跡と、“夢”に向けた展望を取材しました。
<ツアー体験内容>山梨県にある山の岩場でクライミング体験(ビギナーも参加可)
【第二回】掲載日9/25 :馬淵沙織(広報/会社員)
都心の大手企業に勤めながら、週末に長野で古民家再生や農業に取り組む馬淵さん。移住者ながら地域のコミュニティにどっぷり入り込み、老若男女、様々な人たちと協働してプロジェクトを推進しています。職場の上司、同僚の理解と協力を得ながら、2拠点生活をスタートさせた。馬淵さんの熱い想いと行動力の源泉を取材しました。
<ツアー体験内容>地域の人達と協力して作り上げた古民家見学、畑での収穫体験
【第三回】掲載日9/28 : 栗原大介(映像・Web制作/自営業)
東京で磨いたスキルや知識を活かし、地域でいくつものプロジェクトに携わる栗原さん。映像やWebの制作からプロジェクトのディレクションまで、マルチなスキルを活かし、地域で絶大な信頼を得ています。移住者がどうやって地域で仕事を作るのか、また地域で求められるスキルは何なのか、地域プロジェクトの極意を取材しました。
<ツアー体験内容>地域プロジェクトの紹介、ステークホルダーとの交流体験
【ツアー開催日】
・10月24日(土)-10月25日(日) 1泊2日
【内容】
10月24日:
10:00- 新宿駅集合(森のオフィス手配バスに搭乗)※詳細は追ってご連絡
13:00-14:00 森のオフィス見学
14:30-15:30 八ヶ岳散策
15:35-16:00 野菜直売所見学、買い物
16:15-16:45 セルフビルドで建てた移住者宅見学
17:00-20:00 懇親会
夕食は蓼科にあるイタリアンレストランのシェフが地元の旬な食材を使った料理を提供してくれます。
宿泊先: 森の中のコテージ・森のオフィスLiving
10月25日:グループに分かれてデュアルライフ体験
A. 新宮圭 :山梨県にある山の岩場でクライミング体験(ビギナーも参加可)
B. 馬淵沙織:地域の人達と協力して作り上げた古民家見学、畑での収穫体験
C. 栗原大介:地域プロジェクトの紹介、ステークホルダーとの交流体験(山小屋まで30分ほど歩きます)
15:00-
B.C馬淵、栗原チームは森のオフィス集合 →バス搭乗
A.新宮チームは双葉サービスエリアにてバス搭乗
新宿駅到着 解散
※上記スケジュールは一部変更になる可能性がございます。予めご了承ください。
【料金】
¥28,000
・新宿⇄森のオフィスまでの往復高速バス交通費
・宿泊代
・現地アテンド
・夕飯(24日)
・昼食(24.25日)
上記は料金内に含まれます。
※24日,25日朝食代は含みません。
※ A.新宮コースに関しましては、別途mont-bell山行保険加入必須(保険種類:SD12 ¥2,000)が必要になります。
【定員】
定員15名(各グループ最大5名まで)
※最小実施人数:2名
【申込み方法】
下記ボタンをクリックして頂きGoogleフォームにてご予約をお願い致します。
※申込み期限:2020年10月13日(火)
【持ち物】
A 新宮圭のコース クライミングシューズ、チョークバッグ、クライミングができる服装
B 馬淵沙織のコース 作業用手袋、汚れてもいい靴
C 栗原大介のコース 軽登山ができる服装、靴
Editor's Note
新宮さんは青い炎のようだ。静かに熱く燃える想いを秘めている。幼いころ見たテレビ番組がきっかけでクライミング、クライミングの映像撮影という二つの憧れ=生き様の二拠点生活を実現するため、急がず、丁寧に考え歩を進めてきた。そんな生き方がクライミングに似ているのではないか。次はどこに手を伸ばそうか、体重をどうかけるか、そうやって築いた礎は強固だ。高い岩壁から見える富士見町の魅力を届けてくれる日が楽しみだ。
KOUICHI IMAI
KOUICHI IMAI