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※本レポートはシェアリングエコノミー協会が主催するイベント、「SHARE WEEK 2023 Sustainable Action」のディスカッションを記事にしています。
ソーシャルインパクトという言葉をご存知でしょうか。ソーシャルインパクトとは、企業や組織が本業を通じて社会的課題解決に取り組むことを意味しています。
環境問題や人権問題、社会問題などが複雑化していく現代において、企業の影響力はますます求められています。その際に、単に利益を追求するだけでなく、また社会的意義のみを追求するだけでもない、両方をバランスよく追求していく方法はあるのでしょうか。
本ディスカッションでは、「SOCIAL IMPACT~既成概念を覆す社会課題解決の新手法~」をテーマに、国内外で活躍されている登壇者たちが未来へのヒントを語ります。
佐別当氏(以下敬称略):皆さんこんにちは。まずは自己紹介と、特にソーシャルインパクトに関わるような事業紹介をしたいと思います。
私は元々IT業界出身でして、シェアリングエコノミー協会を2016年に立ち上げました。そこで事務局長を3年近くやり、現在は理事という形で関わっております。
佐別当:今は政府系のアドバイザーもさせていただきながら、2018年の11月にこのアドレスという会社を立ち上げて、ちょうど今月末で5周年を迎えるところです。実は青井さんも工藤さんも両方とも弊社の株主という形で、まさにインパクト投資をしていただいて大変お世話になっています。
株式会社アドレスは、「好きなときに好きな場所で好きな暮らしを」というテーマを掲げています。もう今はテクノロジーがあればどこでも仕事ができる環境が整ってきているので、職場だけじゃなくて住まいも1ヶ所の定住から解放して、多拠点生活ができる住まいのサブスクサービスを提供しています。
佐別当:海外ではデジタルノマドという形で、世界中を転々と暮らす方々もコロナ禍以降非常に増えていますし、日本でもサービスを立ち上げてから、アドレスホッパーとして家を移りながら暮らす若者たちが増えてきています。そういう方々向けに、月々9800円から9万9800円というような価格帯でサービスを提供しています。
当初は11件からスタートしたんですが、毎月物件が増えていて今は300件を超えています。北海道から沖縄まで、どこにでも自分の家がある状態です。
僕らのインパクト投資は、地域の空き家問題への取り組みです。人口減少で今は空き家が800万件、これが2030年代には2000万件まで増えると言われております。それに対して、1人1ヶ所ではなくて多拠点生活者を増やすことで、空き家の有効活用ができるだろうと考えています。
あとはインパクトレポートというものを作って、3年連続で毎年数字を発表しています。関係人口や、外の繋がり、幸福度といった指標を元に、どれだけ影響を与えているのかを定量化して、それを毎年比較しています。これは非常に優れた評価指標になっています。
最後に、僕らはコミュニティを大事にしていて、会員同士がオンラインでもオフラインでも繋がれるコミュニティを用意しています。今年の7月には「ユーザーを株主に」という主旨で、株式投資型のクラウドファンディングを実施しました。日本初のコミュニティラウンドというのを実施して、国内最高額となる約1億円を3日もかからずに集めるという結果になりました。新規で505名に株主になっていただき、本当の意味で会員と株主が一緒になってサービスを作っています。
工藤氏(以下敬称略):改めまして、SIIFの工藤と申します。私は元々途上国の貧困問題に関わる仕事がしたいと思っていましたが就職活動でご縁がなく、最初は商社に入社しました。
その後、やっぱり国連の職員になりたいと思って会社を辞めてアメリカの大学に留学しました。その頃はちょうどリーマンショックの直後で、アメリカでインパクト投資という社会課題解決のための投資がすごく盛り上がっていた時期でした。これだったら自分の経験してきた金融と、ずっと夢みていた途上国開発の交わるポイントで何かできると思って勉強を始めたのが今の仕事のきっかけです。
工藤:その後、日本に帰ってきて日本財団という日本で一番大きな助成財団に入り、その中で社内起業的にインパクト投資の部署を作りました。そこから2017年にチームごとスピンアウトする形で今のSIIFという財団を作りました。
今までは社会課題の解決って日本財団がNPOに助成するか、公的な機関が対応するのが一般的でした。それに対して営利企業は営利を追求していくという、ある種の2項対立があったと思うんです。私は、その2つの真ん中にはもっと様々なグラデーションがあると考えていて、SIIFとしてはそのまさに真ん中で新しい動きを作っていきたいと思っています。
インパクト投資はグローバルだと160兆円規模に広がっていて、日本だと5兆8000億円という大きさです。このインパクト投資をもっと日本で広めていく、ということをこれまでやってきました。
SIIFがやっていることのメインは、インパクト投資のモデル創出です。我々自身が投資家として、実際にスタートアップ投資をやったり、ファンド投資をやったりしています。他には環境整備だったり政策提言も行っていますね。
工藤:我々の目的はインパクト投資の豊かなエコシステムを日本につくることで、これをエコシステムビルダーと自称しています。そこで自分たちだけでなく、たくさんの投資家がインパクトを追求していくエコシステムができるような調査研究やネットワーキングも行っています。実際に直接投資もしますしファンドを通じても投資をしていて、現在は約40団体と関わりを持っています。
最近ではやはり投資だけを変えても駄目で、企業活動、消費行動、規制、政策など、経済システム全体にインパクトをどう組み込んでいくべきかを考え始めています。
青井氏(以下敬称略):丸井グループの青井です。株式会社丸井グループは私の祖父が931年に創業した会社で、私が3代目の社長です
青井:私どもの取り組みで「ビジョン2050」というものがあって、30年後に向けたビジョンをみんなで考えて策定しました。その中でインパクトと利益の二項対立をビジネスを通じて乗り越えるというビジョンを掲げました。実現に向けて、インパクトと利益の両方を備えた事業がいくつか出てきているのが現状です。
この目指す姿を揺るぎないものにするために、今年の株主総会で提案をして定款を変更し、企業理念の実践というものを新設しています。その中では、全ての人が幸せを感じられるインクルーシブな社会を作ることをミッションにしています。もちろん我々だけの力ではできないことなので、色々なステークホルダーと協業をしようとしているところです。
青井:実現に向けて「インパクト目標」というものを掲げておりまして、「将来世代の未来をともに創る」、「1人1人の幸せをともに創る」、「共創のエコシステムを作る」という3つの大きなテーマで取り組みを始めています。その目標の特徴は、インパクトKPIと財務KPIがセットになっている点にあります。つまり、インパクトを達成する結果として、利益や資本効率の目標が達成されるようになっているわけです。
取り組みの一例として、福祉実験カンパニー「ヘラルボニー」と共同で、ご利用額の一部が障害をお持ちのアーティストの方に還元できるクレジットカードを発行しました。こちらのカードは現在、約2万人の方々にご利用いただいています。
他には、五常・アンド・カンパニー株式会社と、途上国向けの投資機会を提供して、リターンとして1%相当の金利が得られるサービスも提供しています。こういった活動の進捗状況を今年からIMPACT BOOKとして発行していますので、ご興味ある方はぜひご覧ください。
佐別当:僕自身最初は知らなかったんですが、これほどのことを丸井さんの規模でやっていると、まさにインパクトが大きいなと思いました。
工藤:IMPACT BOOKだけじゃなくて、Webサイトの色々なところや、IR情報の真ん中にちゃんとインパクトを出してることがすごいと思います。目標値を発表するというのもかなり踏み込んでいますよね。財務とインパクトを別々のものではなく、関連付けて出している点も素晴らしいです。これらは、上場企業としてある種覚悟がないとなかなか出来ないことだと思います。
佐別当:丸井さんがやっていることって、自分で自分にプレッシャーを与えるようなものだと思うんです。それに対して、どういう覚悟や気持ちで作られたのか、もう少し教えていただけますか。
青井:昔からビジネスと社会貢献に対立があるように感じていました。でも本来はビジネスって人と社会に貢献して、役に立って初めて利益がでるはずで、別々のものではないはずなんです。
それに対して、世の中全体でソーシャルセクターと企業が近づいている動きが潮流としてあると思います。当社はその中で、先頭をきっていたいという思いが元々ありました。
佐別当:昔ながらの醤油の貸し借りみたいな形がシェアリングエコノミーの原点だと思うんです。他にも、田舎に行ったら、おじいちゃんやおばあちゃんが料理や野菜を持ってきてくれたり、日本の地方ではまだまだそういうものが残っていたりしますよね。一方で、東京だとスピードが早すぎて、昔ながらの商売と社会が同じ方向を向いてる実感を得られなかったというのが、この50年だったと感じています。
工藤さんは、最近NPOと経済が近づいてきていると話していましたが、どの辺りに感じられていますか。
工藤:2007年ぐらいにインパクトという言葉が出てきたときは、伝統的な開発援助のアプローチに対するアンチテーゼのようなところがあったんですよね。大きな開発機関がある種助成金をばらまくことをしても、なかなか開発途上国の発展が起きない。その頃はどちらかというと非営利セクターがビジネスセクターの手法を取り入れてチャリティーの範囲を拡張していった時期でした。
それに対してリーマンショックの後は、逆にウォールストリートの金融機関が金融への倫理的な呼び戻しの中から、サステナビリティとかインパクトとか、もっとお金の流れを社会に貢献できる方法を模索するように変化していったと感じています。
前編記事では、登壇者の行っている取り組みとインパクトに関する考え方を確認しました。後編記事では、ソーシャルインパクトを追求する上での課題と可能性について掘り下げていきます。
Editor's Note
2010年代の盛り上がりから、コロナ禍や環境問題による世界的な混乱を経て、新たなフェーズに入っていることを実感しました。もはや社会的意義を考えることはあらゆる活動の大前提で、いかにして利益や持続性をバランスよく追い求めるかが問われていることを知ることができました。
Yusuke Kako
加古 雄介