FUKUSHIMA
福島
※本レポートは2024年6月11日に行われたイベント「【第3期地域バイヤープログラム 特別公開講義②】地域商社が生み出すまちへのインパクト」を記事にしています。
「誰もが心に豊かさを持つ世界を」をビジョンに掲げる株式会社WHEREが企画した「地域バイヤープログラム」とは、地域の事業者を応援しながらマーケティングスキルを身につける超実践型の講座です。
地域を訪れて事業者と交流・「良品」発掘を目的とするフィールドワークを行うほか、東京でのポップアップストアの企画・仕入・販促PRや、クラウドファンディングでの商品/生産者の魅力訴求を実践します。現在、第3期目となる受講生を募集中です。(地域バイヤープログラム 詳細はこちら)
第2回目となる特別公開講義では、地域商社で地域の魅力を生み出し続けている廣田拓也さんに、地域の価値を作り出し、地域経済へインパクトを与え続ける秘訣を伺いました。
廣田 拓也 氏(以下、敬称略):今日はですね、実は結構シンプルなことしかやってませんよっていうのを最初にお伝えしたくて。逆に言うと、商売の「基本のき」を、どれだけ愚直にできるかを私は大事にしているんですね。地域の事業者さんと向き合ってやってきたので、属人的かつ再現性のない話もあるかもしれませんが、今後、皆さんの人生やお仕事のお役に立てることを共有できたらなと思ってます。
廣田氏:私は43歳になるのですが、サラリーマン経験はわずか1年半だけ。やってみてすぐにドロップアウトしています。そんな僕は、やりたいことをやって今に至ったわけではなく、やりたくないことがたくさんあって、消去法でこれしかないなっていうことを一生懸命やってきたんですね。
作った会社は10以上あるんですが、どれもが年商1億とか2億ぐらいの小さな会社です。私自身が今代表取締役をやってる会社は1社だけで、他は全部ビジネスモデルを作った後、次の社長に譲っちゃいました。
2018年に「あきんど」という地域商社を作って、いわゆる地域の共通ブランドを立ち上げました。そうしたら、ありがたいことにあっという間に仲間が増えて。仲間とともに協同組合を作ったり、国の事業のプロジェクトマネジメントの仕事を依頼されるようになったりしています。地域の仕事と、地域の枠を超えた幅広い仕事を両方楽しみながらやっているというのが、私の現在ですね。
大林(モデレーター、株式会社WHERE):今回のテーマが地域商社が生み出すまちへのインパクトということで、大きく3つのサブテーマを設けて、深掘りさせていただこうと思います。
まず、まちの商材をどのように発見して活かし、販売、流通させているのか。商いをやっていく上では大事なところだと思いますので、廣田さん流の商材の活かし方、見つけ方を教えていただけますか。
廣田:まず我々はかなりの現場主義なので、とにかく地域事業者さんの現場、現地に行きます。
そもそも地域商社の定義は地域資源の発掘と最大化。なので、とにかく現場に行って、いい商品、いい資源をみつけてきて、それをどうやったらより良いものに変えられるかを徹底的に追求しています。
実は、あきんど社の売上のうち、物品販売によるものは半分ぐらいです。地域の特産品を作って事業者さんと売った売上は1億ぐらいしかありません。というのも、その1億は、我々が取引の間に入った分のみです。
我々は商品を作った事業者さんと流通先さんの利益が出ることを重視してるから、仲介するのではなく、直接繋いでいるんですよね。かれらの利益分を合わせたら10億ぐらいは売ってるんじゃないかなと思います。でもあくまでも地域への還元を目指しているので、我々が間に入ることをミッションにはしていません。
そして残り半分は、流通先や商品開発のノウハウを持ってることを活かして商品開発や販路開拓のサポートでしたり、事業創出のコンサルティングの仕事、場合によってはプロジェクトの事務局を請け負ってやってます。
廣田:まちづくりを見据えた商品開発というのは結構シンプルです。まず、何のためにその商品を作るかを事業者さんとしっかり話す。目的が曖昧な商品開発は、私は断ります。目的が不明瞭なものは予算があってもやめます。商品は作れるけれど出来上がるだけになるからやめましょう、って。
何の商品を、何のために作るのかを明確化したうえで、その商品に際立ったコンセプトがなかったら付加価値の付いた商品にならないんですね。そこが整理できたら、どういうレシピにするか、どういう原価にするかを考えて、市場調査します。
「目的の明確化」「商品コンセプト整理」「レシピ開発」「市場調査」、この4つが最低限揃っていなかったら、他のデザインとかブランディングは意味ないですよっていう話をしていますね。
北村(モデレーター、株式会社WHERE):線引きがはっきりしていることが印象的だったんですが、地域商社が存在する目的をどんな風に考えられているんでしょうか。
廣田:我々は地域の商いの困りごとを解決するために作った会社なので、事業者さんの困りごとが解決できればいいと思っています。それ以外のものは後からついてくるというか。ビジネスの利益の追求ではなく、お役立ちの追求をしているので、役に立てることはなんなのかっていう観点でしか仕事しないんです。
そうすると、結果的に儲かることがあるんですね。利益を追求すると結果的に儲からないことがあるんですよ。でも、お役立ちを追求していると、巡り巡って儲かるんですよね。
北村:お役立ちを追求した、具体的な商品開発のお話を聞かせていただけますか。
廣田:例えば株式会社AKOMEYA TOKYOさんとは、川俣シャモという地鶏メーカーさんの炊き込みご飯の素を開発しました。ただ作るだけではプロダクトアウト(買い手のニーズよりも企業側の理論を優先させること)になってしまうので、どこに売りに行って、どのぐらいのクオリティの商品を作るか、何のために作るかというところをきちんと整理して、商品の付加価値をバイヤーさんと一緒につくりました。現地にも来ていただいて。商品自体をバイヤーさんと一緒に作ることで、売価も卸し価格も納得感のあるものを設定して、売価1,300円の炊き込みご飯の素を作りました。
廣田:AKOMEYAさんはお米を軸に商品を揃えている小売店です。プライベートブランド商品として付加価値を演出できるように、ただのシャモの肉を使うだけじゃなくて炙りましょうと。あえて炙ることで他の炊き込みご飯にない香りを出せます。1工程加えることで値段が200円上がっても良い。「炙りもも肉炊き込みご飯の素」として、もも肉1個をごろっと入れた過去にない炊き込みご飯を作りました。
あとは、JR仙台支社さんと一緒につくった新幹線の羊羹はスマッシュヒットでした。福島にある筒状の形の「東山ようかん」、通称「棒ようかん」を新幹線の型に入れたものです。
普段、東北新幹線のロイヤリティ商品ってこまち・はやぶさだけだったんですが、あえてつばさの商品を作りませんかと。はやぶさ・つばさ・こまちで3本セットにして売りましょうと。そしたら、「つばさの商品が欲しかった」というファンの方が多くいらっしゃって。これもJRさんに、現地の羊羹を見てもらいながらできた商品です。
現場に行くことと、売り先を決めてバイヤーさんも巻き込んで作るっていうのをシンプルにやっているという事例ですね。メーカーさん単体で作らせない、シンプルにそんなことをやってます。
大林:地域で地域商社として役割を担いながら育っていくために大事な取り組みでしたり、苦労なされたところなど、今に至るまでのリアルなお話を伺いたいです。いかがでしょうか。
廣田:私はよく、地域商社は「地域の毛細血管だ」という話をしています。
体の中には動脈とか静脈とか、太い血管があるじゃないですか。我々はそれじゃないんです。上場企業とかいわゆる大企業は、動脈とか静脈みたいな役割を担ってるけれど、人間の体って動脈と静脈だけで動いてるわけじゃないんですよ。
細部に毛細血管があることで人間の体は成り立つというのと同じで、地域商社は毛細血管なんだって話をしてます。そういう役割があることで実は地域が成り立つっていう発想ですね。
お役立ちの追求をするっていうのは、動脈と静脈のような派手な仕事じゃありません。地域商社は隠れて働いている毛細血管のように実はすごく過酷な仕事なんですが、それこそが地域商社の役割でもあり、地域を動かすための動脈と静脈をしっかり稼働させるためにも必要な部位だと思ってるんです。だからこそ、頼まれごとは試されごとだと思って、基本的にはなんでもやります。
ただ、そこで一番厳しいのは、再現性がない仕事が多いことですね。ある地域とか特定の事業者さんの課題に対応して一生懸命やるんですが、再現するのが難しく、仕組み化が難しい仕事なんです。
それがあきんどの今の1番の課題でもあります。でもだからこそ、あえて仕組み化しないという選択肢で仕事をしています。会社を次の社長に譲ったとき、属人的でもいいからそれぞれのカラーを持つ代表者のもとで、地域商社が毛細血管のようにあちこちに広がっていったら面白いんじゃないかって。地域商社は過酷な仕事ですが、それを楽しいって思える人が一生懸命やってるとちゃんと儲かります。
大林:ちゃんと儲かりますよっていうところは気になる方が多いかなと思います。お役立ちを追求するのであっても、稼げる会社であったり稼げる人材を育てていくというのは、地域に与えるインパクトを大きくしていくという意味で非常に大事だと、以前廣田さんにお伺いしたのが印象的です。
廣田:そうですね。リアリティがないと思うので、売上と経常利益の数値を共有しますね。今、あきんど社の5期目が終わり、6期目の第1四半期が終わったぐらいです。
3期目はコロナ禍だったんですけど、売上が倍になったんですよ。困りごとがあったら解決する会社にしたから、困った人が増えたら売り上げが伸びたんですね。
その後、5期目は私がいろんな仕事を請け負い、経常利益がたくさん出ました。6期目は拡大を目指さない形で考えています。もともと拡大計画は書いてないんですよね。
「困った」を解決する会社を作っちゃったら、コロナ禍で困った人が増えて、それとともにクライアントの幅が増えた。完全にアジャイル型(設計などの変更は当然あるものだという前提のもと、初めから厳密な仕様は決めずに開始し、徐々に開発を進めていく手法)です。結果、これまでの計画ははずれていますし。
大林:地域に与えるインパクトという視点で少し詳しくお伺いしてもよろしいでしょうか。
廣田:定量的なインパクトと定性的なインパクトがあると考えています。
まず、定量的なインパクトは、経済効果、納税額、人口の増減など、わかりやすいものですね。それを地域商社ができる範囲で目指すことが大事だと思います。
つまり、「お役立ち」とは言いましたが、財務上はちゃんと利益を出して納税して、最低限の定量的なインパクトを与えることが大事だと思っています。
でもさらに重要なのは、それを生み出すプロセスの中で関わってくれている地域の事業者さんとか、流通先さん、そういった方々が気持ちとして満足してるかどうかだと思うんですね。その定性的な満足度を忘れて、経済効果を生み出すのではなくて、両方貪欲に目指すっていう感じです。
いわゆる地方創生の場では、みんな「点」で活動していることが多いんですよね。でも、点で活動するとお互いが何をやってるかわからないし、繋がってないから費用対効果も悪くなる。
さきほどの定量的な効果もわかりにくくなるし、定性的な満足度も拾えなくなっちゃうんですよね。
例えば、会津産のピーナッツを中通りでペースト化して、それを浜通りのプリンメーカーで作って、仙台で売るみたいな形になると、点と線が繋がって面みたいな形になっていくんですよね。
要は「1社でやったところで経済効果もたかが知れてませんか?」「定性的な満足度も1社でやったところで自己満足で終わりませんか?」って。みんなで一緒に作って、みんなで一緒に売ったら楽しいじゃないですか。
そうして、それぞれの販路で全部売ればいいんですよ。
それぞれ関わった人たちみんなの販路で、共通のブランドとして一緒に売ったら、売り上げが何倍にもなる。それはまさに地域商社が生み出すインパクトとして重要だなと思いますね。
もちろん、うまくいった商品の何倍も失敗があるんですけど。
北村: その失敗もある中で、新しい施策を打つ原動力とモチベーションはなんですか。
廣田:面白そうか、面白くなさそうかだけですかね。面白くなさそうだなと思った仕事は、例え大きな予算があってもやらないです。
楽しそうか楽しくなさそうか、これをやったら自分が成長できるか、会社が成長できるか。それが動機として仕事に取り組む際に強いですね。そうすれば失敗しても心折れずにやれるじゃないですか、もう1回やろうぜって。だから、面白そうかどうかをシンプルに大事にしてますね。
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Editor's Note
地域の毛細血管だからこそできる商いに取り組む廣田さんからは、地域商社の可能性とおもしろさが伝わってきました。この言葉に共感する方には、ぜひ地域バイヤーへの挑戦の1歩目を踏み出していただけたらいいなと思います。
AYAMI NAKAZAWA
中澤 文実