TOKYO-OITA
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「この人の人生が気になる!」そんな旬なゲストと、LOCAL LETTERプロデューサー平林和樹が対談する企画『生き方 – 人生に刺激を与える対談 – 』。
第13回目のゲストは、拡張家族やシェア(共有)の概念を広めるため、一般社団法人シェアリングエコノミー協会の活動から報道番組のコメンテーターまで幅広く活躍する石山アンジュさんです。
幼少期からのシェアハウス生活をきっかけに、石山さんは「シェアすることこそ、豊かな社会をつくる一歩」だと考え、デジタル庁シェアリングエコノミー伝道師や協会の代表理事としての活動を実施。
さらに、『シェアライフ – 新しい社会の新しい生き方 – 』や新著『多拠点ライフ – 分散する生き方 – 』などの著書により、シェアする生き方の豊かさを伝えています。
そんな石山さんがお話されたのは、経験で培われた、人との繋がり方について。「今の生き方や人との繋がり方にモヤモヤを感じる」そう考えるアナタの、そっと背中を押す力強い言葉をお届けします。
平林:今回は「生き方」という企画で、石山アンジュさんにお話をお伺いします。地域に関心のあるLOCAL LETTERの読者に、地域と社会を自分自身とどう繋げてアクションするか、そんな生き方のヒントとなる話をお聞きします。
起業家が開拓していくのは事業だけでなく、ライフスタイルや生き方そのもの。起業家の方に取材し、深堀りをして次の生き方のヒントやきっかけをつくりたいと思っています。石山さんはそのど真ん中の方だと思うので、いろいろとお話を伺いたいです。よろしくお願いします。
石山:ありがとうございます。石山アンジュです。1989年生まれ、横浜市出身、新卒のリクルートで約3年半、クラウドワークスというスキルのシェアリングのサービスで経営企画として働いた後、現在はシェアリングエコノミー協会の代表をしています。
ほかにも、Z世代・ミレニアル世代を対象としたシンクタンク、ルールメイキングスクール事業を行っている「PublicMeetsInnovation」という団体を運営しています。他にもテレビのコメンテーターや、企業の社外役員など、いわゆる「パラレルワーカー」ですね。
石山:実生活でもシェアハウスをもとにした「拡張家族Cift」というコミュニティ兼シェアハウスの運営をしたり、2019年には二拠点生活をはじめて大分県の山岳地の集落の古民家で暮らしたりもしています。あとは複数の番組でコメンテーターもしています。
平林:社会活動家として本当にさまざまなことをやられていますね。石山さんといえば「シェア」のワードを思い浮かべる方が多いかもしれませんが、シェアリングエコノミーという概念に意識が向いたタイミングはいつだったのですか?
石山:「シェア」の概念に意識が向いたのは、実は幼少期です。小学校低学年から父の影響で戦争映画が好きで、それがきっかけで平和とは何かを考えることが多くて。当時から「どうしたら世界は平和になるのか」を考え、それを伝える手段としてダンスをやっていました。マイケル・ジャクソンのようなピースメッセンジャー、表現で平和を訴えるような姿にあこがれを持っていましたね。
その一方で、もっと平和についての勉強をしたいと大学でも平和研究を専攻していました。そう思うと、10代のころから社会という大きなものをなぜか自分事として考えたい気持ちは大きかったですね。
平林:そこからリクルートに入社されたんですね。ある程度ビジネスとしての方法を見つけたいということだったんでしょうか?
石山:就活のタイミングで東日本大震災が起こり、あらゆる面接が延期になりました。そのとき、これから日本はどうなるか分からないと、震災の3日後に海外へ渡ったんです。外から見た日本を捉えるいい機会だと思って、しばらく日本に帰ってこないつもりで過ごしていました。
結局、1ヵ月ほど経って大学が再開したので、日本に帰国して、まっさらな状態で「これからどうしようか」と考えて。そのタイミングで、リクルートの人事の方にお会いする機会があって、話していくうちにリクルートで働いてみようと思いました。
石山:大学時代は、社会課題の解決やジャーナリストの道に興味があったので、報道関連やテレビ局での就職を望んでいました。しかし地震が起きたなかで、それを伝えることは大事だけど、「すべてが0になったときにもう一度0から事業をつくることのできる人になりたいし、スキルとしてもっていたい」という話をリクルートの方に話していたんです。そして、「じゃあ3年だけ修行してみない?」と言われて(笑)リクルートに入りました。
平林:リクルートの規模で社長と面談するなんてすごいですね。
石山:当時、採用の面談で社長に会えたことは決断の大きなきっかけになりましたね。リクルートについてほとんど知らないで面接を受けたので、ジャーナリズムに携わりたいということも赤裸々に話したうえで、認めてくれたんです。
平林:震災がなかったら、石山さんは報道やジャーナリズムの領域に進んでいたかもしれないんですね。
石山:そうですね。ただ入社してからも、当時の上司が私のクライアントさんをメディア企業などにしてくれたんです。だからリクルートの側からサポートできたのはよかったですね。
平林:いい上司ですね。約束の3年間で退職された?
石山:「3年経ったからやめます」ということではなかったのですが、結果的に約3年で退職しました。
平林:リクルートの次はクラウドワークスに。
石山:リクルートで働いて2年目のころに、「シェア」(レイチェル・ボッツマン 著)の本に出会ったことが私のなかで大きなきっかけでした。その本に出会ったことで、これまで自分が考えていたことが一直線につながった感覚があったんです。
石山:その本に出会えて考えたことが3つありました。1つ目は人材領域。企業の採用や人事のことをリクルート時代にやっていたんですが、個人と企業の関係性に違和感を覚えはじめて。震災もあり景気が変動するなかでの就活や転勤をする場合、不可抗力的な状況になることが多いじゃないですか。
資本主義の構造の中では、資本家と労働者はどうしても上下関係になってしまう。そんなときに「シェア」という概念に出会って、個人と個人で仕事を受発注する形がいいなって。
2つ目は、シェアの概念を豊かだと思ってもいいんだと考えられたこと。幼少期からシェアハウスで育ってきて、血縁によらずにいろんな人が家にいていろんな情報やスキルがシェアされた空間で育ってきました。
一方で、家を一歩出れば、特に学校では、私の生活は普通じゃないということは気にしていたんです。けれど、むしろシェアする生き方を豊かだと捉えられる概念があるんだ、ということに気づきました。
3つ目は震災。震災でモノがスーパーからなくなったとき、これまで生活してきたシェアする環境だったら、誰かからお米をもらったり誰かを泊めたりができたんですよね。
ただ現代は個人でものを消費する時代。ものを消費し続ける在り方じゃない経済の在り方を考えると、働き方や人との繋がりなどのあらゆるものがフラットな関係性の中でシェアリングされていく社会モデルが必要なんじゃないか、それが豊かな幸せの物差しになるんじゃないかと思ったんです。
そんなことを考えて、個人間のスキルシェアのプラットフォームがあるクラウドワークスに転職しました。
平林:クラウドワークスではどんな経験をされたんですか?
石山:経営企画という立場で1年半ほど在籍しました。そのなかで、さまざまな業界団体や同じ市場を盛り上げていきたいと考える方々と仕事を一緒にする機会に恵まれました。シェアリングエコノミー協会もその話のなかで生まれたんです。
当時は、クラウドワークスにいて「クラウドソーシングの概念をもっと広めたい」という気持ちと、その一方で「一番の目指すところは競合は関係なく、もっとクラウドソーシングを広げて個人が豊かになる社会をつくりたい」ということも考えていて。
それを目指すにはどうしても個社の枠の中では難しいんですよね。個社の利益を超えて市場を大きくしていく立場の方が自分がなりたい姿だったことに気づいたんです。
平林:僕たちも「地域経済をともにつくる、競合かどうかは関係なしに一緒に盛り上げよう」という想いで、地域経済サミットというイベントを開催したので、その考えにとても共感しますね。
平林:アンジュさんは、行政や民間企業、大企業、ベンチャーなど、関わる方が多岐にわたりますよね。その際にコミュニケーションの違いが生じるんじゃないかと思って。
さまざまな立場の方とコミュニケーションをする、適した言葉に翻訳するというのは、経験のなかで身に着けていったのでしょうか?
石山:そうですね。どのような領域であっても「社会がどう変わっていくか」という共通認識をもてていたら、あとは「それをどういう言葉で翻訳していくか」なので、それを考えたら外れないコミュニケーションがとれるんじゃないかと思います。
平林:短期じゃなく、中長期で対話していくということですよね。その対話の中で歯がゆくなることはないんですか?
石山:歯がゆくなったりはしますね。自分に無力感を覚えることもありますし。小学生の時から「教室にいる全員に機会が平等に還元されているか」と気にするタイプだったんです。そういう性格もあってか、新しいものをつくるときには、傷みを最小限にして一緒に引っ張っていって、それぞれの世代の人に届けることを大事にしています。
たとえば、「シェアリングエコノミー」という言葉は横文字でなんとなく分かりづらいですよね。それをひらがなにしてかみ砕いて説明するとか。
「ライドシェア」という言葉も、「みんなが送り迎えできるような近所付き合いがふえる」など、やさしい言葉に変換して、「誰もがわかる」というコミュニケーションの仕方を心がけていますね。
平林:誰一人取り残さない、SDGsの概念をすでに考えていたんですね。
石山:そういう意識は昔からありましたね。
平林:それこそアンジュさんは、いろんな活動やメディアで世間に出ることも多いですが、そうすると意図しない伝わり方や誹謗中傷、切り取られ方があると思います。そんなときはどうするのでしょうか?
石山:それはしんどいと思います。でも、アンチ的な意見があっても、気持ちとしては絶対にブロックしたくないんです。「分かり合えなさ」をいかに対話によって乗り越えていくかを大切にしたいので、分かり合えないと思いたくないんですよね。
石山:マスの世界にいると普段は接しない方からの声が届く。自分が受け止めてしまうタイプなので、「声がうざい」という意見をツイッターで見かけても、いったん受け止めてしまうんですよね。「向いていないな」と思いつつやってますね。
平林:社会を見たときに、そういう声が必要だと思うからですか?
石山:必要ということもそうですが、対話を断つことよりも信じ続けることの必要性に価値を感じます。よく若い方に「社会をどうやって自分事にできるんですか」と聞かれますが、小さいときから漠然と身についていたものだと思います。「対話をしたらなんとかなるんじゃないか」と考えていて、その力を信じたいんです。
平林:社会が豊かになれば、人々の暮らしも豊かになるし、いい循環のなかにいらっしゃいますね。
石山:今の時代、核家族化で単身世帯が多く、またインターネットの時代のなかで同質性の高いフィルターのなかで生活している方が多いと思います。
一方、私が育った実家のシェアハウスでは、ニートの人もいれば行政で働く人もいる、かたや外国人もいる、多様性のある空間です。そんななかで育ってきたので、1つのニュースを切り取ってみてもいろんな側面からニュースを想像できるのかな、と思います。
会社や学校のようなつながりでもなく、生活をともにする、生活圏にまたがる人とやりとりをしながら新しいつながりをつくるなかで、人の体験が想像できるようになりました。
平林:カナダでワーホリをしていたときに僕も感じました。自分の目に入るものだけで物事を見ていると、なんとなく距離が遠いものだと感じてしまう。でも、実際に接してみると実は全然違う視点があったりして面白かったですね。
前編記事では石山さんの「シェア」の概念に出会ったきっかけや気持ちの変化を中心にお話いただきました。後編記事では、「シェアをする生き方」そのものの豊かさ、人や地域との繋がりについて迫ります。
石山アンジュさんの新著『多拠点ライフ-分散する生き方-』が、2023年8月11日に株式会社クロスメディア・パブリッシングより発売されました。
多拠点生活実践者でもある石山さんが、多拠点ライフで変わる新しい社会と生き方、今から始められる実践方法を提示した1冊となっております。気になる方はぜひお手に取ってみていただければと思います。
Editor's Note
「シェアこそ豊かな概念だ」と気づかれた後の石山さんの行動や考え方に心強さを感じました。分かり合えなさを対話で乗り越える、そのような想いでまずはそれぞれの意見を受け入れてみる、そんなコミュニケーションの意識が大切だなと思いました。
MISAKI TAKAHASHI
髙橋 美咲