ASAHI, TOYAMA
富山県朝日町
継続は力なり。
…とはいうけれど、「努力を続ける」って、難しくないですか?
こんなことをやりたい!と思い立ったはいいものの、思うように結果が出ないと、だんだんと弱気になって「これは、本当に自分がやる必要があるのか」なんて自問自答を繰り返してしまったり、「もういっそのこと、手放してしまおうか」なんて思ってしまったり。
そして、ついつい楽な道に流されそうになってしまう。挑戦すればするほど、苦しい局面に立たされることは誰にだってありますよね。でも、そこからどんな選択をするかは人それぞれ。だからこそ、そんな局面に陥った時、今一度冷静に考え直すきっかけとして、富山県朝日町で奮闘する一人の若きリーダーの存在を思い出してほしい。
地域外の主催者ははじめてとなる地域イベントとして、富山県朝日町にあるヒスイ海岸で映画を楽しむイベント「星空のナイトシアター」を企画・運営するチームのリーダーを務める坂本氏。
当時、経験も人脈もなく、地域から厳しい声ももらい続けた女子大生が、それでも努力を続けた理由を探りました。
出身はフロリダ。朝日町はおろか、富山県にも全く縁もゆかりもなかったという坂本氏。朝日町を知ったきっかけは、大学3年生の時、富山県庁が主催していた移住プロジェクト「とやま・コネクト・カレッジ」に大学の友人らと参加したことだった。
「当時通っていた大学の総長が富山県出身だったご縁で、友人に声がかかったんです。富山県には行ったことがなかったので、大学の友達6人で旅行感覚で参加しました。朝日町を選んだのも、山と海に囲まれているから、いろんなアクティビティを楽しめるという理由でしたし…」(坂本氏)
しかし実際に朝日町で過ごす中で、朝日町が大好きになり「朝日町に恩返しがしたい」という思いが募り、アクションプランを友人らと一緒に考え始めたという。
「地域の人たちに “何か困っていることはないか” と聞いて回った時に、“昔はヒスイ海岸に海の家がたくさん並んでいたのに、今は1軒しかなくて寂しい” という話を聞いて、私たちが力になろうと立ち上がったのが最初でした」(坂本氏)
海の家だけでは、他の地域と差別化できないと、お客さんを惹きつける魅力的なイベントも考案。自分たちが朝日町に初めて訪れた時、感動した「ヒスイ海岸」と「星空」を存分に味わえる “ナイトシアター” に決まった。
アクションプランも順調に決まり、意気揚々とスタートしたプロジェクトだったが、坂本氏は当時を振り返りながら「海の家を開始する前日まで、私も含めてメンバーの全員が “こんなまちに絶対移住しない” と言っていたんです」と苦笑いしながら話す。
「今でこそ、いろんな場所で学生が地域活性のためにイベントを実施するのが当たり前になってきていますが、当時の朝日町では、よそ者がイベントを企画すること自体が初めてでした」(坂本氏)
地域では、初めてのことに対して抵抗感を抱く人は少なくない。坂本氏らも、地域の人たちに受け入れてもらうまでにかなり時間がかかってしまい、最初は風当たりも強かったという。
「そもそも、アクションプランを考えているときに、“海の家が減ってしまって困っている” という話から、今回のプロジェクトを立ち上げたはずなのに、いざ蓋を開けてみたら、“別に困ってないです” とか “(よそ者の人は)手伝ってもらわなくて大丈夫です” と言われてしまって」(坂本氏)
地域の中でもよそ者を積極的に受け入れたい人たちと、そうではない人たちがいることに気づかないまま、真正面から突っ込んでいった。
「まちのルールが全然わかっていない状態で、突っ走ってしまったんです。朝日町のために始めたはずなのに、地域の人には受け入れてもらうどころか拒まれていて、あの時は本当に、何のためにやっているんだろうと自問自答を繰り返していましたね」(坂本氏)
そんな状態にも関わらず坂本氏は、準備を続け、本番を迎えた。その原動力は何だったのだろうか。
「正直、やらなくてもいいといえば、やらなくてもよかったと思います。でも、それでも私たちは朝日町に来て、朝日町のことを好きになっていたし、地域の人たちの中に少数ですが、私たちの活動を応援してくれる人たちもいました。1人でも応援してくれる人がいるなら頑張りたい、この応援や信頼を裏切りたいくない、そう思っていました」(坂本氏)
地域の人たちに変化が起こったのは、イベント当日を迎え、2週間目に入った時だった。それまで返してもらえなかった挨拶が返ってくるようになり、1週間目とは明らかに違うほどお客さんが訪れた。
「実際に海の家やナイトシアターが形になったことで、地域の人に私たちが何をしたかったのかをやっと伝えられたんだと思います。そこからは食べきれないほどの差し入れをもらったり、いろんな方が手伝いに来てくれました。準備期間は本当に辛かったけど、私たちがやりたいことを地域の人たちにちゃんと伝えられていなかっただけで、ちゃんと伝えられれば、証明できれば、こんなにも助けてくれるんだと思いました。本当にたくさん助けてもらっているからこそ、また皆さんに恩返ししたいと思って、毎年イベントを続けています」(坂本氏)
坂本氏が苦戦したのは、地域の人たちとのコミュニケーションだけではない。ナイトシアターをやりたい!思い立ったはいいものの、経験はゼロ。持っていたのは、「朝日町に恩返しをしたい」「ナイトシアターをやりたい」という熱意だけだった。
「今考えれば、よくやろうと思ったなと思います。映画の上映方法も知らなければ、商業利用の時には版権を購入しなくてはいけないというルールも知らないところからのスタートでした」(坂本氏)
とにかく、まずはイメージを掴むために、野外で映画上映をやっているイベントに出向いて、主催者に「これがやりたいんですが、どうやったらできますか」と聞くところから始めたという坂本氏。主催者には「経験なくて実践するのは難しいよ」と言われながらも、それでもやりたいと直談判。熱意に負けた主催者が、いろんな人やノウハウを紹介してくれたんだそう。
「お金もなかったので、心配されましたが、クラウドファンディングで集めることを決めて実施しました。なんとか無事に資金調達できたんですが、開催1週間前になってから、映画を流すには版権が必要ってことを知って、また奔走したんです(笑)」(坂本氏)
すでにクラウドファンディングで上映映画を2本、作品名とともに掲載していたため、版権を買うしかない状態。しかし、上映する2本の映画のうち、1本は日本には版権が売られていない作品であり、もう1本は個人に版権を販売していない作品。そこで、英語ができる友人や富山県に協力してもらい、どちらも制作会社へ直談判。上映許可が出たのいは、イベントの前日だったという。
「今にも爆発しそうな爆弾をずっと抱えていた感じですね」と笑いながら話す坂本氏。いつ手放しても不思議ではない状況にも関わらず、それでもなぜ坂本氏は抱え続けたのだろうか。
「私のポリシーとして、一度やると決めたことは絶対に最後までやり通したいんです。それが信頼に繋がるし、次に繋がります。もしやれないのであれば、なぜやれなかったのかをきちんと説明する必要があるし、“お金や知識がない” は理由にならないとも思っています。お金や知識がなくても、どうにかできる方法がある中で、それらをできない理由にはしたくなかったんです」(坂本氏)
何もわからない経験ゼロにも関わらず、圧倒的行動力と人を巻き込む力で、坂本氏はナイトシアターをやり遂げたのだ。
「お金をできない理由にしたくない」と話す坂本氏だが、映画の上映機材をとり揃えるだけでも、60万はくだらないと知ったのは、すでにプロジェクトを開始した後。女子大生が60万円もの大金を集めるのは、並大抵のことではない。そこで、坂本氏はチームメンバーと1つの共通のルールを決めていたという。
「最初に60万と聞いたときはびっくりしました。当時本当に1円も資金はなかったので、まずは機材の会社に自分たちが何をやりたいと思っているのかを伝えた上で、“半額にしてください” と交渉しました。そしたら、会社さんが想いに共感してくださって、本当に半額で貸し出しを承諾してくださったんです」(坂本氏)
自分たちのやりたいことをとにかく伝えた坂本氏。機材費を30万にまで抑えられたものの、まだ残り30万。さらに、会場費やそのほかの費用を合わせると、合計約60万円ほどの資金が必要だということが判明。あまりに莫大な金額に、プロジェクトメンバーの中ではだんだんと士気が下がってしまっていた。
「このままの状況ではいけないと思い、メンバー同士で “20万円ルール” をつくりました。これは、クラウドファンディング開始から、2週間で20万円以上集まらなければこのプロジェクトは中止する” というルールなんです。自分たちの中でお金を集めるための最大限行動をした上で、それでも集まらなければ、それは地域からそもそも求められていないということで、中止しようと最初に全員と握り合いました。結果、1週間で20万円以上が集まり、そっからはメンバーの雰囲気も変わってきて、無事クラウドファンディングを達成することもできました」(坂本氏)
実際は、クラウドファンディング開始直後から何度もくじけそうになり、辞めようかという話も度々上がっていたという。しかし、この20万円ルールという撤退基準があったからこそ、目標まではとにかく頑張ってみようというメンバーの気力に繋がっていったのだ。
取材の最後に坂本氏はこんな話もしてくれた。
「一人一人が発するエネルギーはマイナスでもプラスでも、必ず周りの人たちに伝染すると思っていて、それなら私はプラスのエネルギーを伝染させたい。だからこそ、できる限り笑ったり、元気な姿を見せたりしています」(坂本氏)
今では、200名以上のお客さんが訪れ、地域のメインイベントの一つになりつつある「星空のナイトシアター」。輝かしい成果の裏側には、数々の修羅場を首の皮一枚でなんとか繋げ、真正面から地域やメンバーと向き合い続ける、人一倍責任感が強く、優しさに溢れるリーダーの姿があった。
2020年8月8日(土)/ 9日(日)/ 10日(月)の3日間で星空のナイトシアターを実施する予定とのこと。皆さん、この機会にぜひ富山県朝日町に足を運んでみてはいかがでしょうか?
▼星空のナイトシアターの詳細は随時SNSで配信中!
HP:https://www.hosizorano-nighttheater.com/
Facebook:https://www.facebook.com/hoshizora.no.nighttheater/
Editor's Note
インタビュー中、坂本さんと私が同い年であることが判明。ここまでパワフルな同級生がいたことに、ただただ開いた口が塞がらない。そんな取材時間でした。取材後も、私の前に大きな壁が立ちはだかる度に坂本さんのことを思い出しては自分を奮い立たせていることを、実はまだ坂本さんにはお話ししていません。(笑)私のバイブルになる記事が仕上がりました。
NANA TAKAYAMA
高山 奈々