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※本レポートは三井不動産株式会社、NewsPicks Re:gionが主催するイベント、「これからの地域経済をつくるための祭典『POTLUCK FES’23 Autumn』」のディスカッションを記事にしています。
ここ数年、関係人口という言葉が広まったことで、多様な形で地域と関わり合う動きが活性化してきました。しかし一方で、まだまだ移住や観光に焦点が当てられていることも多く、改めてこの言葉の解釈が問われています。
本ディスカッションでは、「関係人口の価値を問い直す:本当に「観光以上移住未満」で良いのか?」をテーマに、これから関係人口という言葉をどう捉えていくべきかを登壇者が語ります。
地域を活性化したい人はもちろん、地域と関わりたいと考えている人や行政の方など、様々な人にとっての今後に繋がるヒントをお届けします。
前編記事では、関係人口が地域にもたらすインパクトを紹介しました。
後編記事では、関係人口という言葉をより多様に解釈し、今後の地域の在り方を模索していきます。
古里氏(以下敬称略):今の総務省が掲げる関係人口のアップデートは確かに必要で、自治体ごとに関係人口の定義があってもいいのかなと思っています。
さらにビジネス領域の関係人口を考えると、脇さんがおっしゃったような企業版ふるさと納税の活用をもっとすべきだと思います。個人の関わりに対して、企業単位で自治体に関わることによる関係性の生じ方はすごく違っていて大きいと思うんですよ。
古里:例えば大手で1,000人以上の授業員を抱えている企業が、自治体と企業版ふるさと納税を通じて関係性をつくると、まとまった数の関係人口ができますよね。ここにはものすごい伸び代があると思っています。そういう企業が従業員を含めて自治体と大きな繋がりを持つと、長く継続的に関係性をつくっていけると感じます。
脇氏(以下敬称略):ちなみに企業版ふるさと納税とは、寄付をした時に9割が税額控除されるというものです。1,000万円を寄付すると900万円の税金を収めなくて良くなり、実質100万円、1/10で済んでしまうという仕組みです。
平林:利益を出してる企業は使った方がいいですよね。
モデレーター:それではここで参加者の方からの質問をみていきたいと思います。
質問者:本日はありがとうございます。今大学2年生です。
今回は企業や社会人向けの話かと思いますが、学生向けの関係人口のメリットや、逆にどういった壁があるのかをお聞きしたいです。
古里:今岐阜県飛騨地域って半径120km以内に4年制大学が1つもないんですよ。そこで今地域に大学をつくろうとしているんです。そこには関係人口をつくっていく目的も含まれています。
既に大学がある地域の場合、そこで学生が4年間濃密な時間を過ごすことで、離れても記憶に残り続ける、自分の第2の故郷になりますよね。
一方で飛騨のようにほとんど学生がいないところでは、地域の方々はとにかく若い人が来ると喜ぶんです。住民も普段クローズドな環境で生活をしているので、そこにインターンや研修で高校生や大学生が来ると歓迎して喜びます。そうなると世代を超えた人の繋がりができますよね。
古里:またその地域の方々が元気になって色々な気づきを得たり、若い人たちとコミュニケーションする中で活性化するっていうのは間違いなくあります。なのでここはすごく積極的に取り組むべき領域だと思っています。
脇:壁は何かなと考えていたのですが、例えば移動って大変なのかもしれないですよね。時間はあるけどお金が無い、みたいな。時間すら無いかもしれないけど。
それでも例えば「おてつたび」という、地域の課題をお手伝いすると旅費が出るようなサービスもある。そういう意味では別に壁という感じもない。
逆に地域にとってポジティブなことはすごくあると思います。地域は求めてますからね、若い人との繋がりを。
平林:僕は日本橋でスペース運営しているのですが、日本橋って大学がないんですよ。なので年齢層が高いんですが、連携している学生の子がゴルフコンペを提案してくれたんです。
聞いたら今20代や大学生の間でゴルフが流行っているらしいです。そういう若い人の視点ってすごく嬉しいですよね。
古里:1つあるとすると、若い人との触れ合いに慣れていないところだと、丁寧なコーディネーターがいないと、びっくりしてしまうことがあると思います。どう接したらいいかわからないところが多いので。
脇:学生に限らず全てにおいてそうですよね。どういう繋ぎ方をするかで全く違ってくる。
モデレーター:次の質問を取り上げます。「関係人口を測るのは難しいと思いますが、今はどの程度の大きさで、どのように伸びてきているのかという統計はありますか?」。
脇:ググったら、全国の関係人口は2021年で1,800万人を超えたという記事が出てきました。コロナ禍とはいえ、その程度なんですね。
古里:各自治体独自でも関係人口を定義して集計していますよね。飛騨市はファンクラブの数を1つのベースにして測っています。あとはふるさと納税をしてくれた人で統計をとっているところもあります。
あと民間だとスタートアップの「株式会社キッチハイク」が、関係人口分析して行政に提案をしています。そういうサービスが増えている感じがしますね。
モデレーター:次の質問で、「コーディネーター人材をどういう風に発掘するか。もしくは弟子を育てていくのか」というものがあります。
脇:僕の場合は「よんなな会」の全国の公務員6,000人に、地域のつなぎ役になってほしいなと思っています。でもいきなり色々やるのも難しいので、小さなステージをいかにたくさんつくるかが大事だなと思っていて。
例えば、「何人かで今度行くから、アレンジメントをお願いします」みたいな。それぐらいだったら最初からできるかなと。
後はそもそも各自治体ごとに1人、つまり1,741人もコーディネーターが必要なのかという問いを持った方がいいと思います。各自治体に丁寧で素晴らしいコーディネーターを育成するってとても大変ですよね。
脇:現実的なのは、地域の地図を持っている人とペア組むことだと思っています。誰と話せばいいかとか、地域のことは地域の人しかわからない。
そういう人がコーディネーター機能を併せ持つことは、なかなか無いことだと思います。それなら一緒にペアで組めばいいなという気はします。
平林:僕が思っているコーディネーターの課題感が、お金にならないことです。ただ、お金にはならないんですけど、幸福感と信頼残高がすごくたまります。それでも構わない人がコーディネーターになってくれたら嬉しいですね。
僕らの場合はプロジェクトに落とし込んで、その地域のキーマンと一緒にプロジェクトを生み出していく形で収益化しています。コーディネーターよりプロデューサー的な立ち位置の領域が広く、その一機能としてコーディネートをしているイメージです。
モデレーター:さらに次の質問です。
「課題は価値になるという話がすごく面白かったです。一方であらゆる地域で課題が似通ってくるのではないかとも思います。そこで差別化して自分の地域に関わってもらうにはどうすればよいでしょうか。」
脇:その通りで、地域の課題ってみんな同じことを言っていますよね。でも誰が熱量を込めて語るのかがポイントだと思っています。
熱量高く、その地域をなんとかしたいと言っていたら、心を動かされて助けてくれる人が現れますよ。その連鎖でみんな繋がっていくような気がします。
不特定多数の誰かに向けて発信するのも大事なんですけど、周囲の誰か1人でも感動させられるほどの熱量があるのかどうかを大事にして欲しいなと思います。
逆に「仕事でやっています」という人とは繋がりたくないですよね。
古里:本当にそうで、人を紹介したいなと思うのはその地域、もっと言うとそこの誰かがすごく好きだから応援したいと思うわけです。好きな人や尊敬する人がいるから繋いであげたいなという、その想いだけなんですよね。
平林:多分今あげている課題感が大きすぎるのかもしれないですね。もう少し自分自身の課題だったり、1人1人の課題が見えてくると、上手く伝わるのかなと思います。
モデレーター:最後にいくつか、挙手制で質問を拾っていきたいと思います。
質問者:皆さんのスタンスだと行政や仕掛け人の側からの話が多かったと思いますが、その地域に住んでいる事業者や民間人側のお話もお伺いしたいです。
僕はそういう立場なんですが、地域の魅力を発信したり、ビジネスを生み出していくためにはどういった働きかけが必要でしょうか?
古里:飛騨高山もビジネス目的で外の方と繋がる機会ってほとんど無いんです。そこでスタートアップピッチのような、域外の企業と地元の民間事業者がマッチングできる場を年に1回つくっています。
その時に現地側の人たちは、外から来た事業者を「自分たちのマーケットを浸食しに来た」と思わず壁をつくらずに接することが大事です。
地域の中で自分たちだけでは解決できないものってたくさんあると思うんです。それに対してオープンになって、できるだけ共同でやれる余地をつくっていくような、積極的なスタンスが大事なのかなと。
脇:地域の地図を解像度高く持つ人になればいいのかなと思いました。やっぱり情報が集まる人のところには、色々なお願い事が来るんですよね。
「よんなな会」は全国と繋がっているので、全国と繋がりたいという話がよく来るんです。恐らく地域版も同じだと思います。
外を見るのも大事ですが、実はその地域の人たちをよく知ることが1つの手だと思います。先程からの繰り返しですが、関係人口って外だけ見るのではなく、中がとても大事なんです。
モデレーター:ありがとうございます。それでは最後の方、質問をどうぞ。
質問者:皆さんそれぞれの、「関係人口を一言で言葉にあらわすと何か」を是非お聞きしたいと思います。
脇:今総務省のホームページを改めて見たんです。そこには、「関係人口とは移住人口でもなく観光に来た交流人口でもない」って書いてあります。移住人口や観光人口だけを意味するのは誤解だということです。
さらに後ろに続いて、「地域や、地域の人々と多様に関わる人々のことを指します」と書いてあります。
これが正しい意味だと思いますので、「関係人口2.0」でいいのではないでしょうか。面白みはないですが。
平林:僕の中では一言で「応援人口」です。応援することも、応援されることも含めて。
推し活ではないですけど、なんとなく好きだからやるとか、応援する・されるって消耗している感じがないですよね。地域側を搾取するとか、逆に地域側にちょっといいように使われるとか。
そういう話よりもお互いプラスになるような関係性が関係人口としていいと思っています。それを表したのが、「応援人口」です。
(会場盛り上がり)
古里:僕はコミュニケーションを質・量ともにどれだけ熱くしていけるかが、関係人口の本質だと思っています。
コミュニケーションは狭く捉えるとメッセージの送り合いのようなものだと思います。でも、もっと広く捉えるとお金のやり取りから感情のやり取りまでの全部を含む、すごく広い概念だと思っているんです。
地域通貨もコミュニケーションの1つで、仕事で関わることもコミュニケーションの1つ。そういう風に捉えると、色々なアプローチがあると思うんです。
モデレーター:さっきの応援人口が一番近い考え方ですが、この「ポットラック」の裏のコンセプトは「日本に友達をつくろう」です。
知らない地域だとニュースとしてただ流れるだけなのに対して、友達がいるエリアには何かしらの行動が生まれます。ポジティブな経済創発だけでなく、ネガティブなことが起こった時も含めて。
例えば地域で災害が起きたときに、知り合いや友達がいる地域って目に止まりますよね。そのときに、ボランティアに行くとか、寄付をするといった行動が生まれます。そういった友達人口が増えると、共につくっていく関係性がもっとできると思うんです。
そうやって関係人口を誤読して色々な関わりが生まれることを願って、本日の場を締めさせていただきます。
Editor's Note
関係人口という言葉を解釈する重要性を確認した上で、最終的に必要なのは人の熱量だというのは、シンプルでありながら本質的だと感じました。何かを変えていく上での普遍の原動力を忘れずに大切にしたいと思います。
Yusuke Kako
加古 雄介