HYOGO-TOKUSHIMA
兵庫・徳島
※本レポートはシェアリングエコノミー協会主催のイベント「SHARE WEEK 2023」の3日目に開催されたトークセッション「【地域】New LOCAL!分散型社会構想会議」のうち「次世代首長と考える新たな地域社会のグランドデザイン〜真の分散型社会の実現に向けて〜」を記事にしています。
政府が“地方創生”を掲げ省庁の東京から各地への移転も進むなか、地方自治体がどのように分散型社会を目指し、取り組んでいくのかも注目されています。
“分散型社会”を実現するために、各地域が取り組むべきことは何なのか。2020年に最年少女性市長に就任した徳島市長・内藤佐和子氏と、2023年に歴代最年少で市長になった芦屋市長・高島峻輔氏に、これからの地域の課題についてお話しいただきました。
前編記事では、実際に市長に就任してからお二人が感じた実情や課題についてお話がありました。
後編記事では、課題をいかに乗り越えていくのか、また今後挑戦していきたいことを語ってもらっています。
石山氏(モデレーター、以下敬称略):内藤さんは最年少女性市長として活躍されるなかで、抜本的な改革を進める上で「ここが変わらないと日本は変わっていかないぞ」というようなボトルネックを感じたことはありましたでしょうか。
内藤氏(以下敬称略):徳島の場合は人口減少が続いていて、18歳や22歳の進学や就職のタイミングで徳島を出て、東京や大阪などにいく人が多いです。そうなるとやはり関係人口が肝だと思っています。
私の地域づくりは、大学在学中の2009年に、徳島で“地域活性化コンテスト”をスタートさせることから始めました。中心市街地の活性化や名産品のPRを東京や関西の学生と、地元で活動しているNPOやまちづくり団体、中小企業の社長などと一緒に解決策を考え実現させるところまでやってもらいました。
スタートから10年以上経ちましたが、最初に参加してくれた学生が就職して総務省にいたり、東京の大企業にいたりして、各領域でパワーをつけた人が「徳島に恩返しできないか」と声をかけてくれるるようになりました。これはすごい力になると思っていて。全国にそういう関係人口がいることが、今の徳島の強い財産になっています。
内藤:高島さんと同じく次世代を育てる施策も大事です。徳島市は、高校生のなかから「徳島のことを考えるリーダー」を選挙で選んでいます。選ばれた代表生徒も、最初は行政に対して「こうしてほしい、こういうお店や遊び場がないからみんな出ていくんだ」という要望ばかり話していました。
そこで私は「みんなでどんなお店が本当に欲しいのかをまとめよう。そうしたら、みんなで企業誘致に挑戦しよう」と生徒たちを巻き込みました。市役所と彼らでチームをつくり、一緒になって企業やお店を誘致するプロジェクトを進める予定です。
こうすることで「どういう問題があって企業が徳島に来てくれないか」という視点を彼らが持つこともできますし、「市民の消費が少ないからお店側も徳島市に魅力を感じてくれていない」などの課題を彼らが認識することにつながっています。
石山:今の内藤さんのお話しで、関係人口の重要さについて触れられましたが、最近ようやく政府でも重要な課題のひとつとして関係人口が取り上げられはじめました。一方で、人口減少地域では移住者数を最重要KPIに設定している自治体も多いのではないでしょうか。
セッションの冒頭で内藤さんが「従来型の積み上げ式の議論だと変わらない」という話をされていました(前編参照)。抜本的に変えていくために、これまで当たり前だと思っていたことや良しとされてきたことをある種否定しなくてはならないこともあるのではないでしょうか。その難しさや、工夫されていることがあれば伺ってみたいです。
内藤:確かに政治家はどうしても「地域を活性化させ人口を増やしていきたいです」と言いがちかもしれません。私はきちんとデータを見て話します。中心市街地活性化基本計画を立てる時には、スマホの位置情報などから割り出した徳島市の昼間や夜間の人口をデータで示して、正直に「人口を増やすのは難しいです」と言いました。
代わりに域内でお金を使ってくれる人を増やす必要性を訴え、阿波踊りなどのキラーコンテンツをさらに磨き上げること、市街地の昔ながらの旅館やホテルが平時のビジネス利用が進むようにリノベーションすることなどを提案しています。
ただし行政に任せるのではなく「みなさんもお金を出してください。私たちも国から補助金が出るように頑張るので、一緒に汗をかいてやっていきましょう」と言っています。今までは行政に「ください」一辺倒だった意識を変革させ、一緒になって補助金を取るという成功体験を積んでいるところです。
財政がとても厳しいこともしっかり伝えて、国や企業からお金を引っ張ることが重要なので推奨しています。そのおかげか「内藤市長はケチだ」と言われるんです。政治家としてはお金をばらまいた方が、次の票が取れるのかもしれないですが。
石山:確かにそうですね。ケチになるには覚悟と勇気がないと難しいことですね。
内藤:市役所の財政課職員にとってみると、市長が政治家らしくリップサービスで「あれもこれもやります」と言ってしまうが苦悩のたねだったようで、私はそれがないところが「今までの市長とは違いますね」と言われました。
石山:それはすごく重要な視点ですね。具体的なデータや課題の共有をすることで市民から信頼を得ることは、今の日本に足りないところだと思いました。高島さんはいかがですか。
高島氏(以下敬称略):行政が市民の皆さんの信頼を得るための方法って色々あると思うんです。私は“発信すること”につきると思っています。市長に就任して半年経ちましたが「こんなに役所はアピールが下手なのか」ということを一番実感しました。
「市役所はしっかりやってるけど市民に伝わってない問題」をどう解決するかが、市役所がまずやるべきことだと思います。それをきちんとするだけでも、市民の満足度が上がるんじゃないでしょうか。でも、役場の職員は謙遜して言わないことが多いんですよね。なので市長が代わりに言おうと思いSNSを含めて、発信はちゃんとやっています。
きちんとした事業の経過説明を発信すると、ちゃんと納得してもらえます。我々が市民のことをまず信頼して定期的に説明することで、市民の方々からの信頼を貯められるんです。その繰り返しを積み重ねていきたいですね。
石山:この半年で高島さんが特に発信の仕方として力を入れてこられたことや、今後取り組みたいことがあればお伺いしたいです。
高島:一番心がけたのは「できるだけ10歳でも分かるように話す」ということです。まずは議会での話し方や市長の挨拶の文章はすぐに変えていきました。最初は私自身で文章や原稿を書き直していましたが、今では私らしい書き方や話し方のマニュアルができたようで、わかりやすい書類が出てくるようになりました。
今後取り組みたいことは、先ほども伝えたことですがしっかりと事業の経過を発信することですね。これがなかなか難しくて。例えば大規模な工事やプロジェクトになればなるほど、途中経過を説明するのがとても大変なんです。「今出してしまうと、あの人に迷惑がかかるのでだめです」と職員に言われることも。内藤市長もすごく悩まれるところなんじゃないかなと思います。
もちろん途中で経過を発表したけれど、結果として達成できないこともあると思います。しかし、それを怖がることは説明しない理由にはなりません。その時は、市民の方々に対しても「なぜできなかったか説明すること」が重要なんです。
内藤:とても良くわかります。「予算は通ってないけどやりたいこと」や「ほぼ実現できるけど、今言ったらあの議員さんに怒られるかもしれない」など。もちろん議会が許可をしてくれないと物事は進まないので、気を遣うことはあります。でもそれって本当に市民のことを考えているのかなと疑問に感じていて。そこを出さないから偏った切り取られ方で報道されるんじゃないかと思うんです。
私も情報の出し方や話し方は大事にしています。私は議会の初心表明で「自分の気持ちも含めて、説明したいです」と言いました。私がどういう思いでこの議案を提出しているのか、こういう未来を描いているから賛成して欲しいという話も含めて伝えようと思っています。
やはり人対人なので「私がこういう経験をしたからこういった教育を進めたい。こういうバックグラウンドの子たちを救いたいからこの法案が必要なんだ」という思いの部分が大事ではないでしょうか。選挙の時は思いを中心に喋るのに、いざ市長になると議会では気持ちの部分をあまり喋らないのはなぜだろうと。
高島:本当そうですね。ただ感情を出しすぎると「お前の気持ちだけでやってるのか」とか言われちゃうのが難しいところです。感情をどう載せるかはアメリカの人が上手くて。大学時代に見聞きしていたので、私も頑張らないとなと思っているところです。
内藤:質問の答弁に入れると「お前の自分語りは聞いてない」と言われるので、最初の挨拶の時に入れるといいですよ。
高島:ありがとうございます。参考にします。
石山:2人が挑戦したり、工夫されていることを聞いてきました。最後にこれからさらにやっていきたいこと、取り組んでいきたいことがあれば是非シェアいただきたいと思います。もしシェアリングやシェアリングエコノミーという考えに対しても、ご期待や可能性の言葉があればお願いします。
高島:私は公立の小学校中学校を変えていくことが一番大事だと思っていて、教育改革をしっかりとやりたいです。先日、教育大綱という市長が掲げる大きなビジョンを発表しました。その中で「自分と地球の未来を切り開くような市民を育てたい」というテーマを掲げたんです。
今「ちょうどの学び」を実践することを目指しています。これは「一人一人に合う学びを学校の中でやりましょう」ということなんですよ。習熟度の話だけではなく、例えば自分の興味に基づいて学業に取り組めるようになってほしいんです。
高島:因数分解や古文を何故習うのか疑問に思った時に「実はあなたの持っている興味とここで繋がっているんだよ。実は意外と面白いんだよ」ということを伝えられることが極めて重要だと思っています。一人一人にあった学びの意欲を引き出せる学校教育をやっていきたいです。
その前提になるのが働き方改革です。仕事のシェアリングの話にもなりますが、先生の負担を減らすために、先生がやらなくてもいいことはどんどんシェアをして、先生が一人一人の子供たちにちゃんと向き合えるようなそんな環境をつくっていくことが行政の大事な役割だと思っています。
まず芦屋で教育改革に取り組み、芦屋でうまくいったことは日本全国の市町村にシェアして活かしていくことを目指しています。
内藤:現在、徳島市が掲げているのはD&I*です。私自身が女性であり難病ということもあり、女性の政治進出やさまざまな意思決定の分野への参画や障害者の方が地域や社会に参画していけるかを考えています。ここは官民連携が必要だと思っています。
*…D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)とは、「多様性」を意味する「ダイバーシティ」と「包括」「受容」を意味する「インクルージョン」を掛け合わせた言葉。多様性を受け入れて尊重し、個々のスキルが発揮できる環境を整えたり、働きかけること。
徳島市はおそらく全国で1番「ダイバーシティ」という言葉が出ているまちだと自負しています。先進的にD&Iに取り組んでいるメルカリとも連携協定をしていて、市の職員をメルカリに派遣して1年かけて研修ができるまでに成長してもらい、帰ってきたら市のなかで研修を開いてもらいます。
職員に対しても啓発は進めていて「『真の公平性』とは何かを考え行動する」というのを求める職員像にあげています。通常の行政の感覚でいくと数値で切らなきゃいけないところでも、平等と公平の違いを意識してヒアリングを重ねたうえで、果たして現行のルールでいいのかを考えて判断してもらいたいです。
徳島市で変えられるものであれば小さい変化でもいいから少しずつ変えていきたいです。それが市民のためになるのであれば、他の自治体にもシェアしていくべきだし、国に対しても要望活動もするべきですよね。そういうことができるのが自治体の長だと思っています。成功事例をいろんな自治体が積み重ねていって日本が変わっていけば、すごく素敵な未来が待っているのではないでしょうか。
石山:教育やD&Iは若い世代からしても取り組んでほしいことだと思います。それを市長として掲げる勇気や覚悟がいることなのか改めて実感できました。素晴らしいお話をありがとうございました。
Editor's Note
最年少市長のお二人が目指す地域の在り方は、共感ばかりでした。全国のいろいろな自治体でこの先進的な考え方が当たり前に浸透してくれることを願っています。
DAIKI ODAGIRI
小田切 大輝