HOKKAIDO
北海道
地方移住を生き方の1つとして選択する人が増えてきました。しかしながら、「首都圏と比較したとき地方には仕事が少ない」という現実が、移住へのチャレンジを妨げている現状は否めません。
そんな社会課題に対し、真っ向から向き合う人々がいます。北海道安平町を舞台に、新しい働き方や起業を志す仲間を発掘・育成するプログラム「Fanfare あびら起業家カレッジ(以下、Fanfare)」の仕掛け人である小町谷健彦さんと、町役場の木村誠さんです。
2021年に発足した本プログラムを活用し、「人と日常にとけるCo‐Living」をテーマにしたゲストハウス「VACILANDO(ヴァシランド)」をつくりあげたROYさんの体験談を交えつつ、Fanfareの概要と立ち上げに込めた想いを伺いました。
北海道生まれ、北海道育ち。道内を中心に活動するノマドフリーランスのROYさんは、カメラマンやマーケティング、Instagramでの観光情報の発信など、幅広い形で北海道を盛り上げる活動を行っています。
そんなROYさんがFanfareと出会ったのは、コロナ禍の影響で「旅離れ」が加速することに寂しさを感じていた頃でした。
「大学生の頃、オーストラリアでワーキングホリデーを経験しました。その際、オーストラリアの東半分1万キロを自転車で旅したんです。そこで旅にハマったのが、僕の原体験ですね。
旅先で出会う人との交流が旅の醍醐味だと僕は思っているのですが、コロナ禍で人と人との距離が離れてしまい、とても残念な気持ちになりました。それで、前職で携わっていたコミュニティマネージャーの仕事を活かして、『自分で新たに場づくりをしたい』と考えたんです」(ROYさん)
場づくりを意識した時に、出身地である北海道で「ゲストハウスをやろう」という青写真はすでに描いていたROYさん。しかし、北海道の広大なエリアのどの地域を候補地とするかで悩まれたそう。
そこで、以前からつながりのあった「株式会社大人」代表の五十嵐さんに相談したところ、安平町に発足したFanfareプログラムの詳細を耳にします。
「ゲストハウスを経営していく上で、まちのサポート体制がしっかりあることは大きな魅力でした。ほかにも、集客を見据えて立地を考えた時に、安平町は新千歳空港からJRで30分の距離だった面も良かったですね。
当初は地方移住に対して不安があったのですが、町役場の木村さんをはじめとして、皆さんすごく親身に話を聴いてくれて。『私たちにできることは何でもサポートします』という姿勢が心に響きました」(ROYさん)
サポート体制の充実と役場の方の熱意に後押しされ、ゲストハウス開業の地を「安平町」に決めたROYさんは、移住と起業を同時に進める多忙な時期を過ごします。
「移住」と「起業」は、どちらも金銭面での負担がつきもの。しかしその不安についても、Fanfareの充実した支援体制がしっかりとカバーしてくれました。
「Fanfareプログラムは、地域おこし協力隊としてまちに移住する形になります。そこで、ベーシックインカムとして毎月約20万円が入ってくるんです。
ゲストハウスを実際に経営してみて思ったのですが、季節によって収益にバラつきがあるんですよね。夏季はお客さんが多いけど、冬季は少ない。なので、金銭面のサポートがしっかり保証されている安心感は大きかったです」(ROYさん)
移住者からよく聞かれる悩みとして、「地域に溶け込むのに時間がかかる」というものがあります。この点についても、Fanfareプログラムを利用したメリットを感じたとROYさんは語ります。
「地域おこし協力隊としてオフィシャルにまちと関われるため、まちの人に溶け込みやすいんです。『地域おこし協力隊のROYです』という名札があると、まちの人に認識されやすく、コミュニティにも入り込みやすいんだなと感じました」(ROYさん)
移住後は、ゲストハウスのプレゼン、事業計画のブラッシュアップ、クラウドファンディングの立ち上げ、DIYなど、多岐にわたる業務をスピーディーにこなしてきました。
Fanfareプログラムの心強い伴走とROYさん自身の行動力によって、2022年11月、無事にゲストハウス「VACILANDO」の開業に至ります。
「今後は、安平町の観光施策全般も含めて、自分のゲストハウスをどのように活用していくかを考えていきたいです。
例えば、Fanfareの2期生である坪松さんは、クラフトビールの開発を目指しているんですよ。そのビールをうちのゲストハウスに卸せたら良いな、と。Fanfareにはほかにもいろんなアイディアを持っている方が多いので、卒業生同士で面白いことができたらと期待しています」(ROYさん)
Fanfareプログラムを活用して、安平町への移住とゲストハウス開業の夢を叶えたROYさん。ROYさんが語るように、ほかにも大勢の方々がFanfareプログラムを通して自身の目標を叶えるべく邁進しています。
Fanfareプログラムの仕掛け人の1人である小町谷健彦さんは、安平町役場の方々と同じ着地点を目指してプログラムをつくり上げてきたと語ります。
「Fanfareは、『株式会社大人』が安平町と協力してつくり上げた『あびら起業カレッジ』というプログラムです。『株式会社大人』代表の五十嵐が総合プロデュースを務め、僕はディレクターとして立ち上げ当初から関わらせてもらっています。
プログラム内容をざっくり説明すると、選考の結果、安平町から『ぜひ来てください』と言われたら、3年間お給料をもらいながら自分の事業を展開したり起業にチャレンジできますよ、というプログラムです。
移住や起業に興味があっても、踏ん切りがつかずにいる人たちもいるでしょう。そういった方々に向けて、安平町で一緒にビジネスをつくれる可能性があるかどうかを模索していく窓口も用意しています」(小町谷さん)
一方、もう1人のプロジェクト仕掛け人である安平町役場の政策推進課に務める木村誠さんは、安平町の歴史を振り返りつつ、Fanfare立ち上げの背景をこのように話します。
「安平町は、人口7,000人弱の小さなまちです。人口減少が進む中、2018年に北海道胆振東部地震の被害に遭い、商店街やまち中の被害も大きく、解体を余儀なくされた店舗も複数ありました。
このままではますます衰退してしまうのではと危機感を抱いていた時、まちの地域活性化について改めて考えてみたんです。
その際、『ただ “人を呼ぶ” だけじゃなく、このまちで事業を興してみたいと考える方々に来ていただき、まち全体を盛り上げていく動きが必要なんじゃないか』という想いがわき起こりました。これが、プロジェクト立ち上げの背景です」(木村さん)
移住者への受け入れ態勢があるかどうかで、移住に対するハードルは大きく変わります。小町谷さんと木村さんのお話から、安平町は、役場の方々も一丸となって移住支援・起業支援に取り組む姿勢を持つまちであることが伺えます。
「Fanfare あびら起業カレッジ」の名称には、安平町ならではの由来があります。
「安平町は、日本有数の牧場がある馬の名産地なんです。レース出走前に、ファンファーレが鳴りますよね。それになぞらえ、『狼煙を上げる』意味合いで、『自分もがんばる』『みんなも励ましていく』という温かい動きが広がっていくことを願い、この名前を付けました」(小町谷さん)
「これから出走していくぞ」という意気込みを込めて名付けられたFanfareプログラムは、他のプロジェクトの課題感から生まれた経緯もありました。
「僕と五十嵐は、『北海道移住ドラフト会議』というイベントもやっているのですが、『移住はしたいけど仕事がない』という声をたくさんいただいていて。今後の北海道の発展を考えていく上で、重要な課題だなと感じていました」(小町谷さん)
町役場の木村さんも、同じ部分に課題を感じていたと言います。
「安平町は、もともと子育て教育の分野をまちづくりの柱として地域活性に取り組んできました。その結果、減少傾向だった人口が社会増減においては増加傾向に改善される成果が見られるように。
しかし、移住してきた若い方も仕事がないと長く住み続けることができない。この課題を解決する上で、Fanfareプログラムは非常に効果的でした」(木村さん)
「ROYくんの話にも出ていたFanfare2期生の坪松さんは、元々は安平町の子育て環境に惹かれて移住を決意したんです。
その上で、『安平町に移住したいから自分で仕事をつくりたい』と真剣に考え、Fanfareプログラムを活用してクラフトビールの製造にチャレンジしています」(小町谷さん)
「住みたいまち」と「やりたい仕事」のマッチングを叶えるFanfareは、安平町、ひいては北海道に新しい風を運んでくれるでしょう。
「まずは自分が率先して楽しめる、わくわくできることに安平町でチャレンジしたい!と思える方に来ていただきたいです」(小町谷さん)
地元の人とのコミュニケーションを楽しみつつ、行政の手厚いバックアップも受けられる「Fanfare あびら起業カレッジ」。移住や起業について悩んでいる方、模索している方は、まずはお気軽にご相談してみてはいかがでしょうか。
◯ 受け入れ体制
・道内外で活躍する地域プレイヤーや起業家たちがメンターとなり、事業のブラッシュアップを相談できる
・Fanfare事務局がプレゼンまでの疑問や調整をサポート
・採択者には起業型地域おこし協力隊として、最大3年間のベーシックインカム
・起業時に創業支援補助金を受け取れる(詳細条件あり)
・非採択となっても再チャレンジ可能
・すぐに移住ではなく、事業化のみの相談も可能(地域おこし協力隊制度は移住後から)
◯ 募集要項
▼書類選考(8月下旬〜10月末)
エントリーシート及び企画書で動機や背景、安平町で取り組みたい事業や起業プランを教えてください。
▼ビジネス合宿(11月18日〜19日 @安平町)
役場職員、メンター、コーディネーターとともに事業を聞かせてもらい、プランのブラッシュアップに共に取り組みます。最終日にプレゼンテーションを行い、中間発表を実施します。
▼ブラッシュアップ
最終選考会まで1ヶ月ほどの時間を使って更なるブラッシュアップに取り組んでいただきます。期間中には事務局、役場職員やメンターからのブラッシュアップ面談を実施します。(オンラインで実施予定)
▼最終選考会(12月17日)
ブラッシュアップされたプランを発表、最終選考会を実施します。選考会を通過された方は「採択の内定」があり、その後の条件面のすり合わせする段階に進みます。
▼最終合意
2024年度中に安平町に拠点を持ち事業や起業プランを始動させてください。条件面のすり合わせが整った方は正式に採択となります。
詳細は下記ページよりご確認ください。
Fanfare あびら起業家カレッジ
エントリーに先駆け「Fanfare × LOCAL LETTERのコラボイベント」を2023年10月16日(月)にPOTLUCK YAESU(東京ミッドタウン八重洲 5F)にて開催!テーマは『北海道ローカルプレイヤーが“キャリア”と“稼ぎ方”をぶっちゃける。地方移住×起業のリアル』。
実際のFanfare卒業生やFanfare事務局のメンバーをお迎えし、「実際移住ってどう?」「地方で稼いでいけるの?」「起業してみてどう?」といった“キャリア”と“稼ぎ方”について深ぼる、貴重なイベントです。コラボイベントの詳細は以下のリンクボタンよりご確認くださいね。
Editor's Note
「移住」と「起業」。本来であれば、どちらか片方だけでもハードルが高く感じるものですが、Fanfareプログラムを活用できれば、金銭面だけではなく、行政や町の人との交流もスムーズになりやすい点が大きな魅力だと感じました。「出走するぞ」という意気込みを込めたFanfareの名のもとに、多くの活気あふれる人々が集う未来を想像するだけで、胸がワクワクします。
MINORI YACHIYO
八千代 みのり