CROWDFUNDING
クラウドファンディング
オンラインで気軽に人とのつながりを持てる環境に感謝する一方で、肩と肩がくっつくほどの距離で誰かと飲んで語り合う、そんな空間への恋しさも持ち合わせる今日この頃。
山梨県・富士吉田市にある通称「やばい飲屋街」と呼ばれる「西裏」は、軒先に赤提灯がぶら下がり、人の笑い声が夜遅くまで聞こえてくる、昭和の雰囲気を味わえる人気のエリア。焼き鳥屋やスナック、バーなど多様な店が林立し、多くの地元民や観光客に愛されるこの場所も、コロナの感染拡大により行き交う人は減り、経営が難しくなる店舗も出ている。
そんな西裏を再び盛り上げようとクラウドファンディングをスタートした、合同会社新世界通り代表の小林純さん。このまちの活性化に努めてきた彼女に聞く、西裏の歴史、魅力、そしてこれからの姿とは。
富士山の麓に位置する富士吉田市は、綺麗な湧き水に恵まれたこと、養蚕に力を入れていたことから織物の名産地として古くから知られ、その歴史は1,000年以上前に遡るとも伝えられている。終戦後は「ガチャマン」と呼ばれる黄金時代を迎え、「ガチャっとひと織りすれば1万円儲かる」と言われたほど景気のいい時期も。商人が行き交い、活気付いたこの街では、機織り市場がある東側を「東裏」、繁華街としてにぎわう西側を「西裏」と呼び、昭和30〜40年代頃は、商人が東裏で儲けたお金を西裏の飲み屋で使うのが通例だったという。
そんな歴史を持つ西裏も、外国からの安価な織物が大量に流通するようになると状況は一変。機屋の廃業とともに行き交う人が減り、徐々にまちが衰退していった。
かつての活気を取り戻そうと、西裏エリアのイベントや店舗の管理・運営を行なっているのが、今回取材をした小林さん。現在支援者を募っているクラウドファンディング「西裏で乾杯できる未来を残し、創り続けたい!」の発起人でもある。
小林さんがこの西裏の活性化に携わるようになったのは、2015年。当時、富士吉田市の定住や起業の支援を行う「ふじよしだ定住促進センター」の職員として相談窓口を担当していたところ、“やばい飲屋街がある”と噂に聞いていたのが西裏だった。
「富士吉田市でUターン就職をして初めて、西裏の存在を知りました。飲み屋好きなこともあって早速行ってみると、昭和30年代頃に建てられたお店は当時のまま。こぢんまりとした個人経営の飲み屋が連なっている様子は、まるで古き良き時代にタイムスリップしたようでした。
自治体で西裏を整備して盛り上げていこうとプロジェクトが発足されたとき、自他共に認めるお酒好きの私は必然的にメンバーに。そこからイベントを企画したり、テナントを募集したりと、さまざまな取り組みを続けていくなかで、もっと西裏の活性化に貢献したいと2016年に会社を立ち上げました」(小林さん)
半径600〜700mのコンパクトなエリアの路地に、焼き鳥、串揚げ、馬モツ串、ラーメン、イタリアン、スナックなど多種多様な飲食店が約100店舗以上ひしめき合う西裏。しかし現在の姿になるまでには、七転八倒の苦しい状況を何度も乗り越えてきた。
はじめはテナントを募集しても全く反応がなく、どうにか興味を持ってもらおうと、小林さん自身が西裏で店を運営しスタッフとしても働いたことも。飲食店をオペレーションする魅力も大変さもそこで実感したからこそ、西裏に出店するイメージを言語化できるようになっていったそう。
飲み歩きができるイベント「ハシゴ酒」を開催したときは、個々の店がそれぞれ魅力を発信することはもちろん、隣り合う店同士が一緒に西裏を盛り上げようとする連携の大切さを痛感。エリア一帯がウェルカムな雰囲気を作り、一致団結してアイデアを出すことで、西裏全体のムードが変化していった。
「イベントやSNSを通じて徐々に西裏の口コミが広がり、2019年には地元の方、国内外の観光客が集まるように。それと同時にテナントも埋まり、バラエティ豊かな店舗がぐっと増えました。お店の方々も、『地元常連客と旅行客が肩を並べて飲んで、楽しんでもらえる西裏にしていこう!』と団結して動き始めていましたね。でもそんな矢先にコロナの感染が拡大し、また試練がやってきました」(小林さん)
2020年のオリンピック開催もあり、インバウンドの観光客向けに英語のメニューを作成したり、イベントの企画をしたりと、西裏全体がいつでも多くの人を迎えられるよう準備をしていた頃、山梨県でも外出自粛や休業要請が発表された。
「富士吉田市でコロナ感染者が出たことで、飲食店は本当に厳しい状況が続いています。国や自治体の支援も期待できなくなり、お店の方々は元気が無くて。でも私は西裏を盛り上げるために起業するくらい、個性豊かな店が連なり人情味溢れるこの飲屋街が好き。このまちにまた人が集まり、笑って飲める日がきて欲しいという思いで、今回クラウドファンディングを立ち上げました」(小林さん)
目標額は200万円。支援者へのリターンは、飲食店に負担をかけないよう注意を払いつつ、西裏の魅力をたっぷりと味わえる内容だ。
「リターンは、西裏を知らない方には知ってもらう、来られない方には来た気持ちになってもらう、アフターコロナで存分に楽しんでもらうの3つの軸で考えました。具体的には、西裏で利用できるチケットや富士山の水で作られたビールの提供、個性的すぎるスナックママとのオンライン飲みなどがあります。
数え切れないほどの飲み屋に行きましたが、西裏くらい楽しく飲めて、人との繋がりを生み出す場所は他にないと思っています。今このクラウドファンディングを見て、お店の方々は『こんなに支えて、応援してくれる人がいるんだね』と実感し、少しずつ元気を取り戻しています。みんなで支えあって作り上げる西裏は、これからもっと面白い場所になると確信しています」(小林さん)
お酒が好きな人はもちろん、レトロな街並みが好き、個性的な店主と話したい、ジャズやスナックなどいろんな雰囲気を楽しみたい人にぴったりな飲屋街・西裏。この機会に西裏というまちと繋がってみてはどうだろう。クラウドファンディングは8月31日(火)まで。
最後に、賑わいのあった飲屋街の様子をInstagramでも配信中です!個性豊かな店舗がたくさん並んでいますので、ぜひチェックしてみてくださいね!
Editor's Note
安くて、料理が美味しくて、お店の人があったかい。三拍子、いやそれ以上が揃った西裏は私も大好きな場所です。クラウドファンディングは助けを必要としている人や団体にとって金銭的な援助ばかりではなく、「これだけ味方がいる」と精神的な支えにもなると小林さんのお話を聞いて思いました。好きな場所を守りたい、その純粋な思いからつくられる“これから”はワクワクしかありません!
SAWAKO MOTEGI
SAWAKO MOTEGI