SHIMANE
島根
日本各地で活動している地域おこし協力隊。そこには地域内外から様々なバックグラウンドを持った人々が集まってきます。
島根県奥出雲町の地域おこし協力隊として現在活動中の石亀ゴローさん。これまでの人生の転機のたびに真剣に将来を考え、内なる声に素直に従って方針を選択してきました。
石亀さんのモットーは「地方×若者×挑戦の文化づくり1歩目」。今回は地域おこしに挑戦するまでのいきさつと、現在の取り組みについて語っていただきました。
2023年10月6日〜11月13日まで、島根県奥出雲町にゲストハウス「SLOW HOUSE@okuizumo」を立ち上げる資金繰りや仲間集めのためにクラウドファンディングを立ち上げていた石亀さん。見事に目標額を超えて終了することができました。
「SLOW HOUSE@okuizumoにしようと思ったきっかけは、宮城県気仙沼市にあるSLOW HOUSE1号店を訪れた際に、オーナーさんと意気投合したことでした。
『人生の転機に訪れてほしい場所』をつくりたくて。休学中の学生や休職中の社会人が都会とは全く違う場所に来て、何かしらの人生における気づきを得たり、将来を考えるきっかけになったりする場所を目指しています。
0からクラウドファンディングを立ち上げて成功したことは、大きな自信になりました」(石亀さん)
「居抜きの状態の空き家を借りて、みんな素人ですが地域の大工さんに教わりながらリノベーションをしています。1日の作業終わりには真っ黒になりながらも、解体作業を楽しんでいます」(石亀さん)
「こうして動いていると地域の人たちから差し入れをいただいたり手伝ってくださったり、いろんな人に支えられています。この地域には同世代の20代が少ないですが、この活動を始めてからは『自分も関わりたい』と今まで知らなかった同世代が名乗り出てくれました。
地域外からもここを目掛けて来る人が増えて、繋がりができてコミュニティが広がる。そういったことにもすごく価値がありますよね。その意味でもここをつくる意義があったと感じます」(石亀さん)
東京生まれ横浜育ちの石亀さんが、なぜまちおこしに興味を持ったのか。それは東京農業大学時代に遡ります。
地方から上京してきた学生たちが多く彼らに連れられて地方に行ったり、農学部の実習やボランティアで地方に行くことが多かったりする中で、元々は外に出ることにあまり意欲的ではなかった石亀さんが、少しずつ自分のテリトリーから外に出る面白さを知っていきました。
「学生時代、小笠原諸島の父島でボランティアをしたり、三重県の会社でインターンをしたり。その他の地方でも行った先で地域の人々との交流を楽しみました。
あとは南米をバックパッカーした時に、スペイン語圏だったので英語で簡単なコミュニケーションを取ることすらままならなかったんですね。今まで自分が認識していた『日本においての当たり前』は日本だけの狭い常識であって、外の世界には違う面白さがある。視野や価値観が広がりました。新しい環境にどんどん突っ込んでいきたいという原体験ですね。
その後就職活動をする中で、人々から影響を受けて自分自身が新たな行動や挑戦を起こしたことから、人材業界やキャリア支援を志望したり、ボランティア活動を通した地方創生・まちおこしに関わりたいと思いました」(石亀さん)
こうして石亀さんは2020年4月から株式会社パソナグループに入社し、地方創生の事業開発部として兵庫県淡路島で活動を始めることとなりました。
パソナグループの事業開発部では宿泊事業の開発に関わり、接客・サービスを提供しながら宿泊事業自体の運営にも携わった石亀さん。学生時代とは環境も変化していきました。
「当時暮らしていたシェアハウスから歩いて5秒のところに海があって、朝散歩してから出勤していました。『こういう生活をしてみたい』と自分が目指していたものが、社会人1年目にして叶った感覚です。海岸でスイカ割りしたり、同期で集まってバーベキューをしたのも楽しい思い出です」(石亀さん)
理想の生活をエンジョイしていたはずの石亀さんは、しかし、その後パソナグループを退社します。
「パソナを退社した理由の大きなものは、コロナ禍と、祖父の死の2つでした。コロナ禍でゴーストタウン化した東京の混乱をTVで見た時に、トイレットペーパーを奪い合っている大人の姿がありました。
一方で淡路島では豊かな生活があって、海も自然も近くて、都会では頑張らないと保てなかったソーシャルディスタンスが淡路ではナチュラルにできている。これってもっと地方に人が分散した方が幸せなんじゃないかと、東京一極集中の限界を感じるようになりました。
同じ時期に祖父の死を迎えました。これから先に何が起こるかわからないと考えた時に、このままの会社勤めのキャリアでいいんだろうか、自由に動けるうちに1度今の環境から飛び出して、自分の将来を考えたくなったんです」(石亀さん)
コロナ禍で時間があり、社会のことや将来のことを考えた時に、自分が本当にやりたかった地方創生に真正面から向き合いたくなったのは、石亀さんにとっては自然の流れなのでしょう。
誰も知らないところに行って、まちづくりに根っこから関わりたい。こうして石亀さんは、拠点探しの日本一周の旅へ出ました。
「0から地域に飛び込んでいった、車中泊・住所不定・無職の僕は、時には不審がられることもありましたね。様々な場所を巡りましたが、最終的にはそんな僕を普通に受け入れてくれて、面白がってくれた島根県奥出雲町に腰を据えて活動しようと決めました」(石亀さん)
全国都道府県中、ワースト2位の人口65万人の島根県。その中でも奥出雲町は広島県境に位置する人口約1万人の町です。
中でも石亀さんが活動をしている人口600人の三沢(みざわ)集落は雪が深く高齢化率45%、令和8年度に廃校が決定している小学校の全校生徒は20名。空き家問題・人手不足も当然としてある過疎が進んだ地域に、石亀さんはどう溶け込んでいったのでしょうか。
「奥出雲町で最初に出会った人から移動マーケットの販売員の手伝いを打診され、最初の半年間は三沢集落のお宅を回って食材や日用品を売っていました」(石亀さん)
毎週、1軒1軒家を回ることで石亀さんは「東京から来たあんちゃん」と孫のようなポジションで住人に親しまれ、地域との関係性が深くなりました。東京〜淡路〜奥出雲と移り住み、気候も違えば住んでいる人も違う、これまで見てきた環境との違いに衝撃を受けたと言います。
「販売員としての半年間が過ぎ、2022年4月からは地域おこし協力隊の起業コーディネーターとして、引き続き奥出雲町のみざわ地区で活動をしています。
主な仕事は、奥出雲町立の起業創業支援施設『古民家オフィス みらいと奥出雲』の管理・運営です。交流スペース、シェアオフィス、コワーキングスペースを持ち、基本的には交流スペースで起業相談を受け、創業して法人が立ち上がったらそのままシェアオフィスに入居してもらう流れです。
起業したくてもチャレンジするフィールドがない。ではそのフィールドもつくろうということで、地域の30〜40代を中心に、1年8ヶ月かけてリノベーションしてつくったのが『レンタルスペース&キッチン金吉屋』です。先ほどの『みらいと奥出雲』から歩いて10秒くらいのところにあります。この場所ができて2年経ち、ここをきっかけに新しい動きが起き始めている段階です」(石亀さん)
人口600人の奥出雲町みざわ地区。人が少なく超過疎地域であるこの場所を自身の拠点に選んだ決め手はなんだったのでしょうか。
「奥出雲町は、1人1人の熱量や『こんなことをやろうぜ』というエネルギーや行動力がとてもある。ここの人たちが持つ文化が面白いんです。人は少ないけどワクワクしている、そこに魅力を感じて決めました」(石亀さん)
元からいる若者がとても少ない奥出雲町へ、石亀さんが行動を起こしてきた2年間のうちに、若者が集まり始めています。石亀さんと同世代の若者たちが地域に触れて、定期的に遊びにきてくれる。そんな結果がついてくるようになりました。今後、この動きをどのように展開していくのでしょうか。
「自分自身も外から来て奥出雲町の地域に魅了されました。今後外から来る人たちにももっともっとここの魅力を知ってもらって、さらに地域を面白くしたい。
それには観光地的に『見て終わり』『1泊したら終わり』ではなく、深くて長い繋がりをつくることが大事だと思っています。旅行よりは滞在、宿泊体験よりも暮らし体験ができる場所があるといいなと思い、短期から中長期滞在のゲストハウス『SLOW HOUSE@okuizumo』をつくっています。
自分がやりたいことは、地域との出会いのきっかけを生み出すハブ、拠点づくりです。この場所に来て過ごす中で、その人自身も自分と向き合う時間が生まれ、地域にとっても関係人口が増えてくれる。双方にとってメリットのある場所にできたらいいですね」(石亀さん)
日本の人口、特に地方では、今後さらに人が減るのかもしれません。その現実を受け止めた上で、人々の幸福度、生きていく楽しみをつくることに注力したいと語る石亀さん。人が持つエネルギーに人が惹きつけられ、地域が発展する動きは、奥出雲町で加速していくことでしょう。
Information
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Editor's Note
学生時代からの自身の気づきに素直に向き合って、目標をきちんと定め、ゴールを着実に設定して行動していく石亀さんのチャレンジは、今後本格的に地域おこしに着手したい地域にとってよいサンプルとなることでしょう。地域創生が発展するために必要なものは、経験を伴った柔軟性に溢れる人材であることがよくわかります。
KAYOKO KAWASE
河瀬 佳代子