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岐阜
「この人の人生が気になる!」そんな旬なゲストと、LOCAL LETTERプロデューサー平林和樹が対談する企画『生き方 ‐ 人生に刺激を与える対談 ‐ 』。
第17回目のゲストは、株式会社ヒダカラ共同代表の舩坂香菜子さんです。
舩坂さんは岐阜県飛騨市を拠点に、地域の魅力を見つける商社事業や『深山豆富店』の事業承継など、地域の事業者と伴走してその魅力を全国へと届ける取り組みを行っています。
飛騨に拠点を移した船坂さんが地域に入り込むために大切にしていることについて触れた前編。
後編では、飛騨で起業し事業を拡大していくなかで感じた「面白さ」や、事業に取り組むうえで大切にしている船坂さん流の「生き方」について語られました。
平林:楽天で10年間キャリアを積んだ後に独立をしたんですね。出向先で地域の人たちとの関係を構築できていて、そのまま残るという選択はあったんですか。
舩坂:会社に残ることは考えていなかったです。というのも、市役所の方が「舩坂さんがしていた仕事は今後は外注するよ」と応援してくださったので、軽やかに独立できましたね。独立すればフットワーク軽くもっといろんなことができると思ったので、自然な流れで独立しました。
平林:独立前までは「ふるさと納税の寄付額をのばす」というミッションがあったと思いますが、独立して地域商社となってからは、どう地域と関わるようになりましたか。
舩坂:今振り返ってみると、地域商社を立ち上げようとして立ち上げたわけではなくて、「仕入れないとみんな大変」からスタートしたと思います。創業した2020年4月頃は、コロナが流行している最中で、観光がメインの飛騨のお土産屋さんがモノが売れないと困っていたんです。
そこで、行き場がなくなったお土産品を買い取ってクラウドファンディングや楽天市場に出店しました。地域の産業に寄り添うという意味で社会性も高く、メディアでの展開もあって。そうやって地域の困っている人を見て取り組んできたことが、気づいたら地域商社として形になっていたというような感覚です。
平林:前職に続くふるさと納税以外には具体的にどのようなことをされていたんですか。
舩坂:自社の通販で地域のモノを販売する事業を主に行っています。地域の商品を仕入れて、それを違う角度で売るんです。たとえば、総菜屋さんや漬物屋さんなどからそれぞれ商品を仕入れて、それをセットで販売する。アユの甘露煮や飛騨牛の煮物、漬物など、それを組み合わせて別の切り口として販売するなどです。販売するのが特徴です。
もうひとつ大きかったのは、天然のアユに惚れ込んで飛騨に移住した鮎釣り界のレジェンド・室田さんとの出会いです。全国各地で鮎釣りをしてきた室田さんが「こんなに面白い川はここしかない」と惚れ込んだのが、飛騨高山に流れる宮川。
「素晴らしい地域の資源があるんだ、それは広めないともったいない」と感じて、飛騨の鮎を豊洲に卸すことを始めたんです。普段、飛騨の鮎は150円で販売、時には販売すらされていなかったんですが、300円で買取をして、どんどん付加価値がついていきました。
平林:150円だったものを300円で。仕組みをつくるのは大変な印象があります。
舩坂:飛騨から豊洲に行くルートが1つもなかったのでルート開拓からスタートしました。豊洲では飛騨の鮎がいかに素晴らしいかをプレゼンして。飛騨の鮎はミネラル豊富な水が山から流れてきて、岩もたくさんあることで苔が多く生え、餌が豊富なんです。「飛騨のあばれ鮎」と名づけて、徐々に評判も上がりました。高級料亭にリピートして使ってもらえるようにもなりましたね。
平林:地域の人が当たり前だと思っているものが、外からの視点が入ることで付加価値がついて、高く売れるようになったんですね。
平林:舩坂さんはやるべきことを淡々と、ご自身の中で当たり前に取り組んでいる印象です。地域の産品を売り出したいという方に対して、もし飛騨以外でやるとしたら、どういうところに気を付けてやっていくようアドバイスしますか。
舩坂:まずは「一緒に盛り上げていきたい」というパートナーを見つけるのがキーですね。勝手に売るのではなくて、「誰かと一緒に売る」と考えるのがポイントかな。
平林:まさに一緒に進んでいくパートナーですね。パートナーを見つける際に大事にしていることは?
舩坂:本気度は大事にしてきましたね。やっぱり一番は人間性。「一緒にやっていきたい人か」ということがポイントです。その事業者さんの強みや商品の面白さ、個性も大事ですね。
平林:「自分たちの商品でなんとか地域を盛り上げたい」という熱量があって、かつニーズや提案をもとに一緒に展開していけるような人でしょうか。
舩坂:まさにそんな方ばかりです。地域の方々と関わるときに、仕入れと仕入れ元の関係ではないということを大切にしていますね。一緒に進めるパートナーなので「売らせてください」というお願いをするんですよ。「見積をください」ではなくて、「素敵なので売らせてください」「一緒に商品をつくってください」という姿勢で関わっています。
平林:ラブレターですね。地域商社という観点でいうと、あるものをよりよく循環させていく一方で、事業承継の問題も身近かなと思います。
舩坂:そうですね。2年前に豆腐屋「深山豆富店」をM&Aして、先代から教えてもらいながら豆腐をつくっているんです。白川村の伝統食材で縄で縛っても崩れないくらい堅いといわれる「石豆腐」。元々ふるさと納税のサポートの際のパートナーである関係で、惜しくも閉店してしまうところを私たちが承継し、再オープンさせました。
平林:実際に手ごたえはどうですか。
舩坂:率直にすごく面白いです。石豆腐は水分が少ないので賞味期限も長く、ECで販売するのに向いているんですよね。おからクッキーとして商品開発を行うなど、事業としては面白く可能性を感じています。
平林:舩坂さんはいい素材を見つけて光らせる編集力が高いなと感じます。
舩坂:ポジティブなんでしょうね。ヒントが見つかると「なんとかしたい」とすぐに思ってしまいます。
平林:今回、舩坂さんの話で「面白い」というワードがたくさん出てきたんですが、舩坂さんにとって面白いって具体的にどういう状態ですか?
ちなみに僕は、便利な世の中であえて不便なことや遠回りを楽しむ瞬間ですね。ものの源流に触れる、出来上がる前に触れていくのが面白いと感じます。
舩坂:私にとっての「面白い」は、余白や可能性が見えた瞬間。売られてすらいなかった鮎にしても、可能性は0ではないけどまだ誰も知らない。けれど「地域のいいものが広まっていったら」というスケール感が見えて、今とは違う先が見えた瞬間が面白いです。
舩坂:豆腐も最初は「石豆腐、面白い!」からスタートしたんです。豆腐業界はどんどん縮小していて経営が難しいとされる中で、これから業界を盛り上げられる可能性があるってとても面白いなって。
今はまだないけど、これからありえるだろう可能性が見える瞬間が、まさに「面白い」です。逆境の中で感じる可能性が見えたときですね。
平林:最後に、船坂さんが人生で大切にしていることは何ですか?
舩坂:人生で大切にしていることは、誰かと何かを一緒にやることでより良いものをつくるということ。「これやらなきゃ」ではなくて「誰かのためになるし私も楽しくできる」というものをやっていくことをこれからも大切にしたいです。
平林:やるべきことだけをしていると組織も硬直化し始めますよね。事業に「やりたいこと」や「楽しいこと」など遊びを取り入れるのも大事ですね。
舩坂:事業としての取り組みはもちろん、「ボランティアであっても、取り組んだ方が面白い」というものには積極的に関わっています。最近では、受注したデザイン業務の過程を地域の人と取り組むワークショップを行いました。シンプルに「面白いしやってみよう」ということを形にすると、地域との繋がりもできていくので積極的に選択したいですね。
平林:舩坂さんの「面白い」を紐解いていくと、舩坂さんの生き方の姿勢に繋がっていくような気がしました。本日はありがとうございました。
Editor's Note
お話の中でたくさん出てきた「面白い」というキーワード。それは船坂さん自身がまだないものを形作っていく、地域で根強く事業を展開する力強さに繋がっていると感じました。地域の魅力に触れる接点づくりを地域の人を巻き込みながら行っていくその姿勢を見ていると、私にとっての「面白い」を探しにいきたくなりました。
MISAKI TAKAHASHI
髙橋 美咲