KITAMOTO, SAITAMA
埼玉県北本市
地域の中でより豊かに暮らす人を増やすことを目指し、「暮らしの中で楽しみをつくる」をキーワードに、埼玉県北本市で『マーケットやマルシェ』をテーマとした実践的な講義「マーケットの学校」。講義編の第4回目が開催されました。
これまでの講義で、マーケットやマルシェについて知り、自分たちで考えや思いをシェアしてディスカッションをすることで、マーケットやマルシェのことを深堀りしてきました。
今回の4回目の講義では、実際に北本市のまちに繰り出し、マーケットの会場候補となる場所を見学しながら、どんなマーケットができるか思考するためのフィールドワーク。今回は、その様子をレポートします。
<講義編:全5回>
【第 1 回】 9/5(土)13:30~16:00
改めてマーケットって何なのか考えてみよう「マーケットの話」
【第 2 回】 9/19(土)13:30~16:00
実際にやっている人に話を聞いてみよう「マーケット運営者座談会」
【第 3 回】 10/3(土)13:30~16:30
マーケットを妄想する1 「北本でのマーケット文化を考えてみよう」
→ <変更>北本でマーケットをつくるうえでどうしたらいいかをディスカッション
【第 4 回】 10/17(土)13:30~16:30
北本のマーケットのフィールドを見にいこう【北本フィールドツアー】
【第 5 回】 11/8(日)13:30~16:30
シャッター商店街でマーケットをするなら「マーケットを妄想する3 北本団地商店街 編」
フィールドワークをしたこの日は、あいにくの雨。バスで市内を移動をしながら、マーケットを実践する会場候補となる各所を巡っていきました。
車中では、講義の進行を務める観光協会の江澤さんやゲスト講師の鈴木美央さんが、楽しそうに小噺?を織り交ぜながら、“マーケットやマルシェの価値” を伝えてくれます。
特に印象的だったのは、鈴木さんが青森県八戸市のマーケットで体験した話。常連のお客さんが言った「雨の日のマーケットほど、このまちに住んでよかったと思うんだよな」という言葉を引き合いに出しながら、「人と人との関係性や信頼は、雨の日に可視化されるのではないか」と話します。
雨の日のマーケットでは、常連のお客さんは「雨で来客が少ないからこそ、出店者さんを買い支えよう!」と会場に足を運び、出店する人たちは「雨なのに来てくれてありがとう」と普段よりも強い感謝の気持ち抱いたりと、雨の日だからこそはっきりと関係性が可視化されることがあるそう。
屋外で行うマーケットは天候によって、人出や売上げに影響する可能性はあるものの、“雨”は決してネガティブな要素ではなく、むしろ、まちの魅力をより理解することに繋がるのかもしれません。
最初に見学したのは、北本市内の東側に位置する観光案内所とカフェショップを併設したお店「&greenCAFE」。
2020年6月にオープンし、北本市観光協会が運営している「&greenCAFE」の店内では、市内の人気イタリアンレストラン「BISTY」のシェフが監修した、季節のジェラート、フレッシュジースやスープなど、旬の北本野菜と果物をふんだんに使ったメニューを楽しむことができます。
2階にはイートインスペースもあり、地元住人が集まったり、地域の団体が打合せに使用したりするなど、地元の人たちが集まりやすい空間になっています。
また、敷地内には農産物直売所「桜国屋」や北本産そばを提供するお店「さんた亭」もあり、地元の人たちが買い物に訪れる光景が日常的にあるのも特徴のひとつです。
「&green CAFE」の前の広場空間を使えば、直売所とも連携した企画ができるのではないかということで、マーケット会場の候補地のひとつになりました。
参加者は、店内に並ぶオリジナル商品をじっくり見たり、来店するお客さんの様子を見たりしながら、思い思いに過ごすことができる場の魅力を実感していました。
住所 | 北本市深井7-265-4 |
営業時間 | 10:00-16:00 |
電話 | 048-591-1473(北本市観光協会) |
定休日 | 水曜日 |
URL | http://www.machikan.com/greencafe/ |
続いては、江澤さんが「マーケットの学校」開催当初からおすすめしている雑木林へ。
北本市では市街地にも雑木林が点々と残っており、自然を身近に感じながら暮らせる環境が整っています。まちの魅力のひとつとして、雑木林を会場に市内の自然を楽しむ「森めぐり」(主催:北本市観光協会)のイベントが開催されたり、環境を生かしたさまざまな楽しい企画が生まれています。
雑木林は、定期的に手入れをしないと環境を維持できない林。市民が存分に楽しめるのは、「NPO法人北本雑木林の会」が、点在する雑木林を長年にわたり維持・管理し、市民のためにと開放しているからなのだそうです。
公園の遊具で遊ぶのもいいけれど、自然そのものを使って子どもも大人も遊べる雑木林に、地元の人たちは大きな価値を感じているようです。
「地元で子育てをするママたちが、実際に自然の中で子どもがどう遊べるのかを主体的に考えて遊び場をつくっているのが印象的で、中には植生に詳しいママがいたりして、親同士も楽しんでいる」と江澤さんはいいます。
国内外問わず数々のマーケットを知り、そして自身も主催者となってマーケットをつくっている講師の鈴木さんも「雑木林は公共空間としても可能性を感じている」と話します。
日本の公共空間は、都市公園法などの法律上はそれほど厳しいものではないものの、地域内で出される住民たちの意見によって、活用の幅が狭くなってしまうことが起こっている実情があります。
そんな点を鈴木さんは懸念し、「新しい自治(自分たちのことを自らの責任において行動すること)を考えなければいけないのではないか」と投げかけた上で、「やりたいことができるというスタンスで自治をとり、地域でつくりあげていくという北本市の人たちの動きには、可能性を感じます」と、雨の中でも楽しそうに話します。
住所 | 北本市緑3丁目 |
続いての見学先は、1971年に建設された北本団地です。2021年に築50年の節目を迎える団地は、北本市市政50年と同い年。現在、5階建ての団地に2000戸程の住居があり、うち入居率は約70%、高齢化率は40%程度と、北本市内でも高齢化が加速しているエリアのひとつです。
観光協会の江澤さんは、幼少期に北本団地で過ごしていたそうで、当時の賑わいを振り返りながらシャッター街化した団地の変化について話をしていますが、決してネガティブな捉え方をしていませんでした。江澤さんにとって、北本団地は廃れた場所ではなく、新たな遊び場や価値ある場所にできると、むしろワクワクしている様子。
「団地がシャッター街になっているというのは、社会課題として捉えられがちではありますが、かつて団地にいた人たちや近所に住む若い世代の人らが、このお店があるから遊びにきたい、と遊びに来たり、団地に関わり続けられる場所を作り出せれば、そこに新しいサイクルが生まれ、新たな価値が生まれるのではないでしょうか」と、江澤さんはいいます。
北本団地がマーケット開催の候補地として挙げられたのは、団地商店街が人の賑わいを作り出せるポテンシャルのある場所ということ、さらにアーケードが残されているので雨の日でも開催することができるメリットもあるという理由からでした。
団地の成り立ちを理解し、今そこに住む人たちの営みを大切にしながら新たに人が集う場として価値をつくっていくのは、マーケット・マルシェだからこそできることなのかもしれません。
住所 | 北本市栄 周辺 |
北本駅の西口側にある駅前広場のロータリーは、コンパクトな三角形になっていて、その周辺の空間が多目的広場として使用できるようになっています。
例年11月に開催されている北本まつり「宵まつり」では、流し踊りやよさこいなどのパフォーマンスや、地域の人たちが製作したさまざまな “ねぷた” や “山車” が練り歩くのだそう。その際に、まつりの中心となる場所として活用されています。
単なる交通の場としてだけではなく、人が集う場にもできるつくりになっている点は、まちにあるあらゆる場所を遊び場や、楽しむ空間にしてしまおうという北本らしさが表れているように思えます。
駅前広場の周辺には、徒歩圏内に多くのお店があるため、「マーケット実施の際には周辺店舗も巻き込んだ企画をするのもよさそうですね」と江澤さん。
広場だけでなく街を巻き込んだ企画をいろいろと考えられそうです。
住所 | 北本市中央2丁目 |
市内を巡ったあとは市役所の庁舎ホールに戻り、みんなでフィールドワークを振り返って感想をシェアしていきました。
北本団地については、「高齢者の住人に向けてリアカーを引きながら生活用品などを販売するのもいいかもしれない」という意見や、団地に住んだ経験のある参加者からは「団地の外ではあるけど、外と感じない(ホーム感がある)のはいいなと感じた」という感想も出されました。
これに対して、江澤さんは団地に移動販売の光景があることが魅力と感じたようで、「グループで話しているときに『団地って中庭みたいだよね』という話があった」とシェアをしました。
すでにひとつの場に多数の住人がいる団地という場に、いろいろな可能性を見出せそうだと捉えた参加者が多かったようです。
そして、どの参加者も北本市の雑木林はまちにとって大きな魅力と改めて感じたようです。「防災キャンプをするのもいいかも」という案が出されたり、「通勤前にちょっと立ち寄れるコーヒースタンドがあって、会った人と言葉を交わして仕事に行くのも楽しくなりそう」と想像を膨らませている北本市の職員もいたり……。北本らしさを感じられるという点で、マーケット・マルシェの舞台としてさまざまなことができそうです。
一方で、課題点も出されました。特に駐車場の問題。出店者にとっても、来場者にとっても、受け入れる体制を整えることが大切ではないかという意見も出されました。確かにマーケット・マルシェ会場とするにはさまざまな配慮が必要になります。
こうした点について、江澤さんや鈴木さんは「マーケット・マルシェの規模を考えることも大切ではないか」と参加者に投げかけます。マーケットの学校では、出店者が1店舗であってもマーケットやマルシェであると考えています。会場のスペックを活かしたマーケット・マルシェを企画していくことで、よりまちを活かしていくことに繋がるのかもしれません。
さまざまな意見が出された中、鈴木さんは「小さいニーズに応えるとか、自分が欲しい場をつくるということがマーケットやマルシェなのかもしれない」と考えを話します。「商売や稼ぐこととしてマーケットを行うのではなく、社会的意義や自分のやりがいに繋がるといったことから、拡がっていった先に商いとして考えるようになっていくのではないか。お金に換算できないやりとりがあるからこそ、マーケットは誰もが挑戦しやすいのではないか」と参加者にも投げかけました。
この日は、北本市の職員も複数名参加していましたが、一個人として北本市で開催されるマーケットに大きな期待を寄せています。
職員の林さんは、「誰かがマーケットを実施したいときに伴走できるサポート役として盛り上げていきたい」と話します。また、他の職員の方も「参加者のみなさんがとにかくやってみようという気概があって、北本市で行われるマーケットに期待感があるし、ほかの職員にもぜひみなさんの勢いを見てほしいと思っているくらい、毎回刺激をいただいています(笑)」と個人的にマーケットを楽しみにしている様子。
個人として一緒にできたら面白いと能動的になれることが、行政や市民らの意識や行動を変えていくことに繋がるのかもしれません。
「設えすぎないことで、自分自身で考えるようになる。そんなこともマーケットをするうえで大切なのかもしれない」と鈴木さんはいいます。完璧な環境ではないからこそ、それぞれが思考し、行動することで、何かが解決したり新たな一歩に繋がったりして、循環が生まれやすくなるのがマーケットの良さなのでしょう。
現場を意識して、改めてマーケットを実施するうえで大切なディスカッションの時間となりました。
Editor's Note
今回は雨の中でのフィールドワークとなりましたが、マーケットそのものの価値は天候に左右されるものではないというのが、参加者にも伝わったのではないでしょうか。
なによりも、「マーケットの学校」を運営する江澤さんやゲスト講師の鈴木さん、そして北本市役所のみなさんが参加者と一緒に楽しんでいる様子が、印象的。
「このまちにいると、しなやかな生き方ができそう」とワクワクさせてくれます。
これまで参加者のみなさんは、自分の実現したいマーケットをカタチにするために、さまざまなインプットやディスカッションを通じて、考えを深めてきました。
次回は、ついに講義編の最終回。実践に向けて、どのように考えがまとまってきているのか知るのが楽しみです。
ASUKA KUSANO
草野 明日香