KYUSHU
九州
※本レポートは、九州の近未来を語り尽くす一日『ONE KYUSHU サミット 宮崎 2024』のセッションの1つ、「2030年の九州 – 世界につながる地域を目指して」のディスカッションを記事にしています。
コロナ禍を経て、再び地域の観光業が注目を集めています。国内はもちろん、インバウンドの需要をどう取り込むのかを考え、悩んでいる地域も多いのではないでしょうか。
ここ数年の九州では、県ごとではなく九州全体でこの問題に取り組む動きが急速に進んでいます。
本記事では、いかにして九州が一丸になって取り組んでいくべきか、そのヒントをお届けします。
村岡氏(以下敬称略):このセッションは、世界に繋がる地域を目指してということで、それを実現するためにはどうすればいいのかということを、少し視座を上げてみんなで議論していけたらと思っております。ということで、自己紹介をよろしくお願いします。
大瀬良氏(以下敬称略):私は母が長崎県長崎市出身、父が五島列島出身なので、五島列島と長崎のハーフになります。東京に20年以上住んでいましたが、去年九州に戻ってきて、最近「株式会社遊行」という会社を立ち上げて、今日のテーマになる世界に向けて九州から情報発信をしているところです。
大瀬良:今日覚えてもらいたい言葉があって、それがデジタルノマドという言葉です。ノマドはフランス語で遊牧民という意味なのですが、デジタルノマドは「パソコンで仕事をしながら遊牧民のように生活をする人」のことを指します。現在世界中に3,500万人ぐらいいて、2035年までにはなんと10億人の市場になるという風に言われています。
いずれ10億に拡大する市場を目がけて、もう既に50カ国以上の政府がこの人達向けのデジタルノマドビザを発行しているなど、注目を集めています。
それを活用した成功事例の1つが、ブルガリアのバンスコという人口8,500人の非常に小さな村です。デジタルノマド最大のフェスティバル、「Bansko Nomad Fest」をやっていて、700人以上が参加します。この人たちは、リモートワークで生計を立てられるので、1ヶ月から2ヶ月そこに住むんですね。
そして、滞在した際は、できる限り1箇所にとどまって、休みのタイミングで観光を行うので、地域に与える影響力はバックパッカーのそれとは異なります。彼らは高所得で且つ地域が好きなので、地域にお金を落としうる存在です。前述のブルガリア・バンスコの場合、Bansko Nomad Festやコワーキングスペースがあったことによる経済効果は、年間9,500万円にも及ぶと言われています。
これが、日本の地域においてもデジタルノマドのポテンシャルとして注目を集めていくんじゃないかと思っています。日本は、今春からデジタルノマドビザ(在留資格)を発行すると発表しました。これから新しいインバウンドの形として、各地域がデジタルノマドを取り込もうとする動きが、訪日ワーケーションとして活性化していくと思っています。
そんな中、最初に「デジタルノマドの誘致を」と手を挙げたのが福岡県福岡市なんです。すごいなと思いますし、これがきっかけで僕は福岡に移住をしました。福岡そして九州をこのデジタルノマドの聖地にできると感じて2022年から事業も始めています。
昨年10月、福岡市でデジタルノマドサミットを開催し、100名規模の参加者が集まりました。合わせて、10月の1ヶ月間、約50名のデジタルノマドが福岡市に共に暮らすコリビングプログラム「Colive Fukuoka」を開催しました。それぞれがリモートワークをするだけでなく、地域とのコラボレーションも多数生まれていました。また、福岡市では同じ期間にスタートアップウィークも開催されており、このイベントにもデジタルノマドたちが参加しています。
結果はもう大満足で、「福岡のことを知らなかったけどとても良かった」とみんなが言ってくれています。面白いのが、50人の参加者の出身国が24カ国・地域という多岐にわたる点です。
インバウンドマーケティングの定石は、まずはどの国を狙うか考えるものです。しかしデジタルノマドにおいては、どこ出身かは関係なく、アルゼンチン、モロッコ、ハンガリー、ポーランド、ギリシャといった、さまざまな国から参加がありました。この点も、新しいインバウンドと言えるポイントです。
さらに、空き家問題に興味を示すデジタルノマドも多く、ソーシャルインパクトにも好影響をもたらすこともわかりました。あとは余計なお世話ですが参加者同士でカップルが生まれたりもしました。笑
九州の良さはスタートアップが活発であること、それに加えて交通の便の良さ、そして自然の近さも含めた適度な規模感ですね。それに安全さも含めると、ポテンシャルは非常に大きいと思っています。そんな風に、九州をデジタルノマドの聖地にしていこうと今動いているところです。
村岡:続いて高峰さん、自己紹介をお願いします。
高峰氏(以下敬称略):私のおじいさんは、伊万里のお寺の住職の息子でした。戦前にお寺から出奔して家出をして、シベリア鉄道に乗ってドイツに行き、ドイツで通訳として活躍してその後は満州で仕事をしていたという人でした。とにかく「海外と繋がって何かしなさい」ということを叩き込まれて育ちました。
高峰:大学卒業後に貿易商社で働いたのですが、その時仕事で出会った韓国の女性の美しさにびっくりした経験があります。「これは化粧品じゃないか」と思い、韓国コスメのインターネットでの販売権を獲得しました。その後東京でお店も開いて、韓国コスメを日本人に売ったのは多分私が一番最初じゃないかと思います。まだ「ヨン様」が出始めた頃ですね。
ただ、化粧品の仕事は儲かるのですが、私の心の空虚感が埋まらない。そのとき宮崎は地元なので帰ってきて宮崎で起業支援の仕事を昨年までしていました。
『台湾塾』という名称で、台湾と九州という近いエリア同士で、売り込み先ではなくお互い一緒に何かできることを模索していくプロジェクトでした。県の予算が終わった後も、人と人が交流し続けて、私が関係した中でも関係人口5,000人は超えたと思います。
今私がやってる仕事は、夫の仕事がみかんの生産農家のためそこに関わっています。もう3代続いていて宮崎の日南でやっています。みかん農家もやはり疲弊している産業で、「みかん農業に光を」というのが私と夫のテーマですね。
2019年に法人化して、今は台湾への輸出をスタートし、日本から台湾のみかんの輸出量のほぼ3分の1が宮崎から出ている形になってます。自社農園だけでなく、九州内の他のみかん農園の方にも、栽培方法をシェアしながら一緒に台湾に輸出している形です。
他にもアートの仕事をしていて、アートプロジェクト「JUMPING ART PROJECT」を主宰し、障がいのあるアーティストのサポートを行なうなどもしています。
村岡:最後に橋本さん、自己紹介をお願いします。
橋本氏(以下敬称略):私は北九州出身で、大学進学時に長崎に移住しました。就職で名古屋のトヨタ系列の大手部品会社で自動車系のエンジニアをやって、その後IT系のエンジニアへの転職とともに福岡にUターンして戻っています。
橋本:2007年頃に九州大学に入り直して、博士課程で九州大学のシステム科学府に行きました。AIの研究を専門でやって、そのときにスタートアップの立ち上げを始めたのがきっかけで、現在ではスタートアップの立ち上げを7社行っています。
前職はAIの専門の会社を立ち上げて、いわゆるスタートアップらしいスタートアップの経営をしていました。ガンガン資金調達して、採用もたくさんやって、ぐんぐん伸びて。
今はそこを一旦卒業して新しい社長に引き継ぎ、僕はまた別の会社を立ち上げて経営をしています。そしてスタートアップの経営をすると同時にですね、スタートアップの支援もやらせていただいています。全国の中でも本当の意味でスタートアップが必要としているものを、行政と一緒になって制度化して、スタートアップの役に立つことだけをやっていこうというコンソーシアムの運営をしているところです。
村岡:皆さん自己紹介をありがとうございました。
このセッションの大テーマが「世界に繋がる地域を目指して」ということですが、世界からみたら九州って誰も知らないという現状がありますよね。世界地図を見ても九州とは書いていない。
大瀬良:原爆の流れがあるから長崎のことは世界中の人たちが知っていますが、欧米の方々は福岡のことを知りません。
長崎も、知られていても日帰りで訪れる程度で。福岡からフラッと訪れて、すぐ帰るんですね。
以前、海外の知人から、”なかなか九州の観光の仕方がわからない”と言われたことがあります。九州って、観光ガイドを見ると、自治体ごとにガイドが作られていて、寺社仏閣ばかりが取り上げられていたりもしていて。これはもったいないな、と。
九州の本当の魅力は、観光地を日帰りで訪れるのではなく、人々の暮らしにあると思っています。
また日本の文化といえば京都というイメージがありますが、京都にあるあらゆる文化が、朝鮮半島から1回九州に渡って入っているわけじゃないですか。そうした時に、今あまり知られてないことを逆手に取って、「日本のことを好きなら、九州を知ると面白いよ」と、興味を持たせたりしています。
橋本:昨日宮崎にお邪魔したときに宮崎市の市役所の方とミーティングをさせてもらいました。その時に宮崎市って人口割の公園の数が日本で一番多いことを知りました。
それが例えばデジタルノマドの方たちに評価されるかどうかは別として、そういう特徴は探していけばいくつでもあるんじゃないかなという風に思ったんです。お寺ばっかりにしちゃう思考停止状態は確かに良くないなって今改めて思いました。
大瀬良:食って九州の売りにする上では本当に大事だなと思っています。移住をして1年1カ月過ごしてみると、もう毎日ラーメンや外食に行くんですよね。それくらい、ご飯がとても美味しい。
海外、それこそパリとかに行くと、ラーメン1杯3,000円の世界じゃないですか。それが博多にいると500円程度で食べられる。ビールも1本100円台で買える世界があるのはびっくりだし、こういう価値もを発信していかないといけないと感じていますね。
前編記事では、世界の中の九州の現在地と、今後の可能性について紹介しました。後編記事では、九州全体がつながることで実現する、東京にはない独自の在り方を模索していきます。
Editor's Note
デジタルノマドが、2035年までには10億人の市場になるというインパクトは衝撃的でした。今のワーケーションの比ではない、人材誘致の競争が起こることが容易に予想され、地域が連合を組んで生き残りを真剣に模索する必要性を強く感じます。
Yusuke Kako
加古 雄介