ALL OVER JAPAN
全国
全国各地にコワーキングスペースやサテライトオフィスが生まれ、二拠点生活や多拠点生活、ワーケーションという言葉が当たり前のように飛び交い、amazonやzoomなどのテクノロジーがこの多様な生き方を大きく支えている現代。
しかしその一方で、まだまだ地域で暮らしたいと望む気持ちとは裏腹に、都心から離れられない生活を送る人が多いのも事実だ。
「仕事はあるか、子どもが通える場所に学校はあるか、医療は届いているか…」実際に暮らしていくことを考えれば、生活には様々な条件が付随してくる。そして、これらの条件は、都心から離れれば離れるほど、満たされないことが多いことはいうまでもない。
そんな中、日本最大級の不動産・住宅情報サイト「ライフルホームズ」を運営する株式会社LIFULLが、場所やライフライン、仕事など、あらゆる制約にしばられることなく、好きな場所でやりたいことをしながらいきていける環境を実現しようと一般社団法人LivingAnywhereを創設。
2019年7月には、LivingAnywhereが地方型シェアサテライトオフィスと宿泊施設を持つ共同運営型コミュニティ「LivingAnywhere Commons」の本格始動も開始した。
今回はそんな LivingAnywhere Commons の事業責任者を務める小池克典氏を取材。小池氏への取材を通じてみえてきた株式会社LIFULLが仕掛ける「自分らしく生きていける環境づくり」をまとめました。
「自分らしくを、もっと自由に」をテーマに、人々を場所の制約から解放し、いつでも好きなときに、好きな場所に暮らし、学び、働ける社会の仕組みを構築することを目指すLivingAnywhere。
この未来を実現するために、さまざまなテクノロジーを駆使し、水、電気、食料、通信、医療、教育、仕事など、人が生きていくうえで必要不可欠な要素を、地球上のどこにいても手に入る未来をつくろうと、今まさに奮闘している小池氏。
「ライフラインの限界から解放された本当の意味での自由な生き方が実現すれば、例えば、夏場は北海道で涼しく過ごし、花粉の時期には沖縄に行こう、なんて風に自由に暮らしを選択できるようになり、人は豊かになると思うんです。私たちは、地方に行くことが良い、と言いたいのではなく、何かに制限されることなく自由に暮らしを選べる環境が大事ということです」(小池氏)
このLivingAnywhereが目指す世界をまずは試してみようと、小池氏らは2016年の夏、北海道・南富良野の廃校を自分たちでリノベーションし、そこで2週間暮らしてみるという「LivingAnywhere Week」を開催。
「当日は100名以上の方にご参加いただきました。参加者の中には、DJや料理人もいれば、一部上場企業の経営者や学生、地域の子ども達やおじいちゃんもいました」(小池氏)
お互いのバックボーンを全く知らない人たちが、名刺交換もせずに暮らし始めると、想像もしていなかった化学反応が起こった。
「意図しない人と出会った時に “この人とこんなことしたら面白いかも” “こんなことできるかも” というアイディアが各所で生まれたんです。実はLIFULLもこの場で出会った2つの会社にその場で出資を決めたり、社員をその会社で働かせてもらったりと、可能性の広がりを感じました」(小池氏)
小池氏らは、LivingAnywhere Weekを通じて偶然の出会いが、人の知見や可能性を広げることに繋がることを確信。LivingAnywhereが場の解放を行い、多様な人材の交流を生み出すことが、LivingAnywhereの価値だという。
「LivingAnywhere Week」での経験をもとに、LivingAnywhereは地方型シェアサテライトオフィスと宿泊施設を持つ共同運営型コミュニティ「LivingAnywhere Commons(以下、LAC)」の運営を開始。
現在LACの拠点はまだ2箇所だが、2020年に全国10箇所でオープンを予定しており、2023年までには100箇所に増やす計画だ。
「LACは、“自分らしく自由にやっていいんだ” とチャレンジできる場所と余白をあえて残しています。そうすることで、利用者にとってLACは、自分らしくをもっと自由にするエントリーポイント(きっかけになる場所)になっていると感じています」(小池氏)
実際に、LACのイベントに参加した女子大生が “自分らしく自由にやっていいんだ” と感化され、LivingAnywhere Commons会津磐梯(福島県)に3ヶ月滞在。滞在中に図書館をつくりたいと、LACの1部屋を活用し、LAC利用者や地域の人たちを巻き込んで図書館を作ってしまったという。
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「彼女がチャレンジをしたことで、周りの大人や地域の人たちが “もっと自分らしく自由にってやっていいんだ” といいエネルギーが電波したのと、彼女自身も自分のやったことが周りの人に評価されたことで、さらにドライブして、LACのコミュニティが活性化されることを実感しました。LivingAnywhereが場所を持っている醍醐味をすごく感じましたし、 “実際にやっていいよ” と言える余白を持っていることもLACの強みですね」(小池氏)
LAC利用者だけでなく、地域の人たちも進んで協力してくれる体制には、小池氏の仕掛けが起因している。
「LACの各拠点には、必ず地域に精通したコミュニティマネージャーを配置しています。コミュニティマネージャーになるのは、東京から来た人ではなく、ずっと地域に住んでいる子とか、地域のおばちゃん、兄ちゃんにやってもらうことも大切にしています。こうすることで、地域の人たちにも声がかけやすいし、地域の人たちも不信感なく、自然と応援することができます」(小池氏)
一般的に、コワーキングスペースやシェアオフィスが地域にできると、運営会社の社員やその場所を手がけた移住者がコミュニティマネージャーを務めるケースを耳にするが、LACでは、地域住民のことを考え、あえて地域の人に地域内外を繋げるハブを任せているのだ。
「LACをやってきてすごく思うのは、豊かさの基準が変わってきているということなんです。今まで大切にされてきた経済的な豊かさが、幸福度と一致しなくなってきているのは、みんなわかり始めていると思うんですが、豊かさに必要な要件として、僕はこの3つが重要だと思っています」(小池氏)
・経済的資源:お金 |
・人的資源:個人が持つスキルや経験 |
・社会的資源:社会との繋がり |
「当然、お金(経済的資源)はある程度なくてはいけないですが、仮にお金がなかったとしてもスキルや経験(人的資源)があれば、一生懸命稼がなくても必要な時に稼ぐことができる。そして、重要なのが “ここに行けば誰かと一緒に居られる” といった社会との繋がり(社会的資源)を感じること。この繋がりは豊かさにすごく起因していると思います」(小池氏)
LivingAnywhereはその言葉から連想されるように、特定の場所へこだわりを持たない。
「私たちは、地方創生をしているわけではありません。地方創生っていうと、どうしても “地域を良くしなきゃ” ってマインドになってしまう。ですがLivingAnywhereは “どこでも生活できる” からこそ、特定の地域を決めることはしません。ずっと自分の地域にいなくてもいい、いろんな人が地域に来てくれたらいいなと思ってくれる地域と組めればいいと思っています。
親戚の子どもがたまに帰省してきて、帰り際に “またきてね〜” という会話が日常的にいろんな人と繰り返されていくような、 “拡張家族” みたいな繋がり(社会的資源)が実現できたらいいなと思っているんです」(小池氏)
最後に、LivingAnywhereからのメッセージに、こんな一節がある。
傍観者になるか、制限から解き放たれるか。みんなで変わろう。自分らしさをもっと自由に、楽しむために。LivingAnywhere youtubeより
LivingAnywhereが実施するプロジェクトは、オープンイノベーション型。どこかの会社が自社の利益のために何かをするのではなく、「自分らしくを、もっと自由に」をテーマに、いろんな制約から開放されていく世界をみんなで一緒に作り上げていこうよという働きかけなのだ。
そして正直、いますぐにLACを活用したからといって、自動的に「自分らしくを、もっと自由に」が実現できるわけではない。
前略、都心に縛られない生活を望む一方で、縛られる生活から抜け出せていないアナタへ
さあ、アナタは誰かがアナタを都心から解放してくれる時が訪れるのを待つか?
それとも、小さくても自分らしく自由にやりたいことを積み重ね、現状を変えていくか?
Editor's Note
言わずもがなだが、「場所にしばられない働き方・生き方」を標榜し、実践する試みはこれまでも少なからず存在していた。しかしインフラや社会通念、あるいは法規制といった数多くのバリアによって、サステイナブルなプロジェクトに育ったケースは耳にしない。だが小池さんのお話を聞きながら、LivingAnywhereの取り組みは今の現状に大きな変化をもたらすかもしれない、とヒシヒシと感じる取材でした。
NANA TAKAYAMA
高山 奈々