YAMAGUCHI
山口
都会に住みながら、地域と関わってみたい。
だけど、そんなことって実現できるものなのか。
地域との関わり方は千差万別、だからこそ、やり方も進め方も人それぞれ。果たして、自分もできるのか不安になることもありますよね。
地域での挑戦に向けて一歩踏み出したい——。そんな思いを胸に、地域で活動する事業者との出会いをきっかけにキャリアを描いている人がいます。
今回お話を伺ったのは、WHERE ACADEMY(株式会社WHERE)の第4期地域バイヤープログラムを卒業した浪川優希さん。地域バイヤープログラムは、第一線で活躍する起業家から学びつつ、現地での商品選定から販売・発信までを実践する講座です。
講座でフィールドワークや実践を重ねるなかで、浪川さんが出会ったのが下関水陸物産株式会社(以下、下関水陸物産)でした。2025年2月に講座を修了した後に、10月からは複業として同社で営業の仕事にも携わり始めています。
現地での出会いが、どのように「働く」につながっていくのか。今回は、浪川さんと下関水陸物産の嶋田さんに、その歩みを伺いました。

浪川さんは、地元の農業高校を卒業後、東京農業大学に進学。大学卒業後は、地方の農産物や産業に携わることができる地元・静岡県の農業協同組合に就職しました。
「例えば、小松菜一つにとっても地方によって味が違うんです。地方食という言葉があるように、地方ごとに食べ方も違ってきます。常に驚きとか新しい発見が多いところに魅力を感じ、それが農業や食のお仕事をしていきたいと思ったきっかけです」(浪川さん)
地元での仕事を通して生まれた「全国の食・農と関わる機会を持ちたい」という想いから、2023年に現職である食品会社の営業職に転職。そのほか、新卒採用や業務効率化を担当するチームにも所属し、幅広い分野で活動してきました。
そんな浪川さんが、地域バイヤープログラムの受講を決めたのは、自身のステップアップに繋げるため。
「今の会社にいる限りは、会社の看板や信頼を借りて、取引先との繋がりが生まれます。地域バイヤープログラムでは、WHEREという看板を借りながらも、商品を見つけて自らの手で売るところまで実践することができます。講座を受講して、ビジネスの基本である『売る力』を身につけたいと思いました」(浪川さん)
地域バイヤープログラムでは、オンラインで講義を聞くだけでなく、フィールドワークで地域を訪れます。そこで見つけた「いいな」と思う商品を、自身がバイヤーとして販売します。
浪川さんはフィールドワークで、山口県下関市に足を運びました。フィールドワークでは複数の事業者を訪問します。下関水陸物産で受講生を出迎えられたのが、同社取締役 常務の嶋田寿美子さんでした。

下関水陸物産株式会社は、嶋田さんの祖父が仲間と創業し、その後も家族の手で事業が受け継がれてきた2025年に創業80周年を迎える老舗企業です。

瓶詰め粒ウニの発祥でもある、下関市とウニの繋がりは遡ること5000年前。下関水陸物産は『やまみうに』という自社ブランドを持ち、ウニの加工メーカーとして伝統製法を守りながら下関の食文化を今に受け継いでいます。

嶋田さんが地域バイヤープログラムに事業者として参加されたのは、事業で関わりのある企業からのお声がけがきっかけでした。その企業はWHEREともつながりがあり、ご縁が架け橋となって、本プログラムに参加することになりました。
「地域で活躍することを目指す若者が山口に来るので、商品や会社の紹介をしてほしいとお話をいただきました。SNSを使って仕事をする中で、若い人たちにうちの商品をどのように捉えてもらえるか気になっていましたし、話す機会があればいいなと思っていたんです」(嶋田さん)

フィールドワークでは様々な事業者の商品や会社の説明を聞いたうえで、受講生自身がPOP UPで売る商品を決めます。その際、かなり緊張感が漂っていたと浪川さんは言います。
「出品させていただく以上、商品をPOP UPの2日間で売り切ることが、信頼を積み重ねる一歩だと思っていました。売れ残ってしまうと信頼を損ねる行為になってしまうと。短い期間で売り切るために、どの商品を選ぶかの緊張感はずっとありましたね。それも含めて講座は楽しかったですが」(浪川さん)
2月15日〜16日の2日間に開催されたPOP UPで販売する商品に、浪川さんが選んだのは、「雲丹醤油(うにしょうゆ)」とうにと魚のすり身を混ぜて焼き、キューブ状にカットした、うにの味がギュッとつまった大人のおつまみ「やまみ 焼うに」でした。

「POP UPをするAKOMEYA TOKYOは、全国各地から厳選したさまざまな種類のお米を中心に、食料品や調理器具を扱うお店なので、まずはお米と相性の良い商品を選ぼうと思いました。
雲丹醤油は、嶋田さんから卵かけごはんにかけて食べると美味しいと説明をいただきました。冬の時期に、やまみうにのサイトを見たら、雲丹醤油を豆乳鍋に入れて食べるアレンジレシピが載っていて。POP UPは2月の寒い時期の開催だったので、需要があるのではないかと思い、選びました」

AKOMEYA TOKYOの特徴や季節性から「雲丹醤油」を選んだ一方で、もう一つの「やまみ 焼うに」は、POP UPストアに足を運ぶ人の動線まで考えて選ばれました。単なるニーズだけでなく、お客さまがどんなシーンで商品を手に取るまで思い描きながら選ぶ姿に、これまで積み重ねてきた視点が丁寧に活かされていることが伝わってきます。
「やまみ 焼うには、とても軽い商品。POP UP会場の最寄り駅となる新宿は、東京でも最大のターミナル駅の1つです。すぐ家に帰るというお客さんは少なく、電車やバスの経由地として使っている人が多いのではと考えました。それなら『あまり大きい荷物は持ちたくない、でもちょっと衝動買いしてみたい』そんなニーズもあるだろうと。何よりもどちらの商品も、食べて美味しかったのが決め手ですね」

「講座では、企業でマーケティングを担当されている方が講師として、フィードバックをいただく時間がありました。そこで学んだマーケティングの知識・視点、売る仕組みを活かして、商品を選定しました」(浪川さん)
POP UPでは、無事に浪川さんは商品を売り切ることができました。そのときの想いを浪川さんは振り返ります。
「まず感じたのが、売り切ったことの嬉しさ。そして、これがスタートであるという気持ちです。やって終わりではなく、どう今後につなげて行くのかが、プログラムを受けた一番の目的だと思います。次にどうやって動こうかなと悩んだら、受講で得た知識・経験をもとに立ち戻って考えるようになりました」(浪川さん)

講座を卒業した浪川さんの心に芽生えたのは、「地域との関わりを継続して持ちたい」という想い。さらに地方でビジネスをするために、地方の事業に携わって自分でお金を稼ぐことができる力を身につけたいと思うようになりました。
そこで、地方の企業と複業契約ができるマッチングサイトに登録して、情報収集を始めました。
そんなある日、マッチングサイトで見つけたのは、下関水陸物産の求人でした。募集内容は、関東での自社商品の営業をするポジション。浪川さんは自身の営業職の経験や、講座を通して得た商品への理解をアピールポイントとして応募しました。
浪川さんからのエントリーを受けたときのことを、嶋田さんはこう話します。

「もともと弊社の代表が関東地区の営業も担当しており、月1回の頻度で出張をしていました。ただ交通費や体力的な問題もあり、今後は関東地区にお住まいで営業活動をしていただける方を探していました。これまでにも求人情報を掲載したり、何度か面談もしましたが、なかなかいい出会いにつながらなかったんです。
そんな中で、以前面識のある浪川さんがエントリーしてくださって。地域バイヤープログラムで会社に来られたときも、すごい熱心に質問をされてて、爽やかな若い方だったという印象がありました」(嶋田さん)
「商品を理解し、実際に売る経験までされた上で就業を希望されたということは、少なからず当社に良い印象を持ってくれているのではと思ったんです。普段は関東で活動されていながらも、うちのことをよく知っていただいている。そういう下地があった上で浪川さんからお声がけいただいたので、本当にありがたかったですね」(嶋田さん)
2025年10月から浪川さんは下関水陸物産の関東での営業職にジョイン。現在は自社商品が置いてある大型店や小売店に出向いて市場調査を行っています。
「これまで、あまりウニを食べたことがなかったのですが、最近は自分で買って食べ比べをするようになりました。最近知ったことですが、バフンウニとムラサキウニという品種を食べ比べると全然味が違うんです。本だけだと分からない情報を、食べながら学んでいます。自分なりにメーカーごとの味や食感の特徴を知ったり、こだわりのあるお店からスーパーなど、店舗ごとに違う売り方を見るのが日ごろの習慣です」(浪川さん)

最後に、浪川さんと嶋田さんに、地域バイヤープログラムを受講・関わっていただき良かったこと、今後の抱負についてお伺いしました。
「地域バイヤープログラムは、地域ビジネスや地域事業に関わる基本の第一歩だと思うので、地域での活動を視野に入れている方におすすめしたいです。
あらゆる地域事業を見ていく中で、まずは地方の特産物を売ることから始まることが多いと気づきました。だからこそ『売る力』が大事になると感じています。それを個人の力で養えるところはこのプログラムの1番の良いところだと思います。チャレンジできる環境があるのなら、まずは飛び込んで欲しいです」(浪川さん)

「私自身、講座が本業にも活きる場面がありました。本業の営業先で、下関水陸物産で複業していることや、講座を受講したこと、地域ビジネスで目指しているビジョンをお話しする機会がありました。それをきっかけに、その取引先と今後は新たなプロジェクトを行うといった話も生まれています。地域に向き合う姿勢の本気度が取引先の方にも、伝わった結果なのではないかと。
受講期間の約3ヶ月は、本当に頭を悩ませ、眠れない日々が続いたときもありました。でも新しいことにチャレンジするときって、そのくらい悩んでも良いと思うんです」(浪川さん)
嶋田さんは、事業者として地域バイヤープログラムに関わったことで、これまでSNS等で届かなかったお客さんにも自社をアピールできたのではないかと言います。
「受講生の方がInstagramで弊社のことを発信してくださったり、新宿のPOP UPでは店頭に商品を置いていただくことで、これまで「やまみうに」を知らなかった方に、知っていただく機会にも繋がると感じています。また新しいことに取り組んでいる、チャレンジできる風土のある会社だということも伝われば嬉しいですね」(嶋田さん)
最後に、浪川さんに今後の抱負をお伺いしました。
「売り上げを立てるのはもちろんですが、地方にお金を回すのが大切だと考えています。販路をどんどん開拓するだけでなく、取引先が持つ理念やビジョンを知り、商品の魅力を感じていただいたうえで、提案をしていきたいですね。商品を通して地域の事業が続くためにも、関東と下関の架け橋のような存在になりたいです」(浪川さん)

下関のウニが紡いだ、新たなご縁。地域バイヤープログラムでは、地域との関わりに興味のある方のはじめの一歩を応援するプログラム内容や地域と関わる機会をご用意しております。
浪川さんが受講された地域バイヤープログラムのほか、様々なかたちで地域との関わり方を学ぶことができるWHERE ACADEMY。「学びの場」で終わらず、地域の事業者と受講生の関係が生まれるきっかけづくりも行っています。
地域への興味・想いを持った同志とともに、地域ビジネスへの理解を深めませんか。
詳細はこちらからご覧いただけます。
Editor's Note
講座でのご縁が卒業後に思わぬ形で繋がったと聞き、人生どこに出会いがあるのか分からないから面白いと思いました。講座を終えた後も、常に学びやアクションを続ける浪川さんを後押しするのは、講座での学びのほかに、地域と関わることで実現したい熱い想いなのではないかと感じます。とても刺激を受けたインタビューでした。
MAHO FUJIMOTO
藤本真穂