FUKUI
福井
「この人の人生が気になる!」そんな旬なゲストと、LOCAL LETTERプロデューサー平林和樹が対談する企画『生き方 – 人生に刺激を与える対談 – 』。
第18回目のゲストは、福井県のものづくりを体感する一大イベントRENEW(リニュー)の仕掛け人であり、地域特化型のインタウンデザイナーとして、地場産業や地域のブランディングを行っている新山直広さん。
大阪府生まれだという新山さんですが、2009年に福井県鯖江市に移住。2015年にTSUGI LLC.を設立し、「福井を創造的な地域にする」というビジョンのもと、地場産業のブランディングやアクセサリーブランド、福井の産品を取り扱う行商型ショップ「SAVA!STORE」など、ものづくり・まちづくり・ひとづくりといった多様な領域で活動しています。
そんな新山さんの地域に関わるきっかけや変遷に触れた前編でしたが、後編では会社を立ち上げた後の新山さんが、どのように鯖江のブランディングを進めてきたのかについて伺いました。
平林:今東京でもアンテナショップをはじめ、地域のものと触れる機会が多いと感じています。新山さんは、地域が都市でも認知されるようになったことをどのような視点で見ていますか?
新⼭:鯖江や福井のまちに何が必要かを考えていますね。僕自身がやりたいことはそんなになくて、まちに必要なピースを埋めている感覚です。
新⼭:デザイナーになったのは、産地にデザインが必要だと思ったから。自社ブランドをつくる時も、職人さんの立場で考えられるように流通まで学べることを目的にしている。さらにRENEWのイベントも、ものづくりの価値をどう伝えるかを考えて、必要だったから始めました。
全てはあくまで手段であって、「産業観光を通して持続可能な地域をつくる」という価値観とまちが必要なこととを照らし合わせてやっています。
平林:その中で意識していることはありますか?
新⼭:まちに必要なことってたくさんあるので、企業が連動していくことは意識していますね。必要だからと全部をやり続けたら事業がどんどん増えてしまいますからね。だから企業ごとに強みが活かせる分野でそれぞれが動く、ということは意識しています。
例えば、地域で事業を行う方たちは、2、3人の小さな会社や個人事業者が多いです。デザインに多大なコストをかけるのは難しいじゃないですか。ただ、僕たちはものづくりを盛り上げるために仕事をしているから、予算が少ない中でも仕事を受けます。自社でお店を運営しているので、最終的にそこでお客さんの商品を売ることもできる。そうやって、僕たちがやる必要がある事業はどんどん行っていきます。
平林:地域商社的な側面もありそうですね。それこそRENEWのイベントもまさに。熱量が本当にすごくて異常な感じすらしました(笑)。
新⼭:僕はものづくり界のコミケって呼んでいます。最初は地区のお祭りのようにお金を出し合って手づくりで進めていましたね。
ものづくりの工房見学をメインにしているイベントなんですが、なかなか見る機会がない現場を年に1回だけ見せるためのイベントで。僕の意図は、伝統工芸は価格が高いからこそ、いかにものづくりの価値を伝えていくかということ。最初は来場者1,200人でしたが、去年は3万人まで増えましたね。
平林:すごいですよね。しかも工芸っていう結構ニッチなところで。
新⼭:イベントが1つのきっかけになって、鯖江に35店舗新しいお店ができたんですよ。ものづくりの工房の一部を改修して自社商品を売るための直営店をつくったりとか。もう産業革命だとも思っています。
平林:就業者や移住者も増えていてRENEWにおけるインパクトは大きいですよ。単なるイベントではとどまらない、まちづくりやひとづくりの領域にまで来ていると感じます。
平林:新山さんは、まちに必要なピースを選び取っていくとお話しされましたが、次に必要なものをどのように選んでいるんでしょうか。まちにも会社にも、必要なピース、打つべき点は無数にあって、あれもこれも必要だと感じてしまうのではないかなと。
新⼭:ブランディングが得意な会社なので差別化をどうつくるかという考えは意識しています。まちや会社の強みって、案外つくるのは難しいんですよね。フットワークの軽さやチームワークのよさなんて計り知れないですし。差別化の要素をつくるのって大変なんです。
例えば鯖江でいうと、まず始めたのは「めがねのまちさばえ」というプロジェクト。今までは「眼鏡と繊維と漆器のまち・鯖江」というキャッチコピーだったんですが、漆器も繊維も全国では無数に産地があるんですよ。一方で、めがねは唯一無二だから、あえて「めがねのまち」とだけに絞ったんです。
日本唯一の産地であるという差別化をして、結果「鯖江=めがね」のイメージを定着させることができた。鯖江と聞いて福井のどこにあるか分からない人でも、めがねが有名ということは知っている、というような認識をされるようになったんです。差別化要素をまずつくることがやっぱり大切だと痛感しましたね。
平林:ちゃんと他の地域もリサーチした上で進めているんですね。
新⼭:リサーチはしますね。RENEWも僕らが先駆者ではなくて、すでに東京では行われていたんです。ですが、そこにプラスで僕らはまちを元気にするためにも、移住者を大事にしているというポイントを加えていて。実際移住者や就業者が増えたのは、数あるイベントの中でも差別化できているところですね。
新⼭:あとはまちの特性を活かすのも重要。僕は鯖江を日本一心理的安全性の高い地域だと思っています。歴史的な部分もあり、よそものに対して寛容さがあるんです。人口あたりの社長率が高かったり、「市民が主役だから市民の発案を元に事業をつくる」というルールが条例で決められていたり。
鯖江の寛容性や性格のようなものも大切に組み合わせていくことを意識しています。
平林:まちの特性と唯一無二を組み合わせる、とても面白いですね 。他の地域でもその視点で新山さんはまちづくりができるものなのでしょうか?
新⼭:鯖江だからできた気もしますね。僕が鯖江の移住者第1号だったのも、周りの人に恵まれていたのも、まちづくりを続けられた理由のひとつです。鯖江には「あいつは俺が育てた」とどや顔で言ってくれる人が10人近くいるんですよ(笑)。まちの性格と、そこで出会った人に恵まれたというのが重なっていると思います。
平林:工芸の話も聞いてみたいです。工芸は福井全体で見たら年々下がっているのでしょうか?
新⼭: 下がっています。元々、伝統工芸の事業者数は28万人でしたが、今は6万人を切っている。人口が日本全体で減り続ける現在では致し方がなくて、僕は衰退ではなく「濃縮」だと捉えています。
新⼭:鯖江では事業者数は減っている一方で、1人あたりの出荷額は増えている。少ない人たちでもきちんと底上げをしているんです。
新しい売上が生まれることで今まで成しえなかった産業、例えば職人さんや営業さんの他にも、マーケターやインハウスデザイナー、後継となりうる人材など、いろんな側面で関わる人が増えて、産地の厚みが出てきていると感じます。
平林:人口減少が確定している世の中でそれぞれのまちが何を目指していくか、ですね。人口をまち同士で競い合うのではなく、人口が少なくなる中でも出荷額や経済へのインパクトをどう増やしていくか。
新⼭:そうですね。経済へのインパクトでいうと、僕は産業観光といって、RENEWをベースに工房を見たり体験できたり解像度の高い購入体験をしてほしいと考えています。百貨店で買えるものをあえて産地で買うだけで、情報の濃さや充実感が増していく。だから、それすらも1つの産業にしようと。
今までの価値観では、ものをとりあえずつくって卸すというものですよね。しかし、価値観の変容の中で、僕たちはEtoCという学びと体験を重視する価値観でいま頑張ってきています。
平林:産業観光って、職人さんを巻き込んでいますよね。職人さんは「ただつくっていたい」「受け入れるには手を止めないといけない」という実情もある中で、それを乗り越えて信頼関係を築いているのはすごいですね。新山さんなりの巻き込み方のコツはありますか?
新⼭:巻き込み方としては、やっぱり足を運んでお願いしたのがよかったのかもしれないですね。RENEWへの出展の際も、職人さんは最初は出ることを快く思っていなかったんです。何回も足を運んでお願いをして口説きながら、渋々でも出てもらうようにして。地域活性のためとか言って正義を振りかざしても人の心は動かないんですよね。
100万回言葉で説得するよりも、まずは小さく行動する大切さを学びましたね。
いまは、工房見学の認定コンシェルジュ的な制度を作ろうと計画しています。つくり手の代わりに僕たちがアテンドしながら魅力を伝える語り手のようなものです。お客さんからすれば職人から直接聞きたいかもしれないけど、それではつくり手に負荷がかかって持続可能ではなくなるので。
僕たちのリソースの中で最適解のサービスをつくることを考えています。そうやって、新たな取り組みをしていくたびに、「まちの人たちの変化の基盤をつくっているんだな」と実感できますね。
Editor's Note
鯖江を盛り上げようと行動されたことを熱くお話しいただき、鯖江の町にとても心惹かれていくことを感じました。すべては鯖江の町を元気にするため。イベントやデザインなどの事業は、この言葉を原点に行っているのだと全体を通して新山さんの想いが伝わってきました。
MISAKI TAKAHASHI
髙橋 美咲