EHIME
愛媛
「よいとさーよいやさー」と威勢のいい掛け声が響き、豪華絢爛なみこしが街を練り歩くーー。
これは、愛媛県西条市で行われている「西条まつり」。
五穀豊穣を神様に感謝する神事として江戸時代から300年続く、この地域を代表する伝統的な秋祭りです。百数十台の屋台(だんじり、みこし、太鼓台)が奉納され、その数は日本一ともいわれるほど。
しかし、今、人口減少や高齢化の影響で祭りの担い手が減りつつあり、地区によっては祭りの存続が危ぶまれています。
この課題の解決を目的に、西条市外から祭りに関わりたい人々を募集し、地域とつなげることで、まちの関係人口の創出を図っているプログラムが実施されています。
その名も「OMATSU-RebootCAMP(オマツリブートキャンプ)」。内閣府が実施する「令和6年度中間支援組織の提案型モデル事業」の採択事業の一つです。
主導する「公益財団法人えひめ西条つながり基金」で専務理事を務める安形 真(あがた まこと)さんは、プログラムの意義をこう語ります。
「地域外の方に西条市に関わり続けてもらうことが重要です。その最初のきっかけづくりとして『祭り』を活用することは、大きな可能性があると感じています」(安形さん)
OMATSU-RebootCAMPを通じ、「最終的には、『防災』に繋げたい」と話す安形さん。
今回の取材では、祭りをきっかけにどのように関係人口を創出しているのか。
さらに、地域の防災につなげるとはどういうことなのか。じっくり伺いました。
市外からの観光客も多く訪れる西条まつりですが、近年、運営に課題が出てきています。
「西条まつりは『かき夫』という、だんじりをかつぐ役がいますが、その担い手が少ない。特に、若い『かき夫』が徐々に減っている地域が多いことが課題です」(安形さん)
若年層の人口が減っているために、祭りを担う若い人も少なくなっている。多くの地域では、それが実情でしょう。
しかし、西条市は宝島社が発行する『田舎暮らしの本』内の『住みたい田舎ベストランキング』若者世代部門では3年連続全国1位を獲得しています。実際に移住者の数が右肩上がりに伸びているまちです。
移住された方が、祭りの新たな担い手となる。そういったことはないのでしょうか。
安形さんは「移住して来られた方が、祭りに対して距離を感じる点がある」と話します。
「祭りの日は、昼間からお酒を飲んで盛り上がります。でも、単なる飲み会とは違う。地域の皆さんは、祭りに対しとても真摯に取り組んでいます。
真剣に取り組む状況下で、いかにみんなが楽しくできるかに集中しているんです。地域独自の空気感もあり、外から来た人がいきなり祭りに深くかかわっていくのは難しい場合もあると感じています」(安形さん)
また、参加側が感じる心理的なハードルだけではなく、参加者を受け入れる側にも課題があるそう。
「新たに『かき夫』の方が地域に来た時に、地元で受け入れることが難しい背景もあります。
受け入れにくい理由の1つとして、酒を飲みながらやる祭りなので喧嘩などのトラブルにならないか、といった心配があります。よく知らない人を入れた結果、他所と喧嘩して祭りへの参加が禁止されてしまうことが地元の人の一番の心配ポイントです。
なので、現状は人づてでしか入れない感じですが、人間関係はバンバン増えていくようなものでもないので、徐々に苦しくなってます。
また、ご高齢の方が受け入れを担うことが多くなってきており、その方々の負担が増しているんですね。いわゆる“地元の役”を担える人が少なくなり、受け入れ体制をつくりづらい地域が増えてきていると思います」(安形さん)
安形さんは、こうした祭りへの「距離」に加え、もう一つの「距離」があるといいます。
「祭りは、地区の自治会等が運営などの中心的な役割を担っています。自治会などを通して祭りにかかわっていくことは、移住者が地域と接点をもつ、ひとつの入口になると思います。
ただ、最近は地元の人でさえこうした自治組織に加入する人が減っており、加入率は全体で50%ほどしかないんです。加えて、『移住はしたけれども、地域とのかかわりを抑えたい』と考えられる移住者の方もいます」(安形さん)
祭りにおける参加の心理的ハードルや、担い手不足。
そして、移住者が増えているにもかかわらず、地域と繋がっていない状況。
祭りとまちへの「距離」を背景に、祭りの開催を中止せざるを得ない地区も出てきています。
「祭りがなくなったために、地域の人が集まらなくなってきてしまった」と地元の方からお聞きすることもあるそうです。
そこで「OMATSU-RebootCAMP(オマツリブートキャンプ)」は、祭り参加への心理的ハードルや担い手不足といった課題を解決するために立ち上がりました。
プログラムの参加者は、西条市外に住民票を置く人が対象。
参加者は、祭りへの参加や地域の人との交流を通じて、まちや祭りのリアルな課題の情報を集める「フィールドワーク」を実施。その後、地元の人々と協力し、地域の課題解決にむけたアイデアを提案する「グループワーク」を行います。
江戸時代から続く伝統的な祭りに、地域外からの人材を絡めるこのプロジェクト。
地元の方に受け入れていただくには苦労もあったそうです。
「約2か月間で、プログラムを受け入れてくれる自治会を探しました。
地区によっては『他のところで成功しているのを見てから自分たちもやってみたい』といった声も多く、ファーストペンギンになるのを避けたいと考えられる傾向がありました。
そこで、説明会を開催したり、祭りの中心となる方と直接お話させていただいたりもしました。また、市へのヒアリングを実施したり、知り合いを通じて直接何軒か受け入れのお願いに伺ったこともありました」(安形さん)
精力的に動いていった結果、4つの地区が受け入れを承諾してくれたそうです。
「特に1番人口の少ない地域は、担い手不足で祭りを継続したいのに厳しい状況で。『むしろ、新しい取り組みをやってほしい』といった反応でした」(安形さん)
こうして、2024年9月に1回目のプログラムが実施されました。
地域の方々に受け入れてもらうために大切なことは何か。安形さんは「それぞれの事情を尊重し、一緒に未来を考えていくこと」と語ります。
「特に高齢化が進んでいる地域では、担い手の受け入れが難しい事情もあります。だからこそ、関係人口として、まずは地域に関わり続けてもらうことが地域に必要とされていることだと考えています。
また、祭りへの危機感の感じ方も人それぞれ違います。例えば、担い手不足でも、なんとか祭りを実施できている状況が何年か続いています。
『これまで実施できたから、たぶん今年もなんとかできるだろう』と、感じられる方もいらっしゃる一方で、祭りの存続に強い危機感を抱いている方もいらっしゃる。
ひとつひとつの悩みに寄り添って、無理強いはしないことが大事ですね。
同時に、言うべきことは言うというのも大事だと思っています。人口動向を見据えた情報提供などをして、地域の人に現実を見てもらう必要もあるかと思います」(安形さん)
安形さんは、プログラムを通して、「地域に新しい風を入れてもらうことには非常に価値がある」と話します。
「プログラムの参加者は『自分の得意分野を活かして地域の役に立てないか』と、地域にかかわりたい想いをもった方が多いです。
そうした地域外の方から、様々な意見や提案を言ってもらうことで、地元側の人が『そうだったのか。じゃあ、こういう風に変えた方がいいかもしれんね』と、これまでと異なる認識を初めて持たれることもあると思います」(安形さん)
西条市の伝統をどうしたら100年先の未来に繋ぐことができるのか、地域住民と共に探るー。
安形さんは、それが「“西条らしさ”につながってくる」と言います。
「西条まつりは、観光資源としての祭りではなく、神事としてやっています。そのため行政がほとんど関わっておらず、市民の方は『“私たち”の祭りだ』という意識を持っているんです」(安形さん)
「だんじりは、みんなが汗をかいてボロボロになりながら協力して運びます。全員で同じゴールを目指すことが、その場の一致団結感をより強めているのではないでしょうか。
祭りでは、皆さんの一番大事なむき出しの魂が出ているからこそ、『法被を着たら、同じ家族やけん』と、人とのつながりが強くなっていくと思います」(安形さん)
地域に昔から根付いている、自分たちで祭りと歴史を守っていく意識。
そして、同じ目標にむかって、地域の垣根を越えて一体となっていく姿。
西条まつりが、伝統や人とのつながりを大切にする“西条らしさ”をより強める大事なカギとなっているのでしょう。
安形さんは、祭りをきっかけに地域の人のつながりを強化することで「防災にまでつなげたい」と言います。それは一体どういうことなのでしょうか。
「社会的にも、能登半島地震や南海トラフ地震などの大きな災害とそれに対する備えが注目されています。では、災害に対する備えおいて何が一番大事なのかというと、最初の3日間をみんなで助け合って、しのぎきって、生き延びることだと思うんです」(安形さん)
助け合うためには「地域と人のつながり」を強化することが欠かせません。でも、それだけでは足りず、近隣地域の外との関わり合いを増やすことも必要だといいます。
「実は、西条市は南海トラフ地震が起こった場合に一番被害が出るまちとも言われています。液状化が起こる確率が非常に高く、また津波で中心市街地がほぼ浸かってしまうという予測がされています。
仮に震災があり、西条市の被害が大きかった場合、近隣地域もきっと被災されていると思うんですよね。近くの地域にたくさん関係人口を作ったとしても、きっとその地域も被災されているから助け合えることができない。
でも、東京や大阪など遠くの地域に、私たちのことを気にかけてくれる人がもしいたらーー。
『災害物資支援物資が足りていません』とSOSを出した時に、助け合うことができるのではないでしょうか。それは、防災や災害復興に対して非常に意義のあることだと思います」(安形さん)
最終的に目指す、地域の防災への取り組み。
そのために必要な、地域と人のつながりや関係人口。
それを生み出すきっかけづくりとしての「祭り」。
「祭り」が地域を越えたつながりを生む。そのつながりが、持続可能なまちづくりと防災への確かな一歩となっていくことでしょう。
本記事でご紹介した「OMATSU-RebootCAMP」は、内閣府が実施する「令和6年度中間支援組織の提案型モデル事業」として実施しています。
内閣府による関係人口創出・拡大施策について、もっと知りたい方は、「かかわりラボ」(関係人口創出・拡大官民連携全国協議会)をぜひチェックしてみてください。
また、2024年11月29日(金)には、「関係人口全国フォーラム2024」が開催されます。オンライン参加も可能。全国どこからでもご参加いただけるこの機会を通じて、関係人口創出に向けたさらなる学びと交流を深めませんか?
Editor's Note
「来年、西条まつりにぜひ参加してほしい!それぐらい本当に素晴らしい祭りだと思っているんです」と話す、安形さんの輝くまなざしがとても印象的でした。「法被を着たら、同じ家族やけん」の言葉から、人とのつながりを大切にする西条の人々のほっこりとしたあたたかさを感じます。祭りに参加したら地域のファンになること間違いなし!
Amika Sato
佐藤 安未加